※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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45 報復

「急にお呼びして、すみませんねえ」

 

 ナイロビの国連事務局で待っていたポリメコフィアンナは、本当の姿のままだった。彼女に招集をかけられ、会議室で待っていた他の魔族達もだ。

 

 国連での魔界の関係者は皆、本当の姿になる。自分を含めてざっと50人だ。誰もが魔界で戦士として働いていた者達だ。

 

 ニンゲンに化けたままだったクキヨシタカは、自分も元の姿になったほうがいいかと訊いた。

 

「それには及びません。戦う時にそうしていただければ」

 

 では早速と会議だと言って、ポリメコフィアンナは部屋を暗くした。映写機が動きスクリーンに映像が現れた。

 

 映っていたのは燃え上がる街。ビルの残骸があった。クキヨシタカは気づいた。あれは、ニューヨークにある国連総本部のビルだ。

 

「ご存じの通り国連の総本部です。事務総長他、要職の方々が全員生存者不明です」

 

 この映像は2日前に撮ったもの。襲撃されたと思われるのは6日前だ。

 

 映像が切り替わる。炎と煙があがるワシントンDCと焼失したホワイトハウスが出た。それから海に漂う米国の大西洋艦隊の残骸も。

 

「大統領や主要な閣僚も全滅したそうです。アメリカは今、サンフランシスコに臨時政府を置いて復旧の為に動いているとのことです」

 

 ポリメコフィアンナは淡々とした様子で言ったが、集まった面々から次々と声があがった。

 

「核攻撃を受けたような惨状じゃないか!」

「国連総本部がやられた? アメリカの大統領が死んだと?」

「情報統制が働いていたのだな! 今の今まで知らなかったぞ!! 連絡はどうなっているんだ!?」

 

 ポリメコフィアンナは目をつぶり、腕を組んだ。

 

「それほど『貸し』をつくりたくは無かったのでしょう、我々に。何せ世界最強と言われているアメリカ国ですよ? 沽券に関わると思って情報を断ったのでしょう」

 

 愚かなことだ、とコツメカワウソの獣人は嘆いた。魔界の者達は国連や各国の首脳陣の間では、『上帝(オーバーロード)』として遇されていた。

 

 彼等は人間たちの国の首脳らが、国連で地球人類の将来に関わる重大な決議を行った後、必ず審議をはかることとなっていた。

 

 それからポリメコフィアンナらは、他国と戦争をしようとする国に対しては厳重注意し、過剰な戦闘を控えるようにと調停する役目があった。

 

 特に世界が滅びるような大戦争に関しては、必ず使者を立てて各国に派遣していた。国際連合の発足前の国際連盟の時よりもっと昔からだ。

 

 しかし第一次世界大戦も第二次世界大戦も止められなかった。要は名目の『上帝』というわけだ。最善の努力は尽くすが、ニンゲンたちの歴史を平穏なものにはできなかった。

 

 そして今の彼等の厄介な相手は、アメリカとロシアの二か国だった。この2つの国はとかく戦争をやりたがるし、彼等の忠告には一切耳を貸さないのだ。

 

「ジュネーブとウィーンはどうなりました?」

 

 国連の他の事務局が『音信不通』なのを指摘されると、ポリメコフィアンナは「全滅」と答えた。

 

「ニューヨークと同じ状況です。ヨーロッパでも首都や大都市がやられましたからね」

 

 そんなになっても国連は、人間たちは、今の今まで魔族に伝えて来なかったのか。ニュース番組は報道しなかったのか。クキヨシタカはポリメコフィアンナに尋ねた。

 

「報道は?」

「各国とも統制中。インターネットも遮断してとのことです」

「なんでだ?」

「火事場泥棒的な侵略を恐れてですよ。ですが、国内に問題があったようです」

 

 首都や大都市の襲撃を受けた国々では、暴徒と化した貧困層による暴動が、各所で起きている。

 

 その中心にあるのは、イスラムやアジアからの移民たちだった。各国の中にはとうとう軍隊が動いて、暴徒達を機銃でなぎ倒す事態になっているらしい。

 

 特に顕著なのはヨーロッパ諸国だが、移民に反対する極右勢力がのさばりだし始め、殺戮の度合いはひどくなっている。

 

 つまり、ヘラがやった『救済』は裏目に出たのだ。彼女が未来の『同胞』の為にやろうとしたことは、虐殺を早くに起こしてしまったのだ。

 

 もっとも、彼女が焼き滅ぼした諸都市にも、イスラムの移民がいたりしたのだが。彼女のやり方は実に雑過ぎた。

 

「半ば内戦状態になっているってわけか。とんでもねえな。こりゃあ国連が介入するしかなさそうだが、どうなんだ?」

「それよりもまずは、問題の人物の討伐ですよ。既に位置は割り出しております」

 

 犯人は今、オーストラリアの北で停滞しているらしい。呑気に海遊びでもやっているのだろう。

 

 

「どうやら、魔界の大貴族クラスの、途方もない魔力の持ち主のようです……」

 

 犯人は魔界の住人か、あるいは魔法技術が顕著に発達した世界からの密航者。もしくはこの世界の者で、『覚醒』した人物か。

 

 どちらにしても現代兵器ではまるで歯が立たない。せいぜいが核攻撃ぐらいだろう。アメリカとロシアの生き残りたちは、いつでも発射できるように準備しているそうだ。

 

「当然、俺らだけでやるんだろうな? この世界の人間には到底無理だぞ?」

「せいぜい核ミサイルだけにしておけ、と伝えておりますよ。この際仕方がありませんから」

「核を使うのか? どこでだよ?」

「進むルートは予想がついております。多分ですが、南極かと」

「『逆天術式』か?」

 

 そうかもしれないと、ポリメコフィアンナはうなずいた。

 

 南極ならば戦場にもってこいだ。核を使う事は褒められたものではないが、あれならきっと通るだろう。魔界の防護術式を知っていると無理だろうが。

 

「わかった。じゃあ俺達は南の極天で待てばいい、というわけだ」

「もっとも、核は使わせないように働きかけますが。あんなものをデリケートな地球に使うなんて、もう許されないことですよ」

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 5日して、ヘラは南極への進路をとった。オーストラリアでうだうだとしていたのは、身体が法悦を求めてしまったからだ。この世界の男を試してみたかったからだ。

 

 誘惑にのった8人と寝てわかったことは、あちらの世界の男のほうが、遥かに強い。

 

 どの男もペニスのサイズはそれほどでも無く、前戯(クンニリングス)もろくにやらないのばかりで指で濡らす技能もそんなに無かった。

 

 そのくせ15分か30分で事を終えてしまう。射精も1回か2回で満足し、萎びてしまうのだ。絶倫だと称した男は4回も彼女の中で放ったが、早漏なだけだった。

 

 あちらの世界の男は違う。どんなに弱そうななりでも、2時間はしてくれた。射精だって3回以上はざらだ。

 

(前世の夫たちはそうでもなかったんだけど……。)

 

 死への恐怖もあっただろうが、幼い『ナヒーダ』の膣に何度も何度も食らいついた。陰茎があかぎれをおこし、出血してもだ。

 

 性への渇望は地域によって違うのだろう、と思った。しかしどうせ楽しむのなら、たくさんしてくれる人のほうがいい。元の世界に戻ろうとヘラは思った。

 

 ヘラはゆっくりとした速度で飛び続ける。海を出ると前方に、島が見えた。タスマニア島と呼ばれる島だ。

 

 前世の記憶によれば、あそこには変わった動物たちが住んでいるらしい。ちょっと寄ってみようか。そう思った直後だった。

 

 何かが自分の頭上を通り過ぎた。そう思った。

 

 それから先がとがった何かが、島の北側に向かって落ちて行く。

 

 それを見た途端、嫌な予感がした。来た道を全速力で戻る。

 

 それは激しい光を起こしていた。光はすぐに大きな火の玉となり、それから爆風を起こしてきのこのような形をした、大きな雲となった。周囲の雲がなびいた。

 

 ヘラはそこで立ち止まった。爆発から40キロ離れたところにいた。

 

 千里眼の術式で雲のほうを見る。周囲はなぎ倒され、炎に舐められていた。爆発は海岸のほうで起きたようだが、だいぶ内陸に入ったところも火に包まれていた。

 

(……これはいったい、なんなの?)

 

 まさか魔法か?

 

 ……いや、違う。

 

 珍しいことに彼女はこの時、恐怖を抱いていた。もしかしたら、自分を狙ってあんなものを放ったのだろう。

 

 それから遅れて自省の念が来る。自分はとんでもないことをやってしまった。

 

 あの火球は、炎と爆風は、『獄炎の凱歌』と『姫竜の牙』から感じられる秘める力とは比べ物にならないほど『劣っている』けれども、

 

(わたしがやったことを……『偉大なるお方』に見せられている。そういうことなの?)

 

 しかしもう一人の彼女はこう感じていた。

 

(これが意趣返しってやつ? ふうん、嫌味ったらしい!)

 

 『ナヒーダ』が畏怖を覚え、『ヘラ』はそれに抗して激する。泣けてくるほど頭が混乱し、涙が出て来た。

 

 しかしだ。あれだけで終わるのだろうか。そう思ったヘラは右手の甲に口づけた。神聖魔法の索敵術式が動いた。今の彼女なら、おおよそ100キロ圏内の『飛来物』を察知することができた。

 

 さっきのような何かがいくつか、とても高いところを飛んでこちらに向かっているようだった。およそ10から20。

 

 ヘラは怖れ慄いた。そして動いた。あの嫌な感じのするきのこ雲を避けながら、全速力で走り出す。

 

 あっという間にタスマニア近海を抜けていた。それから背後でいくつもの雷鳴の様な爆音と灼けつく熱気と、死の匂いが漂う風を感じた。

 

 彼女はやっと気が付いた。

 

 あれが核爆弾だ。

 

 この世界の人々は、本気で自分を殺しにかかっているようだ。そう思いながら泣き続けた。

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