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五百年前の一幕。
ドォロール大樹海、曇天の下、密林には巨大なクレーターがいくつもあり。地平線まで屍の山が築かれている。幾千幾万の亜人、異形。本来なら種族を統一していたであろう偉大な亜人、世界改変から僅か
卑賤高貴、男女、強者弱者、亜人異形。全ての区分の一切合切関係なく、皆炎に焼かれて死んでいる。
「はぁ〜気持ち悪りぃナー、うじゃうじゃ多すぎだロ」
地獄の如き光景を産み出した男は、たった今数万単位の命を奪った事を、まるでゲームのモンスターを倒したような、どうでもよさげな感覚で屍の山を見ている。
「
「ガハハ!こんなヤツら何億いようと敵じゃねえーヨ!アーヴィンジャー!」
まるで造られたような人外の美を持つ、赤い瞳と青い瞳の左右で目の色が違う
褒められて満更でもない男は、闇妖精の頭を気恥ずかしそうに撫でる。
「これで本日の殲滅地は全て完了です、天空城に御帰還なされますか?それとも‥」
「そうだナ、今日は現地の人らともっと会話してーシ、この前作ったあの里‥‥‥チッ、めんどくセー」
「どうされまし「『次元断絶』」
男が青の衣裳が施された、芸術品のように優美な剣を振るうと、世界が分かたれるように歪み、次の瞬間、悍ましい黒色の
歪んだ次元によって守られた男と女を除いて、死体と炎に塗れていた周囲が舐めるような黒い炎に焼かれる。
尋常な炎でないのか、黒い炎に触れた万物は砂と化している。
「ずいぶんな挨拶だナ、クソ蜥蜴!」
炎が薄れ、歪んだ次元が元に戻れば、元の緑溢れる密林の姿は無く、辺り一体はまるで砂漠の様相に変化していた。
男が天に声を上げると、空には一体の大きな竜がいた。
四つ足に、二つの大きな翼。黒い鱗に鋭い爪と牙。眼光は鋭く、しかし知性を感じさせる瞳の竜は、先刻までいた男の従者、確かえぬぴーしーとかいうデク人形の姿が無い事に違和感を抱きながらも、本命であるこの男を捉える。
「‥忌々しい汚物が、言うことに欠いて蜥蜴とは、笑わせてくれる!【風化の火】!!」
「死ねや蜥蜴!
竜の顎からは、先刻同様黒い炎が漏れる。対して男は剣を振り上げ、巨大な斬撃を発生させる。まるで世界諸共両断せんとする、九葉の世界における至高の一撃は、一切の拮抗も許さず、竜の息吹すら切り裂き、咄嗟に避けた竜の片翼を切り飛ばした。
斬撃の進行上にあった空すら切り裂き、曇り空が晴れ、太陽輝く青空が見える。
「‥ッ!雌猿はどうした!汚物!」
「あ?ダチの女なんざもう返したワ、テメェがアホみてえにブレス吐いてる最中にナ」
片方の翼を切られ、地に堕ちた竜が男に声を荒げながら、千載一遇の機会を待つが、
「‥‥‥つうかテメェ以外にキメェ蜥蜴が何匹か居るのはもう気づいてんだヨ。早くお仲間連れて来いよクソ蜥蜴」
「なっ!」
酷くつまらなそうな表情の男は、眼前の竜に告げる。万が一にも気付かれないだろうと考えていた竜は、驚愕の表情によってそれを証明してしまう。
(やっぱり団体客か、鎌かけ半分でやったが正解だったな)
「おいおイ!早く出てこねえとこの蜥蜴ガ、俺らの素材になっちまうゾー、もうテメェらの子供の剥製造りは飽きたシ、今度は成竜の剥製でも送ろうカー?」
「貴様!殺す殺してやる!この汚ぶっ!「うるせエ、負け犬には聞いてねえんだヨ、それデ?出てくんのカー?おーイ!」
男が自身の数倍の大きさの竜を足蹴に、周囲へ問いかける、返答がなければ即刻この竜の首を落とすと考えていたが、返事はすぐさま来た。
「【世界転移】!」
「【世界断絶障壁】!」
「『八艘跳び』!」
先ほどまで姿形もなかった上空に残像が映り、次の瞬間には二体の巨大な竜が姿を現す。蛇のような青い竜と、黒い竜同様の四つ足の、空の太陽光を反射して輝くような黄金の竜は、何らかの魔法を唱えるが、転移を察知していた男が其処に合わせて飛翔しながらスキルを使う。
男の装備品による影響か、攻撃判定が倍加した都合十六の斬撃が竜を襲う。
「構うな!行け!」
黄金の竜が青い竜を庇って十六連撃を受ける。血反吐を吐きながら竜が男を抑え、友に告げる。青い竜が喉に意識を集中させる。
「めんどくせエ!クソガ!」
「【滅界の吐息】!」
蛇のような青い竜の口から、赤いレーザービームのような息吹が、黄金の竜諸共に男へとぶつけられる。
着弾した瞬間、世界から音が消える。広大な爆発が起こり、空中で命中したにも関わらず、余波で地表の樹海の大部分が消し飛ぶ。
竜王の中でも最悪の魔法と伝わる【滅魂の吐息】を、この戦争のために改造した、威力を追求した改造版。【滅界の吐息】が炸裂する。
「‥
「納得していましたよ。彼はやっと生まれた子供を失ったばかりです。それこそ、
「‥そうか‥‥だがこれでやっと「危ねえーナ!!!クソ蜥蜴!」なにッ!」
爆炎の中から、無傷の男が現れる。先刻の魔法は確かに当たっていた。証拠に黄金の竜王が、男に続いて爆炎の中から、満身創痍の身で出てくる。
「どういうことだ‥!確かに私は当てたはず‥?!」
「それはナァ‥‥言う訳ねえだろカス共!!『次元断切』!」
男が怒気を発しながら、傷だらけの黄金の竜目掛けて剣を横薙ぎに振るう。
「くっ!【世界絶対結界】!」
黒い竜が魔法を唱え、黄金の竜に守りを付与する。
斬撃と結界がぶつかると、まるで金属に回転ノコギリを接触させたような、不快な音が世界に響く。
ギャリギャリと異音が轟き、先刻の吐息とは違って拮抗している。
「私も【世界絶対結界】!」
青い竜も魔法を唱える。重なり強固になった結界が、ギリギリの所で斬撃を霧散させる。黄金の竜王は今の短い時間で多少は回復したのか、先ほどより傷の少ない体で二体の竜の側に行く。
「すまない、私が抑えていながら」
「気病むな黄金の、私など吐息諸共切られたわ、翼を直すなど何年振りか」
「自慢気味に言わないでください、
竜達は軽く会話をしながらも、何故か背の黒翼を使わずに、当然のように空を浮遊している男から片時も目を離さない。
濃密の戦闘の気配に昂ったのか、愉快極まったと言わんばかりの男は、この世界の住民なら震え上がって首を垂れるのが当たり前の存在である真なる竜王、その三体を前にしても、相手を舐め腐った笑みを崩さない。
「おいおい楽しそうに会話してんじゃねえカ?俺も混ぜてくれヨ、なア!!」
「極夜の竜王殿、今度も私が抑えます、その時にはなんとしても‥!」
「まずは【滅界の吐息】が当たっても無傷の理由を探るべきです、それからでも遅くないでしょう、黄金の竜王」
「そうだ、そう易々と命を投げるなよ黄金の‥我らはあの汚物達を処理した後、この世を治めねばならんのだからな」
男が晴らした空が、再び暗雲に閉ざされていく。
天には傲岸不遜そのものの男と、三体の竜が立ち並び、神話の戦いを繰り広げようとしている。
「世界を治めルゥ?人間種がこんな目に遭ってる世界が治ってるって言えんのか?あ?支配者気取るならもっとやり方があんだろ‥!クソ企業みてえに人を‥!」
「人の分際で思い上がりも甚だしい!竜帝の呼んだ汚物風情が世を乱しおって‥!」
「我らの子供にすら手をかけたお前達を絶対に許しはしない‥!」
「‥めんどくせエ、とっとと来いやクソ蜥蜴!」
後に語られぬ物語。八欲の一角、この世全てに戦火を広げた戦場の王と渾名された彼、そして三体の竜王の戦い。
世界を巻き込む八王の大乱の一幕。戦いの余波だけで緑溢れるドォロールの地が砂漠と化し、ドォロールの地付近で暮らしていた者達も巻き添えをくらって人、亜人、異形問わず数十万の犠牲を出した。
壮絶にして苛烈な神話の戦いは痛み分けに終わった。男は残機を一つ失い。竜王の一体はギリギリ無事だったが、二体の内、一生戦場には立てない癒えぬ傷を一体が負い、もう一体は片目を永久に失った。
しかし、これすらも前哨戦である。以後も神と竜の戦いは続くが、それはまた別の話。