【R-18】掟の底食い 作:ちわわのちくわ、
夜の海に浮かぶ小舟には、一体の女性の遺体と一人の男が乗っていた。
違いは性別と、命があるかないかだけだ。どちらも薄汚れて酷く痩せこけ、全身に無数の傷跡が刻まれている。
けれど月光に照らされた二人の顔は、どちらも薄く満たされていた。
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この小さな孤島の村では、晴れの日ほど不安が蔓延する。
海霧が裂けて空が見えると、沖まで見えてしまうからだ。いつものじっとりとした海霧が隠す水平線が暴かれ、まるで外界があるように錯覚してしまう。
そんなものは無い。
この村の海は浅瀬の先でどうしようもなく終わっている。
誰も沖へは行かない。沖に出れば、戻ってこないと決まっている。なぜなら底食いと呼ばれる海の大蛇が、島をぐるりと囲っているからだ。
だから稀の晴れの日は、村全体が沈み込む。底喰いの姿を目にしてしまわないか不安でしかたがない。
代々の村長から伝わる話が心の奥底でとぐろを巻いて、口からでてしまいそうになる。
孤島を覆う陰鬱は海霧だけではなかった。
畑と呼ばれる場所では背の低い葉がいつも斜めに倒れたまま揺れている。この痩せ地と薄暗い陽の下でかろうじて育つ、頼りない芋と豆だ。
外界との接触は当然無く、どこかの港町で言うような香辛料だの砂糖だの、そんなものは言葉すら存在しない。
海も豊かではなかった。
浅瀬で小舟を出して漁をしても上がるのは小魚が数匹。貝は拾えるが、身は小さい。多少の海藻は取れるが。
沖へさえ出られればと誰もが思うが、底喰いの存在と、そもそも沖での漁の技術が無い。
腹を満たすための細い野菜、浅瀬で捕れる小さな魚介、それと底の存在でかろうじて生きながらえていた。
「では、分配を始める」
村の広場で村長が声高に言った。晴れた朝ということもあって、少し上擦っている。
広場といっても、みすぼらしい家が数軒分並ぶだけの場所だ。湿った板切れでできた村。水は井戸一本。一日に汲める量は決められている。
この孤島に住む村民の十数人が一堂に会するのはこの時だけだ。
籠を持った各家庭の家長が頭を下げ、一歩前に出る。
分配は村長の妻の役割だ。質の悪い麻の服を着る他の村民と違い、珍しく漂着した色付きの服を着ている。
そしてゆっくりと集められた食料を手に取る。彼女は待たせるのが好きなのだ。すぐには配らない。
「……今日はまた一段と魚が少ないねえ」
漁に出ていた男が、こらえるように歯をかみしめる。
村長の妻はため息交じりで続けた。
「まあ、晴れてちゃ仕方ないか。これはお前んとこ」
魚が籠に置かれる。
深く頭を下げ、籠に伝わる重みを確認した。
「ありがとうございます」
そうして分配が行われるあいだ、村長と村長の妻と娘は与える側である優越を実感するのだ。
与えられる側の一家は、ぎょろぎょろと他の家庭に分配される食料や魚油などの物資の量を見比べる。
固定化された支配構造、慢性的な飢えと生そのものへの苦しみ、閉塞感に打開の未来は無く、まさしく無限に落ちる奈落、底なしの絶望だった。
だから、村は底を用意していた。
この貧しさから正気を保つため、自らよりも下が確かにいると踏みしめて確かめるための底を。
分配の後の、村の唯一にして最大の娯楽。隣家に配られた小さな豆の量の差異に対する恨みなど、容易に飲み込めるもの。
村長は大仰に両腕を広げて語りだす。
「遠い昔、愚か者が沖へ船を出した。もっと魚が獲れると、腹が満たされると。願い叶ってそいつの船は大魚で満たされ、そして沈んだ! なぜかわかるか?」
それを合図に、広場から離れたところから二人の底がゆっくりと歩み寄る。
村民が胸の高鳴りにそわそわしだす。
「そいつは底食いの罰を受けたのだ! 底食いの望む、われわれの苦しみを手放したから。満たされたから罰を受けた!」
侮蔑と、憎しみすら覚えるほどの村民たちの視線を受けながら、二人の底は村長の前へ歩み寄る。
中年の女と若い男。ぼさぼさの髪で、村でもひと際やせ細っており、言われなければ年齢もわからないほどだ。着ているものはボロ雑巾のようで、これに比べれば村民の衣類でさえ立派に見える。
「だから! われわれの祖先は、厳格にして大いなる掟をこの地に定めた。底食いに捧げる為の……片時も満たされず、苦しみ続ける入れ物を!」
二人の底が跪くと、村長の妻は別の桶を振って食料を放る。放るというより捨てた。
「ほら、早く拾え」
村長の娘が嗜虐をにじませた口調で吐き捨てる。
「また踏みつぶされたいの?」
村民たちの爛爛とした目は興奮で血走っている。
女の底が慌てて拾うと、泥に落ちた芋は押せば沈むような柔らかさだった。湿気で傷んだのだろう。腐った匂いが鼻に刺さる。
食糧難のこの村では、意図しなければ貴重な食料を腐らせることはない。底は決して、欠片も満たされる事を許されていないが故だった。
その様子を見れば、芋が不味かろうが魚が小さかろうが些細な問題だ。底に比べれば遥かに上等な生活ではないか。
それに、あんなものをありがたがって食うさまを考えると、滑稽にすら思えてくる。うっすらとした嘲笑が広場に満ちた。隠しているが、勃起しているものさえいる。
足早に去ろうとする底に、子供が正義感にも似た感情で石を投げた。大人もそれに続く。
骨ばった底の身体がゴツゴツと音を立てる。流血しようが構わなかった。
この村という大穴に石を投げ入れて音がすれば、自分たちの下に確かに底が存在することを確信できるのだから。
どれほど殴られ、人としての尊厳を失っても底は決して反抗せず、どのような扱いにも声を上げることも無かった。
これは掟なのだ。
『底は苦痛の入れ物であり、死ぬまでその任を降りることはできない』
役目を終えれば、新たな底を村長が命じる。村民は、それが未来の自分かもしれないとわかっていながらも、今を精一杯愉しむしかないのだ。
島のはずれ。波飛沫が吹き付ける岩礁の近くに、二人の底のねぐらがあった。
男の底は女が底の任の間に産んだものであったが、二人の関係は極めて淡白であった。
女には親としてふるまう為の余裕が精神的にも肉体的にも無かったし、親子という関係性に何かを求めることは子に負担がかかるので、事実は伏していた。
言うなれば仲間に近かった。掟に耐えるため、同じ穴の底で背を預け、互いに崩れ落ちぬよう立っているだけの仲間。
その日の夜。男の底は静かにねぐらを抜け出す。
背にぼそりと乾いた声が投げかけられた。
「私が死んだら、体は海に流して」
男の底は振り返る。女の底は背を向けたまま横になっており、その表情はわからない。
「死んでまでここにいたくないから」
「わかった」
それだけ言うと海辺へ向かう。
砂浜を踏みしめる。柔らかいから好きだった。この島において、女の底を除けばそれだけが傷つけてこないから。
夜の水面に足首まで浸かる。黒い海は夜空との水平線を曖昧にさせていた。
晴れた日の夜は空に浮かぶ輝きがよく見えるので、男の底は密やかに通っていたのだ。そうして考えを巡らせるのが好きだった。
ここ以外の場所、そして人に。
食べ物は芋と豆と小魚以外にあるのだろうか? 胸の奥に、苦しみや憎しみ以外の感情を抱えて生きている人はいるのだろうか。
掟さえ無ければ向かってみたいが、だから男の底は遠い遠い空を眺めるだけだった。
あの空に輝く点と同じくらいの島と人と会ってみたい。
こつり、と足に何かが当たった。
最初は木片かと思ったが、形が明らかに違う。引き上げてみると手で抱えるほどの大きさで、丸く、表面には直線で複雑な対称模様が浮かんでいる。
そして色が異様だった。月明かりの下でも黒い。まるで今しがたこの夜の海が産み落としたかのような黒さだ。
男の底はしばらく動けなかった。この村の誰も、おそらくこれが何かわからないだろう。
手触りからして石などではなく、豆のような種類に近い気がする。
周囲をそろりと見渡す。誰もいない。夜も更けているし、海霧が出ていないのに好き好んで海辺に近づく者はいないだろう。
食べられるなら……
女の底にあげたいな、と男の底は思った。
めったに頼み事をしない彼女が少し心配だった。これを食べれば少しは元気が出るかもしれない。
晴れの海で得た不吉な物なのだから、底食いの怒りを買うこともないだろう。
少なくとも村人は嫌うはず。
大抵の物は食べられるが、毒見に一口かじった。
口に今までに感じたことのない味が広がるが表現できない。その言葉を知らないから。しかしこれは良い食べ物だと帰路を急ぐ。
ねぐらに戻ると女の底は死んでいた。
男の底が覚えた胸中は、一人になった寂しさと任を解かれたことへの祝福だった。
亡骸を背負い、男の底は村長の家の戸を叩く。
就寝の邪魔をされた不機嫌さを隠そうともせず、村長が出てくる。
「なんだ、夜中に」
男の底が、背の亡骸を指す。
「死んだのか……じゃあ、まあ、お前は引き続きがんばれよ」
男は黙って頷いた。次いで家の中に立てかけてある櫂を指す。村長が管理するもので、漁を行う者はうやうやしく承認を得る暗黙の了解であった。
「船? ……ああ、死体を海に捨てたいのか。お前、使えるのか?」
「ダメだよ!」
奥から船長の妻が険しい表情で吐き捨てるように言った。
「その女の死体は海辺で磔にしとくんだよ! おまえがやっときな!」
底は少し、胸の奥が冷え込んだ気がした。最後の頼みを叶えてやれなかった事に対して。
「そうすりゃ少しでも底食いが満足するだろうからね!」
誰も、言った本人すらその言葉がもたらした重要性を理解していなかった。底を除いて。
底の胸の奥に、まだ知らない情感が灯る。
非可逆的に、底だった彼の現実が融解してゆく。
村長は妻のわがままに、少し困ったような顔をしたが揉めるのも面倒そうだ。
「じゃあそういう事だから、頼んだぞ」
それだけ言って閉ざされかけた戸を、彼は掴む。
「ちょっと! 触らないでよ穢れたじゃない!」
村長の娘が家の中から金切り声を上げる。村長が怒りに任せて彼を蹴り飛ばした。亡骸と共に地面に転がる。
「おまえわかってるのか!? 楯突きやがって、何の為の底だ? お前が黙って村の為に苦しみの受け皿になんなきゃ、村が滅んじまうんだぞ!」
次第に何事かと村民が家から顔をのぞかせる。
彼は体を丸めて暴行に耐えた。
違う、それはいい。底である事に文句は無い。掟に忠実な一生を送る事に問題はなかった。
ただ、すでに彼の世界は別の規則で動き出していたのだ。
彼は初めて、声を上げた。
「
村長は初めて彼の声を聞いた。怒りの中にあっても、存外美しいとさえ感じてしまう。
それに奇妙な事が起きた。村長は彼を広場まで引きずり、おとなしくなるまで蹴ろうと思っていたのに今では全くそうする気がしない。
「さっき掟を壊した」
「は? あぁ?」
彼はゆっくり立ち上がる。
「底の任は、死ぬまで……死んでも底食いの為に使うのは掟に反する」
「あー……じゃあ今からその掟に追加して」
「掟はもう、壊れたから」
「だから何だ? それでおまえが底じゃなくなるわけじゃねえんだよ!」
「
怒鳴るでもなく、脅しとも思えない。ただただ色の無い言葉が皮膚を通り抜けて骨に触れたように、身体の内側から動きが止まった。
村長は眉をひそめようとしたがそれすらも叶わず、舌は柔らかさを失ってしまったかのようで、喉元まで上がっていた怒号は立ち消えた。
背中に冷たい汗が滲む。
眼球だけがせわしなく動き、様子をうかがっている村民たちに必死に助けを求めるが、その異様な光景は誰の目に見ても尋常ではなかった。巻き込まれたくないし、誰もが、いっそ死ねばいいとさえ思って顛末を待っている。
彼は亡骸を背負いなおし、村長の家に上がり込む。
村長の妻は、それを見た瞬間に顔色を失った。
相手は痩せこけた底とは言え、自分で立ち向かう勇気は無かった。
「……ひっ……!」
喉の奥で何かが鳴り、ようやく声になる。
「だ、だれ……誰か……! 誰でもいいから! 底があたしたちに復讐しにきてるんだよお!」
娘が震える声で叫ぶ。
「お父さん! お父さん、何とかして!」
ほとんど半狂乱となった村長の妻が、娘の頭を掴む。
「ま、待って娘をやるから命だけは」
「お母さん!?」
ぼろ切れで隠された彼の股間に娘の顔を押し付ける。
「んんん」
「いいから咥えるんだよ! 死にたいのかいッ!」
それは彼にとってまったく未知の体験だった。柔らかい唇や頬の感触に陰茎が固くなる。
「はぁッ、いやっいやだぁ。んぶゅぅ」
「このままじゃあ二人とも殺されちまうだろ、親孝行ってもんをしなっ」
そうして女の口腔に勃起したイチモツが無理やりねじ込まれた。
薄汚いそれを喉奥まで入れられ、嘔吐感と苦しさで涙が出てきた。手が震えている。
「ど、どうだい。口でするのは悪くないだろ? え?」
「待っで、息がっ出来なっ……んん死ぬぅ、っぶぅ」
「口で出来ないなら死になっ、バカ娘が、もっと、奥までっ、飲み込むんだよ!」
道具のように娘の頭を動かし、彼が小さく呻いたのを待ってから引き抜いてやる。
娘の口から、もわりと性臭が立ち上る。
「は、はは。ずいぶん気持ちよかったみたいだね。娘がいりゃあ毎日出来るよ、だからわたしは」
娘が桶で村長の母の頭を殴打した。
「屑がっ、死ねっババアッ!」
吐き捨てて、後ろから羽交い締めにする。半笑いで言った。
「おい底、こいつの股に穴があるから、さっきみたいにチンコを突っ込んでごらんよ」
「う……親に向かって……やめ、ろ」
彼はさきほどの体験が気に入っていた。似たようなものかと試してみたくなって亡骸を横に置く。
脚を開き、娘の涎まみれの男根を言われるがままねじ込む。さきほど村長の母が娘の頭を動かしたように、今度は彼が動いてみた。
「ぬけっ、薄汚い、底が、あ。あぁ」
「おい、おまえの母親がなんで底に選ばれたから知ってる? うちのお母さんがね、自分より美人だったから底に落としたんだよ!」
彼には娘が言っている意味がわからなかった。
「うぁっ、ころして、やるっ! くそ、あ、底が調子にのるんじゃないよ」
村長の妻は憎しみと屈辱に涙を浮かべ、顔をそらすと引き攣った息を詰まらせる。視線の先では亡骸となった女の双眸が爛爛としていた。
灯皿の魚油が揺れ、薄い炎がふっと伸びる。光が一瞬だけ明るくなって、女の痩せこけた頬骨をなぞった。
「ひっひぅ……!」
村長の妻はただただ恐怖して狂ったように息を吸い続ける。
今、たしかに唇が吊り上がって、いや影のせいだ。炎のせいだ。そう思おうとした瞬間、光がまた揺れて、今度は確かに怨讐の嘲笑いが残った。
村長の家から、おぞましい絶叫が村に響いた。
錯乱した二人を置いて、彼は亡骸と櫂、それに食料と筒に入った水を持って家を出た。玄関でじっとしたままの村長を横目で見る。
村長は、底に娘を差し出した妻とその後に犯された様子を見ることは無かったが、その狂乱の声はいつまでも耳にこびりついて離れなかった。
一瞬、怒りで煮えたぎる目と視線を交わすが、彼はかまわなかった。村を出ようとして、振り向く。夜の空気を思い切り肺に入れた。
「掟は村長によって壊された」
村人たちは身じろぎして、固唾を飲む。
「もしも誰かが底を作ったら、そいつを村長と同じ目に遭わせる。俺は島を出るが追ってくるな」
返事など期待せずにねぐらに寄って実を回収して浜に向かう。村に一隻しかない小舟に、彼の持つすべてを乗せた。
細い身体で押し出し、見よう見まねで櫂を操る。
振り返ると何人かがその様子を見に追って来ていた。底食いの餌食になるのを期待しているのか、はたまた絶望から脱する羨望の眼差しか。
やがて浅瀬を抜ける。水が冷たくなる。底が見えなくなる。土の匂いがなくなる。
そうして島は遠ざかった。肌にまとわりつくような陰鬱さも、掟も。
櫂が水を裂く音が、必要以上に大きく聞こえた。海はあまりにも静かで逃げ場が無いことを、彼は初めて知った。
もういつ底食いが現れてもおかしくない。櫂を置いた。
舟板がきしむ。何かが下に潜んでいる気がする。
彼は怖くなって、亡骸の手を握った。冷たく骨ばっているそれは、もう握り返してくれない。
いつ底食いがこの小舟を突き上げてくるかわからない。わからないが、望んでいた外で死ぬなら悪くない気がした。
するといくばくかは恐怖が薄まって、ふいに村長の娘が言っていたことを思い返す。
「あんたは、俺の母親だったんだな」
事実を知っても別段親子の情のようなものは湧かなかったが、仲間としての恩がある。
彼は亡骸の口を開き、持ってきた水筒から水を飲ませてやり、拾った実と腐っていない芋と焼き魚を口いっぱいに詰め込んでやった。
「俺はあんたの頼みを叶えた。だから今度は俺の頼みを聞いてくれ」
彼は亡骸を抱えなおし、海に添える。
「俺はあの島以外の場所に行きたい、あの島の人間以外の人に会ってみたい。外があるとして、すべてがあの島と同じではないと信じたいんだ」
亡骸は夜の海に抱かれ、小舟の波間に静かに揺れた。柔らかなうねりが身体を撫で、映る月光の白き鏡面に安らかに消えた。
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ぎらぎらと照りつける太陽の下。波にぷかぷかと揺れる小舟の上で、一人の若い女が空っぽの水筒を逆さにして振っていた。何度確かめようが水滴ひとつ落ちてくる気配はない。
歳は十代半ばほど。少しやつれていはいるが、ぴったりとしたシャツは豊満な胸を目立たせ、短いスカートから伸びる脚はしなやかだった。
海風に揺れる髪は熟れた蜜柑のような色をしていて、子猫のような瞳は自嘲気味に足元へと向けられた。
そこには奪い取ったばかりのお宝がたんまりと詰まった、重たい袋が転がっている。
(あの状況なら、お宝ではなく食料箱を優先すべきだったわね。泥棒猫ナミの名が廃るわ)
金貨は腹を満たさないし紙幣は喉の渇きを癒してくれない。
(あとちょっとで、街に着くはずなんだけど……どうして、おかしいわ)
視界が朦朧とする中で、水平線の上に黒い点を見た。
喉の渇きと空腹のせいで、視界がチカチカと朧げに歪み始める。
ナミがそのまま意識を失いそうになった、その時。
真っ青な昼の水平線の向こう側に、ゆらゆらと揺れる小さな黒い点が、ぽつりと浮かび上がるのが見えた。
小さく、あまりにも粗末な船だ。
同名のR-18要素の無いものが年齢区分 全年齢に投稿されています。
投稿頻度と日時、話の筋は同じなのでお好きな方をどうぞ。
R-18要素は第三話からとなります。