貧乳武闘家娘のNTR闘技場 作:自宅の戦闘員
闘技場から出てきたリーファちゃんの足取りは重かった。
かと思いきや、待っていた僕を見つけた途端走り出す。
すっごい速い。さすが風麗拳継承者。
「らっ、とっ、れぇぇぇぇっ!?」
「ぬわああああ!?」
その勢いのまま僕に抱き着いて来る。
いや、勢い凄いよ。
「ど、どうしたの?」
「キモい貴族にえっちなことされたぁー」
「ええっ!?」
その驚きに「リーファちゃんに毒牙が!?」とは別に、「前回このタイミングでは起こらなかった出来事が!?」でもある。
「えっちなこと、って」
「契約魔術する時、デブデリウムに大事なところ触られたりしたー。もう最悪、ヘンタイ、大っ嫌い!」
「デブじゃないよ。いや、デブだけどデシデリウムさまだよ」
リズムよく罵倒するリーファちゃん。
実際にどこまでのことをやられたのかは分からない。でも、こうやって話せるのなら、一線は越えていないんだと思う。
それでもショックなのは間違いない。
抱き着くリーファちゃんの背中をさすりながら慰める。
すると、なんでか僕の首のあたりに鼻を持ってきて、くんかくんかしてる。
「ラトレの匂いって、なんかホッとする……」
「は、恥ずかしいんだけど」
「にゃぁあああ」
謎の鳴き声を発しながらスリスリとカラダを寄せてきた。
僕も男の子なので結構ドキドキしてる。
「しかもさぁ、契約魔術は何回もしないといけない的なこと言ってきて。なんなのあいつ、絶対またえっちなことする気だし……うああああ、蹴っ飛ばしたい!?」
「あれ?」
契約魔術を複数回する必要がある?
そんなことない。一発使えば最後までだし、前回も不具合は出ていなかった。
……これ、セクハラするための理由付けか?
一応、リーファちゃんから詳しい話を聞いて確信する。うん、ご貴族様がただの変態で確定した。
「ラッキーだったね、リーファちゃん」
「ラッキーなわけないでしょ!? あたしは、ラトレ以外に、触らせる気なんてなかったの! 借金の件がなければ、あんな奴に従うことないのに!」
「あ、う、嬉しいです」
「い、いえ、こちらこそ」
突然の告白に二人して顔を真っ赤にするも、本筋はそこじゃない。
重要なのは契約魔術を複数回する、という点だ。
「で、なんだけど、僕たちの現状って書面にしてるよね?」
村の流行り病は、デシデリウムさまの魔術薬で治癒した。
その際の代金の返済を「リーファちゃんの大会出場」か「リーファちゃんを含む村の若い女性が労働奴隷としてトラニア家で奉仕」のどちらかで行うというもの。
後々になってもめないよう、言い逃れできないように、ちゃんと書面でしたためているし、僕もそれを確認する。
「リーファちゃんに与えられた条件は“華燎宴武に参加すれば、勝敗に関わらず魔術薬の支払いをチャラにする”。でも今回、デシデリウムさまは“契約魔術は薄れていくため、何度も刻み直さないといけない”というルールを出してきた」
「うん……」
「でも前段階の書面契約の時点では、そんな記載はなかった。これで、他の参加者に確認をとって、刻み直す必要が本当にあるのかを聞く。もしもないのなら、契約魔術が薄れて消失するのは“運営側の不手際”だ。一度大会に参加したが、運営側の不手際により、以後の参加が不可能になった。最初のルールを覆して借金チャラをなしにする……は書面契約の内容に反する、つまり相手側が散々言ってきた“聖王国法に則ったしかるべき対応”を僕たちがとれるよ」
「おぉ! そうなの!?」
「ううん。相手は貴族。権力的には上だから、そこまでスムーズにはいかないね」
「へ?」
自分で言ったことをすぐに翻せば、リーファちゃんは混乱して頭の上に疑問符を浮かべている。
「これはあくまでも、契約魔術の効果から逃れるための屁理屈。運営のため、をお題目に出されたら契約の影響でリーファちゃんは従わないといけない。でも、実行可能かは別にして、契約上の抜け道を作れば『魔術の影響で無意識のうちに従属してしまう状況』は避けられる」
「な、なるほど?」
そこまで聞いても今一つ理解できていないようなので、もう僕が文面を作ってしまおうう。
「ちょっと時間ちょうだい。今日中に分かりやすく書面にまとめるから」
「おぉ……お願い、難しいことはおまかせするでヤンス」
「何故に下っ端言葉? ただし、どんなに穴なく作っても“効果が切れたのは不測の事態”で逃げられる。えっちなことをされるのは回避できても、法的に追い詰めるのは難しいし大会参加自体の取りやめにはならないよ」
「それでもじゅーぶん、任せた!」
リーファちゃんが元気に笑う。
なら、期待に応えないとね。
※ ※ ※
華燎宴武、初日。
リーファは受付嬢のセニアから、デシデリウムに呼び出されていることを伝えられた。「運営に関わる内容」とのこと。
運営上を理由にされると、契約魔術の縛りで従わざるを得なくなる。
実際の用件は、おそらく契約魔術の刻み直し。どうせそのまま愛撫しようというハラだろう。
だが手には、ラトレに作ってもらった書類がある。
あんなクソデブ貴族にいいようにされるのはごめんだ。
個室に入ったリーファは、いの一番に書類を叩きつけて、デシデリウムの要望を真っ向から拒否する。
「ミレイネ・ジルク選手に確認したけど、本来契約魔術は刻み直す必要のない術式だよね?」
「なのに刻み直しであたしを呼び出すのは、“運営の不手際”か“魔術を知らない庶民に対して無理矢理言うことを聞かせようとする行為”」
「しかも、あんな行為、契約には必要ない。普通に騙そうとした意志アリアリ」
「聖王国ハプニバーグンは勇者を祖とする国、民草を魔術という力で騙したり脅迫するのは聖王国法に引っかかる明確な犯罪……」
「こっちには、聖王国史に名を刻む拳聖タインがいる。借金の問題ならいざ知らず、この件に関しては途中で握りつぶすのは、お貴族様でもできない」
「魔術薬ではあんたに頼るしかなかったけど、聖王国法に則ったきちんとした対処なら、でぇきるのよねぇ?」
めっちゃ煽り口調になったけど、借金の際の証文に合わせた形でデシデリウムのセクハラ行為を封じる文面を作ってたのはラトレです。
本人は「運営上に含まれないと明言することで契約魔術の縛りから逃れるのが目的」と言ってたけれど。
どっちにしろナイスぅ。
心の中のリーファは「ラ・ト・レ! ラ・ト・レ! フゥー!」とダンスを踊っていた。
「分かった。こちらの不手際を認めよう、途中で契約魔術が切れたなら、以後の参加は不要だ」
「そう言うってことは、最初っから嘘であたしにえっちなことしようとしてたんじゃん」
「だが、その件だけで前回の行為を訴えるのは不可能だぞ?」
「うん、証拠ないしね。あたしは、今後のを封じればじゅーぶん。結局は、借金に関しては“この大会に出る”をしないといけないんだし」
リーファにとってはこれ大金星だ。
そうして颯爽と個室を出る。廊下をスキップで進んでしまうほど、今の気分は晴れやかだった。
残されたデシデリウムは、苦虫を噛み潰したような面持ちだった。
処女にも拘らずあの淫らさ。快楽を求めて従うかと思っていたのに、妙な反撃を食らってしまった。
『異能・魔術などの特殊な力を背景とした、他人の財物の不当搾取や危害を加える行為を禁ずる』
大会出場は双方合意の契約なので問題がない。
だが今回の件は、明確に「魔術について知識のない庶民を騙そうとした」行為だ。
魔術の大家として魔導爵を賜った立場の人間がこれはいかにもよろしくない。
勇者を祖とする聖王国が取り決めた法に阻まれるとは思っていなかった。
小娘のくせに、ずいぶんと頭が回る。
「今はまだ無理か……」
あれがもっと淫乱な性質なら「お貴族様の命令だから」に縋って、カラダを預けていた筈だ。
だが、そうはならかった。
明確にデシデリウムの失策だった。
※ ※ ※
「ラトレのおかげで撃退成功! さいっこーだよ、ありがとー!」
闘技場の前、試合終わりのリーファちゃんを待っていた。
戻ってきた彼女の一言目はそれ。
「それならよかった。試合の方は」
「披露戦も本戦もらっくしょー、あたしさいきょー!」
あれ、確か本戦の方は苦戦の末に辛勝じゃなかったっけ?
これも歪み? いい方に作用することもあるのかな
でも問題は二戦目、ゴダス・ダウデムとの戦いだ。
そこでリーファちゃんは負けて、大変なことになる。
「ねえ、確か事前申請すれば、“この選手と戦いたい”っての要望も受け付けてるんだよね?」
「うん、受付のサニアさんが言ってた。因縁も演出になるからって」
「ミレイネさんと戦いたい、って申請すれば変なのと戦わなくて済むんじゃない?」
「あー、それはそうかも。ごめん、ちょっと闘技場戻ってくる」
珍しいな、こういうのでリーファちゃんが素直に従うの。
いつもなら「逃げても意味ないでしょ、正面からぶつかって勝つ!」派なのに。
でも了承してくれたのは有難い。いつか闘うことになるかもしれないけれど、とりあえず先延ばしには出来た。
そうして休養日。
宿屋・銀のフクロウ亭で、リーファちゃんはゆっくり寛ぐ。
僕は代筆の仕事があるから準備を整えていたのだけど、宿屋の人から「リーファちゃんにお客様が来ている」と伝えられた。しかもかなり大慌て。何故か不思議に思っていると「領主さまがいらっしゃったんだよ」とのこと。
「え、なんで!?」
リーファちゃんも当然びっくり。
迷宮都市ウォルプタスの領主と言えば、五大貴族トラニア家の若き当主。デシデリウムの息子である。
それが、このタイミングでリーファちゃんを訪ねてきた。なにか、すごい嫌な予感がする。
「ねえ、これってパパンをやり込めた美少女に文句の一つでも的な?」
「自分で美少女って言えるの凄いよね、事実だけど。……うん、その可能性はあると思う」
「だってあのド変態の息子ってことは、小変態でしょ?」
「いや、流石にそれは分かんないけど」
なお、ド変態の「ド」はドラゴンの意です。なのでド変態は「ドラゴン並みにレベルが高い変態」「ドラゴンレベルのデカさの変態」といった意味になります。
「ラトレ、いっしょに来て」
「うん」
当たり前だ。
僕たちは宿屋の一階に向かった。
そして、待ち人を見てもう一度びっくり。
玄関で待っていたのは、腰にサーベルを携帯した高身長の青年だった。
短めの金髪、整った顔立ち。動きやすさを重視した改造の貴族服をまとっていてるが、細身ながら鍛えられたカラダをしていた。
端的に言えば、細マッチョの金髪イケメン青年がそこにいた。
「あ、あの、トラニア侯爵様でしょうか?」
僕が声をかけると、穏やかな微笑で返してくれた。
どうしよう、男の僕でもドキッとするくらい綺麗な顔だ。
「いかにも。私がトラニア家現当主にして、迷宮都市を中心とした一帯を治める領主。マティアス・レテ・トラニア侯爵だ」
穏やかで、安心させるような低めの美声。顔だけじゃなく声までイケメンだった。
マティアス様の姿に、リーファちゃんがすごく動揺している。
「う、嘘でしょ。トラニア家の当主って、【食道楽】のマティアス……? こ、こんなスマートなイケメンだったなんて」
「はは、私は農業や畜産を奨励している。それに、ウォルプ牛の牧場を作るなど、とかく食に対する事業が多い。もしや太っていると思っていたかな?」
「うっ、ごめんなさいっ!」
「いや、食道楽の二つ名のせいで勘違いされることも多いのは事実だよ。父がアレだし、ね」
マティビーフの名前の由来だ。正直僕も結構太ってると思っていた。
マティアス様はからかうように片目を瞑る。
そんな仕草まで決まっている。リーファちゃんは真っ赤な顔で照れ笑いをしていた。