「──俺の従僕を使って随分と娯しんでいるな」
冷たい声に、場が凍り付く。
何人かの冷静な者が妖気の気配に感付き、はっと見上げた時にはもう遅かった。
青みが所々に混じる澄んだ翡翠色を宿す妖気が無数の槍をなし、男たちの頭上高くに鋭く穂先を垂れていた。
「遁げろ、──」いち早く叫んだ男は次の瞬間串刺しになり、後には紋様の消えたケモノの死骸が残った。
無情に降りしきる槍の雨に、場は瞬時にして騒然となった。素早くケモノ姿に変じ、岩陰に潜り込もうと試みる者。ヒト姿のまま、互いを盾にしようと掴み合う者。ただ狼狽し逃げ惑う者。
その阿鼻叫喚の構図を巧みに縫い、狡猾に出口を目指すケモノが幾匹かあった。
「どこへ行く。ゆっくりしていけ」言うが早いか、ハォの手元には弓が形を顕していた。咄嗟の急ごしらえだったためか、細部は炎のようにちらちらと透け、不定形な揺らめきが見える。
鋭く弦音を鳴らし、ハォは続けざまに射た。番える矢も妖気によって次々と新しく生み出され、射た先から手元に補給される。
ケモノたちは頸の骨を過たず射られ、ことごとく死骸に変わった。矢継ぎ早とはまさにこの事、実に鮮やかな腕前であった。──が、自身では技の出来栄えに不満足であったらしい。弦を何度か軽く引き、納得がいかない様子でハォは首を捻る。
そうする間に槍の雨も降り止み、ハォは雄の臭気と血の匂いに満ち満ちた洞内を一瞥した。
さっきまで盛り狂っていた男たちは、大方が死骸となってそこここに散らばっている。
そうして絶命できた者はまだよかった。そうでない者は急所を外れた槍を体に何本も突き立て、半端に死にきれずにいる。かれらは全身の血を失うまでの間、死の救いをひたすらに待つだけの苦しい身の上となった。
──リェの連れていた近習数名だけはどう遁れたものか、そのどちらの中にも見当たらなかった。
「逃したか・・・まあいい」
一面に突き立った槍はやがて緩やかにその形を失い、元の妖気となって漂った。いくらかは掻き消える前にハォの身に元通り取り込まれたが、大半は自然に流れて失われてしまう。広範囲を一掃できる代わりに消耗も大きく、この時はまだ改良の余地を多く残す未完の大技であった。
ちなみにこの技は後に完成する。〈万槍雨下〉と名が付き、並みいる敵対者から大いに恐れられる事になるが、これもまた余談である。
しかし一嶺のあるじたるハォともあろう者が、有象無象を相手に随分と大盤振る舞いをしたものだ。
凡愚な連中に改めて力の差を誇示する目的にしては、殲滅を前提にしたような不自然なやり方であった。目撃者を全て死骸にしてしまっては見せつける意味が無い。やはり、その怒りが珍しく我を忘れるほどに烈しいものだったのだろう。
その辺についてもしハォ自身に問うたならば、「術を練るに恰好の練習台がいたのでついでに利用したに過ぎん、くだらん詮索をするな」とでも言い繕ったろうか。なんにせよ、下手な事は訊かない方がよい。かれの術の練習台とやらに自ら志願したいという事であれば話は別だが。
──ところで、実はこの惨事の中を無傷でやり過ごした強運の持ち主が約一名あった。
ハォは槍の雨を当然ながらスウの体のみは器用に避けて降らせた訳だが、そのため、ちょうどその上に跨って行為の最中だった男も一緒に免れていた・・・というか、スウの上から降りた瞬間に串刺しになるので単に動けずにいたのだった。
その最後に残った一人にハォは冷ややかに眼を向けた。
「ひっ」我に返った男はケモノに姿を変え、脱兎のごとく遁げだした。──直後に射貫かれて絶命するだろう事を予感してはいたが。
死骸をもうひとつ増やしたハォは術を解き、手の中の弓を妖気に戻して吸収した。
後に残されたスウの姿はといえば、いたぶられ、体液にまみれ、ぼろぼろの姿で転がっている。ハォは身を屈め、変わり果てた姿となった従僕を両の腕に抱え上げた。
──が、思わず鼻に皺を寄せた。
「・・・臭い」
〇
(あったかい・・・。お湯?・・・今度は何をされるの)
──ほかほかとした湯気の匂い。そして傷が沁みる痛みをスウはおぼろげに感じていた。
「んんぅ・・・」
スウは喉の奥で曖昧な声を出した。尻孔へ差し入れられた二本指の感触に眉をひそめ、力なく身じろぎをする。男たちによる蹂躙が再開したと思っているようだ。か弱い抵抗が、ちゃぷちゃぷと湯面に小さな波を立てた。
「スウ、動くな。俺だ」
ハォが声をかけると、スウはまぶたを重たげに半ば開いた。あるじの顔を間近に視認し、ふわりと微笑む。「ハォ・・・よかった、あのまま起きなかったらどうしようかと思った」それから、あるじの難を未然に防ぎ得なかった失態に顔を曇らせた。「・・・あの、僕──」
「いい。掻き出してやるから動くな」
皆まで言わさず、ハォの指が動いた。
ここでスウは己の置かれている状況をやっと自覚した。
「えっ、あれっ──ここって、──あぁっ待って、いいよ自分でする!」
ハォが縄張として守る風裂嶺には湯泉があり、この湯には特に傷や病を癒す薬効があった。残念ながら今はまだ陽が高いが、夜になれば月光浴にも絶好の環境である事から〈月亮泉〉と呼ばれる。風裂嶺に棲む者は妖しの者も並のケモノも、身体に不調が生じれば貴賤を問わずこの浴場を訪れた。
──今より千年も昔、月牙山は盛んに火を噴いたと伝わる。その古からの熱が今も地中に封じられており、その恩恵の一つとしてこの山には湯の沸く岩場がいくつも存在する。
ハォは傷だらけ汁まみれとなった従僕の身を洗い清めようと、愛馬ヒェイランの助けでこの浴場まで運んだのだった。
小型種の背にふたりも載せてはさすがに疲れたのだろう、その愛馬は湯気の向こうで静かに同じ湯を使っている。馬は熱い湯に浸る事をあまり好まないが、きょうの月亮泉は先刻の雨で加減よく埋まっていて入りやすかったようだ。
「じっとしていろ、世話の焼ける」
膝の上に抱えた従僕の尻を、ハォは静かにほじった。
「ま、待って・・・、んっ!──い、いいよハォ・・・自分でするってば──・・・あぁっ!」
スウは慌ててハォの腕から逃れようとしたが、体が思ったようには動かない。〈麻痺〉の術が切れない上に、吸いつくされた妖気が全く回復しておらず、自力で起き上がることも難しいほど弱っていた。
尽きた力を振り絞って微々たる抵抗をする従僕をハォは腕ずくで抱え込み、うむを言わさず指を使った。
「ほざけ、身を起こすこともままならんくせに・・・もっとも、
「な・・・仕方ないでしょ、──んっ!──言わなくていいよそういうの・・・そ、そっちこそ何か固いのが当たって──、あぁっ・・・!そこだめ、だめだってば!あっあっ・・・」
責め尽くされ敏感を通り越している前立腺が、ハォによって繰り返しなぞられる。スウは途中で何度も気を遣りそうになったが、頬を引きつらせながら何とか耐えた。これ以上絶頂を重ねたら、どうかなってしまう。
スウの中に溜まっていたものが、ひと掻きごとにどろりと湯の中に流れ出る。ハォは入念に掻き出し、指をゆっくりと引き抜いた。
「あん・・・、」スウはぞくりと身を震わせた。
「変な声を出すな」
「だ、だって・・・ハォにさわってもらうの久しぶりだから気持ちよくって・・・えへへ」スウは羞恥と湯の熱に上気した頬でへらへらと笑ってみせた。「──ああ殿下、僕は下郎どもに辱められ傷物となってしまいました。穢されたこの身ではもう御身のもとに居れませぬ、ぐすんぐすん」などと小芝居に興じている。
「既に骨董品のくせに今さら傷物でもなかろうが」ハォは、にべもなく呟く。
「あっ、そういうこと言う?ひどいなあ」スウは笑ったが、隠し切れない疲弊が見える。
その取り繕われた笑みからハォは目を逸らし、男たちの体液がこびりついたスウの全身を隅々まで洗い流しにかかった。
痣も目立つが、肌に刻まれた鞭傷と網目状の緊縛跡が特に痛々しい。
「ちょっ、と・・・、いいよぉ、そんな事まで・・・あんまり力は入らないけど、体くらい自力で洗えるよ」
「・・・・・・」ハォは黙って作業を続ける。
スウはあるじの膝の上で気まずそうにもじもじしていたが、やがて、ゆるりと心地よさげに身をゆだねた。
〇
あるじに体を洗われながら、スウはしょんぼりと目を伏せた。「・・・あのね、」
「何だ」
「ごめん・・・救けさせちゃって。ほんとうなら僕がハォを祐けなきゃいけないのにさ、これじゃ
「別に・・・、俺のものを勝手に使われて腹が立ったから取り返しただけだ」ハォは極まりが悪そうに口の中でごにょごにょ言った。要するにこれは自分の手落ちもあったと負い目に思っているようだが、そこは変な見栄で口には出さない。
「・・・だが、お前にしては迂闊だったな。まあ赦す。次は無い」
「・・・はい、殿下」スウはあるじの腕の中で弱々しく笑い、「ハォはさ、僕にはいつも本当に甘いよねぇ。なんで?」揶揄するように付け加えた。
無論、知っているくせにわざと訊いている。
ハォは問いには答えず、「貴様はいつも一言多い。こんどの事だって大方、適当に煙に巻いておけばいいものを無駄に挑発したからここまでの事をされたんだろうが。少しは懲りろ」などとぶつぶつ言いながら、汚れでこわばったスウの髪に指を通した。
「・・・呪符を施されたか。ユゥだな」
ハォの指先が、スウの頸すじに触れた。髪に隠れて気がつかなかったが、肌に符印が焼き付いたままだ。
「どうする、後で焼き潰すか?」
「やだ、痛いもん」
「奴を捜し出して殺すのも手間だぞ」
「ここのお湯に浸かったし、ほっといてもすぐに塞がるよ・・・、あっ」
その焼け爛れへ静かにくちづけられ、スウは息を呑んだ。「ハォ・・・、──んっ」
独特な文字のような形をした符印にハォは口をつけ、舐めている。
「あ・・・、痛い」
「我慢をしろ」
ハォの熱い息が頸すじにかかる。
「──、あ・・・、っ・・・、──ゥんっ、」
ひりひりと熱を持った疵をあるじの舌になぞられるたび、スウの薄く開いた唇から微かに声が漏れた。
(いたい、けど・・・きもちいい・・・)
「──これで少しは早く塞がるだろう」
「えへへ・・・ついでに、口も吸って」スウは唇を突き出し、待ち構えた。
「調子に乗るな」ハォは鳥のような顔になっている従僕を膝から降ろし、岩べりにもたせ掛けた。隣で自分もゆったりと湯の中に体を伸ばす。体内に残る倦怠感が湯の薬効に解けていくようで心地よく、ハォはほっと息をついた。
しばし、そのまま二人並んで寛いだ。
「・・・ハォ、身体は大丈夫なの?」やがて、スウがおずおずと口を開いた。「リェんとこの薬師が作った、何とかいう毒がハォの葫蘆に仕込まれちゃってたらしいんだ・・・ごめん、気がつかなくて」
「やはりな。今朝は不自然に寝過ごしたうえに全身が妙にだるかったので、すぐに何らかの毒だと気付いたが──ちっ。痩せ狐め、小癪なまねを」ハォはさも不快そうに眉根を寄せた。
「なんでも、疲れさせて起きれなくするだけの薬なんだってさ。濃いものを大量に飲むと死んじゃうとか言ってたよ、ハォが飲まされたのは薄めたやつだったらしいけど・・・ほんとに大丈夫?どこか具合悪くないの?」
「大事ない」実はまだ少し身体がつらいくせに、ハォは従僕に対し虚勢を張った。悪い癖である。「折よくフェイに出くわしたので適当な解毒薬を出させたが、それが効いたようだ」
「ほんと?・・・フェイすごいね、何の毒かもよくわからないのにちゃんと効く薬を調えられるなんて。僕らとそんなに大きく齢も違わないのに、だてに師匠から名をもらってないね」
「──そういえば」フェイの名が出て、ふと、かれに預けた葫蘆のことをハォは思い出した。「松焔洞の外に俺の葫蘆が落ちていたが、あれは何だったのだ」
「ああ、そうだった」言われてスウも思い出した。「今朝、ハォが起きる前に水を汲んでおこうと思ったんだった。それで洞を出た所でリェが来てさ──、」「おい待て」話を聞いていたハォの眼が据わった。
「貴様、あるじの眠りを護る任を放り出して何を自由に出歩いている。奴らに侵入を許した以前に、まずそこがおかしいではないか」「あ・・・、いや、だって」まずいことを口走ったと気付き、スウは慌てた。
「だって、何だ」「いや、そのう」ハォの寝姿に危うく欲情しかけたから気を紛らわしに外へ出た、などと言ったら絶対に怒られる。烈火のごとく怒られる。
「そのう、ではない。説明をしろと言っている。貴様、よもやこの俺に隠し立てをするような事でもあるのか」「うーん、えっとね、・・・」「ウェイスウ。さっさと云え、歯切れの悪い」
どうやら見逃してもらえそうにないので、スウは肚を括った。「──あのう、殿下の寝姿に危うく欲情しかけましたので気を紛らわしに外へぶぇばぶぃぼぼぶくぶく・・・!──」言い終わる前にハォに髪を引っ掴まれ、湯の中へ顔から沈められた。「ぶくぶく──、ぶはっ!や、やめふぇごぼごぼ・・・!」「従僕の分際で、あるじの無防備な姿をどういう目で見ているのだ無礼者め!」
案の定、ハォは(湯にのぼせたせいもあるが)真っ赤になり逆上した。
「ぶはぁっ、だ、だから何もしないようぬぃごぼごぼ・・・!!ぶは、き、聞いてぐぼごぼ!!」「黙れこの不埒者が!」「ごべんばぶぁぃっ、ぶくぶくぶく・・・」「どうだ懲りたか・・・む、何を笑っている。まだ足りぬか!」
──心配などして損をした。こんなしたたかな奴はわざわざ己が骨を折って救いに行かずとも自力で飄然と帰還したに違いない。と、ハォは大いに気が抜けた。気が抜けたので、息継ぎを適宜させつつ更に気が済むまで湯の底へ念入りに沈めておいてから解放してやった。
「──ぷは・・・!!けほっけほっ、はぁはぁ・・・ひどいよお」煮え湯ならぬ温湯をいやというほど飲まされ、ようやく引き揚げられたスウはべそをかいた。
「何が酷いものか。なに誤解するな、この湯は飲めば腹下しにも効くそうではないか。もっと飲んでおいた方が良いのではないか?」
「いじわる」
「・・・ふん、」ハォは素知らぬ顔で簪を抜き、緩んできた髪をまとめ直した。「──暑い。帰るぞ」
ハォは湯責めですっかりのぼせきったスウを抱え、湯から出た。
抱えられながら、スウはあるじの顔をぼんやりと見上げた。湯気越しで気がつかなかったが、紋様がやや薄い。妖気を消費して何か大技を使ったのだと判った。
(僕のために、そこまでしてくれたんだ・・・)
つい嬉しくなって笑みがのぼった瞬間、ハォと目が合った。
「何を笑っている」
「え?ううん何でもありません」
理由を正直に言おうものなら、照れ隠しにまた何をされるか分かったものではない。
「?・・・気味の悪い奴だな」
ハォは、着てきた衣にスウをさっとくるんだ。白銀の髪から滴る雫に、銀糸の刺繍が施された上等の衣がみるみる濡れそぼる。
「殿下のお召し物を濡らしてしまうなど身に余るもったいなきことにございます。聡明なる王子殿下、拭くものをご持参なされなかったのですね」腕の中から、スウが懲りずに嫌味を言った。
「黙れ。このまま盛りの付いた下男の室にでも放り込まれたいか」
「ふふふ。やだ」
ハォに睨まれてもけろりとしたもので、スウはしょぼしょぼと瞬きを繰り返していたがそのまま寝入ってしまった。消耗しきった体が湯で温められ、疲れがどっと出たのだろう。
「遠慮のない奴め」
忌々しげに目元を歪めるハォの元へ、既に上がって体を冷ましていたヒェイランが寄って来た。あるじによって再び妖気の鞍を施されたが、今度は怖気ずに大人しく受けた。スウを乗せやすいよう、脚を折り敷いて身を低める。
「よしよし賢いな、もうひと働きしてもらうぞ。少々重いだろうがお前は強い馬だ、辛抱できるな?」スウを落とさぬよう前に抱えて手綱を取り、裸の尻を鞍に納めたハォは愛馬の頸を軽く叩いた。
ふたりの内どちらかがケモノに変わればうんと軽くなり、ヒェイランも難儀せずに済むところだが、スウは麻痺術により変化を封じられているし、ハォが四つ足になっては手綱を繰れなくなってしまう。しかし褒められたのが解ったのだろう、ヒェイランは機嫌よく鼻を鳴らして応え、山道を力強く踏み出した。
〇
松焔洞に戻る途中、また薬師のフェイに行き逢った。あれから再び薬草を摘みに出ていたのだろう、ハォにはよく解らない様々な草が入った竹籠を背負っている。
「お帰りなさいませ」フェイは折り目正しく跪きつつ、馬上の二人が傷を負っていないか拱手の陰から盗み見るように素早く目を走らせる。
ハォは無事そうだが、ぐったりと目を閉じているスウの方は微かに血の匂いをさせており、包まれた衣から露出した脛に鞭がかすったような傷が見えた。足首には縄にきつく縛られた跡があり、顔にも痛々しい痣がある。足の甲と喉元に見える紋様もかなり薄い。
──よく見ればハォもさっきより紋様が薄く見える。それに、先程言っていた毒が抜けきっていないはずだ。ふたりとも月亮泉には浸かって来たようだが、まだ手当てが要る。
「すぐにお手当を。このまま俺の洞までお越し願えますか」
「いい」あるじは短くいらえた。「俺がするから寝所に軟膏を持ってこい」
「・・・かしこまりました」
淡白に命じられた青年は何事かを察した様子で一揖し、聞き分けよく場を辞した。
〇
松の森をぶらぶらと警邏していた年若い兵士はぎょっとして立ち尽くした。
「殿下、これは一体何が──」
王子に対し思わず拝礼も忘れていきなり自分から話しかけてしまったのは、まあ無理からぬ事ではある。
人間族ほどには裸に抵抗の無い妖獣族とはいえ、裸形の王子が自分の衣にくるんだ側近を抱えて馬を駆るさまは傍目にはどうにも奇妙に映る。ふたりとも月亮泉で湯を使って来たであろう匂いをさせてはいるが、あるじの胸に背を預けるスウは何やら弱っている。
(なぜ殿下はお召し物をスウ殿に?スウ殿の衣はどうされたのだろう・・・ああ、お出かけになられた時は四つ足でご同行されたのだな。ではなぜ帰りは二本足に・・・?スウ殿は何やら消耗しておられるし、──あっ)
かれの脳内で要らぬ想像力が無駄に働き、以下のような筋書きが組み上がった。
(たとえば殿下が四つ足姿のスウ殿を伴い、湯浴みへ出られたとする。そうして殿下が湯を使う間、当然スウ殿は二本足に変わってお世話をするだろう)
(だが時として少女のように可憐に見えるこのご近習の事だ、湯の熱に肌をほんのりと上気させた姿に殿下がつい昂り、戯れかかったとしても無理は無い)
(そして、興奮なさった殿下にあまりにも激しくされたスウ殿は意識を失ってしまい、姿を四つ足に戻す事もままならなくなったので仕方なくそのまま連れ帰った・・・とかでは?)
(それは・・・じつに
(あれほどまでに傷だらけになるとは、一体どんな荒々しいやり方を・・・ううむ。まだこんなに陽が高いというのに午睡も取らず、お盛んな事であられるな)
全くの誤解であるが、この兵の中ではそういう解釈に落ち着いてしまったようだ。急に気まずそうに眼を泳がせた。
「──あ、その、殿下に於かれましては大いにご壮健のご様子で何より・・・あっ、違っ、いえ、ご無礼を」
ハォにじろりと睨まれた兵は、逃げるようにその場を去った。
さっきのフェイの話にあった兵といい、この若い兵といい、この日の当直に当たった面子はどうも覇気に欠ける。大方、リェもそこまで調べ上げたうえで今回の襲撃を企てたのだろうが、今朝がたのリェたちの侵入を易々と許したのはかれらの責任が大きい。おそらく近いうちに何らかの形で処分を受けるに違いない。
「もしかしてハォが陽も高いうちから僕に何かしたと思ったんじゃない、あのひと」いつの間に目を覚ましたものか、スウがハォの腕の中でにやにや笑っていた。
「何だ、お前起きていたのか」
「あるじに抱えられて熟睡できる程ふてぶてしくないぞ、僕は」
「よく言う・・・」
特に後ろめたい事がある訳でもないが、これ以上誰かに見つかって何か訊かれるのも面倒なのでハォはヒェイランを急かし、足早に松焔洞へと戻った。
〇
「殿下、お薬をお持ち致しました」
ハォが従僕を寝台の上へ乱暴に投げ出し、ちゃっかり自分だけ乾いた衣を出して羽織っている所へ、フェイが垂れ布の外から声をかけた。
「入れ」
「失礼致します」
恭しく入ってきたフェイは薬壺の他に、スウの濡れた髪を拭くための布も調えてきていた。命じられていないのに、よく気が利く。それから、云いつかった軟膏とは別に小さな薬壺をもうひとつ出した。
「こちらは殿下のお薬です。先程の御瓢の件ですが、差し上げた解毒薬ではやはり不足があったと判明致しましたので」
「なに・・・、随分と早く判ったものだな」
フェイの腕の確かな事は承知しているが、いくら何でも早すぎはすまいか。命じてはおいたものの、葫蘆の底にわずかに残った無味無臭の液体から何をどう判断したというのか。
当惑するハォに対し、フェイが返した答えはあまりに意表を衝くものだった。
「毒を作った人物に直接訊きました。御瓢の中身があまりに少なく、さすがに判じかねましたので」
青年は面目無さそうに頭を掻いた。
「殿下のお話から、リェ殿下のところのフイどのによる調薬であろう事は間違いなかったので・・・事を急ぎますし、いっそご本人に訊ねてしまおうかと」
豪胆な男である。
「しかし、どうやって訊き出した?だいたい、いつの間に鋭鎴嶺まで行って帰ってきたというのだ」
早すぎる。この風裂嶺から行って帰るには、馬を飛ばしても半日は要するはずだ。
「いえ、それが・・・〈荒薬嶺坪〉で薬草を捜しつつ思案していたところ、丁度ご先方も同じく薬草を摘んでおられまして」
荒薬嶺坪というのは風裂嶺と鋭鎴嶺の中間あたりに位置する土地で、様々な薬草が自生する。
どちらかといえば風裂嶺に寄っているので厳密にはハォの縄張に入るのだが、そこは中立地点という事で双方が合意している。特に薬師たちにとっては草いじりをする者同士の交流の場でもある重要な土地で、薬師に限ってはどの嶺の者でも事実上出入りを許されている。たとえ互いのあるじが対立していたとしても、そこでは同業者同士で割と気さくに語らい合ったりするのだった。
「さすがにどうかと思ったのですが、思い切って訊いたら事も無げに教えて下さいました」
──ああ、あれですか。あの薬はもう興味がありませんのでお教えしても構いませんよ。もっと面白いものが出来そうですから・・・うふふ。
フイはそう言って無造作に解毒の処方を明かして寄越したのだった。
「・・・信じたのか、それを」
「配合からいって真っ当な薬ですのでご休心を。ですが、少々変わった服用をせねば正しく効かないそうで・・・このような薬は俺も初めて作ったのですが」
フェイが取り出したのはどう見ても喉を通りそうにない、やたらと大きな棗型をした丸薬だった。何と、これは尻の孔から服する薬であるという。さすがにハォは絶句した。
「・・・・・・、ばかを云え何だそれは。騙されているに決まっている、そんなものは聞いた事もないぞ」
「驚かれるのも無理はありませんが、これはなかなか理にかなった方法でして俺もなるほどと」
「ふざけるな、いらん。さっきのお前の薬だけで概ね解毒できている」
「・・・。はい、承知しました」
ハォに追い出され、青年は悄然と寝所を後にした。ちらりちらりと振り返ったのは無論、あるじの身体を気遣う想いからであったが、薬師としての探求心が疼かなかったと言えば嘘になる。
(・・・ううむ、尻から服む薬・・・試したかったのになあ)
持て余した大粒の丸薬を、フェイはころころと薬壺の中で転がした。
「ありゃ」
まだ作りたてで乾いていなかったそれは、壺の中でほろりと崩れた。
〇
ハォが寝台の所に戻ると、スウは縮こまって大きなくしゃみをしていた。
「殿下ぁ、寒うございます拭いて下さいませ」ふざけて色っぽく甘えてくる。
「調子に乗るな気色悪い。そうやって無駄口をきく気力だけはあるのか貴様は」
濡れた髪を拭われながら、スウはまたうとうとしかけている。軽口を叩く元気があるように振る舞っているつもりらしいが、やはりどう取り繕おうと消耗しきって弱っている。
「スウ、寝るな。薬を塗るから傷を見せろ」
「んん・・・」
ハォは仰臥したまま生返事をするスウの体をごろりと裏返した。リェに鞭打たれた背中も尻も、ひどく傷ついている。もとい、リェの膂力が軟弱であったからこそ、この程度で済んだ。
フェイに届けさせた薬壺をハォは手に取った。蓋を開くと、中には腫れや傷に効く乳白色の軟膏が詰められている。それを指先に少量ずつ取っては、スウの肌に刻まれた鞭傷をなぞるように塗っていく。
「んっ・・・!痛い・・・、あっ」
「騒ぐな、すぐ済む」
「ん・・・!んんっ・・・!」
スウはあるじの枕に取りすがり、耐えた。
大方塗り終えるとハォは薬壺をいったん脇に置いた。
「尻孔も見てやる」スウの腰を抱え、高く突き出させる。
「──どれ、」
形よく引き締まった尻を左右に割り広げる。露わになった孔は、やはり痛々しく赤みを帯びていた。
「・・・・・・」
ハォはおもむろに、その白い尻へ顔を寄せた。
「んゥッ?!、・・・??や、ちょ、ハォ・・・??」
腫れぼったく熱っぽい菊座がハォの舌先にくすぐられ、怯えたようにびくりと収縮した。
「な、何して・・・っアぁ??舐めちゃだめ・・・!あぁっ!だめ、あ!吸わないで・・・、アぁんッ!や、そ、そんな事されたら・・・!」
「されたら何だ。動くな」
「・・・、だ、だって・・・!あぁっ」
ハォはもじもじと動くスウの腰を両手で押さえつけ、ほとんど尻に顔を埋めるようにしながら黙って舌を這わせた。かるく吸っては離し、舌と唇とを小さく動かして丹念に探る。出血は見られなかったが、傷になってはいるようで少しだけ血の味がした。ついでに股の付け根に荒縄で擦れたような傷も発見したので、左右交互にじっくりと舐めた。
「あ、だめ、ん・・・ふゥンッ、──あ・・・!、ハォ・・・!あぁ・・・、・・・、・・・・・・──」
スウは力なく抵抗していたが、やがて観念したのか気持ちよくなってきたのか大人しくなった。押し殺した声だけが小さく漏れ続ける。
ハォはしつこいくらいにスウの尻孔をしゃぶり尽くしたところで、ようやく口を離した。
スウはへにゃへにゃになり、荒く息をついている。その姿が蠱惑的だったので、もののついでにハォは尾骨の上の三角紋様にも口を寄せ、ひと舐めしておいた。「ひゃぁんッ」スウが声を上げ、びくりと震えた。
ハォは薬壺に手を伸ばし、軟膏を三本指でたっぷりとすくい取った。
「あ・・・??やっ、」
ぬらぬらと薬を塗りつけられ、スウはぞくりと菊座をすぼめた。
「楽にしていろ」
ハォは孔に向かって集約する襞の一本一本に馴染ませるように、じっくりと塗り込んでいく。
これには堪らなかった。軟膏の潤滑力を介してじりじりとまさぐるハォの三つの指先が、どんな淫具による責め苦よりも耐えがたい愉悦をスウに強いた。
「あ、あぁ・・・!?んんッ!も、もうやめて・・・!」
さっきまで寄ってたかって苛め抜かれ緩みきっていたはずの菊座が、固く固く締まる。
「スウ、力を抜け。これでは中まで塗り込めんぞ」
「む、無理・・・!入り口だけでいいよう」
「それでは意味がなかろうが。早く緩めろ」
閉ざされた蕾を、ハォは軽くこじった。
「ひぁ?!や、やめて・・・!今朝から何十回もイかされて、あッ!!──も、もう敏感どころの話じゃ、──あぁんっ!!」
あるじに尻の孔をいじられる感触に卑屈な愛慾を覚え、いっときは静まっていたスウの一物が再び頭を擡げだす。
ひくひくと律動的に弛緩と収縮を繰り返す孔が一瞬緩んだ隙を狙い、ハォは三本の指を一息にねじ入れた。
「アあぁあっ?!」スウは、耐えかねて大きな声を張り上げた。
熱を持った肛内が、ゆっくりと大きく掻きまわされる。痛みと愉悦が混じり合った感覚に苛まれたスウの菊座はみっちりとハォの三本指を結束し、びくりびくりと繰り返し震えた。
「あ・・・っ、あぁ!んんゥッ、もういいよう・・・!」
「駄目だ、しっかり塗り込まねば腹を壊す」
「アぁんッ・・・!ちょ、ハォ、も、もっと優しくやってよう!こんな──ひぁ?!」
ハォはいったん指を引き抜き、壺から更に軟膏をすくい取って再びスウの尻に深々とねじ入れた。
「──、アぅッ??、や、な、なんで二回目・・・、」
「薬をいきわたらせるためだ、こらえろ」
ハォの指が今度は複雑に動く。三本の指が代わる代わる、スウの内側の最も弱い部分を正確に容赦なくなぞり上げた。
「ぁあっ??あッ、んんぅ!?ふゥンッ!!あぁぅッそこだめ・・・!!」スウは、頭を褥《ふとん》に擦り付けて激しく喘ぎだした。「はぁっ、はぁはぁ・・・、あっ・・・!あぁんだめぇエっ!!・・・──、あぁぁあんッ?!」
せつない声と荒い息遣いが、岩壁に反響する。確実に明り取りの穴から外へ漏れ聞こえているだろう。羞恥を覚えたスウは喘ぎつつ、開きっぱなしの帳幕に手を伸ばす。
布一枚にさほど防音効果があるはずもないが、閉じれば気休め程度には嬌声を遮ってくれるだろうとの思いだった。どの道全く届かず、伸ばした手が虚しくぱたりと落ちる。
「んんッ・・・!!そ、外に聞こえちゃうっ・・・、──はァアあぁぁンッ!!」
「ばか、俺は薬を塗っているだけだ。変な声を出すなというのに」呆れつつ、ハォは指を使うのを一向にやめない。
「う、嘘だ!ハォ、遊んでるでしょ・・・!っ、──アアっ!?──そこやだっ!や、やめて!ひぃ??だめっ、イきそう、っ、──あぁあンっ??」
「何を云うか、王子たるこの俺が直々に手当てをしてやっているのだ。無礼な事をほざくな」ハォに尻を向けているスウからは見えないが、ハォはいつしか残忍な笑みを満面に浮かべていた。
「はぁはぁ、だ、だから、──ふゥんッ!──もういいってば、ねえハォ・・・!──あぁンん・・・!」
「遠慮をするな」
「──?!あぁっ・・・!や・・・っ、あ、そ、っ、そこ、だめぇ・・・!あぁ・・・!い、イッちゃう、からぁっ、はぁん!あァンッ!!」
「ん?そことは?ふむ、ここの事だな?」ハォはぐちゅぐちゅと粘っこい音を立て、わざと激しく指を使った。
「ァぁあア?!はぁはぁ、や、やめてぇぇ!?」
さっきスウを嬲りものにした男たちと違い、ハォはスウの躰の癖を完全に知っている。弱いところを逐一的確に衝かれるから堪ったものではない。
「あァぁんっ!!はぁっはぁっ、もうだめ・・・!気持ちいいよぉ・・・!はぁあん!!ゃあぁぁぁぁんッ!!」
ぴちぴちに怒張したスウの一物が、ひくひくと不規則な調子で跳ねている。
「呆れた奴だな。さんざ
「はぁはぁ、み、見ないでぇ・・・──あぁンッ!もうやめてぇえ・・・!!ぁあッ!!い、イク・・・、っあぁああっ!、はぁっはぁ・・・もうイク・・・!!」
湿った髪をくしゃくしゃに乱し夢中で腰を動かして善がるスウの姿を、ハォは後ろから掻き乱しつつじっとりと眺めていたが、
「ああそうだ、」不意にスウの腰を押さえつけていた方の手を放し、少量の軟膏を指先に取った。「乳に咬み傷があったな。そっちにも塗ってやろう」
「え・・・、や、ちょっ・・・?!」
片手で尻孔を責めながらスウの胴を抱え込む様に腕をまわし、乳輪から頭頂部にかけて指の腹を使って螺旋を描くように、ぬめぬめと繰り返しなぞった。
「──っ??ぁあん!!い、いじわる・・・!はぁ、はぁっはぁっ・・・!ず、ずるいよう、僕が抵抗できないからって!・・・うゥんっ、あぁん!!、はァハァ、も、もうダメ・・・!あぁっイク、もうイクうぅ・・・!!」
「──ウェイスウ。まだだ、こらえるのだ」
悶えるスウの耳元で、ハォは冷たく命じた。
「?!っ・・・ぁあッ、・・・!」
その一言に一層欲情し、スウの菊座はハォの指をぎゅうぎゅうに締め付けた。ハォは締められた三本指で中から、親指で外からスウの会陰を挟むように圧し、もう片手で勃ちあがった乳首をきつくつまみ、それぞれ小刻みに揺すった。
「──ひぃ??あ、あっあぁあ!!・・・はあんっ!!ぁアぁあっ!!ひぃッひぃッ!──あ・・・、ッ!あぁハォ・・・!!くぅッ・・・、──ひぁぁあっ!!」
脳天を突き抜けるような快楽に襲われたスウは拳を握り締め、枕に顔を埋めて悶えた。枕に染み付いたハォの髪の匂いが鼻腔内を満たす。逃げ場を求めたつもりが、却って情欲に拍車をかける事になった。
「んんぅン!んんんぅぅ・・・!!ふぅっ、ふぅぅううンっ・・・!!ふうふうッ、ンンんッ!?ひぅぅううんッ・・・!!」
孔がきつくきつく締まる。それにより、ハォが微かに指を動かしただけの刺激さえも凄まじい快楽となった。
「んんっ、ふゥぅううん!!んーーーっ!んんーーーーっ!!ふぅ、ふぅ・・・、んんゥっ??むぅぅゥ!!んんんッ!!」
暫くの間スウはくぐもった声を漏らし続けていたが次第に息が苦しくなり、枕に押し付けていた顔を上げた。
「・・・ぷはっ!はぁはぁ、──ッあぁぁああんッ!!はあぁあああああんッ!!・・・くゥうッ、もうだめ!!はぁはぁ、もう許して・・・!もうイかせてぇぇっ!!」
「だめだ、俺がいいと言うまでは許さん。貴様、俺が妙な毒を盛られて眠り込んでいる間、俺の躰に勝手なまねをしたな?分かっているのだぞ、この色魔が!その分の仕置きと思え」
「そ、それは・・・!!ち、違うよお!──、はあっ、はあっ、よ、弱みに、付け込ま、っ、し、仕方が──あっあっ、僕はちゃんと、我慢、・・・くぅ・・・ッ!?・・・、き、聞いて!──はひッ!!あぁ!!ひあぁあぁんッ!!・・・、」必死に弁解を図るも、言葉にする余裕が全く与えてもらえない。「ひぅ・・・、ひぅぅうう!!んんんぅ・・・!!──ッ、──!!・・・ぁ・・・!あぁ!!ほ、ほんとに、もぉだめぇえッ!!ふぅ、ふうぅ・・・!!ふゥんっはああンッお願いぃ・・・!!ひぃっひぃっ・・・!!イクっ!イクぅっ・・・!!ああ!!イかせてぇっ!!」
「そうか?実はまだまだ耐えられるだろう?」
もはやその問いに返答する余裕すら奪い尽くされたスウは、喘ぎつつ激しくかぶりを振った。
「うん?本当か?お前の事だ、どうせ気を遣りそうなふりではないのか、ん?そうだろうが?」ハォは冷酷な笑みを湛えて囁く。
「ひぃっひぃっ・・・・・・、ぉ、おねがい・・・っ、・・・、ぁぁ・・・・・・!」スウは消え入りそうな声を振り絞り懇願した。
「・・・そうか、仕方がないな。待て待て、そうせっつくな」
ハォは三本の指を揃え、とどめとばかりに勢いよく衝きまくった。
「!!──、っあぁあっ??あっあっ、あぁあああああんっ!?あっああっハォ・・・!!ハォだめぇ!!あぁああッ!!ひぃぃぃッ!!はひッ、ひぃひぃひぃ・・・ッ、くゥン、きゃゥぅン・・・!きゅゥゥウん・・・!ひィンッ、ヒゃぃん、ひゅゥンッ・・・!!」
善がり方が、だんだんケモノのそれに近くなっていた。スウの限界を見たハォはようやく、
「──ふふ、達して良し」
と、吸い付く粘膜を抉るようにして乱暴に指を引き抜いた。
「──ぎゃうぅんッ?!、・・・きゅゥン・・・──」
スウはケモノのような悲鳴を上げて絶頂した。今朝からこれで、(小さなものも含めれば)実に五十回近い絶頂を数える事になろうか。すかさずハォはさっき髪を拭いてやった布を取り、素早くスウの一物を包んだ。
スウはどっぷりと精を放ち、くたりと崩れた。
ぽかりと口を開いた菊座が、ややあって力なくすぼまった。
〇
「う・・・ん、はぁ、はぁ・・・。ぁん・・・っ!・・・、ひ、ひどいなぁ・・・、僕の事、殺す気なの・・・?うぅ・・・ばかっ」
腰をびくびくと痙攣させながら、スウは焦点の定まらない目でハォを恨めしそうに睨んだ。
「ふ・・・、悪かった。おまえが可愛い声で哭くものでな、つい興が乗った・・・このまま更に抱き潰してやっても良かったが──」
ハォは悪びれた様子もなく、軟膏とスウの腸液にまみれた手を悠然と拭った。
が、すぐに真顔になってスウを見つめた。
スウは虚脱し、背を丸めて転がっている。さすがに顔色が悪い。
「うん・・・少しやりすぎたな」
ハォは向き直り、スウの身を抱え起こした。きちんと仰向けに寝かせ直し、その頭を両手で挟むように押さえつける。
「少しどころじゃないよ・・・、ちょっと何、もう厭だからね?休ませてよぉ・・・」
いったい今度は何をされるのかと、スウは警戒する。
「スウ、口を開けろ。俺の妖気を注いで補ってやる」
「えっ」スウは驚いてハォの目をまじまじと見つめた。
従僕が王家の者から妖気を分け与えられるなど、普通なら許されない。
「いいの・・・?そんなこと・・・それにハォだって紋様が少し薄いよ」
「構わん、どの道お前が動けねば何かと不自由で仕事にならんから俺も休む事にする。吸えるだけ吸い取れ」
「でも・・・、むぅ」
渋るスウの唇を、ハォの唇がぴたりと覆った。
(さっきリェたちに無理やりさせられた時、苦し紛れにハォから妖気を失敬しようとした事は、ひとまず黙っておこうっと)
ひそかにそう決めた時、強烈な妖気がスウの体内にどっと流れ込んだ。
「──んぅ・・・?!」
スウは夢中で受けた。頭部を固定するハォの腕に、力の入らない両手でしがみついた。取り込んだことのない濃さの妖気に心身が激しくおののき、びくびくと震える。
「ん・・・、んんッ──、・・・ふぅンッ・・・!──」
無意識に首を振って逃れようとするスウの頭を、ハォはがっちりと押さえ込んだ。スウは、鼻で荒々しい呼吸を繰り返す。
「──、・・・───────、」
虚ろだったスウの体内に、ハォの妖気が充ちてゆく。
〇
頃合いを見てハォは口を離し、従僕の姿を見下ろした。消えそうに薄かった各所の紋様は、色がまだぐるぐると安定しないが充分に赤みを取り戻していた。
ハォの濃密な妖気をもってスウ程度の妖力を補うのであれば、本来ほんの少量だけ与えれば事足りたのだが、思いのほか
「これだけ注げば、リェの腰巾着ごときが掛けた精度の低い麻痺術などすぐに解けるだろう」
「あ、ありがとう・・・、でも──」
「・・・──」
ハォはそっと顔を寄せ、スウの口元に流れた涎を舐め取った。
自然、どちらからでもなく今度は普通に接吻を交わす。
──しばしの間、互いの口内を味わう小さく湿った音が断続的にやり取りされた。
それが済み、気だるげに身を起こしたあるじの顔をスウはぼんやりと蕩けたまなざしで見た。「・・・、ハォ、大丈夫?」
大丈夫ではなかった。血のように濃かった赤から微かに薄くなっていたハォの紋様は、多量の妖気を放出した事で更に淡く変色していた。
「どうせすぐに回復する」ハォは寝台の隅でくしゃくしゃになっていた被《かけぶとん》を取り、ばさりと従僕の裸体を覆った。「お前はそこで休んでいろ・・・というより、濃さの合わん妖気が馴染むまでは動けんだろうな」
ハォはそそくさと寝台を降り、後ろ手で帳幕を閉じた。少し立ち眩みがした。
「あ・・・、ハォ、──・・・」
どこにいくの。ここにいて。そう口に出す前に眠気が押し寄せ、スウは絶え入るように眠った。
ハォの意識は洞の外へ向いている。松の葉を踏む微かな蹄の音を伴い、嫌な気配が接近するのをさっきから感じていた。何をしに戻って来たかは知らないが、相手をせねばならない。