二度目の人生、ゲームシステムで全てを手に入れる 作:アキラ7
蓮が新たな人生を歩み始めてから数日この間両親と病院関係者以外蓮の前に現れた人間はいないもちろん新生児だからと言うのもあるのだろうそんな場所にこの日面会者が来た。
「エミリー、体調は大丈夫?」
病室に入ってきたマーガレットは、まず娘の顔を覗き込んだ。
「うん。もう大丈夫よ。少し疲れてるけど」
「そう。よかった……」
安心したように息を吐いたマーガレットは、すぐにベッドの隣へ視線を向ける。
そこには、小さな赤ん坊が静かに眠っていた。
「それで……その子が?」
「うん」
エミリーが微笑む。
「私たちの子よ」
「まあ……」
マーガレットの顔が一気に緩んだ。
「本当に小さいわね……」
「でしょう?」
「抱いてもいい?」
「もちろん」
エミリーからそっと赤ん坊を受け取ったマーガレットは、壊れ物でも扱うように慎重に抱き上げる。
「こんにちは……」
小さな顔を覗き込みながら、嬉しそうに笑った。
「あなたのおばあちゃんよ」
その言葉を聞きながら、蓮はぼんやりと目を開けた。
この人が、母親の母親。
つまり、自分にとっての祖母。
関係性としては理解できる。
だが、まだそれ以上の実感はなかった。
「かわいい……」
マーガレットは何度も蓮の顔を眺めている。
その隣では、ロバートが少し離れたところから黙って様子を見ていた。
「ロバートも抱いてみたら?」
マーガレットが声をかける。
「……俺が?」
「あなたの孫でしょう?」
「いや、分かってるが……」
ロバートは少し困ったように笑った。
「こんなに小さいのを抱くのは久しぶりだからな」
「大丈夫よ。私だって久しぶりだったわ」
「お前は昔からこういうのは平気だっただろ」
「そうだったかしら?」
二人のやり取りを聞いて、エミリーが笑う。
「お父さん、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「……そうか」
ロバートはゆっくりと蓮を受け取った。
腕の中に収まった小さな身体を見つめる。
しばらく何も言わなかった。
やがて、ロバートが小さく呟く。
「……エミリー」
「なに?」
「お前も、こんなに小さかったんだよな」
「覚えてるの?」
「ああ」
ロバートは蓮を見たまま答えた。
「もちろん覚えてる」
「私は覚えてないわ」
「そりゃそうだろ。お前は赤ん坊だったんだから」
「ふふっ」
マーガレットが笑う。
「私たちがあなたを抱いていたのが、ついこの前みたいなのにね」
「……そうだな」
ロバートは蓮を見つめながら、少しだけ目を細めた。
娘が生まれた日のこと。
小さなエミリーを初めて抱いた日のこと。
それから時間が流れ、いつの間にか娘は大人になり、自分の家庭を持ち、母親になった。
その事実が、目の前の小さな孫によって改めて実感させられる。
「そういえば」
マーガレットがふと思い出したように尋ねた。
「この子の名前はもう決めたの?」
「うん」
エミリーが答える。
「もう決めてあるわ」
ロバートが蓮を見る。
「なんていう名前なんだ?」
エミリーは隣にいる恒一へ一度視線を向けた。
恒一も小さく頷く。
「蓮です」
「レン?」
「はい」
恒一が答える。
「漢字では『蓮』と書きます」
マーガレットが、その名前を口の中で確かめるように繰り返した。
「蓮……」
「日本の名前なのね」
「そうです」
恒一が微笑む。
「最初から、日本の名前にしたいと思っていました」
エミリーも頷く。
「私も気に入ったの」
「蓮……」
ロバートも、腕の中の孫を見ながらその名前を口にする。
「いい名前だな」
「ありがとう、お父さん」
「日本の名前って、何か意味があるの?」
マーガレットが尋ねる。
「蓮は、植物の名前なんです」
恒一が説明する。
「泥の中からでも綺麗な花を咲かせる植物で、昔から日本では特別な意味を持つ名前としても使われています」
「まあ……」
マーガレットは嬉しそうに蓮を見る。
「素敵ね」
「でしょう?」
エミリーが笑った。
「私も、その話を聞いて気に入ったの」
「エミリーがそんなに日本の名前を気に入るとは思わなかったな」
ロバートが冗談めかして言う。
「どういう意味よ?」
「いや、悪い意味じゃない」
ロバートは笑った。
「ただ、俺たちの娘が、日本人の夫と結婚して、日本の名前を付けた子供を抱いているっていうのが……なんだか不思議なだけだ」
「私も少し不思議な感じはするわ」
マーガレットが頷く。
「でも、とてもいい名前だと思う」
「ありがとう」
エミリーは嬉しそうに答えた。
「ね、恒一?」
「ああ」
恒一も蓮を見る。
「蓮って名前にしてよかったと思っています」
その会話を聞きながら、蓮は静かに目を開けていた。
蓮。
それが、この人生での自分の名前。
前世とは違う名前。
そして、今の自分を呼ぶための名前。
「蓮……」
祖母がもう一度、その名前を呼んだ。
「蓮くん」
その声を聞いて、蓮は小さく指を動かした。
「まあ、今動いたわ」
マーガレットが嬉しそうに声を上げる。
「聞こえたのかしら?」
「まだ分からないだろ」
ロバートが笑う。
「でも、返事をしてくれたみたいで嬉しいわ」
エミリーも微笑みながら、蓮の小さな手を見つめていた。
蓮はそんな三人を順番に眺める。
母親。
父親。
祖父。
祖母。
関係としては、もう理解できている。
ただ、それを自分自身の「家族」として実感するには、まだ少し時間が必要だった。
前世では、自分にも家族がいた。
だから、家族というものがどういうものなのかは知っている。
けれど、この人たちとの関係は、まだ始まったばかりだ。
それでも――
「蓮」
母親が優しく名前を呼ぶ。
その名前だけは、少しずつ自分のものになっていく気がした。