貧乳武闘家娘のNTR闘技場 作:自宅の戦闘員
その日、僕は初めて闘技場に足を踏み入れた。
飾られたドラゴンや戦士の像、石造りの壁や床。武骨な印象はあるが、よく見ると手入れが行き届いている。石材もしっかりしているし、造形も整っている。
待機用の個室に医務室、食堂に歓談室、VIPルームに続く階段。荒々しい戦場というよりは、富裕層の娯楽の場としての一面がかなり強い。
「なんか、綺麗というか、豪華? だね」
「あたしも思った。砂埃とか全然ないのよね。あっちの廊下の先には大浴場もあるよ。もうすっごい大きいの」
「迷宮都市はどの建物にもお風呂がついてるのがすごいよね」
「デブデリウムのおかげってのが癪だけど」
「リーファちゃん、デシデ。デシデだから」
デシデリウム魔導爵のお膝元では色々危険です。
太った中年男性なのは事実だけども。
選手の待機用個室には観客である僕は入ることが出来ないので、話は廊下で行う。
「個室、ちょっとした宿屋みたいな感じになってるの。ラトレもは入れたらよかったのに。冷たいお水飲み放題!」
「はは、残念だけどそこはルールだから」
「ま、ともかく観客席であたしの活躍を見ていてよね。カッコいいところ見せてあげる」
ぱしんと掌を拳で叩き、挑発的な笑みを見せる。
今日は二戦目。前もって受付で申請して、ミレイネさんやゴダス以外と戦えるようにと伝えてある。
表向きは“こっちは招待選手だから興行を考えると実績を積んでからランカーと戦いたい”とした。実際は、色んな人との戦闘経験を積むためである。
もう今回は逆行する気なので、負けるまで戦って、転んだらそこで終わりの精神でいます。
「ええと、今日の相手は誰だっけ?」
「炎勢拳の“ファルジ”選手だよ。リーファちゃんの一個上の、十六歳。炎の魔術と組み合わせた体術が得意なんだって」
「そうそう、その人。なんか風麗拳と被ってるのよね。名前もリーファとファルジで被ってるし……ライバル!」
よく分かんないけど気合は十分だ
ちなみに僕たちは、事前にミレイネさんに選手の情報を教えてもらっている。
それほど詳しい内容ではないけど、戦い方を大雑把にでも痴れるのは有難い。
「あたしが来るまでの最年少だし、闘技場のランカーの中では一番下って感じよね」
「ミレイネさん情報だと警戒度は低いかな。でも油断しないでね」
「おっけー」
ぐるん、と腕を回してリーファちゃんは舞台へと向かう。
僕にも観客席に行って応援しよう。
※ ※ ※
『さあ、この試合は今大会最年少の組み合わせです!』
僕は観客席から円形の石舞台を見下ろす。
審判の声が響く中、リーファちゃんとファルジ選手が向かい合う。
相手は、年齢もそれほど変わらないし、すごく筋肉質なカラダというワケでもなかった。炎勢拳は炎の魔術と体術のかけあわせというし、多分足りないパワーを魔力で補う、リーファちゃんと似たスタイルなんだと思う
『16歳にして迷宮都市ウォルプタスの闘技場において活躍するランカー! 田舎の村から出てきて一旗揚げる、を本気で叶えた闘士! ファルジ・ノック選手です! 炎の拳で敵を焼きます』
「おっしゃあああ! 今日は勝つぜ!」
“は”ってことは一昨日負けたのか。
そのせいか、観客のノリも今一つ悪い。
『対するは、先日の戦いで鮮烈なデビュー! 蹴りの一発で倍以上の体重があるであろうヌロデ選手を吹き飛ばしたリーファ・エルナ選手だ! 蹴りの威力に反して華奢で可憐な人目を惹く美少女! ドレスの裾は短くサービス精神抜群! 薄くて細い肢体に男性ファン急増中だ! ぶっちゃけファルジ選手には期待できないから彼女のパンツが私たちの癒やしです!』
「あんたも蹴られたいの!?」
『られたいか、られたくないかで言ったら、蹴られたいです! その綺麗な脚で蹴ってほしい!』
「ひぃっ!? 変態!?」
ノリいいな、審判の人。
解説の通り既にけっこうファンはいるらしく、応援の声が飛び交っている。
盛り上がる闘技場。そんな中、ファルジ選手がぷるぷると震える。
そして、目を見開き大声で叫ぶ。
「か、かわいいいいいいいっ!?」
…………は?
「めっちゃ可愛い! ま、マジかよ!?」
「へ、は? な、なんなの、あんた」
「ウチの村じゃ見たことねーレベルの美少女だ、すっげー!」
「ふ、ふふん。……まあ、褒められて悪い気はしないけどね」
ちょっとドヤってる。
あれ、これ武闘大会だよね?
「決めた! この大会、勝ったらいうこと聞いてもらえるんだよな!? じゃあ俺が勝ったら結婚して子作りだ!」
…………はぁっ!?
「なっ、なななな、なに言ってんのよっ!?」
「だっていつかは村に帰るんだ、嫁さんは美人の方がいいに決まってんだ!」
「もう全然意味分かんない答えになってない!」
「よーし、絶対勝ぁつ!」
「こっちの! 話を! 聞けぇ!?」
リーファちゃん、試合前からかなり怒り心頭。
そこで審判が高らかに手を上げる。
『そもそもルール上絶対服従は一日のみ! 結婚なんて認められません! 事前説明を既に忘れております! それはそれとしてリーファ・エルナ選手対ファルジ・ノック選手……試合開始ぃ!』
ぐだぐだのまま始まる闘い。
まずはファルジ選手の突進、からの右拳による打撃。
「【フレイム・ナックル】!」
分かりやすく炎を纏った拳。
リーファちゃんはそれを避けるのではなく、打撃に合わせて腕を伸ばし、ファルジ選手の腕を横から押して“いなした。
さらに間髪入れず腹に蹴りが決まる。
『おーっと、リーファ選手! 風を纏った腕で炎の拳の軌道を変え、隙をついて蹴りを叩き込んだ! スピード自慢かと思いきや中々の技巧派です!』
いや、あんなの村にいた頃は出来なかった。
当然だ、戦う相手は魔物ばかり、組手をダイン爺ちゃんとするくらいで、対人での呼吸を学ぶ機会が極端に少なかった。
でも、既に二度も【原初の神秘】を発動した。その結果、戦闘経験を持ちこして大会に参加できている。つまり、僕の発想は間違えていなかったということだ。
「ぐっ、すっげー蹴り。あとパンツの生地薄い!」
「どこ見てんのよ!?」
……なんかファルジ選手、僕嫌いかも。
でも他の男性客も盛り上がってる。あからさまに好色な反応の中で、これまで戦ってきたのか。きっと精神的な負担はかなり大きい。
だけど、優位は彼女の方。
風の蹴りと炎の拳。威力は向こうが高いかもだけど、スピードと技術で勝るリーファちゃんに致命打を与えられない。
「くそっ、当たんねえ!?」
「お肌に火傷つくりたくないもん!」
「そっか、未来の嫁さんに傷付けたらマズいよな。火力は調節して、っと」
「誰が嫁さんかっ!?」
怒りの蹴り。
でも、ファルジ選手は食らいながら反撃に出た。
「【フレア・クロウ】だっ!」
「あっつ!?」
リーファちゃんは下がる。
けれど、あっちの技は炎を爪のように振るう攻撃だった。
拳よりも射程距離があり、完全には避け切れず。
『おぉぉぉぉっとぉ!? ファルジ選手の一撃により、リーファ選手の衣装が焼けたぁ!? しかも本当に皮膚が火傷になっていない! バカなのに素晴らしい魔力コントロールですバカなのに!』
「二回言うなよっ!」
『そしてそしてぇ! リーファ選手の服に隠れていたピンク色の突起が露わになったぁ!』
服が焼けて、乳首が丸出しになってる。しかも肌には傷がついていない。
本当にすごい魔力操作だ。
ここにきて観客はファルジ選手側の応援を始めた。最悪だこいつら。
「やっ、ちょ!?」
リーファちゃんは慌てて手で胸を隠す。
ちょっとそれもセクシーなポーズみたいになってる。
「今がチャンス、ここで!」
「そんなもんあるかぁ!? 風撃、からの風凪! からの嵐刃蹴、超弱弱版!」
「げふぅ!?」
得意の風の蹴り連撃が見事に決まった。
突風によって大きく吹き飛ばされるファルジ選手。地面に転がり倒れ、立ち上がることもなかった。
『こっからだろもっと頑張れやぁ!? 勝者ぁリーファ・エルナ選手だぁ!』
純粋なリーファちゃんファンもいるらしい。
審判の勝利宣言によって、観客席は大盛り上がり。リーファちゃんも胸を隠しながら手を振って応えていた。
勝てて、よかった
そして、戦闘経験蓄積のための逆行の効果も確かめられた。
僕にとっては得るモノの多い試合だった。
※ ※ ※
「リーファちゃん、おめでとう!」
「ありがと、ラトレ。ちょっと恥ずかしいとこ見せちゃったけど」
「あ、はは」
試合後、僕は廊下でリーファちゃんと合流した。
服は焼けてしまったので胸は隠したままだ。
「とりあえず、服をどうにかしないとね。とりあえず、僕の上着を着てもらっていい?」
「ありがと。……ふふ、ラトレの匂いだ。なんだかほっとする」
照れた顔で上目遣いは破壊力があり過ぎた。
なのに、空気を読まず割り込んでくる人がいた。
先程敗北した、ファルジ選手だ。
「リーファ!」
「名前呼ばないでよ」
「さっきは、ごめん! これ、俺の上着だけど、汚くないから……ありゃ?」
既に僕の上着を着てるので、必要ないことに気付いたらしい。
なんだか居心地悪そうに服を引っ込める。
「あー、あー。あのだな、さっきのは不可抗力ってやつで、決してわざとではなく。それでも、女の子に恥かかせたのはダメだったよな。本気でゴメン」
「……まあ、謝ったんだから、許してはあげるわよ」
「助かる。で、ほら、ルールで俺、絶対服従だろ? 命令を聞きに来たんだ」
「特にないわね……あ、さっきの。結婚とか子作りとか何なの? 教えてよ」
これも命令なので、嘘偽りなく答えないといけない。
元々隠すつもりはなかったのかファルジ選手は素直に口を開いた。
「俺、今は迷宮都市に住んでるけど元々は農村の出身でさ。村のおっさんに炎勢拳を学んだんだ。で、お金稼ぐために闘技場に来た」
「ほんと、微妙にあたしと被るわね」
「一応ランカーだし、金は稼げてるんだ。でも、特に闘技場の王者になろうってのは考えてなくて。そこそこ稼いだら村に戻って、用水路とかの整備を俺の金でやって、村を良くしたいんだ」
「へぇ、意外」
リーファちゃんが感心したような顔をしている。
でも、僕もちょっと印象が変わった。
「俺は刺激のある戦いより、のんびり村で過ごす方が好きなんだ。ただ、鍛えた技で稼いで村をよく出来たら十分。嫁を貰って、穏やかに子供育てて生きていきたいなぁってのが俺の夢だ」
「分かる。すっごい分かる」
「だろ? で、どうせ村に行ったら誰か結婚する……ってところで、リーファと会ったんだ」
「名前呼ばないでよ」
「めっちゃかわいいし、強いし。俺の嫁になって子供を産んでほしい、いっしょに村で穏やかに過ごしていかないか!? ……って誘い」
「あー、なるほど」
リーファちゃんは納得したようだ。
彼女も“夫婦で穏やかに”なタイプだから、飲み込みやすかったのだろう。
「まあ分からないでもない、かな? 村を良くしていきたいってのは」
「だから……負けちまったけど、また戦いたい。勝ったら俺のものになってくれ!」
「いやよ。だって夫候補はもういるしぃ?」
僕に寄り添うリーファちゃん。
ファルジ選手は嫉妬混じりの視線でこちらを見た。何かを罵倒でもぶつけられるかと思えば、唇を噛んで情動に耐えていた。
「……相手を下げる言葉は、一緒になって自分も下げる。だよな、師匠」
師の教えを守り、なんとか怒りを抑えたファルジ選手は背を向けた。
「俺、諦めないぞ。絶対、リーファを嫁にする」
「だから名前で呼ばないでって」
こちらの指摘は無視して彼は去っていく。
残された僕らは呆れて溜息を吐くしかできなかった。
「なんなの、あいつ……」
「僕は気持ち分からないでもないけど。リーファちゃんを見たら、お嫁さんにしたいって思うのはそんなに不思議じゃないから」
「ら、ラトレって案外あたしのこと大好きよね?」
「うん、大好き」
「へ、へへ……」
ストレートな物言いに顔を真っ赤にしたリーファちゃんは、誤魔化すように受付の方に向かう。
受付には、すごく露出度の高い制服を着た落ち着いた美人さんが座っていた。
「さ、サニアさーん。事前申請なんだけど」
「すみません、運営側ですでにカードが決められており、明後日の試合は動かせません」
「へ?」
僕もリーファちゃんも、思ってもみなかった返答に戸惑う。
でも、そうか。元々この大会は興行として見せ場が増えるよう運営側で調整することになっている。
二連勝したリーファちゃんにも、戦いを用意しているのだろう。
「えー、じゃあもう決まってるの? 対戦相手」
「はい。招待選手の中でも最高の評価を受ける、ジュガン・ダルス選手です」
トップクラスの戦力。
それはつまり、その実力の相手と戦っても、娯楽として成立すると判断されたということだ。
「ふぅん。ちなみに、どんな武闘家なの?」
その質問にサニアは少しぎこちない表情をした。
「武闘家ではありません。彼は、体術を操りながらも近接で呪術を行使する……変則的な呪術師です」