聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
トーリとルッソを前に、カミラは語った。姉妹にはそれぞれの特徴がある。
トーリにはサキュバスの、マイヤにはハーフリングの血が強く作用している。ルッソはおや、と思った。
「でも、マイヤは精液を飲まないと病気になるんだろ? イズヴァルトさんのちんちんをちゅーちゅーと吸っているのだから、あいつもサキュバスの血が濃いんじゃないか?」
「それは、魔力と栄養の供給方法がサキュバスのものと同じだけ、ということです」
マイヤの場合はその母、リーファの本当の父親の祖の影響が強いとカミラは言う。
「……本当のお父さん?」
「隠すつもりはございません。ホーデンエーネンの現国王、ジュンケイン=ホーデンエーネンこそが、トーリ様とマイヤ様のもう一人のおじい様、でございますよ」
「……嘘だろ?」
ルッソはトーリをじっと見る。彼女はルッソを眼差し強く見返していた。本当のことだと訴えていた。
「……トーリとマイヤは、というより2人の母さんは、王様の御落胤だったのか」
「さようでございます。祖母様でいらっしゃったフロリーナ様は、ジュンケイン王にとても深く愛された側室でした」
その話は聞いたことがあった。なんでも、尻穴でエッチをするのが大好きな美女だったという。
あろうもことか大好きな王の前でおまるにまたがり、ぶりゅぶりゅとうんちをして見せるという、奇矯なエピソードまで知っていた。趣味が孫娘の片方に似ていた。
「そういや、国王陛下の私室には、そのフロリーナという人の『ケツ拓』が飾られているとイズヴァルトさんから聞いたことがあるけど……」
「そうでございます。それはもう、フロリーナ様のお尻の魅力に、ジュンケインは憑りつかれておりました。あのエチゴニアという国から来たゲルダという娘が嫁入りしなければ、トーリ様もマイヤ様も、ホーデンエーネンの姫様として皆に崇められたことでしょう……」
そのフロリーナだが、若い頃のジュンケインの即位式に参加した折、王に見初められて愛妾となった。その時はカツランダルク本家は、捨扶持程度だが王国から与えられ、小さな領主として遇されていたのだ。
彼女は強くお家再興の意志を持ってはいなかったが、美貌と魔法の才においてはこの数百年の中で、サキュバス達が「これは!」と思うほどの逸材だったという。イーガに留学すればそれこそ、あっちで指折りの魔道士になれるぐらいの人物だったようだが。
「しかしそれも過ぎたこと。今はトーリ様を盛り立てていくことが我らのやるべきことでございます」
それからカミラはルッソに近づき、耳元で囁いた。
「その意志をしっかりと固めたいと思いますので、トーリ様がされたことと同じことを、あちらの部屋で……」
「だめよ、カミラ」
トーリがぴしゃりと言うとカミラは大人しく退いた。祖母の話よりも自分達の子供とイズヴァルトとマイヤの子供を結婚させたい、という話についてルッソに語りたかった。
「ねえ。聞いて、ルッソ。サキュバスのみんなはイズヴァルトさんに、ものすごい何かを感じているようなの」
かの男はきっと、キンキ大陸どころか世界に名だたる英雄になるという。そうした『異端児』との子は、神に愛される事だろう。
それを聞いて、ルッソはある事を思い出した。どうにもイズヴァルトに似ていて大柄な長男についてだ。自分の種ではないとうすうす気づいていた。どうにも、本当の父親の特徴が強すぎる。
でっぷりとして育ち、とても愛らしい笑みを見せる人懐っこい長男は、自分の本当の子では無いけれど、きっととんでもない大物になるだろうとルッソは期待を抱いていた。
(つまり、オルフレッドと、マイヤが産む女の子を結婚させたいのかい?)
いや、違うだろう。
(うーん。でも、その子にとっては異母兄にあたるんだよね。血が濃いと悪い病気をしがちになると聞いたからなあ。)
思い切って尋ねてみた。
「オルフレッドのお嫁さんってことかい?」
トーリは用心深く答えた。
「……違うわ」
「では、オルフレッドはどうするんだい? あいつ、何かすんごいものを持っている気がするんだよ。あいつならいいんじゃないかな、と思うんだけど」
「オルフレッドは別の道を歩ませたい。そのう……シュミットさん家の跡継ぎとして……」
(それこそ『托卵』じゃないかよ、トーリ。俺んちに対しての不義理だよ。それこそ許されることではないと思うよ。)
浮気しまくりのトーリの下半身は許すけど、自分のご先祖が一生懸命大きくした牧場を、トーリと自分以外の子に奪わせるつもりは全く無かった。だったらアスカウの村長にでもなってくれ。そうなるぐらいの面倒は見るし愛情も注いであげるけど。
「それから、子供の結婚を親がああだこうだって決めるもんじゃないよ。いいなづけを決めるってのは、政治みたいなもんだよ。俺はそういうのが嫌いだ」
「……」
「だからトーリ、君が英傑になっちゃえばいいんだよ。でも国盗りはやめてくれよ? それ以外がいい。例えば……」
『おしゃぶり姫のどすけべお姉さん』として名を挙げるとか。そうからかうとトーリに頬をつねられた。
「いだい! いだいいだい!」
「もう、ルッソのバカ!」
このやり取りに終始、取り澄ました表情だったピックプリトとカミラの頬が緩んだ。これでいい、とルッソは思った。お家再興と国盗りの野望は、しばらく無しにしてほしい。
どうせなら沢山の子や孫に囲まれながら、「出陣はいつにします?」とトーリに聞いて、「今年の運勢は良くないと出た。来年に致そう」などと冗談を言い合う、村でののんびりとした老後をルッソは願っていた。
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……だが、そうはならなかった。
トーリはセインの愛妾となり彼の子を産み、それからこの国を実質的に支配する摂政になった。そして逆上したアナキンによって2人とも死んだ。
しかし、2人の魂まで死んだわけではなかった。輪廻の理に導かれて別の世界に生まれ変わり、全く別の人物として生まれ変わった。
その世界でも『彼女』は『夫』と再び出会った。もう少しのところで互いの人生が交わりかけていた。けれど、それが引き裂かれる様な出来事に遭い……『彼女』はかつての世界へと足を踏み入れ、いくつかの苦難に遭った。
そして、今……。
『彼女』はアカサカチハヤの山地を一望する塔の上で、後ろで膝をついて侍る黒髪の若者に問いかけた。
「タカミ、ホーデンエーネンでの戦況はどうなっているのかしら?」
「はい。ナプリオネらはだいぶ、苦戦している模様です」
ヨーシデンへの包囲を破られた。
ミューラらが支配していた、旧南天騎士団領も既に陥落。
イズヴァルト達は味方となる軍勢と合流し、ナガオカッツェ街道を進撃中。
「流石ね、イズヴァルトさんは。『歩く終末の災厄』と言われるだけあって強いわ。アスカウ地方とナントブルグ地方の陥落は、まだなのでしょう?」
左様です。タカミは『彼女』の顔を見ずにうなずいた。
ナントブルグ盆地一帯は『ゆうしゃ』のナプリオネ本人の本拠地となっていた。あの『聖騎士』本人の娘を妻にした後、ナントブルグ大公から実権を奪いイーガへ追い払った。
ナプリオネは自分の元の世界でかつて築いた、『光の王国』をキンキ大陸に再現しようとしていた。
だが、それもイズヴァルトという『動く災厄』が牙を剥いた時、風前の灯となったわけである。
「アスカウのジャンヌ=ルアンヌ、ナガオカッツェのニコレッタ=ダヴ―。ナプリオネが頼みとする両将がまだ健在ですから、早々抜くことはございますまい。『女王陛下』のやろうとしている事を、イズヴァルトは邪魔できないでしょう」
「らしいわね。でも」
イズヴァルトには多くの恐ろしい味方がついている。魔界の剣豪・ヤギウセッシウサイもそうだが、もう1人、あちらの世界から連れて来た『ゆうしゃ』達が厄介だ。
『エデンの戦士』とあの男が名づけたその連中の中に、本当に恐ろしい力を持つ者がいた。ありとあらゆる魔剣や魔道具の力を全て引き出す、『適格者』と呼ばれる人物だ。
そいつによってタカミや、彼等の『大志』の為に手を貸した『ゆうしゃ』達の多くが苦しめられた。
パラッツォ教団の『枢機卿』と呼ばれた者らは、タカミとあと2人を残して多くが死んだ。
イズヴァルトが異界から連れて来た戦士達と、世界中で起こっていた戦争を止める為の戦いで命を落とした。
「『適格者』、どんな顔なのかしら?」
「そこそこ背は高いようですが、およそ戦士とは見えないらしくて……」
「アナタたちの可愛い娘達、『司教』ちゃんたちも何人か、味方に引き入れた、と言っていたわね」
タカミの額から汗が浮かんだ。『司教』たちに裏切られるというの大変な失態だった。魔力量から言えば自分達よりも遥かに上。
「恐れる事はないわ。まだ司教は2人残っている」
「私のトトリは計算に入れないでください。あの子は封印をしたままです。出しても手を貸してくれないでしょう」
「つまりは1人だけ……でも恐れることはない。何故ならお前たちには、私がついているからな」
『彼女』は
蒼にも見える黒い髪の、おしとやかな体つきをローブでまとった美女。
彼女の名は、トーリ=カツランダルクという。
そして彼女は今この時、誰にも侵されることは無い絶対の存在になろうと、試みていた。
ホーデンエーネンの王やキンキ大陸の覇者ではない。それよりももっと上の存在、オーバーロードにである。
この回の後半のくだりは『聖王編』の数十年後のお話になります。
(戦旗編で、予定しているんですけど。。。)