聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
アメリカ陸軍の若き大尉、トレボー=リルガミンは、負傷して担ぎ込まれたダラス近郊の病院にて、そのニュースを聞いた。
第二艦隊と第四艦隊が全滅。死傷者不明。
第六艦隊も向かったとのことだが、フロリダの軍港と各都市は既に火の海。正体不明の戦術的脅威の居場所も掴めず。
ワシントンD.Cはもう廃墟だ。いや、街ごと燃え盛る盛大な火葬場のままである。
大統領や閣僚も行方不明で……とされているが、もう既に死んだ。大統領の父親も後を追ったと言われている。
ネオコン、と呼ばれ我が世の春を謳歌していた者達は、ホワイトハウスや連邦議会と共に焼亡した。
ペンタゴンなんぞはとっくに瓦礫である。近所のピザ屋ともども焼かれてしまった。
この緊急事態にピザ屋の注文が数百%アップだから何かの特殊作戦が、みたいな記事も、もはや書けない。
ワシントンにある政府の各行政機関もまた、働いていた者達や多くの重要な書類と共に灰になった。
国会議員に至っては、保守もリベラルも、両方とも輪廻の旅路に向かおうとしていた。それらの魂は、彼等の骨や灰と、今もなお燃え続ける合衆国の首都を見下ろしているところであった。
つまりは、アメリカ合衆国は未曾有の危機に瀕していた。機能不全に陥っていた。
未だ被害に遭っていない西海岸や、中央部の要人らは生存しているが、彼等が集まっての臨時政府は1日や2日では立ち上がらない。
「……どうなっているんだ、その後の戦況は?」
見舞いに来た同僚に聞いても、「わからねえ」の一点張り。とりあえず3日後には退院できると言うが、相手がどこにいて何をしているのか、まるでわからなかった。
「でも良かったな、トレボー。生き残れて」
見舞いに来た同僚が笑う。でも、とトレボーは思った。こいつの妻や子どもたちがいるアトランタは、生存者ゼロ、と噂されているのに。
「そうだ。西海岸の連中はどうしている?」
「カリフォルニアやサンフランシスコか? あっちは無事らしい、が、どうなるかわかったもんじゃない。それよりも、敵の進行速度が早すぎる」
『恐るべきアンノウン』は5日前にデトロイト、シカゴ、クリーブランドとニューヨークを短い時間で火の海にした後、アメリカ東部を舐めるように焼き滅ぼしていった。
識者の計算によれば、既に死亡者及び行方不明者は1億あまり。この先もっと増える見込みのようだ。
(しかし……情けねえもんだ!!)
トレボーは憤った。我が祖国をめちゃくちゃにした相手にではない、自分にだ。
数多くの都市を火だるまにした『恐るべきアンノウン』の姿を、トレボーは確かに見た。ダラスの市外でだ。
そいつはあまりにも小さかった。背が低い小娘のようだった。あんなのにニューヨーク湾上空で空軍がやられたなんて信じられなかった。
だが、その小娘みたいな敵1匹に、最強のアメリカ軍は全く手も足も出なかった。歩兵の銃は通らなかったし、戦車の砲弾やロケット弾はまるで無意味だった。
空からの援軍もあった。FA18やF16、あるいはA10だ。
そいつらに遭えば、何も為せずに死ぬはずだったのに、それはものすごい速さで空を飛び、ミサイルを避け、GAU-8の砲弾の直撃を跳ね返してしまった。
全てが悪夢だった。デキの悪い子供向けヒーローアニメの様な、馬鹿みたいな光景だった。
そしてそいつは、燃え盛り輝く炎の剣を手にしていた。
それがとんでもないほどの長さに伸びあがり、現代兵器を薙ぎ払い、紅蓮の炎の竜巻を幾重も起こしてあたりを焦熱地獄とせしめたその時に、勝負は決まってしまった。
そんな中でトレボー=リルガミンは生き残った。軽傷では済まされなかったが、こうして病院に担ぎ込まれ、治療を受けていたのだ。
見舞いに来た者達が出て行くと、彼は病室を見回した。
自分と同じような負傷者は殆どいなかった。元からこの病院に入院している患者ばかりだ。『恐るべきアンノウン』は、確実に殺し切っていたというわけだ。
(くそったれ! 神なんざどこにもいやしねえッ!!)
そして看護婦がワゴンを押してやって来た、レトルトや缶詰を温めただけの味気ない病院食だ。
それが彼のベッドテーブルに並べられる。平たい紙の皿に乗った、何かのソースがかかった肉みたいなものをフォークで切って口に運ぶと、そのまずさに大層辟易した。
(チリコンカンが食いてえ! 病院にウェンディーズはねえのかよっ!!)
トレボーは無類のウェンディーズ好きだ。3日に1度は必ずそこで食わなければ精神的に不調を覚えてしまう。
酒も飲みたい。煙草も吸いたい。ケツがでかい黒人女の娼婦がいれば、おもいっきり抱きたい。負けたくやしさを忘れたかった。でもヘロインと大麻は御免だ。麻薬は醒めると気分がへこむからだ。
(それにしても、あの戦場は、とんでもなくふざけたところがありやがったな……。)
何がふざけていたか?
歌が聞こえていたのだ。
しかもあの、『恐るべきアンノウン』の後ろから聞こえて来たものである。
あれよりも小娘っぽいしゃがれ声で、音程が狂ったへったくそな歌い方だった。
しかもご丁寧に英語でだ。こんな歌詞だった。
「天におわします我らが神よ。
我が隣人が旅立つ時、ぜひともお会いになられてください。
貴方様の暖かな慈愛と輝く楽園にて、その御霊が輪廻の
心ゆくまで安らかに休ませ、この世での苦悩と悲しみを全て、洗い流し、消し去りください。」
とはいえ、引っかかる。
詩と謡い方がきわめて聖歌に似ていたのだ。音程はイカれ狂っていたが。
あのクソ下手くそな歌を聞きながら戦友たちが死んでいったと思うと、トレボーはいたたまれない気持ちになった。
「くそっ……くそっ……!」
拳でベッドを叩きながらうずくまり、彼は嗚咽した。
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マイアミから離れたところにあるビスケーン国立公園の灯台の上で、ヘラは北西に見える盛大なかがり火を眺めていた。
その隣にいる、腕と脚が無い裸の娘が枯れた声で彼女に言った。
「よくないよ、こんなこと。ぜんせのせかいにきたんだから、みーんなとなかよくしようよ?」
しかしヘラは笑ったまま答えない。こいつはこの世界に来てから常にこの調子だが、結局は一緒についてきてくれている。
だが、ヘラはこの娘が言う事についてこう思っていた。
死後、アッラーに
「ひどい来世が待っていたって、なんでもないよ」
これは、この『前世』での同胞たちが20年以上後に待っている破滅から救う為の戦いである。『聖戦』だ。
あくまでも、自分がやっていることは大義だ。例えよくないやり方であっても、成し遂げなければならない。復讐と共にだ。
そうして『復讐』は為し終えた。彼女は先ほど、あたりの海をうろついていたアメリカの艦隊を全て焼き滅ぼしたばかりばかりだった。
沈めた二隻の原子力空母は、今やカリブの海に放射性物質をまき散らす海の底のゴミである。
「ああ……これだけやれば、もう二度とアメリカは立ち上がれないよね?」
そう呟きながら、灯台の下にある大きな球体に目を向ける。
2つの人影があった。1つは大柄でもう1つは細かった。ヘラはその小さいものに向けて呼びかける。
「どう? かつての仇敵はあたし一人でやれちゃったよ?」
いいものを見せてもらいましたよ、と返って来た。満足げな声というよりかは皮肉とやっかみに満ちていた。
球体の中にあるそれは、ヘラがやった『復讐』の一部始終をもう1人と一緒に光の玉の中に入って見て来た。
彼女への賞賛の言葉など、何一つ言わなかった。
怪物になってしまった。仕損じた。ただただ、それだけを悔やむばかりだ。
「あはははは! 無力だね!! アナタの『前世』の国は、あたしの『前世』が生まれた国より遥かに強かったんだっけ?!」
日、出づる国。中国とロシアに苦杯を舐めさせたサムライたちの帝国。
そして、はるか東の海とサンゴ礁に囲まれた島々で、多くのアメリカ人を戦慄せしめた極東の大帝国が、それの『前世』が属していた国だ。
そしてもう1人。ずっと押し黙っている大きなそれは、もう1人がいた国よりも、もっと、もっと、強大な帝国の民の子孫だった。
強靭な馬を駆り、ユーラシア大陸の大部分を侵略した世界帝国の戦士達の子孫。
そして今、現代で最強とされた国。それがアメリカだ。
ヘラはそれを、たった1人で半ば滅ぼすという偉業を成し遂げた。だが、『聖戦』はこれからだった。
(次は……倒さなきゃならない連中を滅ぼすッ!!)
ヘラは東の空に目を向けた。目指すはヨーロッパだ。
邪悪を打ち払う浄化の炎の剣は、まだ焼き払うべき敵が残っていたのだ。