僕の愛したアリスを返して~ソラの幼馴染救済譚~ 作:アロンの杖
「ねえソラ。近所にチョコレートケーキの美味しいお店があるの、今度一緒に食べに行きましょう!!?」
「ねえソラ、今度お紅茶を買いに行きましょうよ。私、“マリアージュフレール”の美味しいお店を知ってるんだ~っっっ♪♪♪♪♪」
「ねえねえソラ、帰りにちょっとカフェに入らない?ちょっとだけ入ろうよ、ねえねえっっっ❤❤❤❤❤」
“漆黒のノワール”の呪縛から解き放たれて元の光の道へと帰って来たアリスはその日も満面の笑みでソラを彼方此方に連れ回して行った。
その行動力たるや凄まじく、買い物に付き合わされたソラも内心で困惑してしまう程だ(ちなみに荷物はみんな彼が持ってあげている)。
“ルテティアの街”は美食と華やかな文化の咲き誇る“花の都”とされていて、世界各国から観光客が耐えなかったから、見て回るのは苦痛では無いが、流石にキョロキョロとは出来ない。
お上りさん丸出しだとバカにされて舐められるかも知れない、等とソラが考えていると、そんな彼の見ている前でアリスはまた“ショコラティエ”に入店して行く。
そこでもたんまりと買い物を済ませると漸く家路に就いたが、この1週間はアリス達には“特別休暇”が与えられており、その為アリスは勿論、オーギュスト夫妻らも存分に羽根を伸ばしていた。
「“西方救済教会”もたまには粋な計らいをしてくれるな、まあ流石に行方不明から帰って来た時には3日間程の事情聴取を受けたが・・・」
「本当ですよ、事細かに探りを入れられたから誤魔化すのが大変だったわ?それにしても教会側も今回は随分と奮発してくれましたわね・・・」
裏事情を知らないオーギュスト夫妻やアリスは教会側が親切心からこんな温情を掛けたと思っていたようだがソラだけは予め、神々から全てを見せられて知っていたのである、“西方救済教会”の幹部達が同級生達によるアリスへの非道なイジメを繰り返していた事も。
そしてオーギュスト夫妻の同僚連中が彼等に執拗な嫌がらせを行っていた事も。
ただしアリスが闇堕ちしていじめっ子達とその家族達に復讐して回っていたのだけはついぞ掴めず終いだった、目撃者は皆殺しにされていたし、それに事情を知っていたオーギュスト夫妻が硬く口を閉ざしていたからである。
(今回の2週間の休暇は、教会側の罪悪感の裏返し、と言う訳だ。この子達が事実を知ったなら余計に傷付き、怒り狂うだろうな・・・)
それを思った時にちょっぴりソラは不憫だった。
「あははっ、ねえソラッ。お家に帰ったらさ、“ホットチョコレート”を飲もうよ。甘くてとっても美味しいんだよ?ちょっと熱いんだけど~っっっ♪♪♪♪♪」
「ええっ!!?でもさアリス。確かチョコレートケーキも買ってなかったっけ。あれはコーヒーとかミルクに浸して食べた方が美味しくない・・・?」
「んもぅっ、ソラッてば解って無いわ!!?チョコレートには“ビター”と“スイート”があって、“チョコレートケーキ”は“ビター”なのっ。だけど“ホットチョコレート”は甘くてとっても美味しいんだから・・・っっっ❤❤❤❤❤」
「えぇぇ~・・・?は、はあ。まあ、そうすか・・・!!!」
“そんなにチョコレートばっかり食ったら胸焼けすんじゃね?”等と思ったソラだったが敢えて指摘するのを止めた、心底楽しそうに燥ぎ回るアリスの様子を見ている内に“そんな細かな事を気にしちゃいけないんだ”と考えるようになったのである。
「ソラ、どうも有り難う・・・」
「ええっ、どうしたんですか?おじさん・・・」
そんな青年の気遣いもあって上機嫌のまま自宅に帰ったアリスはすぐさま台所に赴いてホールで買ったチョコレートケーキを素早く切り分けて行くモノの、そんな愛娘の後ろ姿を遠目に見ながらオーギュスト夫妻がソラに改めて礼を述べる。
「荷物持ちくらい、なんて事は無いですよ?鍛えてますからね。それに女の子に車道側を歩かせないのも“男子の嗜み”ですから・・・!!!」
「・・・・・っ!!?」
「そんな事までさせていたのね?あの子ったら・・・!!!」
ソラから話を聞いたオーギュスト夫妻は呆れたように息を吐き、続けた。
「アリスを助けてくれた事もそうだが・・・。君が来てくれてからと言うもの家の中が明るくなった、いいや?もっと言ってしまえばアリス自身が明るくなったんだ。以前のあの子は暗く沈んでいて、心を閉ざしてしまっていたのだ。今になって思えばもっと早くにアリスの苦しみに気付いてやるべきだった、本当に申し訳ない事をしたと思っている・・・」
「誰よりも側にいるつもりだったのに、私達はあの子から最も遠い所にいたんだわ?だからあの子が大変な思いをして任務から帰って来た後で、クラスメイト達から意地悪をされて傷付けられ、苦しんでいた時にも声一つ掛けてあげられなかった。親として大いに恥じます・・・」
「・・・・・」
「親の色眼鏡かも知れないが・・・。あの子はうんと優しい子だし、それに負けず嫌いでガッツもある。本当に良い子なんだ、それで私達に心配をさせまいとしたのだろうが・・・」
「あなたが来てからと言うもの、アリスは毎日輝いて見える。ソラ、これからもアリスをよろしくね・・・?」
「・・・・・っ。俺は」
オーギュスト夫妻の言葉に対してソラが何か応えようとした時だった。
「お待たせ~、チョコレートケーキとホットチョコレートでーすっっっ♪♪♪♪♪」
アリスが銀色の大きな四角いトレイに5人分のチョコレートケーキとホットチョコレートを乗せてやって来た。
「はいパパ、ママ?それにココも!!!これは私の分で、こっちはソラのね・・・っっっ❤❤❤❤❤」
「・・・・・っ。う、うん。どうも有り難う、アリス」
その笑顔とハイテンションに気圧されてしまい、ソラはそれ以上に言葉を紡ぐ事が出来なくなってしまう。
「あははっ。ソラ、美味しいね?一緒に食べようよっ。ねえねえ・・・っっっ❤❤❤❤❤」
「・・・・・」
自分の隣に座ってチョコレートケーキを頬張りながら眩しい微笑みを向けて来る幼馴染の少女に対し、青年もまた破顔しながら黙ってカップに淹れられたホットチョコレートを啜って行った。
(どうしよう、早くアリスに言わなきゃ。僕は今回の旅、“観光ビザ”で来ているからそんなに長くはいられない。帰るまでにアリスに言おう、“君の事が大好きだ”と。“誰よりも何よりも愛している”と・・・)
そんな事に思いを馳せていたソラはしかし、同時に別の可能性をも考えていたのである、それは“愛してる”と伝えるまでは良いとしてその後はどうすべきか、と言うモノだった。
(オーギュスト夫妻も、そんな簡単にアリスとの仲を認めてくれるか解らないし・・・。なんていうか“自分の気持ちに正直に”と言う信条の元でここまで来たけど、実際はかなり行き当たりばったりなのかな?俺って・・・)
そんな事を