聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ルッソにとってこれが、トーリの影の家臣たるカミラとの初の顔合わせとなった。
「初めまして、ルッソ様。ご当主様がお世話になっております」
そう言って笑う彼女の色香は凄まじい。ついつい、ふら、となった。貧血を装って抱き着こうとしたら、トーリに引っ張り上げられてビンタを喰らわされた。
「私の前で浮気はしちゃだめ!」
口をとんがらせてトーリはルッソに抱き着いた。カミラは苦笑いして本当の姿を現わした。ツノと翼を生やした、水色の髪の淫魔。しかも全裸だ。
熟れ切った果実の様な大きな乳房に釘付けになりながらも、ルッソは彼女の気配から何かを感じ取った。
「ねえ、トーリ。この人、サキュバスなんだろ?」
「ふふ。見破るとはなかなかですわね」
「わかるよ。トーリとマイヤと同じにおいがするからね」
トーリは答えた。カツランダルク家の先祖に仕えていた、サキュバスの家臣だ。
「さきゅ……カツランダルク……ああそっか。君のお母さんのご実家だったよね?」
「左様でございます、旦那様」
カミラはうやうやしくお辞儀をした。
「女王になられるのを諦め、妻として、母としての道を選ばれたご当主さまに愛情を注がれるご恩、決して忘れてはおりませぬ」
「……あれ? 俺は君に会った記憶は無かったけど?」
「カミラはみんなと代わる代わる、動物に化けてずっと私達を見守ってくれたの。オルフレッドや、シュミットさん達もよ?」
「いや……宿場町ですけべな気分の時の君と同じような娼婦さん達を、ちらほらと見たことがあるんだけれど?」
カミラは気まずそうに笑った。サキュバス達はニンゲンに化けて、アスカウの宿場町の商売女として、うろついてもいたからだ。
「しかし、トーリの秘密のご家来さんは初めて見るなあ。とてもきれいですね?」
「うふふ。褥のほうも試してみますか、旦那様?」
「トーリが妬くから今は遠慮しとくよ。また今度ね。あれ? トーリ?」
トーリは夫を睨みつけていた。カミラと浮気なんかさせないんだから。
この夫は誠実だけど、女の誘いに弱いところがあった。特にマイヤとの間柄が気に食わない。結婚してからも会うたびに、こっそり『おしゃぶり』をしてもらっていたのだ。
それだけではない。ルッソはご丁寧にもクンニリングスでお返しをしている。夫のそれが、どれほどのものかをトーリは存じているから尚更腹が立つ。
とはいえ彼だけを責めることはできない。トーリもまた、イズヴァルトに甘えてねだり、ちんちんを楽しんでたりもしていたからである。
マイヤが買ってきてくれた避妊の薬を飲んで、イズヴァルトのものすごく大きく元気なそれに絡みついた。彼は『なめなめ』もすごくうまかった。
ただ、浮気をしても夫婦の仲は良かった。不倫などせいぜい、自分たちの愛が本物かを確かめる為の『検診』以外のものではなかった。
「でもカミラ。どうしてここに来たの? 王都はピックプリトの持ち場だったじゃない?」
「……ピックプリト? まだいるの?」
さようでございます。背後から声がするとその人物は姿を現わした。カミラに負けず劣らずの美貌の淫魔だ。こっちは髪が銀色がかった黒だった。若い娘に見えたが、カミラよりも年上らしい。ピックプリトは片膝をつけてルッソに頭をさげた。
「我々はカツランダルクの遺臣たち……つまりは、ナントブルグ王国の生き残りでございますよ。魔族ですが」
「ああつまり、サキュバスの女王様とその家臣のサキュバスの侍女、というわけかい?」
「左様でございます。流石は『源流』に連なるご一門。察しが早いご様子で」
彼女が言う『源流』というのが気になって尋ねた。聞かされるとなるほど、とルッソはうなずいた。昔話は本当の事だったか、とつぶやいた。
ピックプリトとカミラはトーリに、久しぶりに『御殿』に来て欲しいと求めた。皆と一度顔を合わせての会合を行いたい。折角王都に来たのだから、少しぐらいはよろしいでしょう。
「食事やお菓子をたんまりと用意しております。それからイーガから取り寄せた『げーむうおっち』も」
「ほう、至れり尽くせりというわけだね。トーリ。俺は参加するよ」
「ご当主さま。いかがなさいますか?」
「もちろん、そうするわ」
彼女はうなずいた。しかし幼い頃にあったあの館は、まだ今も存在しているのだろうか?
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行く方法はナントブルグにいた頃に毎週通っていた南街区の立ち入り禁止の大井戸に入ってではなく、彼女達の転移魔法でだった。
ルッソは巨大な青銅の門を初めて見て驚いた。ナントブルグの王宮の門よりも立派に見えたからだ。
その奥の『まほろばの御殿』に通されたルッソは、ただただ驚くばかりであった。
その御殿の大広間のソファに座り、カミラに負けぬほどの淫魔の美女達から、お菓子や甘い飲み物をいただいて、まばゆいばかりの装飾に目を見張る。
地下なのにバルコニーがあり、そこから星々と城下街が見えた。今のナントブルグの建築ではなく、もっと古めかしい造りのものだった。
「ただ、これは殆どが、『まほろば』でございますよ。旦那さま」
横に座るカミラが教えた。本当は変哲もない、広いだけの地下室なのだとか。サキュバスの魔法で在りし日を再現してみせている。
「カツランダルク王国は、こんなに豊かだったのかい?」
「左様でございます。都の大きさこそ今のそれよりも狭くありましたが、女の陰を模した街に住む民に、貧窮する者は1人とてございませんでした」
カツランダルク王国は『大陸戦国時代』以前の国々の中で、一番豊かで平和だったとカミラは語る。
肥沃な穀倉地であるナントブルグ盆地を有し、東はヤマート大河の西岸、西はオルガスムナの西端まで。北はいくつかの山地を越えたシジョーナワテまで伸び、南はナガオカッツェの山脈の裏側まで突出していた。キンキ大陸中南部の要衝を残らず押さえた格好だった。
「そんなにあったのか。すごく広いな……」
広いだけではなかった。各国の盟主的存在としてナントブルグ王国は君臨した。その当時はヨーシデン地方も有していた旧ナガオカッツェ王国や、南天騎士団を構成する有力大領主たる、コーノフェルトら四大大公の先祖の王国も配下同然の盟約を誓っていた。
「その他にもフジイデール、ハビキシュッテン、西端のモナファン王家も、我らの君を盟主として崇めておりました」
しかしそれを、魔界のハーフリングを祖とするホーデンエーネンの一族が滅ぼした。数百年前のことだ。カツランダルクの業績を残した歴史書や碑文は焼かれ、打ち壊され、ただただ、淫魔の王国、という言い伝えしか残せなかった。
「……ホーデンエーネン一族が興ったのは、アスカウ盆地だった。つまりは、俺が生まれた『牧童の村』こそが」
君達の宿敵のかつての本拠地だったよね、とルッソが問う。カミラは薄く笑って答えなかった。
「訪れているなら君達も見ただろう? 俺の家の牧場にはさ、城の石垣の残骸がちらほらと残っているんだよ」
「おっしゃるとおり、旦那さまの牧場にこそ、あのホーデンエーネン一族の城があったと記憶しておりますよ」
「サキュバスはとても長生きなんだね?」
カミラはうなずいた。魔界のサキュバスはエルフたちよも長生きだ。5万年も6万年も生きる。
「なら、この話も知っているかな……」
ルッソはこそりとささやいた。カミラとピックプリトには動じた様子が見られなかった。そのことも存じている、とカミラは答えた。
「だからこそ、ホーデンエーネン王国を打ち倒すカツランダルクの女王が現代に蘇ると、我らは期待を抱いているのです」
「今のトーリ様にはもう1つの、ホーデンエーネンの一族がついておりますからね」
ピックプリトが言ったのは、危うい真実でもあった。ルッソはさりげない様子でトーリを見た。まさかそのことを最初から知っていたんじゃないだろうね?
「そんなのじゃないわ。もしやるんだったら私1人でやるから。それだけは信じて?」
お腹の中にいるルッソとの子供は、絶対に巻き込まないつもりだ。それを聞いてルッソは少しだけ安心した。でもトーリからは天下取りを絶対にしない、という約束をこの場では聞けなかった。
「ご安心ください。トーリ様が正統なカツランダルクの当主として名をあげて動けば、かつての盟友や旧臣らが旗の下にはせ参じるでしょう」
カミラは自信ありげに言った。
「特に有力な味方となるものが……」
「誰になるんだい?」
「女王陛下の右腕。王家一の家臣たる、キョウゴクマイヤー一族。祖に淫魔やエルフの血を混じえ魔術を修練し究めるたる彼等はきっと、トーリ様の矛と盾になることでしょう」
「キョウゴクマイヤー……つまりは、イーガ王国が?」
「……子孫達が、ご先祖様の遺訓を守り継いでいてくれれば、の話ですが」
そこだけが不安材料だ。イーガは初代の教えを忠実に守る『第一王朝』から、その呪いとも言うべき遺訓から逃れた一族による『第二王朝』となっていた。
しかしキョウゴクマイヤーの祖は金色エルフの恐ろしく強い武者だった。彼はナントブルグ王国第一の武将として、女王の盾であり最強の矛であったと。
王国滅亡の危難の時、ホーデンエーネンに先手を討たれて破滅の憂き目にあったそのエルフの一族だが、カツランダルク再興を誓い東へと落ち延びて行った。それがイーガ王国である。
初代国王はまことの主君である『女王』に忠実だった。彼はその娘のうち1人を妻にしたからだ。忠義の為、妻の願いの為、巨大化したホーデンエーネンと幾度も争った。何度も繰り返した戦争の果てに壮烈な討ち死にを遂げた。その子供達や孫達もそうだった。
「その頃まだ、キンキ大陸にいたゴブリンやエルフの移住者を貴族とし、魔法王国を築いたのまでは良かったのですが、ニンゲンとの血が混じりすぎて……」
だからこそナントブルグの王国とは距離を置いてしまったのかもしれない。そうカミラはつぶやく。ピックプリトも憂いていた。
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ルッソはピックプリト達と外を見ながら待った。3時間。宮殿の奥の部屋の扉が開き、トーリとサキュバス達が現れ出た。
彼女達は密室で久しぶりの再開を、性愛でもってよろこびあっていたのだ。トーリの身体から、妖しい色気が漂っていた。
「おまたせ、ルッソ」
「もういいのかい?」
「うん。また明日も来る事になるから。それでね……」
トーリは愛撫されながら、サキュバス達から言われた事を口に出した。
「ねえ、ルッソ。イズヴァルトさんとマイヤとの娘か息子を、私達のお腹の子と結婚させることって、できないのかな?」