僕の愛したアリスを返して~ソラの幼馴染救済譚~ 作:アロンの杖
青年期・冬のルテティア
「・・・・・っ。ふうぅ!!!」
「・・・結局、今日も見付からなかったね。アリスは」
2036年の12月・ガリア帝国のルテティアは厚い雪に覆われていた、大八洲皇国で言うと北海道の札幌と同じくらい北方に位置しているここは冬になれば零下二十度を下回る事も珍しく無く、そしてそんな過酷な環境は厳しい修業を積んで来たハズの“彼”さえも手こずらせた。
「次はどうするの、暫く休む?それとも・・・」
「アリスは必ず近くにいる・・・」
傍らにいた“ハンプティ・ダンプティ”のような丸みのある鋼鉄ボディから短い手足の生えているロボットが、その体の所々に氷柱と雪とを付着させつつ尋ねて来るが、それに対して“彼”が答える。
「“ロンギヌスの聖槍”は貸してもらえた、アリスは“聖杯”を持っているんだ。そして“聖槍”と“聖杯”は互いに共鳴して呼び合う関係にある・・・」
「・・・・・」
「それに感じるぞ?“アリス”の視線と息遣いとを。彼女は必ず近くにいる、気配を殺してこっちの様子を窺っているんだ」
「・・・それじゃあソラ、アリスは?」
心なしかロボットの声が上擦っている気がするモノの、そこには敢えて触れずに“彼”が応じた。
「良いかい?ココ。アリスは必ず救い出してみせる、それはアリスとの約束だから・・・。僕は必ず成し遂げてみせる、だからもう少しだけ力を貸してくれ!!!」
“ココ”と呼ばれた丸いボディのロボットは嬉しそうに“うん”と頷いて“何かご飯を作ります”と言い、そそくさと台所へと向かって行くが、リビングに1人残された形の“彼”は急いで雪塗れとなっていたダウンコートと衣類を脱いでシャワーを浴びる。
来年の2月で18歳になる“彼”の180・5cmはあるだろう浅黒い肉体は筋肉質で逞しく、骨格もまた太くて頑健だった。
何処か幼さを残している精悍な面構えをしていた“彼”は肩まで伸びたボサボサの髪の毛の持ち主であり、しかもその色は漆黒で“東洋系”である事を窺わせていた。
黒曜石のような静かな光りを発している双眸はしかし、優しさと強さに満ち溢れており全身から醸し出される雰囲気は落ち着いた大人のそれだ、しかも抑えてはいても凄まじい“精気”が迸っていて見る者が見たならその“オーラ”に圧倒された事だっただろう。
「ソラ、ご飯が出来たよ?リビングに置いてあるから・・・」
「ああ、有り難う。ココ・・・」
シャワールームから出て全身を拭き取り、着替えを終えた彼に“ココ”と呼ばれる“万能お手伝いロボット”が声を掛けてくれるが、そんなココの呼び掛けに応えた“彼”こそは心身共に立派に成長して青年となり、“世の理”と宇宙の秘術とを学び修めた“
「・・・おわっ!!?なんだよココ、また“ペペロンチーノ”か?最近こればっかだな、ひょっとしてあれか。“マイブーム”なのか?」
「・・・ゴメンね?ソラ。今の僕の演算能力じゃこれ位しか作れないんだ」
「・・・・・」
(“意識”を宿しているクセに・・・。都合が悪くなると一般的なロボットのフリをするんだからな、全く・・・!!!)
内心で毒づくソラだったが、“基本的には”出されたモノは有り難くいただくのが彼の信条である、何故ならば“食べ物を粗末にしてはいけない”と言う“それ”は“神界”での修業で神々の有り様を見て自ら彼が学んだ事だからだった。
(だけど“ペペロンチーノ”、“絶望”と言う名のパスタか。あんまり縁起でも無いな・・・)
そう考えながら食べてみると、いつもながらこれまた逸品であり味付けは文句の付けようが無い。
「なあココ、明日以降にさ?なるべく早い時期にセーヌ川にある“コッペリア博士”のラボに行って、最終調整をしてもらって来よう。・・・多分、アリスと会う日はそう遠い事では無さそうだからな」
「・・・そっか!!!」
食べながらそう告げる青年の言葉を、ココは自身も“ペペロンチーノ”を頬張りながら答えた、しかも“彼”の傍らには冷たく冷えたリキュールまでが用意されており、全くちゃっかりとしている以外の何者でもない。
(コッペリア博士も意味が解らないよな?変なとこばっかり精妙に作って・・・)
ソラが再び毒づくがこの“ココ”と言うロボット、飯は食うはオナラはするわ、挙げ句に酔っ払う機能まで付いていて、正直“そんな所に演算能力を割くぐらいなら料理の1つでも覚えさせたら良かったじゃないか”と言ってやりたい衝動に駆られる。
この“ココ”は元々、アリスの家で雇われていた家事手伝い用の万能型ロボットであり、アリス達がいなくなってからも毎日のようにオーギュスト夫妻の持ち家の家事をこなしていたのをソラが見つけて連れて来たのである。
“アリスは必ず助け出す”、“アリスを救い出すまで力を貸して欲しい”と言って。
そうだ、この時点でアリスはもう実家にはいなかった、否、オーギュスト夫妻すらも“アリス”によって“次元の狭間”に幽閉されてしまい、この世の中の何処にも居なかったのである。