僕の愛したアリスを返して~ソラの幼馴染救済譚~ 作:アロンの杖
コッペリア博士からの説得により漸く芯から心を開いてくれたココの協力と提言により“ノートルダム大聖堂”に勤務する“司祭”の家の地下室に極秘裏に保管されていた“ロンギヌスの聖槍”を一時的に貸し与えてもらえたソラはこれまたココの好意でオーギュスト夫妻の自宅に仮住まいする事が出来るようになった。
しかも家賃は要らないと言うが流石に食費やら光熱費、衛生用品代等は掛かるらしく、それらを毎月ユーロに換金して手渡すようにしていたのである(と言ってもソラがガリアにやって来てからまだ2週間しか経っていないが)。
しかし北海道の札幌と同程度の北緯に位置しているルテティアでは冬の訪れが早く、しかもその年は夏が猛暑だった影響だろう殊更強烈な寒波に見舞われていた為に各地で大雪が降った。
そんな中、ソラはココと共にあちらこちらを練り歩き、“漆黒のノワール”と化した“アリス”の襲撃を待ち構えていた、と言う次第であったのだ。
「ウィーッ。も、もう飲めにゃい・・・」
「・・・・・」
夕餉のリキュールですっかり飲んだくれ、酔い潰れてしまったココを介抱してベッドに寝かせたソラは自身も歯を磨いて顔を洗い、神々に1日の感謝を捧げた後に2階にあるアリスの部屋にお邪魔すると、そのまま寝袋に入って就寝しようとしたのだが何故かその日は中々寝付けなかった。
そうしている内に・・・。
時刻は深夜になり、辺りが静寂に包まれて“雪の降りしきる音”しか聞こえなくなった、その時だ。
「・・・・・っ!!?」
(巧妙に気配を殺してはいるけど・・・。家の中に誰か居るな?しかもこの“冷たい力の感覚”は相当な使い手だぞ?それも“常闇の魔力”を宿した者の・・・!!!)
多少、ウトウトしていたソラは何者かの気配を敏感に察知して飛び起き、壁に立て掛けてあった“ロンギヌスの聖槍”を戒めを解いた状態で、素早く装備する。
「・・・・・」
(“槍”が熱い、共鳴している。と言う事はやはり、“聖杯”が側にあるんだ・・・)
気配はまだ、1階を彷徨いておりソラはその隙を利用してプロテクター付きの“仕事着”に着替え、改めて槍をつがえて精神を落ち着かせ、気を練り上げつつ“ソイツ”が来るのを待ち構えていた、すると。
そんな臨戦態勢にあるソラの“霊力の高まり”を察知したのだろう、それまで1階を彷徨っていた気配が2階へと上がって来るモノの、不思議な事に“それ”が近付くに連れてソラの中では何処か懐かしい感覚が込み上げて来た。
「・・・・・」
(もしかしなくても・・・。やはり“ノワール”は、“アリス”なのか?)
臨戦態勢を取りつつもソラが戸惑っているとー。
やがてゆっくりと部屋の扉が開けられて、そこには漆黒のフード付きロングコートに身を包んだ1人の女性が立っていた。
パッと見では年のころは自分と同じか、顔自体はシンメトリーで恐ろしい程にまで美しく整っていたけど生気はなく、肌の色は青白いそれで長い髪の毛は漆黒、それをツインテールで結んであるモノの、凄まじいのはその潜在的な魔力である、本人は抑えているつもりだろうがソラにはハッキリと感じ取れた、体内にはトゲトゲしくも穢れに満ちた“常闇の力”が大いなるうねりとなって渦巻いているのを。
しかし。
「・・・・・」
「・・・人の部屋に勝手に入っているヤツがいる、と思ったら。“ロンギヌスの聖槍”を持ってきてくれたんだね?あそこは強い結界に守られていたから、中々手が出せなかったの」
「・・・・・っ!!?」
静かでか細いソプラノボイスではあったがその声には何処か懐かしい音調があった、ソラは“まさか・・・”とは思いつつも恐る恐る尋ねてみる。
「お前が、ノワールなのか・・・?」
「・・・・・」
「・・・それともアリス、なのか?」
「・・・・・っっっ!!!!?」
テノールの効いたソラの言葉にそれまで何処か投げやりな隙を見せ付けていた少女が一瞬、ピクッと反応して彼をマジマジと見つめた。
そして。
「・・・・・っ。ソラ、なの?」
「・・・・・」
探るような声色で、戸惑いながらもそう聞き返して来る彼女を見た瞬間に、ソラは漸く確信した、目の前にいる美女は間違いなくノワールであり、そして何より“アリス”なのだと。
「アリス、そうだよ?僕だ、ソラだよ・・・!!!」
「・・・・・っ!!!」
ソラからの返答に、アリスは一瞬だけ懐かしそうな、それでいて嬉しそうな顔付きとなったが、すぐにそれまで通りの生気と表情の無い面持ちとなり視線を逸らして述べ立てた。
「そう・・・。あんたこの国に来たの、って言うか生きてたんだね?だけどまあ、今更私にはどうでも良いことだから・・・」
「・・・・・」
「ソラ。大人しくそう槍を渡してちょうだい?私はね、その槍と聖杯とで永遠の命を手にするの」
「アリス、お願いだから帰って来て欲しい。僕と一緒に日本に帰ろう・・・!!!」
彼女の反応を見据えながらも心の底から訴えるソラに対してアリスは瞳を逸らしたまま“フンッ”と鼻で笑う。
「知らないみたいだから教えてあげるわ?ソラ。その聖槍にはね、突き刺した相手の血を不老不死の霊薬に変える力があるの。ただしその血はこの聖杯で受け止めなければ意味を為さない。聖杯と聖槍は二つで一つなのよ・・・?」
「・・・それは。だけど疑問だよアリス、君は一体誰の血を吸おうとしているんだ?」
「・・・・・」
なんだかんだ言ってもアリスはソラとの再会を楽しんでくれているのか、普段の彼女からは考えられない位に饒舌になっていた。
「その聖槍はね?自分を最も愛してくれる人を突き刺してその血を飲むのが一番だ、とされているのよ。そうすれば一番効果が高いんだって・・・」
「・・・・・っ!!!」
「ソラ、あなたの血はどうかしらね・・・っ!!?」
そう言うが早いかノワールと化したアリスは急速に魔力を練り上げつつ襲い掛かって来た、その場から一気に跳躍して距離を詰めるが、それを。
ソラは自身も一瞬早く、かつ俊敏な動作で後ろに飛び退き、そのまま窓を開けて2階からジャンプ、雪の降りしきる外に出た、部屋の中にいては自由な身動きが取れずに窮する事になる、と見て取ったのだ。
そんな彼の後をノワールと化したアリスが追う。
「アリス、もう止めて欲しい。日本に帰ろう?自分を許されない者にしてはいけない!!!」
「・・・・・」
訴え掛けるソラの言葉も虚しく、アリスはそのまま遮二無二攻撃を仕掛けて来た、ある時は“魔弾”で、ある時は“常闇の槍”で、そしてまたある時は“魔怨の茨”で。
それは息を付かせぬ連続技であり一つを躱すとすぐに次の技が迫って来る、その繰り返しである。
何発かは躱しきれずに槍で防ぐ事態となったが、その攻撃はどれも重くて鋭く、受け止める度に骨が軋んで筋肉が
「アリス、頼むから話を聞いて欲しい。これ以上闇の道を歩むのは・・・!!!」
「・・・るさい」
それでもソラは挫けなかった、ここに来るまでの間に彼は、何としてでもアリスを救い、連れて帰ると心に決めていたのである。
・・・その為には自分の命を懸ける事になるかも知れないのを覚悟の上で。
だけど。
「アリス、お願いだから・・・!!!」
「ウルサいウルサいっ。あんたなんかに何が解るのっ?日本でのうのうと暮らしていたあなたには、こっちで私がどんな目に遭って来たのかなんて解らないでしょっ?何も知らないクセにっ。偉そうな事を言うなああぁぁぁーーーっっっ!!!!!」
少女が味わった闇は尚も強く、かつ濃いモノだった、そして受けた心の傷も一層深いモノだったのである。
何度我慢して苦しめられ、言われ無き辱めを受け続けたか。
何度恥を搔かされて笑い者にされ、絶望の淵に追い落とされたか。
・・・そして何度理不尽な痛みを味あわされて、心を犠牲にして来たことか。
それらを全く知らないだろう、そうアリスは絶叫したのだ。
だけど。
「知っているよ?アリス。君がどれだけ苦しめられたか、何をされて来たのかも。僕は皆知っている!!!」
「・・・・・っ。な、何よそれっ。私が何も知らないと思ってバカにしてるのっ!!?」
涙ながらに叫び続けるアリスに対して、ソラは優しく、しかしあくまで毅然とした態度を保ったまま語り掛けていった。
「君がやられている事を、僕は神々から見せられて来た。その苦しみと悲しみの一端を、心で感じて味あわされて来た。だから解る、君の痛みが・・・!!!」
「・・・・・っ。う、うわああぁぁぁっ。う゛わあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっっっ!!!!!」
そんな彼の言葉を聞いたアリスはしかし、逆に激昂して一気呵成に襲い掛かって来た、その為に最早押さえが効かなくなってしまったのだろう“心の闇”を一気に噴出させて魔力に変え、それらを攻撃的なエネルギーとして何発も何発もソラに叩き込んで行く。
ソラはそれを光りのオーラで中和しつつ弾き、必死に自身を防衛するがアリスの魔怨の意思は凄まじく、その穢れに満ちた漆黒の波動が容赦なく青年を打ちのめし、切り刻み、血を滴らせていった。
それでもソラは一歩も引かずにされるがままに我が身を晒し続けていた、“アリスを救う”、“例え自分の人生と命全てと引き換えにしてでも”。
それこそが今の彼の思いであり、願いの全てだったのだ。
(神々よ、そして聖槍よ。頼むから力を貸してくれ、俺に力を与えてくれ!!!)
(この子を打ちのめす為の力なんかじゃない。この子を救ってやる為の、
ソラは心の中で念じ続けた、“絶対にアリスを助け出す”、“そして自分は神のように生きる”と。
この壮大な世界を作って愛で満たし、その光を刻み付けて行かれた神々のように、自分もまた光を刻み付けて行く、即ちアリスを救うのだ、と。
そしてそんなソラの一念はやがて“
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ。はああぁぁぁ・・・っ!!?かはあっ。はあっ、はあっ、はあっ、はあぁぁ~・・・っ////////////」
「はあはあっ、はあはあ・・・っ。ア、アリス!!!」
一頻り、激しい攻撃を行って気が済んだのか、或いは息切れしただけなのか、アリスは肩で荒く気吹いており、その場でグッタリとなってしまうが、対してあれだけボコボコにやられていたソラは確かに満身創痍になってはいたモノの、まだまだ余力を残していたのだ。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあぁ~・・・っ!!!はあはあっ、はあはあ・・・っ////////////」
「はあはあ、ふうぅぅ・・・。アリス、僕と一緒に・・・!!!」
「はあはあっ、はあはあっ。はあぁぁ~・・・っ//////////う、ウルサいっ。あんたなんか死んじゃえぇぇーーーっっっ!!!!!」
更なるソラの言葉にしかし、怒りを燃え滾らせたアリスは逆上して再び“魔弾”と“常闇の槍”による攻撃を仕掛けて来たが、これまでの一連のやり取りで彼女の行動パターンと仕草とを見破っていたソラは一瞬の隙を突いて攻撃を搔い潜り、アリスに肉薄した、そしてー。
力強く彼女を抱き締めるとそのままその唇に唇を重ねるモノの、その途端に。
「・・・・・っっっ!!!!?」
(・・・う、嘘っ。闇に飲まれたハズの私の胸にっ、光が戻って来てる!!!)
ソラの右手に握られていた“ロンギヌスの聖槍”が強く激しく輝き始めたかと思うと凍て付いて荒み切ってしまっていたアリスの心に暖かな思念が流れ込んで来たが、それはソラのアリスに対する“
この時にアリスは全てを悟った、ソラがどれだけ自分の事を愛してくれていたのか、と言うことを。
自分の苦しみと悲しみを知り、厳しい修業の傍らで懸命に“癒しの祈り”を捧げてくれていたことも。
そしてまた“最悪な結末が訪れないように”と、密かに“防御の
「ーーーーーーーっっっ!!!!?あ、あっ。あぁぅ・・・っ///////////////」
「アリス、帰ろう?僕と一緒に日本へ。みんな待ってくれているよ・・・?」
「~~~~~~っっっ!!!!!あ、あうぅっ。ソラッ、だけど私は・・・っ//////////////」
尚も何事かを言い掛ける幼馴染の少女に対して、ソラは更に言葉を続けた。
「神々が言っていたよ?“アリスはいつか許されるだろう”って。君は今ならまだやり直せるんだ、だから頑張れ・・・!!!」
「・・・う、うん。だけど、でもね?私、あなたのことを」
「僕も一緒にいる、ずっと側にいるから。だから大丈夫だから・・・!!!」
「~~~~~~っっっ❤❤❤❤❤う、うわあぁぁっ。うわああぁぁぁーーーんっ!!!」
ソラが尚も抱き締めたまま暖かな言葉を掛けるとアリスは、遂に泣き出してしまい自身も青年にしがみ付いたまま大粒の涙を流し続けた。
「わたしっ、私本当はっ。人殺しなんかしたく無かった、キレイなままで居たかった・・・!!!」
「・・・大丈夫、解っているよ?アリス」
「ソラ、ごめん。ごめんなさいっ!!!わたし、とんでもない事をしちゃった・・・っっっ//////////////」
そう言って尚も泣き咽ぶ少女であったが、そんな彼女の全身を更なる光りが包み込んで行き、心と身体の中枢央芯からありとあらゆる闇と穢れとが全て刮ぎ落ちていった。
やがて眩いばかりの聖煌の洪水が収まった時ー。
果たしてそこには元通りの、美しくて愛らしい快活な美女の姿があった、水を弾くほどにまで張りのある乳白色の肌にアイスブルーの煌めく瞳。
輝きを取り戻した長いプラチナブロンドは煌めいて風に棚引き、顔と唇には鮮やかに生気が蘇って来る。
「・・・・・っっっ!?!?!?あ、ああっ。これはっ///////////」
「それが本来の君なんだよ?アリス。“怨魔”が浄化されて“歪み”が正され、元の美しい君の姿に戻ったんだ・・・」
そんなソラの言葉が終わらぬ内にー。
感極まったアリスは改めてソラにしっかりと抱き着くと、そのまま目いっぱい強く口付けをかました。