僕の愛したアリスを返して~ソラの幼馴染救済譚~ 作:アロンの杖
“神成家”の敷地内で繰り広げられた“ミスティオール家”との共同生活は実に四年間に渡って続いた。
互いの一家は実力的には拮抗していたし、また人間として気が合ったのだろう、付き合いも深くて確かなモノになっていたのだが。
そんな“ミスティオール家”が唐突にガリアに帰国する運びとなった、理由は西欧諸国に於ける悪魔や魔物に取り憑かれる人々の数がつとに増大しており既存の聖職者やシスター達だけでは手が足りなくなって来てしまったからである。
「いやだ!!!」
オーギュスト夫妻から話を聞いたアリスが叫んだ。
「今更ガリアになんか帰りたく無いわ?私はここが良いの、日本に残るんだから!!!」
「聞き分けておくれよ?アリス。私達だって辛いんだ・・・」
「日本は本当に良い国でしたモノね?治安は良くて清潔で。その上人々も優しかったから・・・」
オーギュストとアントワーヌが心苦しそうに告げるがアリスは全く聞き入れない。
この時点で8歳になっていた彼女はどうしてもソラと別れるのが嫌で、ただひたすらに駄々を捏ねていたのであるモノの、ただし。
本当はアリスも頭の中では解っていたのだ、これが自分の運命であり“受け入れなくてはならないモノなのだ”と言う事は。
だけど。
「それならソラも連れて行きたい。ねえパパもママも良いでしょ?ねえねえ・・・っ!!!」
「・・・そ、そんな事が出来る訳が無いだろう?第一ソラにだって日本での生活があるわけだし!!!」
「それにソラもこれからは一層、修業を頑張らなければならないってミツアキもマフユも言っていたわよ?あなたはどうするの、アリス・・・」
頭では理解していても心ではどうしても納得が出来なかった彼女はひたすら我が儘を言っては両親を困らせた、それだけではない。
オーギュストらの言葉を聞いたアリスは“それじゃあ私はシスターになるのを辞める!!!”とまで言いだしてしまい、困り果てたオーギュスト夫妻は遂に光明夫妻に助けを求めるに至った。
「アリス。良いかい?君も知っての通り、人には誰にでも必ずやるべき事があるんだ。ソラはここで“退魔士”になる運命を持って生まれて来た子供なんだ・・・」
「あなたはあなたでシスターになる定めを持っているのよ?アリスちゃん。そしてあなたはそれから逃げてはいけないわ?何故ならばそれをするとね、あなたの人生が根底から根腐れして崩れ去ってしまうからなの・・・」
「・・・・・」
「もし君がシスターにならない場合は二度とソラには会えなくなる。これは私達だけではなくてオーギュスト夫妻の卜占でも出ている事だ、君は戦うしかないんだ。定めと試練と自分自身とね・・・」
「もしもあなたが“全ての試練”を無事に乗り越えられたなら。その時にはあなたはソラと結ばれるでしょう、これは“星座神霊術”によって導き出された答えだから。間違いは無いでしょうね・・・」
大人達4人に囲まれた上に懇々と説教されたアリスは元々、自分の中では決着が付いていた事もあり渋々それを受け入れたがそんな彼女に8歳になったソラが寄り添った。
「・・・あ、あのさ?アリス」
「・・・・・」
「僕は君に、ちゃんと言っておかなくちゃならない事があるんだ・・・」
「・・・・・」
「僕もアリスと離れたくない、本当はずっと一緒にいたいんだけど・・・」
「・・・・・」
「だから約束する。僕、いっぱいいっぱい修業してうんとうんと強くなる。立派になる!!!そしたら将来、君に会いに行くよ。必ずガリアに行くから・・・」
「・・・・・っ。う、ううっ!!!」
その言葉を聞いたアリスはその場で大泣きしてしまった、ソラはビックリしてしまった、どちらかと言えば強気で快活な美少女であるアリスは人前で泣く事なんか、まず無かったからである。
喧嘩した時も遊んでいて転んだ時も、親に怒られている時だってアリスは決して泣かなかった、とにもかくにも彼女は悪戯に人前で涙を見せる子では無かったのだ。
そのアリスが泣いている、それも自分の言葉が切っ掛けになって。
「ううっ、ぐすっ。ほ、本当に。ソラは私の所に来てくれるの?何があっても約束してくれる・・・?」
「・・・うん、絶対に約束するから!!!」
「いくらなんでもお婆ちゃんになってからじゃダメだからね?大人になったら来て、絶対にだよ!!?」
「・・・うん、絶対に!!!」
「私、いっぱいいっぱい修業して。うんとうんと強くなって、あなたが来るのを待ってる。だから・・・」
「・・・・・?」
最後の言葉をアリスは言えなかった、今更かも知れないが彼女だって乙女である、流石に恥ずかしかったしそれに出来たら“その言葉”はソラから掛けて欲しかったのだ。
「ソラ、いっぱいいっぱい修業して。必ず私に会いに来てね?約束だからね!!?」
「・・・うん、約束!!!」
そう言って2人はその場で指切りをしたのだが。
後に彼等は思い知る事になる、この時の別れ等はこの後直面する試練の一端に過ぎなかったのだ、と言う事を。