授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、教室に一息つく気配が充満する。
「太郎!また今度捜そうな!」
村野は言うだけ言って教室を飛び出していった。やれやれ。そんなに急がなくてもいいと思うんだが……少し羨ましい。熱中できるモノがあるなんて……しっとりした気持ちで嫁入り道具を鞄に詰め込み、教室をあとにした。
学校からの帰り道。どこかで道を曲がり損ねたのか?はたまた、一つ二つ前の道に入ってしまったのか?周囲の景色に見覚えがない。ときどき振り返って行きと同じか確認したのだけれど……迷った?
「メンド!来た道、また戻んの?」
太郎は来た道を戻って、見覚えのある景色をキョロキョロ探し回る羽目になった。
段々苛ついてきた。自分自身に。何度転校しても、町に馴染むのを方向音痴が邪魔をする。
「滝くん」
背後から山水のような涼しい声をかけられる。振り返ると綾野翼さんと目が合った。
転校生の太郎に、あれこれ教えてくれたクラスメイトだ。
「あっ、どもども」
「どもどもvどうしたの?」
「いやはや……」
「もしかして、迷ったの?転校したばっかりだし」
綾野は近づきながら、太郎に話しかけた。長い黒髪から甘い香りが漂ってきて、興奮した。
「はい、そうです……」
「わかるよぉ。私も同じだったから」
「綾野さんも転校してきたんだっけ、こっちに」
「そうだよ。滝くんの家って、たぶん私の帰り道の途中だし送るよ」
今日はラッキーデイv転校初日に超戦士を見かけるし、クラスの美少女と一緒に帰れるしで最高だな!浮かれて綾野について歩いていると、登校途中に見かけた公園を見つけた。後ろを振り返って来た道の景色を確認する。見覚えある。
「今朝もこの道を通ったの?」
「うん。僕ちん家、この公園の近くなんだ。有り難う、助かりました。学校んとき含めて」
「善意は善行にしなきゃ意味がないでしょ?いこう」
それから綾野は家の前まで送ってくれた。太郎はお礼にファミレスで食事に誘った。
「それは、奢りを期待しても……」
「もちろん!奢らせてください」
「ゴチになります!」
この女……間違いない。僕ちんに惚れている。そんな妄想をしながら店に入り、タブレットに注文をタップすると、綾野は変態という名の紳士を見るような目をしていた。
「どしたんす?」
「あの店員さん、隣のクラスかも」
太郎は綾野の目線の先にいる店員をみつめた。転校したばかりの太郎には何もわからなかった。だがわかることもある。勝ち気な目つきの美人系だ。おそらく雌犬。
「校則でバイト禁止なのに……」
「あー、チクったと思われるのは嫌だよね?」
「失礼な!心配しただけです!」
綾野は小ぶりな胸の前で×を作った。そして、二人は笑い合った。そこには確かに暖かい時間が流れていた。心が少しだけ繋がった。今日はラッキーデイ!