聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
マイヤは運が悪かった。ミョージバーグの街は数千にも及ぶ武者や兵士達でごった返していたのだ。
彼等はイナーヴァニアの要請により全国から募集をかけられていた。ヒーイ河を渡って友邦を脅かすパラッツォ教を押し返す為にだ。
「あいにく今夜は満室です」
「ここ5日は部屋は空きません。ウラスコーですか? あんなへんぴな所にどうして? 一番の近道ですか? あのへんは本当に山深いところですので……」
宿屋はすべて満室。ここに留まるならさっさと次の宿場町に行ったほうがいいと返された。
「らしいでござる」
「じゃあ、行くしか無いよね」
2人は乗合馬車の駅に向かった。しかし馬も馬車も見当たらない。事務所の係員に聞いてみると、御者を含めて輜重部隊に徴発されたという。
「では、せめて馬が買えるところを探したいでござる」
「馬? みんな買い占められましたよ。あとこの都の酒や食い物はみんな騎士様や武者様がたが食べ尽くしちまうでしょうね。都からはさっさと出たほうが良いですよ」
となれば歩きで宿場町へ。しかしそこに向かうにも徒歩では1日かかると聞かされ、マイヤはため息をついた。
「うーん。荷物もあるというのに。1日も歩くのはちょっと……」
背負った荷物袋の紐を指でしごく。それから書物を何冊か入れた鞄も手に持っていた。
イズヴァルトはもっと大きな袋を持っていた。この中に旅費や着替え、マイヤが持てなかった本もあった。
「どうしよう? イズヴァルトの荷物が重いだろうし私が読み終えた本だけでも古本屋に売ろうか?」
「ありがたいことでござるが……よろしいのでござるか?」
ほとんど読み終えたとマイヤは答えた。それと保管してもあまり役に立ちそうにもない。
「サイゴークについて書いた地誌と辞書があればいいよ。イズヴァルトも辞書だけはよく読むでしょ?」
「さようでござるな」
荷物を軽くする為に古本屋に向かう事にした。ミョージバーグはそれほど大きくない城市だ。
古本屋は馬車乗り場のすぐ近くにあった。マイヤは読み終えた9冊を鑑定してもらった。
「うーん。あんまり大した額で買取りできんよ? キンキ大陸の書物じゃけえ。こっちであんまし読まれんからなあ……」
保存状態も加味して、1冊につきヒッジランド大銅貨3枚。もう少し装丁がきれいであれば中銅貨2枚つけられたと添えた。
「ふえええ……」
「……買ったときの何分の1になるでござるか?」
「5分の1だよ。ナントブルグの古本屋さんだったら、せめて3分の1で買い取ってくれるけど、仕方がないよ」
こんなことなら、まだキンキ大陸の言葉がわかるヨナゴルグで売れば良かったとマイヤは嘆く。言われたとおりの値段で売り、得た金で1冊を買うことにした。
マイヤが手に取ったのはヒッジランドの城市やそれをつなぐ街道。土地についてぎっしりと記された本だった。題名は『王国軍鑑』。
紙の質や記載されている情報から、比較的新しい書物に思えたのでマイヤは購入する事にした。発行年は5年前らしい。
代金を支払った後、マイヤは近くにあった飯屋で読むことにした。硬めのパンと野菜のシチューを口にしながら、じっくりと読み込みううむと唸る。
「イズヴァルト、この本なんかおかしいよ?」
「どうしたでござる?」
「どうしてか砦や要塞まできっちりと記しているの。それから縄張りとかも。こういうのってふつう、軍事機密だよね?」
おかしいおかしいつぶやきながら、巻末の記載を確かめる。ヒッジランド語で転売禁止の文字が。
「どうしよう! これは持っていちゃまずいものだよ!」
「マイヤ、落ち着くでござる。この本を買ったのが拙者らならば、それを売った古本屋の主人も同罪にござる!」
「そ、そうだよね? だとしたらあのお店に罪をなすりつけちゃえば……」
とりあえずそそくさと本を返しに行こうとマイヤが呼びかけた時、飯屋の入り口から厚手の鎧に身を包んだ武者たちがとかどかと入ってきた。
その集団の真ん中には、とりわけ屈強そうな武者がいた。おおよそ175センチほど。横幅がともかく広い。頑丈そうな顎をしていた。
彼は2メートル以上もある騎士槍を肩に担いでいた。大変快活な大声で、「やあどうも!」とマイヤに呼びかける。
「あそこの古本屋の主から聞いたが、お嬢さんが発禁本を購入していったそうだな!」
「え、え、え! ひ、人違いです!」
「その食卓に置いてある『王国軍鑑』こそがまさにそれだよ!」
男はからからと笑いながら、マイヤに向けてランスを構えた。
「はははははっ! 諦めて観念してくれないかね! でないと手荒な事をしてでも君を捕らえなくてはならないからな!」
「そ、それだったらこの本を売った、あの本屋のおじさんを捕まえてください!」
「さようでござる! 甚だしい言いがかりでござるよ!」
イズヴァルト達は抗弁するが、ランスを持った男はやかましく高笑う。
「はははは! とにかく逮捕だ! おとなしく縄についていただきたい!」
「そうはいかぬでござるよ!」
イズヴァルトが背中の『覇王の剣』を抜く。ランスの男は嬉しそうに目を見張った。
「はははっ! なかなかに良い大剣だ! 私は重い武器が大好きだ! ぜひとも所望したい!」
「この剣はなまくらではござらぬよ? 鉄をもたやすく切る魔剣でござる!」
「魔剣か! わはははは! 面白そうだ!」
ランスの男がゆっくりと前に進み出る。足取りはのっしのっしと緩慢にも思えた。先手必勝とイズヴァルトは素早く動く。
が、それは男の呼び水だった。重そうな足取りと身体の動きはまたたく間にしなやかに、素早くなった。
ランスを叩き切ろうとしたイズヴァルトの、上段からの斬撃をひらりとかわす。イズヴァルトは横殴りの一撃をもろに食らった。
凄まじい膂力。巨体のイズヴァルトがものの見事に弾き飛ばされた。別の客の食事が置かれていたテーブルの上に倒れ、台無しにしてしまう。
「イズヴァルト!」
介抱しようとマイヤが踏み出した時、彼女は背中に強い一撃を食らってぶっ倒れた。この時既に、イズヴァルトを倒したランスの男が後ろに立っていた。
「う、うう……」
イズヴァルトはのびていたが、マイヤは気を失っていなかった。背中がじんじんと痛いのをこらえながら気絶したふりをする。逃げる方法が思い浮かばなかったのもあった。
「はははは! 申し訳ないが我等にお付き合いいただこう! なあに、すぐ近くだ! ミョージバーグ城の牢屋だからな! わはははは!」
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「うえええん。せなかがいたいよー!」
「ま、マイヤ。すまぬでござる……拙者があの本に気づいておれば……申し訳ござらぬ……」
閉じ込められた部屋は地下にあり、窓が無くて薄暗かった。イズヴァルトは痛みが引かぬ腹を抑えて壁に背中をかけている。
マイヤは彼にしがみついて、めそめそと泣き続けていた。背中にくらった一撃だが、女の子に与えるものにしては手加減というものに欠いていた。
「い、いだい。いじゅばると、のませて?」
幸いに牢屋の扉はのぞき窓が無かったし、イズヴァルトとマイヤは手かせ足かせを付けられていなかった。逃げられない為に素っ裸にされていたが。
牢屋にしてはいささか温かい。それもそのはず、この部屋は温泉を用いた暖房がついていた。牢屋というより尋問する容疑者を閉じ込める部屋らしかった。
「洗ってはおらぬでござるが、わかったでござる」
「うえっ。ぐすっ……ありがとう……」
マイヤは丸出しになっていたイズヴァルトのペニスにしゃぶりついた。垢がついており不潔であったが、美味しそうに舐め続けた。
「う、おう……マイヤどの……」
こんな事態だというのに、イズヴァルトのペニスは気持ちよく果ててしまった。
口の中で思い切り飛び出た精液を飲むと、マイヤの背中の痛みがぐっと収まってしまった。
彼女はイズヴァルトの精液には、妙な効果があるのを存じていた。飲むと何故か身体が落ち着くのだ。
気だるい時や身体のどこかが痛い時、少年騎士の精液を飲むと活力が湧くと同時に痛みが鎮まった。
「ふう。おいしかった……ごちそうさま。ちゅっ!」
背中の痛みを引かせてくれた薬を出したペニスにキスをし、頬ずりをする。柔らかい頬と唇に触れられて、勃起は揺れて喜んでいた。
しかしマイヤの背中はあざが残り、むごい内出血を起こしているのは変わらなかった。それを見てしまったイズヴァルトは涙をこぼしてしまった。
「痛々しいでござる。まだまだ腫れているでござるよ?」
「大丈夫。とりあえず痛いのは収まったから。けど……」
これから自分達はどうなるのだろう。マイヤが再び亀頭をしゃぶり始めた。もう2発飲んだら痛みどころか身体も治るかもしれないと思ったからだ。
マイヤの髪を撫でながら、イズヴァルトは自分の腹に残った青あざを手に触れる。
ちゅぱっ、ちゅぱっ、としゃぶる音がしばらく続き、イズヴァルトは金玉で作ったものを2度飲ませてやった。
それをごくりと飲み込んだマイヤは起き上がる。痛みはすっかり引き、代わりに怒りがわいていた。
「これは何かの罠よ! きっとあの本屋のおっさんにはめられたんだわ! ちくしょうめ!」
怒りは腹に行き渡り、彼女はぶほっと大きなおならを放った。イズヴァルトは反対側の壁に目を向けた。
その手前の床には半径10センチほどの便所代わりの穴が空いていた。ご丁寧なことに尻や股を洗うぬるい水が入ったバケツもあった。
「イズヴァルト。ちょっとくさいけどごめんね!」
お腹が痛くなったマイヤは、便所穴をまたぐとイズヴァルトに向かってしゃがみ込んでびちびちと音を立てて脱糞した。
大便は水っぽく、飛沫が穴の周りに飛び散ってマイヤの足にもかかってしまった。
「うわ。きったない……」
それからじょぼじょぼとおしっこをしてバケツで下半身を洗う。濡れた身体を拭くものは無かった。
イズヴァルトも精液とマイヤの唾液とでぬるぬるになっていた自分のペニスを、バケツに残った湯で洗い清めた。
プンスカと腹を立て、自分とイズヴァルトを痛い目にあわせた騎士を悪し様にののしるマイヤをなだめるべく、彼女を抱きしめて頭を撫でていたところ。
「ははははっ! 邪魔をする!」
勢いよく扉が開いて当の武者が入って来た。君達の身の潔白が証明されたと言いながら、手に持っていた薬の瓶をイズヴァルトに差し出した。
「これは何でござる?」
「私の知り合いのゴブリンによる特効薬だ! 飲めば一日で痛みが引き、傷が瘉える!」
持ち物を調べさせてもらったが、スパイと思えるような道具はなかった。てっきり、パラッツォ教団に派遣されたと思っていたと男は笑った。
「冗談じゃないでござる。拙者らは断じてそのつもりでこの国に来たのではござらぬ!」
「捕らえた事はすまない。許しておくれよ?」
なにせ自分の仕事だからだと言ってから名乗った。エドワード=ルーカス。ヒッジランドの騎士で、ミョージバーグの警備部隊の所属。
「『王国軍鑑』って何よ? あんな発禁本を売っている本屋をどうして処罰しないの?」
「ははは。あれはこの国に入ってきた間諜をあぶり出すための罠だ!」
ヒッジランドもパラッツォ教団と戦う事となったゆえ、防諜にも手を加えなければならなくなった。
そこで『王国軍鑑』という釣り餌を用意。各地の本屋に置いた。手にとってじっくりと立ち読みするか、購入していく者を書店員に教えてもらう。それから御用、という作戦だった。
「ははは! 私の策ではないが、なかなかに練れているだろう!」
「いささか単純に過ぎるきらいもござるが……」
「ヒッジランドは策士を育む土地柄ではないのでな! 機略縦横の士がごまんといるホーデンエーネンの水準には達していない! 大目に見てくれたまえ!」
それから、とエドワードは付け加えた。その本に書かれている城や街道、その他諸々はすべてデタラメゆえに信じてはならない。
「でたらめでござるか?」
「はははは! だから言っただろう? 間諜を誘い込む餌だと! ついでだがヒッジランドの地図は不正確だから気をつけろよ? 特に西の山岳地方のはでたらめにもほどがあるからな!」
ちなみにどこに向かうつもりだったのかとエドワードが尋ねる。イズヴァルトはウラスコーだと答えた。
陽気に笑っていたエドワードが急に真剣な表情になり、難しそうに眉をひそめてつぶやいた。
「あそこは……ミョージバーグからだと行き辛いぞ?」
エドワードは一度だけ訪れた事がある。ウラスコーは小さな盆地だ。とにかく大きな街道が無く、比較的なだらかだが迷いやすい山道を通る事になる。
その為には案内役が必要だとエドワードは言った。その人物こそウラスコーに縁があり、しかも大昔のヒッジランド王朝の末裔だとも。
「かような人物が! もしや!」
その者こそが、その王朝の最後の王女であり覇王の妻となった姫騎士エリザベスの末裔の遠い親族。さて、その人物とは何者だったのか?
その続きについてはまた、次回にて。