聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ヘラはカナザワース島には戻らず、おおよそ2カ月、イナーヴァニアのトットリーブールと自分のアジトを行ったり来たりの日々が続いた。
アジトでは竿男とした首なしのセイン王と番い、トットリーブールでは彼女の膣に圧されるのに夢中なトヨイロ王と毎日同衾した。城下町や近くの農村で、行きずりの男と『法悦』をして遊ぶこともあった。
とはいえ、ヘラは『仔』を孕まなかった。避妊の魔法で止めていた。様子を見にアジトに来るカヅノ=セイジに助言されたからだ。
「悪だくみをするっていう時に、妊婦はきついぞ?」
彼女自身は悪いことだと思ってはいないが、前世の世界に行って、謝罪の言葉を要求をするのは、絶対に叶えたい夢である。
そして2カ月後、トヨイロ王は数冊の紐閉じ本をヘラに寄越した。
「これは?」
「イナーヴァニアの魔道家が蔵していた書物を書き写したものだよ。しかもあのコージュ=ストーンマウントが書いたものなんだ」
ぱらぱらとめくってみる。およそ信じられないことが書かれていた。
「魔族とニンゲンとの子の才能についてとか、エチウにいたオーガさんたちの文化とかあるね。そらとぶ車って、馬車が飛ぶってこと?」
「よくはわからない。でも一通り目を通したら、驚くべきことばかりが書いてあったよ。あまりにも突飛過ぎて、僕は理解できなかったけどね」
しかしこれらの書は、コーザが父親から貰った『この世界の隠し技』ばかりを集めた手記と同じものが記されていた。
トヨイロもヘラも知らなかったが、彼女が知りたいことはこれらの写本の中にあった。
異界へと向かう方法。しかも、転生人が己の望む前世の世界の時代へ行けるという秘術がそれである。
「多大な魔力、それも魔族の大貴族と同等の魔力を持つ者であれば容易にできるだろう。日食の日、北天の極にこの術式を念ぜよ」
その記述の後に、おおよそ5ページに及ぶ、祈りの文言がずらりと書かれていた。
この世界の精霊術式のそれとは違う。枢機卿らが使う神聖術式と似ている構成だ、とヘラは思った。
もう1つ、その異界からこちらの世界へ戻る方法も記されていた。
そっちは驚くほど簡潔だ。南天に向かって走りながら、ただただ元の世界の元の時代に戻りたい、と念じればいい。相当な魔力を持つ者ならば必ず叶えられる。
「私は様々な世界に飛んでみたが、どの世界もこの世界と比べて魔法への抵抗力が弱い。『導きの龍』によれば、この世界は他の世界と違い、かなりの抑制力が働いているそうだ」
魔法抵抗のことだ。何故なら精霊とその派生種でありこの星の現人種である『亜人』の力が強大過ぎるからそうなったらしい。
しかしコージュは遠い時代の伝説、神話とも言える存在の『導きの龍』に、化身とはいえ、会って話をしたことがあるように書いていた。
ヘラはその存在について少しは知っていた。エチウの島々にはそうした龍の化身が現れるという、石造りの小さな祠がいくつかあった。
言い伝えによるとエチウのオーガ達は、その祠で『導きの龍』と交流していたそうだ。この世界とは違う世界の話を聞いたり、龍がこの世界に運んで来た者達が、どのように暮らしているのかを話していたらしい。
これらの書物を城のあてがわれた部屋で読み終えると、見つけ出してくれたトヨイロの書斎に赴いてに感謝を述べ、それから思い切り逢瀬を楽しんだ。
翌々日、彼女はアジトに戻るとカヅノ=セイジが待っていた。彼女が携えた紐とじ本を、彼は目を輝かせてながら読み耽った。
「これは凄いぞ! どの術式も神聖術式の原典の言葉で書かれている!」
「それってそんなにすごいわけ?」
「おい、これを一通り『たぶれっとぱっど』に写していいか? 俺達枢機卿が求めていたものが記されている!!」
ヘラは言う通りにした。カヅノはセイン王の動く死体を手伝わせながら、持ち歩いていたそれで本の中身をあらかた記録した。
「しかし、異界渡りに魔界の大貴族並みの魔力が要る、というのが引っかかるな。今のお前にはそれだけの力があるとは思えない」
本にはこんな但し書きがあった。魔界の大貴族でもかなりの上位でないと、勝手に行き来するのは無理だろう。
「今のお前はとんでもないが、それでも俺達枢機卿に比べるとまだまだだ。とてもじゃないが大魔族ほどではない」
「じゃあ、その力を奪えばいいのかな?」
「だろうな。そうなると……ウラスコーの触手姫ぐらいか?」
「えーと……触手姫ちゃんは教主さまの想いびとだから、お断りだよ♠」
「どのみち捕らえて食うのは無理だろう。あれは強大過ぎる。教主サマと同格かそれ以上だ。俺もお前も勝てる相手じゃあない」
となれば地道にザコ魔族を狩ったりニンゲン喰いでレベルアップを図るしか無いだろう。魔力という観点なら魔族を食ったほうがいい。
しかしゴール族が能力の底上げするには、ニンゲンを喰らい、産んだ『仔』を喰らうしか他は無い。
但しここで注意が必要だ。今のイナーヴァニアとその近辺では、『人さらい』をやると嗅ぎつかれる。
「トヨイロが教主に命じられて、人さらいの調査に乗り出したことは知っているな?」
「うん」
「サイゴークではもうやめとけ。できれば、チンゼーかシマナミスタンがいい。あの辺ならまだパラッツォ教団の影響力は少ない。人口も多い」
「なるほど♥」
ヘラは舌なめずりをした。チンゼー人とシマナミスタン人は、あっちもでかければ精力も強いと聞いている。
それと、1年中暖かくて食べ物にも困らない、と聞いていた。
□ □ □ □ □
シマナミスタン大陸南西部、シマントスタン地方。
彼女はそこを拠点を移し、『人食い』と『食児』に専念することにした。
乳がかった緑色の、透き通るような珊瑚海を臨む高台に、彼女は家を置いた。
この地方はなかなかに開放的だ。街中で全裸で過ごす者がいれば、道端で容易に尻を出して排便をする者をいつも見かける。
飯も悪くない。辛くて少々舌にあわないが、野菜が多く調味料はふんだんに揃っている。街の食堂の魚の唐揚げは、大きい割りに易く、味付けもしっかりなされていた。
ヘラも幻惑の魔法でシマナミスタンの少女に姿を変え、乳房丸出しの腰布一枚とうい格好で街を出歩くことにしていた。
それから髪は三つ編みにし、その端に銀のピンをつけて首元に翡翠の飾りを身に着けた。
これはこの地方の、ある種の職業に属する女がする格好だった。
ちょっとでも路地を歩いていると、男達が銅銭を持って家に寄って行かないかと彼女に声をかける。誘われるまま入ると、寝床に押し込まれて腰布をめくられる。
そうして相手は尻を突き出した格好の彼女に覆いかぶさり、汗ばんだ女陰に己の棒を突き立てるのだ。
つまり、その飾りが意味するのは、自分が娼婦であるという証だった。シマナミスタンの男は1発では満足せず、4発も5発も射精をせびった。
どの男も腰は強く、宝物は硬くて聳え立っていた。
ヘラは大きく声を上げ、男の体臭がきつく漂う寝床布を掴みながら楽しんだ。
長く続く『法悦』で、しかも『仔』を為させてくれる。しかもどの男も性的にたくましい。中にはおかみさんと子供達が留守中に彼女を連れ込む者もいた。
滞在してから2週間もせずに彼女は孕み、しかもその2週間後にはシマナミスタン人の男との『仔』を産んだ。『仔』を育み、産む間隔が短くなっていたのだ。
人気の無い、近くの小川の傍で肛門から便を垂らしながらいきんで産んだ『仔』はいささか小ぶりだったが、食べるとこの地の食べ物や香辛料の味がした。
それから力をつけると人狩りだ。遠く離れた村に赴き、暇を持て余している男を見つけるとさらって『法悦』をひとしきり楽しんだ後、バラして食う。
その肉は、確かに力がつくのだが、脂身がどうも乏しく、パサついている。この地方で食べられる料理や、男達の胤でつくった『仔』に比べると味気ないのだ。
思いあたることはあった。この地方の街や村を歩くと、太っている男や女はあまり見かけない。やせっぽちに近かった。
それと、彼等が公衆の面前で尻を出してひねるものは、やや下痢に近い軟便で人体に必要な栄養素も流れ出ているような感じがした。
(たぶん、シマナミスタン人は常に病気にかかっているんだろうね。)
シマナミスタン人らの『本当の敵』のことを彼女は知った。この大陸のニンゲンは、常に悪疫に悩まされていた。
ひねる便がどろりとして液状なのと、毎日のように小さな棺を納めた葬列に出くわすのは、彼等が病気にかかっているからである。
シマナミスタン人は、亜人の血が混じっていないと寿命がきわめて短くなる。農村では案外そうでもないが、都市部だとパラッツォ教徒の第一教典の民よりも短くなる。
そしてどの街も、衛生が非常にひどい。井戸水さえ異物の除去器具を通したのちに沸かして飲めと徹底されているぐらいだ。
しかしヘラは違う。
マイヤの子で作った秘薬により、精液を得れば丈夫な身体になるサキュバスの特質と、『食児』によって体力を底上げし、滅多に疫病にかからない。
だから彼女は、シマナミスタンに旅するものが起こしがちな高熱や下痢に悩まされなかったのである。
しかし己の力の底上げに必要な、人肉は食わねばならない。
彼女はこの3カ月、8人の男をさらいそれを喰らった。『仔』を5回産んだ。銅銭をいただきながら男の棒に陰を突かせる行為なら、300では収まらなかった。
そして生まれ出た小ぶりな『仔』を喰らい、小川で身を清めた後、その河原で出産と食事に満ち足りた心が求めるままに眠りにつくと、「おい」と呼びかけられる声を耳にした。
目を覚ますと、湾曲刀を腰に差した、たくましい体つきの男が3人、裸で横たわる彼女をのぞきこんでいた。
「……だれ?」
ヘラが尋ねると男の1人が口を開いた。
「可愛いのに随分と血なまぐさいな。お前、北の大陸の『同族』か?」
そう言われて彼女も嗅覚を鋭くする。
生臭く濃厚な、血と臓物の匂い。
故郷にいた頃嗅いだ、祖父や父の身体のにおいに似た、人食い族独特の匂いだった。