聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「……無念でござる」
あくる日の昼間である。額にたんこぶを作ったイズヴァルトは、負けた辛さをかみしめながら、馬の手綱を掴んで雪道を進んでいた。
マイヤのおしゃぶりと2穴にめいいっぱい精を注ぎ込んだ熱い夜を過ごし、身も心もすっきりしてエドワードとの勝負に臨んだが、全てが負けに終わった。5本勝負であったのに、1度も勝つ事は。
相手に隙など無かった。試合の後、昨日貰った飲み薬と同じものをくれて飲んでいくらか痛みは引いたのだが、くやしさのせいか頭のたんこぶだけは痛んだ。
「仕方ないよイズヴァルト。エドワードさんはヒッジランドどころか北部サイゴークで最強の武者だと言われているみたいだし」
かわいい栗毛の馬に乗ったマイヤが慰めの声をかけた。イズヴァルトが乗る馬も背が低い。体つきはがっちりとしていたが。ヒッジランドの馬は山道を歩かされるから、踏ん張りと持久力が良くなるように品種改良されているのだとか。
「それはともかく、ヒッジランドのお馬さんってかわいいよね? ちっちゃくてほんわかした顔立ちで。そう思うよね?」
「確かにでござる。愛らしいのは確かでござるな……」
訓練場で見た馬達も背が低く、軍馬にしてはどこかのどかな容貌をしていた。ホーデンエーネンでは荒馬が好まれる。特に聖騎士団の斥候隊にあてがわれるのは、札付きの暴れ馬ばかりだ。
周りの風景もまた、エドワードから言わせればほんわかとしたものらしい。今は雪景色だけのさみしい感じが否めない田園だが、夏場になると羊の群れがそこかしこで草をはむという。
「ヒッジランドは酪農と羊毛が特産らしいよ。あと温泉もそこかしこにあるらしいね」
「国全体がアスカウの村みたいでござるな?」
「イズヴァルトの故郷は、温泉ってあったっけ?」
「それよりもぬるい鉱泉が湧いているでござるよ。黄色い泥水みたいなものゆえ、飲める代物ではござらぬ」
とはいえ鉱泉はかなり山の深いところにしか湧いていない。いつもは山猿や熊や鹿が利用者である。中にはニンゲンの身体に毒になるものもあるので、一概にどこでも入れる訳では無いとイズヴァルトは語った。
昼を過ぎて時刻が3時を回ってから、2人は宿場町に着いた。イズヴァルトは早速、ウォルターがいそうな酒場を探す。エドワードいわく酒に目がないかの男は、上等な酒を出す店にしか足を運ばないのだとか。
それからかの勇者は宿場町で一番おすすめの宿屋を教えてくれた。北側にある温泉風呂付の宿屋である。そこで働く者らに街で一番良い酒を出す店は無いかと尋ねた。
「だったら、南街区にある『羊串の王様』という店が一番かのう」
「おつまみの羊料理は三番手ぐらいだが、酒だけは上等なものが置いていあるけえ」
但し、羊串だけは絶対に頼むなと皆が注意した。そこで卸している羊は煮込み用で、焼き肉には全く向いていない。焼き方もへたくそで寄生虫が生き残っている場合もある。気をつけろと。
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『羊串の王様』は割りと大きな店だった。羊料理が楽しめる居酒屋で、この宿場町では二番目に繁盛していた。
ウォルターどのはいるでござるか。イズヴァルトが方々を呼びかけてまわっていると、一人ののんべえが千鳥足で寄ってきた。
「にいちゃん。奴をさがしているけえ?」
「さようでござる」
「なら、あいつは店の中じゃなく外におるけえ。店の旦那に頼んで会わせてもらえばええよ」
店の外という意味がわからなかった。という事でイズヴァルトはこの店の主人にウォルターに会いたいと頼んだ。ウラスコーに行きたいので道を知りたい。エドワードの紹介も受けている。
主人は案内してくれた。店の外と言われてついていった先は、店に連なる廊下の先にある店主の家だ。聞けばこの店、ウォルターの父の出資を受けて建てたという。
「かつての王家に連なるお方と聞いたでござるが、大金持ちでもござったか?」
「いいえ。今はあくまで傭兵達にいい仕事場を教えてあげる情報屋……でもございません」
その仕事も無くなって自分の店やイワッミーにあるドワーフの知り合いのところを行ったり来たり。そうでなければ酒を飲んでばかりだという。
「あんまり細かい事は詮索しないようにしてください」
「どういう事かしら?」
「いろいろです。ウォルターさん。お客さんがお見えですよ?」
家の食堂のドアを開けると、羊料理を並べたテーブルの席に座る数名の男達がいた。その内の1人がウォルターだった。中肉中背だが眼光が鋭い。剣士によくある気配があるなとイズヴァルトは思った。
「ウォルターさん。この方はイズヴァルトさんというホーデンエーネンから来たお客さんで、ウラスコーまでの道を教えてほしいそうです」
「うい? なんでウラスコーに……おい、アンタ」
ウォルターは立ち上がりイズヴァルトをどついた。さっきまでのとろんとした顔つきとは違い、怒りに燃えた形相だった。
「どうしてヴィクトリアの剣を持っていやがる! あいつはどうしたんだ!」
ヴィクトリアの戦死は伝わっていなかったらしい。王様が使者を立てて故郷に知らせたはずなのに。イズヴァルトがその事を話すと、ウォルターは涙を流しながらこう答えた。
「そりゃあ決まっているだろ! そいつはミョージバーグにいる王様にうまいこと言いくるめられて追い返されたんだよ! なんてったってこの国じゃ、姫騎士エリザベスの名前は禁忌そのものだからな!」
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ウォルターは酒を傾けながら語った。ヒッジランドの現王朝はエリザベスの末裔を打倒した将軍が立ち上げた王国である。ヒエビラーム王家というのがそれ。とはいえ王国議会の権限が強く、半ばお飾りだ。
ヒエビラーム朝ヒッジランドは、アルグレイブ帝国打倒を掲げて立ち上げられた。その公約の1つに、結果的に裏切者となったエリザベスの子孫に二度と王の座を明け渡さぬというものがあった。
本家は先祖代々から伝わるウラスコーの地に封じ込められ、ウォルターほか旧ヒッジランドの王家に連なる者らは皆、小さく不毛な土地に転封された。田舎暮らしを余儀なくされた。
その中でもウォルターの家だけは特異だった。土地を売ると祖父の代でミョージバーグに移り住み、傭兵団を結成したり大戦争が起こりそうな国を他の兵団に教える仕事をしてがっぽりと儲ける事が出来た。
父の代にはミョージバーグの郊外に大きな屋敷を構える程にまで繁盛した。ウォルターもその恩恵に預かってお坊ちゃん育ちを。12の時から4回も結婚離婚を繰り返すぐらいに色男となった。
ウォルターはヴィクトリアと同い年。幼い頃から遊んでいた仲だったという。それを聞いてイズヴァルトはどうして彼女と結婚しなかったのかと余計なことを口に出した。のどを締め上げられた。
「ぐへえ!」
「あ、すまなかった。そりゃあ俺も惚れていたさ。ヴィクトリアは美人でおしとやかで、しかもおっぱいがデカかったろ。もちろん告白をしたよ。何度も」
しかし「しつこいですよ!」と笑われてはねつけられた。彼女は幼い頃からお家再興の為に剣を修行し、彼女を『ひめさま』と慕うドワーフの武者に稽古もつけてもらった。
「生理が始まる前のしょんべん臭い頃は編み物とお花摘みが大好きな女の子だったのにさ……そしてキンキ大陸に渡る前はこうだ。魔竜の首をあげるまではこっちに帰らないとな……」
それから5年。ヴィクトリアは帰ってこなかった。イズヴァルトから聞いてようやく彼女が戦死したことを知らされた。彼はヴィクトリアがいい男を見つけ、家庭を持って暮らしているとばかり思っていた。
「あいつ、お家再興の夢を持つまでは、赤ちゃんや子供にかわいい服を作るお母さんになりたいと語ってたんだよ! なのに、ガキもこさえられずに逝っちまったのか!」
ウォルターは泣き叫んだ。彼と一緒に飲んでいた仲間達がなだめる。その様子を見て気分が重くなったマイヤは、ついついテーブルにある羊串に手を伸ばしてしまった。
「ゆえにこそ。拙者はヴィクトリアどのに託された『姫竜の牙』を生まれ故郷に奉納したくて旅をしているのでござる。お願いでござる。道を教えてくれぬでござるか?」
「……もういいよ。それ置いてホーデンエーネンに帰れよ? 俺が代わりに戻してくる」
ウォルターは杯をぐいっとやりながらイズヴァルトに掌を差し出した。
「アンタもヴィクトリアのことで辛い思い出があるだろう? そんなのはもう忘れていい。後は俺が引き受ける」
「いや。拙者にとってヴィクトリアどのはいくさばでの師であり母でござった! その思いは今も変わらぬでござる!」
「何をだだこねて……えっ。まだ15歳なのか? 顔が幼いけど20過ぎだと思ったが……ああそうか」
イズヴァルトは魔竜との敗戦の後ヴィクトリアに、子供の父親になって欲しいと頼まれてセックスをした事を語った。ついでながら彼女との勝負に負けてクンニリングスを施したことも。これは余計であった。
「なんなんだよッ! おいガキ! ふっざけんじゃねえ!」
ウォルターは目を怒らせてイズヴァルトに殴りかかった。飲んだくれの拳はよろよろだった。しかし避けても尚も食い下がれた。ウォルターが皆に取り押さえられると、呆れきった様子でマイヤがイズヴァルトに注意した。
「ヴィクトリアさんにフラれた人にそんなこと話しちゃだめだよ。イズヴァルト……」
「しかし、ウォルターどのは4回も結婚と離婚を繰り返すほどに恋多きお方だったと聞いたゆえ、この程度の事で怒るなどとは、よもや……」
「それを言うんじゃねえ!」
今度こそぶっ殺してやるとウォルターは息をまく。飲み仲間のうち1人がイズヴァルトとマイヤを廊下に押し出し、今日のところは帰れと呼びかけた。
「しかし、拙者はウォルターどのに是非とも……」
「あいつはヴィクトリアさんが死んだことをに混乱してるんだ。今日のところは帰れ。頼むから!」
致し方ない、とイズヴァルトとマイヤは宿に戻った。今日のところは温かい布団で寝て明日になるのを待とうと語り、夜の営みの為の体力をつける為に宿の食堂に向かったところ、2人を追い出した男が手を振って近づいてきた。
「どうしてここを存じていたでござる?」
「ウラスコーに行きたがる旅の者はなかなかいないからな。さっきはすまなかった。ウォルターが荒れたのは仕方が無いんだ」
男はウォルターがどれだけヴィクトリアを好いていたかを語った。遠い親戚でありおっぱいが大きな美人だから、だけではない。ウォルターが困っていた時、親身になって助けてくれたからだった。
「あいつは若い頃、いろいろとひどい目に遭ってな。その都度ヴィクトリアさんが気にかけてくれたんだよ」
特に結婚の事でウォルターは悩まされた。2歳年上の最初の妻は彼の父親の傭兵団で一番の女コマシと浮気して相手の子を出産。2人目の妻は才能がないのに投資にのめり込み、子供の出産費用をすっからかんにしたろくでなしだった。
「三番目は美人だったがすぐに罵声を浴びせる糞アマだったし、四番目のは一番マシかに見えたが奴の種とは違う子をぽこぽこ産んで養育費を支払わせる悪党だったよ」
「どうしてそんなに詳しいの?」
「俺、もとはあいつの親父がやっていた傭兵団にいたんだ。今はこの街の警備隊で働いているがね」
ウォルターのことならちんこの皮むきを覚えたボウヤの頃から知っている。今は酒ヤケした顔の酔っ払いだが、昔は剣術に長けた御曹司だったよと男は言う。
「言っとくが、あいつは決して租チンでも淡泊でもないぞ。女をその気にさせる色気と抱く術は長けている。女に事欠く事はあまりねえ野郎だ」
ただ、父親が持っていた商売の才覚をウォルターは継げなかった。それから人徳も。古参の傭兵らには独立されたり他所に引っこ抜かれたりされ、ウォルターは儲けを失った。妻達のことで屋敷も手放した。20歳の時にである。
それをヴィクトリアが助けてくれた。彼女が結成した傭兵団に加えてもらい、イナーヴァニアとの国境沿いで起こる紛争に従軍したという。ただ、軍隊の生活はウォルターにはあわなかった。
「代わりにあいつは親父の旧知やお城の外交官から情報を得て、ヴィクトリアやその他の傭兵団に外国のおおいくさの情報を与えていたってわけさ」
しかしその仕事もやめてしまった。現在はぶらぶらとしている。彼の剣の腕をよく知る王都警備隊のエドワードからはやかましくも熱烈なラブコールを送られているのだが、応じる気配が無かった。
「あいつはヴィクトリアが戻って来るのを楽しみにしてたんだ。けどそれも叶わなかった。そっとしておいて欲しいってのが俺からのお願いだよ」
男は去った。ではどうしよう。イズヴァルトはマイヤに目を向ける。
「私からもお願いするしかないかも……」
「一緒になって頼むのでござるな?」
「ある意味ではね」
テーブルに晩飯を運ばれて来たのを見て腕を組みながら、イズヴァルトはマイヤの身体から甘いにおいが漂って来たのを嗅ぎ取った。つまりそういう事らしい。
マイヤが店員に追加注文をする。とても精がつく一皿は無いかな。それならばと店員がおすすめの3品を答えると彼女は全部出してと頼んだ。
彼女はちらとイズヴァルトに目を向けた。とてもすけべえそうな視線が籠っていた。その夜はたっぷりと助力の報酬を前払いすることとなったがさて、マイヤの策とはいかなるものだったのか?
その続きについてはまた、次回にて。