貧乳武闘家娘のNTR闘技場 作:自宅の戦闘員
僕とリーファちゃんは、まず宿屋【銀のフクロウ亭】で部屋を取った
ここがしばらくの拠点になる。
僕たちの……というかリーファちゃんの基本の目的は、
村を襲った流行り病を助けてくれたデシデリウムさま。
貴族であり凄腕の魔術師でもある彼は、快癒の魔術薬を提供してくれた。が、勿論ただじゃない。本来なら莫大な金額になる、そこをリーファちゃんの武闘大会出場で免除してくれた。
もしこの武闘大会がなければ、借金のカタで彼女は労働奴隷になっていただろう。
「デシデリウム……あたしも弟子だから微妙にかぶってて嫌な気分ね」
「リーファちゃん?」
真剣な呟き。
時々彼女は変なことを言います。
さて、華燎宴武《かりょうえんぶ》について語るには、まず迷宮都市ウォルプタスの現状に触れないといけない。
城壁に囲われた迷宮都市ウォルプタスは、上空から見ると大小の二つの円が川を挟んで隣り合うような形状をしている。
このうち小さい円は特別区とされており、現当主のマティアス侯爵ではなく、先代当主デシデリウムによって統治されている。
特別区に繋がる道は川にかけられた一本の橋のみ。
しかも、特別区側から門を閉じられる造りとなっている。
迷宮都市の置かれた領土を治めるのは、基本的には現当主マティアス・レテ・トラニア侯爵である。
彼が二十八歳という異例の若さで当主になったのは、先代であるデシデリウムが早い段階で当主の座から引いたため。
聖王国において、爵位は家に与えられる。「レテ」というのはミドルネームではなく、「聖王さまがお認めになった、土地を所有する家柄出身ですよ」という固有名のようなものだ。
家に与えられるため、基本はその権能は当主が有する。現状、マティアスが聖王国から認められた侯爵である。
ここからが少し複雑な話。
本来なら当主を引いた時点でデシデリウムには爵位がなくなるのだが、彼は魔術の大家であり、個人として新魔術開発の功績を有している。
それにより、デシデリウムは家の爵位とは別に、聖王より魔導爵を授かった。
これは「一夜限りの爵位」と呼ばれるもので、魔術研究において功績を挙げた者に与えられる、子孫に受け継がれない本人のみの爵位である。
同時に、一代限りの「魔導爵の領地」を認められた。
これはデシデリウムが生きている時のみ有効な土地であり、死後は「暗殺等の強制的な手段でない限り」トラニア家の領土となる確約がなされている。
つまり、デシデリウムは当主の座を退いた今でも爵位を持つ聖王国貴族であり、国から認められた彼自身の裁量での統治を認められた領土を持っている。
その領土こそが、世に知られる迷宮都市の歓楽街及び闘技場である。
歓楽街は、マティアス侯爵でさえ介入できない。
そこで生まれる莫大な収益を、デシデリウムがトラニア家に還元していることも理由の一つ。
それ以上に聖王から認められた魔導爵の統治に口を出せば王家のメンツに泥を塗ることになる。
加えて、もしも暗殺等の不当な手段でデシデリウムが死亡した場合、この土地は王家の直轄領となる。
下手な手出しをすれば、聖王の御心に反する。
だが、なにもせずに寿命でデシデリウムが死ぬだけで、莫大な収益を生む歓楽街と闘技場が手に入る。
この二つの要素が揃った結果、歓楽街にはマティアス侯爵でさえ手出しをできない状況になってしまったのだ。
※ ※ ※
と、説明を終えた辺りで、リーファちゃんの頭から煙が立ち上っていた。
「……つ、つまり?」
「えーと、歓楽街は迷宮都市に含まれてるけど、実際はデシデリウム魔導爵の私有地みたいなもの。陸の孤島で、当主であるマティアス侯爵でさえ、そこで行われることには口出しできない。何があっても、公的な助けは期待できないよ、かな」
「なーる。上等っ!」
ぱしんと掌を拳で打つ。
「で、闘技大会の内容については?」
「それが全然。今の話は宿屋の人に聞いたんだけど、大会に関しては三年に一回開かれる、闘技場の上位陣と招待選手で最強を決めるくらいしか分からないんだって」
「え、なんで? おっきな大会なら行く人もけっこういるんじゃないの?」
「それがさ、お客さんも貴族とか豪商、外部からの招待客がメインなんだって。都市のイベントというか、歓楽街を支援してくれる一部の富裕層への感謝祭みたいなイメージかな」
「えー、ちょっとノリにくいー」
市民が楽しむ大会のではなく、お金持ち向けのイベントと知って微妙にテンションが下がっている。
「試合形式とかルールの情報は全然聞けなかったや」
「出たとこ勝負ってことね、おっけー。こちとらお師匠にわりとヤバい鍛えられ方してるんだから」
「オークの巣にぶち込まれたりとか、風の魔術で空高く飛ばされてフーリーフォールで体勢整えろとか、体力魔力切れまでウッドゴーレム連戦耐久五百番勝負とか?」
「いやあああああああああああああ!? 思い出させないでええええええ!? とくにウッドゴーレム連戦は疲れすぎてもう脚ぷるっぷるでしばらくおしっこにしゃがむのも出来なかったんだから!?」
それゼッタイ男の子に行っちゃダメなヤツだよ?
「と、ともかく、魔物だけじゃなくて対人の技法も修めてんの! そう簡単に負けないんだから!」
長いピンクの髪をさらりと流して決めてみせるけど、顔真っ赤で表情も強張っていた。
「でも、気を付けて。条件は大会の参加だけ、最悪怪我しそうになったら降参すればいいんだからね」
「ん、心配してくれてありがと。やっぱ、ラトレについて来てもらってよかった」
僕は商家の息子。特別な力はない。
でも、リーファちゃんの「初めての都会、不安だからついて来て」というノリで僕も同行することになった。“村の中で流行り病にかからなかった男は僕だけだった”。
「僕がいても、何もできないけどね」
「そんなことなーい、傍にいてくれるだけで、すっごい安心できる。それに、ラトレの応援があれば百人力だしね!」
「リーファちゃん……」
「あと、宿屋の手続きとか買い物でボッタくられてないかとか、他にも料理や家事や生活全般はラトレにおまかせしたいです」
「リーファちゃん?」
ちょっと感動してたのに台無しだよ。
彼女はわりと大雑把なので、細かい計算が苦手だった。
話を逸らすように、リーファちゃんは明るく笑う。
「で、でも、ラトレは運良かったよねー。病に全然かからなくて。ん? この場合運が良かったのは、あたし?」
「他の男の人は全員寝込んじゃったからね。でも、なんで僕だけ平気だったんだろ?」
「あたし以外の子と遊ばないから、そもそもうつらなかったんじゃない?」
「やめて? 僕に友達がいないみたいな言い方やめて?」
「違う違う、あたしとラトレがめっちゃ仲いいっていう話!」
それは、本当のことだ。
小さな頃からいっしょにいて、今も変わらず寄り添っている。
わりと強気なリーファちゃんが素直に忠告を聞くのは、僕かタイン爺ちゃんくらいだ。
きっとこれからも───リー■ァちゃ■は死ぬ───僕たちは、いっしょにいるんだろうな。
「さって、じゃあさっそく参加登録にいこっか?」
リーファちゃんはグッと背筋を伸ばす。
けど非常にフラットな胸は全然大きく見えません。つるぺったです。
「今ものすごい失礼な視線を感じたような気がする」
「さ、さぁ、行こう。迷宮都市ウォルプタス特別区……大歓楽街に!」
僕の非常に華麗な話題逸らしによって事なきを得ました。
※ ※ ※
大きな川にかけられた橋、その要塞のような高い壁。
検問を潜り、僕たちは特別区に足を踏み入れた。
大歓楽街というから妖しい雰囲気なのかと思えば、むしろ品のいい住宅が立ち並ぶ貴族街のようだった。
「あ……でも」
「どしたの、ラトレ?」
「いや、なんでも」
白塗りの豪奢な館かと思えば、普通に召還だった。
なんか酒場とか、バニーガールの看板が飾られたお店とか、いかがわしそうな場所はチラホラとある。ハプニング・バー……は何だろう? よく分からないお店も多い。
「あっ、あれは……!」
その時、リーファちゃんが驚愕する。
視線の先には……ミルク氷菓という看板があった。
「迷宮都市ウォルプタスは牛の乳でも有名なの! 氷の魔術で凍らせた、一口サイズの果汁入りミルク氷! すぐ溶けちゃうから、うちの村じゃ絶対食べられないヤツ!」
「えーと、じゃあまず闘技場行こうか?」
「えぇ、ちょっとぐらい覗かない?」
「いや、リーファちゃん。値段、値段見て」
「へ……たっか!? 氷一個でお夕食いけちゃうくらい高い!」
よく見たら最高級ミルク使用と書いてある。
どうも歓楽街に来る富裕層向けの商売みたいだ。
「諦める……」
「だね、田舎もんお断りの店だよ……」
がっくり肩を落としながら僕たちは闘技場に向かう。
しばらく通りを歩いていると、巨大な石造りの建物が見えてきた。
闘技場と言うから古いコロッセオのように屋根のない円形の建造物を想像していたが、実際には屋根のあるシンプルながら作りのしっかりした施設だった。
正面には大きな門が設けられており、鎧を着た衛兵が槍を手に待ち構えていた。
「止まれ、現在闘技場では試合を組んでいない」
「
男たちが槍で僕たちを制する。
けれどリーファちゃんは落ち着いて、手紙を見せた。
「風麗拳、リーファ・エルナ。デシデリウム・レテ・トラニア魔導爵サマに招待された、
「む、これは確かに、トラニア魔導爵の印。まさか、こんな、ちんまい子供が……」
「十五歳の! 成人の儀は! 終えてるっての!?」
「えぇ、でもぉ、セクシーさが足りてないっていうかぁ。そんなんじゃ、お客様を満足させられないっていうかぁ?」
「一気に砕けたわね!? 武闘家にセクシーさを求めないでよ!?」
衛兵さんに思い切りからかわれるリーファちゃん。
僕は彼女がとっても可愛いと思います。
「いやいや、あちらを見なさい」
衛兵さんが指さす方向を僕たちは見る。
ちょうど闘技場から、一人の女性が出てくるところだった。
銀色のウェーブヘア。たれ目気味の、優しそうな美女。
それに反して衣装は過激で、カラダに密着したボンデージ。切れ込みが鋭く鼠径部が露わになっている。胸元も大きく開いており、豊かな乳房の作る谷間を惜しげもなく晒していた。
「うわ、すごい美人……」
「む……」
僕の迂闊な一言で不機嫌そうに頬を膨らます。
でも衛兵さんが速攻で頷いた。
「分かる、分かるぞ少年よ。あれが、この闘技場の上位選手ミレイネ・ジルクだ。あの容姿、19歳にしてあの胸のサイズ、素晴らしいだろう」
選手なのに評価基準そこでいいの?
「リーファ・エルナ選手も、非常に可愛らしい。ピンク色の長い髪、幼くも愛らしい顔立ち。その脇とか下着がチラ見えする衣装も、心意気を感じる」
「何の心意気もないわよ、ただお師匠がくれただけ」
「だが、胸という一点で戦力不足だ。おそらく大会に挑戦するには三年早い」
「ラトレ、こいつ蹴っ飛ばしていーい?」
ダメです、って言ったら素直に従ってくれた。
「何でもいいから、参加登録しなきゃいけないから通してよ」
「む、招待状がある以上は仕方ないか。通れ」
衛兵に促されて僕たちは闘技場に足を踏み入れようとする。
しかしリーファちゃんは通してもらえたが、僕はやりに寄ってゆく手を阻まれた。
「ラトレ!?」
「現在、闘技場に入れるのは上位選手招待選手のどちらかのみ、付き添いは認められていない。また大会が開催されても、観覧料を払い観客としてのみ入場を許される。当然ながら控え室などの選手用設備には進入禁止だ」
どうやら僕は入れないらしい。
衛兵さんはあくまで冷静にルールのみを告げる。
「今は登録期間。試合は行われない。リーファ選手の登録を外で待ち、大会開催後は観覧料を払い客として応援すればいい」
危害を加えようとする乱暴さはない。
仕事だから、申し訳ないが従ってくれという雰囲気だ。
だから、リーファちゃんもそれほど激昂せず、多少の不満を飲み込んで従った。
「しゃーないわね、ごめんラトレ。ちょっと外で待ってて。パパッと登録だけ済ませてくるから」
「分かった、気を付けてね」
「んー」
小さく手を振りながら、彼女は闘技場に入っていく。
衛兵さんが小さく「
※ ※ ※
かなり長い時間たった。
けれど、まだリーファちゃんは出てこない。
僕は闘技場の前で、ぼんやりと時間を潰していた。
「……っ!?」
その時だった。
急に、頭痛に襲われた。
軋むような痛みと共に、なにかが流れ込んでくる感覚。
思い出した。違う、僕は、“戻ってきた”。
「ああ、そうだ……僕は、ここからしか、やり直せない」
いつかの僕が手にした、リーファちゃんの死の運命を覆すための奇跡。
本来、僕は病に伏せって何もできなかった。
でも事実を捻じ曲げて、リーファちゃんが
逆に言えば【原初の神秘】をもってしても、ここにしか戻れなかった。
「把握しろ、現状を……」
僕はリーファちゃんが死んでから、その原因を探っていた。
でも見つからず、この迷宮都市の地下に広がるダンジョンにあるという、眉唾物の秘宝に縋った。
弱かったけど少しずつ己を鍛え、迷宮を攻略し。
未来の僕は、ダンジョンにあった【原初の神秘】を手にした。
「ルールは、ちゃんと理解している」
僕は【原初の神秘】を使って、失敗しても戻れる。
ただし、ノーリスクはこの一回だけ。
これ以降は行使のたびに、何らかの歪みが生まれる。
この力を使って成すべき目的はただ一つ。
「僕は、リーファちゃんを死なせない」
そのために逆行してきた。
だけど、問題がある。
僕は最初の時、流行り病のせいでリーファちゃんについていくことが出来なかった。
だから、そもそも彼女の死の経緯を知らないのだ。
伝え聞いた話では、自らの拳で頭蓋を砕いた自殺だという。
なぜ彼女がそんな死に方をすることになったのか。
僕はそれを知らないといけない。
「……よし」
息を呑み、一つ頷く。
ちょうどそのタイミングで、リーファちゃんが戻ってきた。
「ああ……」
生きている。
リーファちゃんが、生きている。
まさに奇跡だ。もう一度、会えるなんて。
泣きそうだ。でも必死にこらえて、彼女を迎える。
「お帰り、リーファちゃん……!」
「ひぅっ!? た、ただいま!?」
感情が抑えきれなかったみたいだ。
なんだか驚かせてしまった。
申し訳なく思いつつ、彼女の顔を見る。
「あれ、ちょっと顔赤い」
「へっ!? そ、そんなこと、ないよ?」
なんだかモジモジと太腿を擦り合わせて、恥ずかしそうにしてる。
ああ、でも今はそれよりも。
「リーファちゃん、この都市を出よう!」
「え、どうしたの、いきなり?」
「なんか、この大会、危ない気がするんだ!」
「ちょ、ちょっと待って。そもそも、参加しないとあたし奴隷堕ちだよ?」
「お金を稼げばいいんだ、村の皆にも相談して、どうにか」
「どうにもならないから、ここに来たんじゃん」
言いながら、リーファちゃんは下腹部をそっと撫でる。
すると、短いドレス越しに、紋様が淡い桃色の光を発した。
「これ……」
「契約魔術、だってさ。参加者登録って、選手に契約を施す事みたい」
デシデリウム・レテ・トラニアは、聖王が直々に爵位を与えた魔導爵。
それは貴族としての有能さではなく、彼の魔術師としての研究成果によるものである。
【契約】のデシデリウム。
彼は二つ名の通り、契約魔術……『対象に、互いに取り決めたルールの遵守を強制する』術式を確立した。
嘘をついてはいけないと決めれば、嘘を吐くことが出来ず。
ここから出るなと設定すればどうやっても出ることが出来ない。
約束を絶対守らせる魔術を作り上げたのだ。
今の僕が知らないはずの知識が、するすると出てくる。
「じゃあ、リーファちゃん、契約を」
「うん。まあ、でも、常識的な内容ではあったかな。魔導爵はさいてーのおっさんだったけど」
「どんな、内容、なの?」
「えーと」
契約魔術を受けた者は、
・運営に支障をきたす行為をせず、開催期間中は都市の外に移動しない。
・指定された試合に必ず出場し、最後まで戦い抜くこと。途中棄権・逃走・故意の不戦敗は一切認められない。
・敗北した者は、試合終了から翌日の休養日終了まで、勝者の命令に服従する。ただし資産譲渡や殺人等犯罪の強制、自殺自傷の強要に関しては例外として従わなくてよい。
「都市から出ちゃダメ、大会に絶対参加、負けたら勝った人の言うことを聞く。まー、タイン爺ちゃんとも買った方の言うことを聞くー、ってやってたし、普通と言ったら普通じゃない?」
気楽な調子で言うけれど、僕は目の前が真っ暗になった。
【原初の神秘】は、リーファちゃんの運命が変化する瞬間を起点とした。
つまり僕は。
リーファちゃんが、大会から逃げられないよう契約魔術を結ぶタイミングでしか、戻ってこられないのだ。