聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
戦いの中で人肉の味を思い出し、かつての『悪霊の末裔』という名で呼ばれるまで力を取り戻した彼等を、世界各地が迫害しだした。
ゴールの男がいくら強くても、妻や子はそうはいかない。迫害する側は彼等の伴侶や小さな子を標的にし、次々と処刑していったそうだ。
そしてヘラは彼等を援けることとなった。パラッツォ教国で皆を受け入れ、その代わり男達は戦士として、クボーニコフやイナーヴァニアで彼女に従った。
ゴール達は戦いの中だけでなく、平時でも人肉を得ることができた。圧倒的な数を誇るパラッツォ教徒達だ。
「お前はパラッツォ教徒の遺体をゴール達に与える仕組みを作った。『食葬』と呼ばれるならわしだ。シマナミスタンにも一部の地域でやっていたことを、エチウ全体でやるようになった」
しかしそれを不気味がり、敵視する勢力が現れた。そしてヘラが君臨するパラッツォ教国と戦端が開かれた。
数の上では、そちらのほうが遥かに強大だった。
ヘラは天下無敵の魔法戦士だったけれど、じりじりと力を削がれ、衰えて行った。
そしてゴール達と彼女に同調する一部の者達を引き連れ、前世の世界に逃げることを決めたのだ。
「なんで? どうしてわたしは負けるの? 『獄炎の凱歌』と『姫竜の牙』があるじゃない?」
「イズヴァルトだ。あいつが未来のお前を追い詰めて行った。お前が世界最強の魔法戦士なら、あいつは『究極』の戦士だ」
何せあのコーザ=ストーンマウントと、互角に渡り合えた男だ。コーザは魔道士としてはもちろんのこと、戦士としても恐ろしかった。あれを超えるのは多分、魔竜の片腕と言われるヤギウセッシウサイ以外にいなかった。
「司祭騎士団長さんとわたしが、戦う……」
「その理由が背負っている『マイヤちゃん』だ。悪いことは言わない。一緒に戻るのはよせ。さもなくば、イズヴァルトと正面をきって戦うハメに遭うだろう」
その言葉に対し、ヴィクトリアもうなずいていた。
イズヴァルトとは戦いたくない。むしろ仲良くしたいくらいだ。ヘラはそう思いながら振り向いて『屍人形』を見た。
「どう、思う?」
「しかたないんじゃないかなあ。でもあっちにもどったらイズヴァルトに、ごめんなさいしたほうがいいよ?」
「そうだろうね」
「それとイズヴァルトといっしょに、もうひとりのわたしをさがしにいこう! それでいいんじゃないかなあ?」
ヘラもそう思いたかった。しかし、ヴィクトリアと鹿角は、何をいまさら、といった様子の顔をしていた。
「……イズヴァルトは必ずお前を殺しにくる。しかし『マイヤちゃん』がいなければお前は、少しだけ時間を稼げるはずだ」
では、どうしろというのか。
『屍人形』とはここでお別れだ。責任をもって預かると鹿角は言った。
「そして、いずれやって来る未来のお前と再会するだろう」
「あのう、未来のわたしは一緒じゃないの?」
「未来のお前はな……こちらに来る前にイズヴァルトと決着をつける為に、俺達を先に行かせたんだよ」
こちらの世界に行く為に、やり残したことがそれだと未来のヘラは言ったそうだ。しかしヘラは生き延びてこちらにやって来るだろう。
ただ、いつの時代に来るのかはわからない。
「それまでに俺達は未来のお前の為に、この世界で準備をするつもりだ。ゴール達の国、つまりはお前が座る玉座をつくっておく」
「わたしを王様に?」
「そうだ。コージュ=ストーンマウントの『前世』があったこの世界で、お前は神の国の、ゴール達の国の玉座に座るのだ」
だから忘れないうちに急げ、と鹿角は言った。
「エレクトラとピピンの2人は俺が預かっておく。なあに、あいつらには俺が、今の日本を見せてやる。これから俺達は日本に行くんだ」
そこに自分達の仲間が待っている。ゴールや未来のヘラに手を貸す精霊人と会いに行くのだと彼は言った。
未来のヘラの『王国』を作る為、世界各地に彼等を住まわせていると鹿角はヘラに教えた。
その数は1万を超える。ゴールの男達や精霊人は既に、この世界の者と交わって子も為しているほど安住しているそうだ。
「この世界の人達とも『法悦』をして、赤ちゃんができるんだね?」
「はは。そういうことだ。何せこの世界の人々は、あちらの世界のニンゲンと……」
とても似ているから子を為しやすい。
いやむしろ、兄弟ではないかと思える程だ。
□ □ □ □ □
あちらに戻るべき理由は『使命』となった。
(これは、『
自分もまた、コージュやコーザの様に人々を導く者となる未来があるのだ。
鹿角聖史に『屍人形』と、身柄を預けると申し出たので託したエレクトラとピピンと別れたヘラは、日本へとやって来た。
マイヤやエレクトラが前世で暮した国はどんなものか、前世の父が良いところだと語ったそこに、一度来てみたかったのだ。
彼女は多摩川の河川敷に降り立った。時間は早朝。朝の拝礼を行う為にだ。
芝生の上に膝をつくと、東から昇る太陽に向けて拝み始めた。祈りの歌を唄いながら、あちらの世界に戻った後にやろうとしていることが、成就するのを願った。
(モーゼスのように、わたしはゴールのみんなをこの世界に連れて行くんだ。)
跪拝は続く。その場所は殆ど人通りが無かったが、1人だけ通行人がいた。
小柄で華奢な女だ。身長は143をいくかいかないか。顔かたちを見れば20代の若い娘に見えるが、実年齢は40を過ぎていた。
彼女の名前は
道の上に立っていたその女は、マントと剣の様なものを背負った金髪の少女を、目を見開いてじっと見つめていた。
それから跪拝が終わったのを見ると、ヘラに近づいて呼びかけた。
(……!!)
ヘラは思わず振り向いた。女はサイゴークの言葉で呼びかけて来たのだ。この世界にはあちらからの転生者がいるというのか?
「だれ!」
呼びかけて来た女の顔はこわばっていた。敵、あるいは自分を痛めつけた者に向ける、怯えた目をしていた。
それでも彼女に話しかけようとしたのは、知りたかったからだ。あの後何を起こしたのか。
「貴方、ヘラちゃんでしょう? この世界に来てたのね?」
「……どうしてわたしの名を知っているの?」
「私がね、『マイヤ』だったからだよ」
ヘラはその場で膝をついた。それから涙を流しながら、ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返した。
「わたしが……わたしがマイヤちゃんを……」
涙が止まなかった。恐怖しているのはヘラのほうだった。栞子は近づいて彼女を抱きしめてやり、背を撫でた。
「もう、いいんだよ。私も元の世界に戻れたし」
イズヴァルトとあの世界のみんなと、無理やり引き離されたことはとても悔しい。頬を何度も引っぱたきたくもあったが、そうではないと栞子は思っていた。
あの時、説く為の言葉が足りなかったのだ。ヘラは拒絶されたから我を忘れてしまったのだ。
「それよりも教えてくれないかな?」
「……なにを?」
「どうやってあの世界から来れたの? 帰ることもできるの?」
ヘラはうなずいた。こちらの世界ならいつでもだが、あちらの世界からは時間がかかる。皆既日食の日でないと行けない。
「それとね、願った通りの時間に行くという保証はないらしいの」
「そうなんだ。じゃあ、私は待つことにするよ。こちらの世界でもやるべきことが沢山あるし、離れたくない人達もいっぱいいるから」
「誰を待つの?」
栞子は耳元でささやいた。もしまた来れたら、イズヴァルトも一緒に連れてきて欲しい。
「それで私にしたことは帳消しだよ。それでいいよね?」
ヘラはうなずいた。それから栞子の顔に頬をつけると、絶対に連れて来てあげるからと誓った。
「もう、行かなくちゃ。わたしはね、戻らなくちゃならないの」
「戻って何をするの?」
ヘラは起き上がり栞子の身体からするりと抜けた。
「わたしはね、教主様のように導く者になる未来が待っているの。そしてみんなをこの世界に連れて行く!」
みんなとは誰だろう。栞子はいぶかしみ、誰をと尋ねようとするが、ヘラの声にかき消された。
「司祭騎士団長さんもきっと説き伏せて、マイヤちゃんのところに連れて来るよ! だからここで待ってて!」
それから何も言わず、ヘラは飛び立って行ってしまった。
栞子の心に不安が生じだした。
(まさか……パラッツォ教の人たちをじゃないよね?)
彼女は魔竜から聞いていた。亜人、つまりは精霊人やその血が濃い者以外は、何かの『加護』が無い場合、違う世界に来ると3年も生きられない。
それだけではない。病原菌やウイルスの抗体がまるで違うから、加護を得られたニンゲンでも、病死することが多々あるのだとか。
(ニンゲンは連れて来ちゃ絶対にダメだよ、ヘラちゃん!)
栞子はそう言いたかった。けれどもヘラはもう、空の彼方だった。