聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
毛沢東、いや、八路軍の戦略家や陣地の兵士から聞いて知った人海戦術というものを東条英機に語った、と彼女は言った。
それが女も工場生産や土木にも従事する様な国家総動員法につながったのかもしれない。
しかし竹やりで爆撃機を落とす、というのは洒落だった。落語を解せぬ軍人は殆どいなかった。明治生まれ以前の者は皆、そうだった。東条だって、次々と刷られる戦意発揚ポスターに苦笑を浮かべ、自嘲していたぐらいだった。
「それがわからなかったのは単細胞ばかりでさぁ。いや、東北や九州の田舎者をさしているんじゃありませんぜ? おつむや経験が足りなくて、額面通りのことばを信じちまう奴らのことを言っているんでさぁ」
そうだろうね、と話し相手の少年は笑っていた。知性があれば知識もある賢い少年だった。
彼女が転生人だと知ると、『禁書図書館』から日本の歴史を記したと思われる本を次々と引っ張り出し、読み聞かせながら尋ねたからだ。
「だからこそ男女は同権であるべきだし、性別で差別はされるべきものではないと私は思うよ。我が王国はかつてあったナントブルグ王国に倣い、女だからと差別することはしていない。系貴族や女の実力者は他の国に比べて多いんだ。けれど……」
そのいにしえのサキュバスの王国は、女ばかりを要職に立てていた。特に王家、身内だ。
「君の前世の世界にあった『ヤマタイ』とは違い、女王や補佐の巫女たちの他に、男を中枢に入れなかった。それが叛逆に繋がってホーデンエーネンを招き入れることになった」
「その通りです。女の考えかただけでは世の中はまわりません。男たちの知恵ってもんも必要ですよ」
「サキュバスの女王とその子孫達には、それがわからなかった。だから滅んだんだ……」
しかし、男が持つ『知恵』が作りだした最悪のものを、彼女の前世の母国はぶつけられた。原子爆弾。それもこの少年に語った。
「本当に、たった1発の爆弾でコーヅケーニッヒのような大きな都市が壊滅したのかい?」
「そうでさぁ。あっしが訪れた長崎と広島は、街の景色が戦争前とはがらりと変わっちまいましたよ」
美しい街が一瞬にして瓦礫と化した。その話を聞いた少年の目が妖しく輝いていた。その様な魔法を一度、使ってみたいと思っているのだろうか。
「……坊ちゃん。物騒なことを考えるのはおよしなさいな。原子爆弾もそれに似た大量破壊術式も、再現しようなんて思っちゃいけませんぜ?」
それはこれから、このイーガの統治者となるべき人物ならば、猶更自戒しなければならないことでもある。
「わかっているよ。私は世の為、人の為に役立つ魔法や技術だけを追い求めるつもりだよ」
彼女の目に映っていたのは、幼き日のアドルフ=トードヴェル=キョウゴクマイヤー。彼女は彼の恋人でもあった。
しかし彼女が彼との間に1人の子を産んで、妃としての退屈な日々に飽いて出奔してしまうと、王子はたちまち心を闇に蝕まれてしまった。
病弱による焦りとそれから生じた怨念が、彼を『闇の王』に仕立てあげてしまったのだ。
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(って、どうしてアドルフ坊ちゃんとおんなじことを……。)
目の前にいるヘラとアドルフが手足をちょん切った女の子のなれ果てに話しているのだろうか。エレクトラは疑問に思いながらも話し続けていた。
残念ながらヘラは一命をとりとめてしまった。とはいえ身体に毒は残っているらしく、時たま発作を起こしてうずくまる事がある。
『屍人形』いわく、強烈な毒素を魔力に換える術式が体内で働いているそうだ。破片の毒素が完全に抜けきるまではこうらしい。
「おおよそ10ねんというところかもー」
それまでずっと発作が続くというわけだ。それだけでも良いとするべきだろうか。
なれ果てのほうはことあるごとに腕で頭を叩いてきたり頭突きを食らわせたりしてくる。理由を聞けばマイヤが彼女をひどく恨んでいたことを覚えているそうだ。
「この、としまのどろぼうねこー! とおもってたよー。ほんにんもぜんせでしんだねんれいをこうりょすれば、イズヴァルトよりも18さいとしうえになるのにねー?」
まあ、イズヴァルトは年増好きだからとも『屍人形』は言った。整った子宮を収めた大きな尻と、充分実ったおっぱいが好きなのだ。
女騎士ヴィクトリアやアソマリアのビアンカ媼を見れば、そりゃそうだろうとエレクトラは思った。しかし自分との性交は不本意だっただろう。おばはんではあったけれど、2人と比べて胸も腰も薄かった。
ヘラが快復してから1週間。エレクトラとピピンは今も生かされていた。ピピンはアジトの別室で、ミーシアという女エルフにまたがれて、ちんぽを盛んに動かしている最中だ。
ピピンだが、サキュバス達のおまんこ汁を舐めさせられて性欲を活性化させられ、ヘラ達専用のきんたま袋となり果てていた。朝も昼も夜も、ずっと性交ばかりだ。
エレクトラもピピンも、飯と用足しの時以外はアジトのに出してもらえなかった。いや、軟禁されている状態なのだから、それが正しい境遇とも言えたが。
そしてヘラは、ピピンと交わる時以外はエレクトラにただただ思い出話をさせ、聞き入ってばかりだ。前世のことだけでなく、アドルフ王子のことも何度も聞き返していた。
そして全てを話し終えたと思い、そのことを伝えると彼女はこう言った。
「自分の国を守るためには、自分の良心を押し殺して手を汚すことも厭わなかったんだね? それがアドルフという人にとっての『聖戦』だったんだのかな」
……なぜその様に思う?
エレクトラはアドルフについて、残念なやつだったとか、やり方を間違えた愚か者と皆に思ってほしかった。
そうなれば彼を導かずに去ってしまった、自分への侮蔑や嘲笑につながるからだ。
彼女はこの一点において重い悔悟を抱いていた。その最たる理由が目の前で自分を睨みつけ、「むー」と唸っている『屍人形』だ。
「そういう考え方、もあるんでしょうかね? ヘラさんはいろいろと深いことをおっしゃるようで」
「いいえ、『ヘラ』ではないわ。今のわたしは『ナヒーダ』よ? 『ナヒーダ』としてそう思っているの」
『ナヒーダ』はエレクトラの翠色の瞳を、じっと覗き込む。エレクトラは彼女の目を見返した。
本能や快楽に流されがちで、あまり思索を巡らせようとしないヘラの目ではなかった。別の人格に乗っ取られたような、そういうふうに見える目だ。
いや、彼女の魂は目覚めたのだ。
(これが本来の『ヘラ』ってわけでしたか。となれば……。)
エレクトラは『ナヒーダ』に尋ねた。
「手を汚してまで守るべき正義が、あると思うんですかい?」
「当然在ると思う。アドルフ王子がやったことは正義だった。その……ナントブルグの女王の国を復活させようとしたら、イーガはホーデンエーネンと全面戦争をする可能性があったのでしょう? そうなったら多くの血が流れるわ。それを止めるためには、少しの流血も仕方がないと思うの」
ゆえにこそ、これから自分がやろうとしている事も同じことだ、と彼女は言った。それから、手足のない生き物を抱き寄せる。
「わたしは『マイヤ』から、いろんなことを教えてもらった。あのピピンという人からもだけど……」
『禁書図書館』に書かれている、断片的な情報であるが、前世の世界はどうも自分の死後の200年後ぐらいに、破局的な時代を迎えるそうだ。
相次ぐ戦争と環境激変により地球人口は1万分の1までに落ち込み、あらゆる科学や文化が廃れてしまう。
残ったのは一握りの支配者と、家畜化された大衆たち。そのもっと先の未来はまるで『古代』だ。
「それが『西洋人』が支配し続ける世界の末路なの。わたしはそれも変えたい」
エレクトラも自分の前世は、そういう末路をたどるということを少しばかりだが知っていた。だが所詮は前世のことだ。どうなろうとどうでもいい。
それに未来は変わることがある。例えば『枢機卿』たちの『前世』だ。彼らの時間軸では21世紀の初頭に、世界で大破壊が起こって、それを鎮めた者たちが新たな世界統治システムを作り上げたらしい。
(つまり、未来というものはどうも定まっていないようで。だからこそこれはこう、とは言えないんでさぁ……。)
思索するエレクトラに、『ナヒーダ』が右手を差し出してくる。
「わたしに手を貸して、『藤本峰子』。一緒に前世の世界に行って、世を変えるための知恵を授けて?」
そう来るか。『藤本峰子』は唸った。死を覚悟しているがそんなことの片棒を担がせようとは。
「一緒に『前世』の世界にですかい。殺そうとしたあっしにですか?」
「そうよ。でもわたしはこうして生きている。毒を仕込まれたけど、半ば魔族の身体だからもう死にはしない。身体を傷つけらたりしても、どうということは無いのよ」
はっきりと言うヘラの身体を見てみる。
彼女は全裸だ。目覚めてからずっとこの格好だ。
その胸はケロイドのような酷い傷跡になっていた。切り落とされた豊かな乳房は、二度と還ってこない。
「……断れば?」
「わたしの敵。でもまずはあなたとピピンという人は解放する。仕掛けてこない限りはこちらも剣を抜かないから」
「あたしの時代遅れの頭じゃ、大して役に立たないと思いますけどねぇ?」
「少しでもいいの。手を貸して。手を貸してくれたらその代わりに……」
貴方の無念を晴らしてあげるから。