草戦車道始めました❤️ガールズ&パンツァー アナザーストーリー 作:みなぽん
「朱美! 戦車通学なんて、不良がやることよ! お母さんに恥をかかせないでちょうだい!」
朝の玄関に、母・美里の声が響いた。
冷たい声だった。
怒鳴っているわけではない。むしろ感情を抑え込んでいるからこそ、その言葉には鋭い棘があった。
土方朱美は返事をしなかった。
玄関に置かれた鞄を乱暴につかみ、靴を履く。肩まで届くセミロングの黒髪。その中には、高校入学を機に赤く染めた一房が混じっている。
高校デビュー。
それが、今の朱美を知る人間の大半が彼女に下す評価だった。
中学時代までは、ごく普通の少女だった。
だが今の彼女は違う。
少し大きめの制服を着崩し、鋭い目つきで周囲を睨み、母親の言うことなど聞かない。
もっとも、その反抗の奥底には、誰にも見せたくない傷があった。
「……行ってきます」
それだけを言うと、朱美は玄関を飛び出した。
帰ってきた。帰って
背中に母の視線を感じながら、彼女は荒川河川敷へ向かった。
土手の向こうには、朝の東京が広がっている。
通勤電車の音。
遠くを走るトラック。
河川敷を散歩する老人。
そして、その中には、この街ではあまりにも場違いな鉄の塊が一台あった。
旧日本陸軍の九七式中戦車――通称、チハ。
朱美は迷いなく車体へ近づいた。
「……やっぱり、こいつが一番落ち着くわ」
ハッチを開け、鋼鉄の車内へ身体を滑り込ませる。
金属の匂い。
油の匂い。
古びた機械の振動。
外の世界とは隔絶された狭い車内に入ると、不思議と心が静かになった。
分厚い装甲板が、外界との間に壁を作ってくれる。
誰にも踏み込まれない。
誰にも説教されない。
ここだけが、自分の居場所だった。
「……行くか」
エンジンを始動させる。
古いディーゼルエンジンが、低く唸った。
本来の九七式中戦車は、現代の道路を走るには決して速い車両ではない。搭載されている47ミリ戦車砲も、第二次世界大戦初期の戦車としては優れた火力を持っていたが、現代の戦車と比較すれば隔世の感がある。
最高速度もおよそ38キロ。
しかし、このチハは普通のチハではなかった。
「沖田スペシャル」と朱美たちが呼ぶ、徹底的な魔改造が施されていた。
改造したのは、沖田操。
小柄で、いつも眠そうな顔をしている少女だった。
車体前面の主要装甲を残し、それ以外を軽量化。
駆動系も徹底的に見直し、不要な装備を取り外して重量を削った。
その結果、旧式戦車とは思えないほど軽快な走りを手に入れている。
もちろん、代償も大きい。
防御力を犠牲にしているため、本格的な戦闘になれば弱点は多い。
それでも――。
「速ければ、逃げられるからねぇ」
以前、操はそう言って笑っていた。
朱美はその言葉を気に入っていた。
逃げてもいい。
生き残ればいい。
そう言ってくれているような気がしたからだ。
チハは荒川沿いを走り出した。
朝の河川敷を、巨大な鉄の車体がゆっくりと進んでいく。
やがて西台方面へ差しかかったところで、土手の下から声が飛んできた。
「朱美、おはよーー!」
間の抜けた声だった。
朱美が顔を上げる。
階段を上ってくる、小柄な少女がいた。
沖田操。
ふわりとした茶色がかった髪に、眠そうな目。
服装も仕草も、どこかぼんやりしている。
クラスメイトからは「絶対に何も考えていない」と誤解されることも多い。
本人も否定しない。
「おはよ。遅いぞ、操」
「ごめんごめん。途中でパン屋さん見つけたからぁ」
「朝から食い物かよ」
「朝だから食べるんだよぉ」
操は悪びれもせず、チハの車体へよじ登った。
そして、整備用の工具箱を確認すると、満足そうに頷く。
この少女には、妙な才能があった。
機械のことになると、別人のように目が冴える。
エンジンの音を聞くだけで調子を判断し、異常な振動があれば原因を言い当てる。
戦車の構造を理解し、古い部品を加工して使える状態にする技術も持っていた。
「操は相変わらずの無駄美人だな」
朱美が言うと、操はきょとんとした。
「朱美こそ、高校デビューのヤンキーなんてもったいないよぉ」
「うるさい」
「だって普通にしてたほうが可愛いのに」
「……そういうこと言うな」
朱美は少しだけ顔を背けた。
操は笑った。
二人は幼いころからの友人だった。
だからこそ、操には分かっていた。
朱美がなぜ、こんなふうに変わってしまったのか。
操自身も、決して平穏な家庭で育ったわけではない。
父親は家族経営の自動車整備工場を経営していたが、経営に失敗して工場は倒産した。
その後、父親は家族の前から姿を消した。
家庭には大きな空白だけが残った。
再婚した義母も、操に深く関わろうとはしなかった。
だから操は、自分のことは自分でやるしかなかった。
朝食も自分で用意する。
制服も自分で整える。
そして、壊れた機械も自分で直す。
今朝も彼女は射撃手席に収まり、コンビニで買った菓子パンを頬張っていた。
「そういえば、イサミちゃんからメール来てた」
「なんて?」
「高島平駅前で乗るって」
「了解」
朱美は操からスマートフォンを受け取って画面を確認した。
近藤イサミ。
高島平にある近藤道場の一人娘で、二人より一学年上。
近藤家は代々、天然理心流の剣術を伝えている。
もっとも、道場だけで生活しているわけではない。
近藤家の本業は調剤薬局であり、道場は地域の子供たちに剣術を教える場所として長く続いていた。
イサミは、いかにも学級委員長らしい少女だった。
眼鏡の似合いそうな知的な雰囲気。
整った黒髪。
落ち着いた物腰。
しかし堅苦しいところはなく、誰に対しても大らかだった。
そして何より、芯が強い。
朱美と操が小学生のころから道場に通っていたため、三人は姉妹のように育った。
やがて高島平駅前が見えてくる。
駅前で待っていた少女がこちらに気づいた。
「おはよう、朱美。操」
イサミが手を振った。
「おっせーぞ、イサミ」
「ごめんなさい。祖父の手伝いをしていたの」
そう言いながら、イサミは慣れた動作でチハへ近づいた。
車体へ手をかけ、ハッチから操縦席へ身体を滑り込ませる。
「よいしょ……」
ハッチが閉じられる。
次の瞬間、チハの挙動が変わった。
エンジンの音を聞きながら、イサミが微妙なアクセル操作をする。
古い戦車とは思えないほど、車体が滑らかに動き始めた。
「やっぱりイサミが運転すると違うな」
朱美は車長席から操縦席を見下ろした。
この戦車は、もともとイサミの祖父である近藤周斎が所有していたものだった。
八十を越えた周斎は、自分で操縦することに危険を感じるようになり、孫たちに譲ったのだ。
結果として、この古いチハは三人の通学の足になった。
「それじゃ、学校まで行きましょう」
「おう!」
朱美が答える。
エンジン音が荒川の朝へ響き渡った。
目的地は、板橋区にある赤塚女子商業高校。
三人にとっては、ごく普通の通学だった。
ただし――。
普通の女子高生なら、電車や自転車で通うところを、彼女たちは九七式中戦車で通っている。
それだけの違いだった。
車長席に座った朱美は、ふと二人を見た。
操は相変わらずぼんやりしている。
イサミは前方を見ながら、慎重に操縦している。
この二人と一緒にいると、朱美は不思議と安心できた。
家では感じられない安心感だった。
母親とは、もう何日もまともに話していない。
きっかけは、半年前の出来事だった。
中学三年生。
高校受験を控えた、ただでさえ不安定な時期。
朱美は家庭教師として家にやってきた大学生、上田淳に強い違和感を抱いていた。
大学三年生で、ラグビー部に所属する体格の大きな男だった。
家庭教師紹介所を通じて派遣されてきた人物だったが、勉強よりも自分の話ばかりする。
距離の取り方も馴れ馴れしかった。
朱美は最初から好きになれなかった。
そして、もう一つ。
母・美里の態度だった。
上田が来るようになってから、母は妙に浮き足立つようになった。
服装を気にする。
髪を整える。
上田が帰ったあとには、普段なら見せないような表情をする。
中学生だった朱美にも、それが何を意味するのかくらいは分かった。
ある夜。
朱美は偶然、母と上田が二人きりで話しているところを見てしまった。
聞いてはいけない会話だった。
見てはいけない光景だった。
その瞬間、朱美の中で何かが壊れた。
母親に対する尊敬。
家族というものへの信頼。
そして、自分が守られているという感覚。
全部が、音を立てて崩れていった。
それ以来、母と朱美の間には、埋められない溝ができた。
そして朱美は、高校入学を境に髪を染めた。
制服を着崩した。
戦車に乗った。
「不良になった」と母は言った。
だが朱美自身は、そう思っていなかった。
これは反抗だ。
確かに反抗だ。
けれど、それだけではない。
自分が自分でいるための、最後の砦だった。
「朱美」
前方から操の声がした。
「なに?」
「今日、放課後どうする?」
「……どうするかな」
朱美は空を見上げた。
雲ひとつない青空だった。
「とりあえず、学校行ってから考えようぜ」
「うん」
操が笑う。
イサミも小さく笑った。
三人を乗せた古いチハは、朝の東京をゆっくりと進んでいく。
誰も知らない。
この三人が、これからどんな騒動に巻き込まれていくのか。
そして朱美自身も、まだ知らなかった。
⭐️毒親
母は三十五歳女としての盛りを迎えていた。その容姿は今なお二十代後半と見紛うほどで、朱美はそれを密かな誇りに思ってきた。
けれど、夫に隠れて若い男に媚態を見せる母の姿は娘の目にひどく醜く映った。
そして今日、体調を崩して学校を早退した朱美は自宅で目を疑う光景に遭遇してしまったのである。
白昼だというのに、玄関には上田の無骨な靴が鎮座していた。
リビングの奥からは、母のくぐもった声が漏れ聞こえる。
扉のわずかな隙間から朱美が息を潛めて覗き込むと、ソファの合間に女の白い脚がのぞいた。つま先がピンと伸ばされ、小刻みに震えている。
さらに角度を変えて視線を這わせれば、今度はチョコレート色に日焼けした上田の臀部が目に飛び込んできた。毛深いその尻が、母のむっちりと白い太腿の間で弾むように律動している。
母の茂みの奥深くその割れ目からは、ねっとりとした雪解け水のようなものが滲み出ていた。平凡な主婦の仮面の下に潛んでいた、女の浅ましい欲望が今まさにその貌を現しつつある。
「ああ……いい、だめ……私には夫も、娘もいるのに……ああ、ひぃっ」
ずぶり、ずぶり、ずぶり。黒光りする逞しい陰茎が母を容赦なく貫いていた。
そして、母の花園は滴り落ちるほどに愛液を溢れさせ、若い男の一物を嬉々として咥え込んでいる。
「ああ、上田くん!素敵……あれほど出したのに、まだこんなに逞しいなんて。美里はあなたの女になってしまいそう……。ああ、もっと深く貫いて。美里のこの場所を、あなたの形に刻みつけて……ああ、気持ちいい! イってしまう……すごく、いい……ああっ、イくっ……!」
「おらっ! しっかり腰を振らなきゃ、途中でやめちまうぞおばさん。もっと抉ってほしいんだろ? その欲求不満な淫らな場所で! だったらもっと腰を使えよ! 娘が学校に行ってる隙に、家庭教師を咥え込むような淫乱な女なんだからな!」
上田が、奴隷を従える主のような表情で唇の端を歪め、母の白い臀部の肉を乱暴に鷲掴みにする。
「ひぃっ……やります、腰を振りますから……! 美里の、この場所は上田くんだけの専用のものです……。ああ、ひぅっ……お願い……あなたの若い精を、美里の汚れた場所に注いで……美里をめちゃくちゃにして……イく、イく、イッちゃうぅ……!」
「美里! あんたの熟れた場所は、よく俺のを締め付ける! 気持ちいい穴だからな、しばらく使ってやるよ! ほら俺に出されてイけ、射精るぞ……っ!」
上田が激しく腰を打ちつけ母の最奥にどくどくと精を放つ。
母の口がだらしなく開き唾液を垂らしながら絶頂へと沈む様を、朱美は嫌悪のこもった目で見つめていた。
しかし、それとは裏腹に自身の下肢からも、どうしようもない疼きが込み上げてくるのを、朱美は感じていた。
カチャン。
手にした家の鍵が、フローリングの床に落ちた。
しまった、と思った刹那敏捷な肉食獣のように上田が反応し、リビングの扉を開け放つと朱美の首根っこを掴みあげた。獅子に捕らえられた小鹿のように、彼女は押さえつけられる。
首が折れるかと思うほどの強い力に、彼女は怯えた。
「覗き見とはいけない子だね。君は、見ちゃいけないものを見ちゃったね」
怖い顔で上田が睨みつける。
「私、ここで見たこと、お父さんには言いませんから……許してください……」
彼女は母に救いを求めるように目線を送った。
しかし、母の口からは信じられない言葉が飛び出した。
「上田さん! この子が余計なことを言えないように、犯してしまってください。親子ともども上田さんの女になればいいんじゃないかしら。ね、朱美も上田先生のこと好きでしょう?」
母の答えは、全くの予想外だった。母はもはや家族の一員から、上田のためだけの雌奴隷に成り下がっていたのだ。
「母親公認で娘を犯すなんて! たまらないね、ぐふふ」
上田は朱美を抱きしめると唇を奪い、あまつさえ舌を捩じ込んでくる。
「いや……ん、むぐぅ……んん、いやっ……!」
上田の体を必死に振り払おうとする朱美の体を、母親の美里が押さえつけた。
「朱美、最初は怖いけどすぐに病みつきになるわ。上田先生ったら、ほんとうにすごいんだから……」
そう言うと彼女は我が子の服を脱がせにかかる。幼い頃、優しく着替えを手伝ってくれた母とはまるで違う。上田に諂い、彼の意向を雌犬のように忖度し気に入られることで再び彼に犯されたいと願う、浅ましい欲望が透けて見えた。
朱美の未熟な乳房、そしてまだ幼さを残す腰つきが圧倒的な肉体を誇る上田の眼前に晒される。妖精と巨獣のような、あまりにも対照的な姿だった。
そして朱美を、豊満な体つきの美里が押し倒した。
「うふふ、朱美。お母さんが女の子が一番気持ちいい場所、教えてあげるからね。親子だもの弱いところもきっと似てるはずよ」
そう言うと彼女は娘の乳房を弄び始める。朱美の好む優しい愛撫から、乳首の勃起に合わせて焦らすような刺激へと変わっていく。自慰とは比べものにならないほどの快楽が、彼女を翻弄した。
そして、母の長い指がまだ誰にも触れさせたことのない未踏の割れ目をそっとなぞりあげた。
「あ……ああ……」
朱美の口から、くぐもった声が漏れた。
母の手管は想像以上だった。心は拒絶しても、身体が抗えずに受け入れてしまう。母の指は巧みに敏感な蕾を嬲り、入り口をくちゅくちゅとくすぐった。
朱美は、あまりの快感に全身が蕩けてしまいそうだった。
「ああ……お母さん、やめて……恥ずかしいよ……恥ずかしい……ああ、イッちゃう……ああっ」
母の美里は、娘を着実に絶頂へと追い詰めていった。
しかし、頂点に達する寸前で何度も意地悪く寸止めをされる。
「お願い、お母さん……意地悪しないで……朱美をイかせて……!」
朱美は母の乳房に夢中で縋りつきながら言った。
「だめよ、朱美。イきたかったら上田さんのおちんちんをおねだりしなさい!」
そう言うと母は、上田の前で娘の脚を無理やり開かせた。
彼女の細い脚が無惨にも開かれまだ茂みもない、純真な一筋の性器が晒される。
そして母は、朱美の淡紅色の秘肉を指でくぱぁと開いて見せた。
「上田さん、うちの娘、かわいいでしょう? あなたの逞しいそれで、一人前の女にしてやってくださいませ!」
仁王立ちする上田。母は心底愛おしそうに、彼の屹立した男根を撫であげた。その先端は興奮して、先走りの汁でぬらぬらと濡れ光っている。
「さあ、早く言うの、朱美。『上田さん、私を犯してください』と」
そう言って母は、朱美の敏感な蕾を抓った。
「ひぅぅっ!……朱美を……お、犯し、て……」
彼女の小さな唇からその言葉が漏れるや否や
チョコレート色に日焼けした上田の巨体が覆い被さってきた。
濃密な男の匂いが鼻をつく。男の分厚い唇が、朱美の小さな花びらのような唇を奪う。
「今日は特別に、とびきりの媚薬を俺のに塗ってやるよ! ぶっ飛べよ、朱美ちゃん!」
上田は彼女の細い脚を抱え込むように開くと、一気に突き入れた。
ずぅぅぅぶぅぅぅ。
そして彼女は、その瞬間、股間に灼熱の肉棒を捻じ込まれたのであった。
上田の雄々しい陰茎は抗う隙さえも与えず、ずぶりと朱美の膣内に侵入した。
「い、ぅぅ……ぐぅ……痛い、抜いて……痛い! ああ……ふぅ、ぐぅ……」
歯を食いしばった彼女の口から、苦痛の声が漏れる。
「朱美ちゃん、『おちんちんで、おまんこ気持ちいい』って何度も言ってごらん。だんだん気持ちよくなってくるから」
上田はそう言い放った。
そして彼は容赦なく彼女の幼い女性器の中をピストン運動で蹂躙し始める。狭い膣内を、肉棒が押し広げ蹂躙していく。腹の底に響く重い痛み。
「……お、ちんちんで……おまんこ、気持ちいい……! おちんちんで……おまんこ気持ちいい……! おちんちんで……おまんこ気持ちいい……!」
痛みが消えるという男の言葉を信じ救いを求めるように、彼女はその言葉を繰り返した。
「ふふ、朱美もようやく女の子になったわね」
そう言うと母は朱美の唇を奪い、その乳首を優しく愛撫した。乳首が激しく勃起する。
「ああ……あ……ちんちんで、おまんこ気持ちいい……! ひぅぅ……おちんちんで、おまんこ気持ちいい……! あん……ひぃ……ああ、いい、いい……おちんちんでおまんこ気持ちいい……きも、ち、いい……」
彼女の子宮の奥底から今まで経験したことのないような興奮の塊が、ふつふつと湧き上がってきた。幼い声の中に、女の甘い媚態が混ざり始める。
「ああ……いい、あ……おまんこ、気持ちいい……! い、ぅぅ……ああ、あん……おちんちん、気持ちいい……! あん……いい……おちんちんで、朱美のおまんこ気持ちいい……イく、イく、イく……イっちゃう、イっちゃうイっちゃう……!」
彼女の細い脚が上田の太い腰に強く絡みつく。
「イク、イク! ああ……イクの……やらぁ……イグッ……イグッ……イグーーーッ!」
彼女の視界に閃光が走った。上田は少女の絶頂の表情を満足げに見つめると、その最奥に精を放った。
「うおぉ……! 新品の処女に、初中出し……! 射精る……っ!」
彼女の中に、灼熱のマグマのような男の液体が注ぎ込まれる。それは彼女に、自分が確かに犯されたのだという事実を何よりも痛烈に実感させた。
「さすが、私の娘ね。初めての挿入でイっちゃうなんて。こんなところまで母親に似てしまうなんて、本当に嫌になっちゃうわ」
母、美里の高笑いが、部屋に響いた。
それ以来、朱美と母・美里の間には、冷たい戦争が続いていた。
それでも完全に家族が崩壊しなかったのは、ただ一人、父・光男の存在があったからだ。
光男は家族の不和を何より嫌った。
妻の美里に不審なところがあることにも、薄々気づいていた。それでも問い詰めることはしなかった。家庭を壊したくなかったのだ。
朱美も、そのことを知っていた。
だから母親を憎み切ることができなかった。
怒りも、悲しみも、行き場のない悔しさも、すべて胸の奥に押し込んだ。
そして、その感情をぶつける場所を、彼女は戦車に求めるようになった。
エンジンを整備する。
砲を磨く。
履帯を調整する。
操と一緒にチハを改造する。
そして、草戦車道では誰よりも荒っぽく走る。
それだけが、朱美にとって自分を保つ方法だった。
その日の朝。
三人を乗せた九七式中戦車は、赤塚公園付近から新大宮バイパスへ抜ける谷間に差しかかっていた。
「……止まって」
操が突然言った。
「どうした?」
朱美が車長用ハッチから身を乗り出す。
谷間の入口。
そこに異様な光景が広がっていた。
三台の通学用装甲輸送車が道路を塞いでいる。
そのうち二台は履帯を切られ、一台は車体側面から煙を上げていた。
さらに、その後方には風紀委員会所属のM4シャーマン。
こちらも撃破され、車体から黒煙が立ち上っている。
道路脇では、三人の女子生徒が避難する人々を誘導していた。
制服は煤で汚れ、顔にもすすがついている。
「原田さん!」
朱美が叫ぶ。
風紀委員の原田が振り返った。
「朱美! 来るな!」
「何があったの!」
「辻斬り戦車だ!」
原田の声には、普段の冷静さがなかった。
「この先にいる! 戦車を止めて、乗ってる女子を無理やり連れていこうとしてる!」
永倉が続ける。
「大学生らしい。何人かはもう捕まってる!」
斎藤も後ろを指差した。
「逃げろ! あいつらのKV-2には近づくな!」
朱美の表情が変わった。
辻斬り戦車。
最近、この一帯で噂になっていた連中だった。
戦車道の車両で通学車両を襲い、砲撃で足を止めさせる。
そして逃げ場を失った女子生徒たちに声をかけ、無理やり自分たちの車両へ連れ込もうとする。
悪質なナンパ。
それを戦車の優位性で強行する、悪質極まりない連中だった。
「……あいつら」
操の声が低くなった。
そのときだった。
谷間の奥から、巨大な戦車が姿を現した。
KV-2。
角張った巨大な砲塔。
車体から異様なほど高くそびえ立つ箱型の戦闘室。
そして、その正面に突き出した152ミリ榴弾砲。
九七式とは、そもそも存在している世界が違う。
「KV-2……」
イサミが呟いた。
その巨体が、谷間の道路を完全に塞いでいた。
そして、その脇に立つ大柄な男を見て、朱美の呼吸が止まった。
「……上田」
大学生の上田淳。
かつて家庭教師として土方家に出入りしていた男だった。
朱美の中で、忘れようとしていた記憶が一気に蘇る。
身体が震えた。
怒りだった。
恐怖だった。
そして、それ以上に――嫌悪だった。
上田は朱美に気づいた。
「……お前」
その顔に、嫌な笑みが浮かんだ。
「朱美じゃねえか」
朱美は答えなかった。
上田の背後では、彼の仲間たちが別の女子生徒たちを囲んでいた。
その光景を見た瞬間、朱美の中で何かが切り替わった。
「操」
「うん」
操の声も、もう普段の間の抜けた調子ではなかった。
「照準」
「了解」
操は照準器を覗き込んだ。
「目標、KV-2。距離、およそ九百」
朱美は砲塔の外へ身を乗り出した。
「榴弾」
「榴弾、装填」
操の手が動く。
朱美はKV-2を睨みつけた。
正面から撃っても意味がない。
あの巨体の装甲を、47ミリ砲で正面から抜くのは難しい。
ならば――。
「狙うのは車体じゃない」
朱美は静かに言った。
「地面だ」
操が顔を上げる。
「……なるほど」
「お母さんから離す。車体の前に撃ち込んで、あいつを驚かせる」
照準器の中にKV-2が入る。
「距離、九百」
「撃て!」
キィンッ!
九七式の47ミリ砲が火を噴いた。
砲弾はKV-2を狙わなかった。
その手前の路面へ着弾する。
ドンッ!
土砂とアスファルトが吹き上がった。
突然の砲撃に上田たちは飛び退いた。
その隙に、拘束されていた女性が逃げ出す。
「走って!」
朱美が叫ぶ。
「子供を連れて、こっちへ!」
女性は転びそうになりながら幼い子供の手を取った。
「こっちよ!」
イサミが叫ぶ。
九七式が前進する。
その瞬間。
KV-2の砲塔がゆっくりとこちらを向いた。
「来る!」
イサミが叫んだ。
朱美は反射的に叫んだ。
「右!」
イサミが操縦桿を切る。
九七式が大きく旋回した。
直後――。
ドゴォォォン!
152ミリ砲が火を噴いた。
巨大な爆発が道路脇で起きる。
九七式のすぐ後ろで土砂が吹き上がった。
「近い!」
操が叫ぶ。
「でも当たってない!」
イサミはアクセルを踏み込んだ。
改造されたチハが唸りを上げる。
本来なら鈍重な旧式戦車。
だが今のチハは違った。
軽量化された車体が路面を跳ねる。
「行くわよ!」
イサミが叫ぶ。
九七式が加速した。
KV-2の152ミリ砲が追ってくる。
だが遅い。
あまりにも遅い。
KV-2は巨大な火力と重装甲を持つ代わりに、機動性と砲塔旋回に大きな弱点を抱えている。
朱美はそれを知っていた。
「イサミ、斜面!」
「了解!」
九七式が道路を外れた。
履帯が土を噛む。
車体が大きく傾いた。
そのまま新大宮バイパス脇の斜面を駆け上がる。
「うおっ!」
操が砲塔内部で身体を支える。
九七式が斜面上部へ躍り出た。
KV-2が砲塔を上へ向けようとする。
だが、巨大な砲塔が追いつかない。
「今!」
朱美が叫ぶ。
キィン!
47ミリ砲が火を噴いた。
砲弾はKV-2の装甲ではなく、履帯付近へ叩き込まれた。
一発。
二発。
三発。
「まだ!」
操が照準を修正する。
キィン!
砲弾が履帯を直撃した。
金属が弾ける。
KV-2の片側の履帯が外れた。
巨大な車体が大きく沈み込む。
「止まった!」
イサミが叫ぶ。
「まだよ!」
朱美は叫んだ。
「動けなくしただけ。次は砲塔!」
九七式が斜面を駆け下りる。
KV-2の側面を高速で通過する。
上田が慌てて砲塔を回そうとする。
しかし遅い。
九七式はすでに射界から消えている。
「くそっ!」
上田が叫ぶ。
「どこだ!」
九七式は再びKV-2の反対側へ回り込んだ。
まるで巨大な猛獣の周囲を走り回る小さな猟犬だった。
「操、砲塔基部!」
「了解!」
キィン!
砲弾が砲塔と車体の接合部付近に命中する。
一度では破壊できない。
だが、衝撃は確実に蓄積する。
KV-2の砲塔が途中で止まった。
「回転しない!」
上田が叫ぶ。
「何だこれは!」
「もう一発!」
キィン!
今度は砲塔の側面に命中。
内部で衝撃が走る。
砲塔は完全に沈黙した。
「やった!」
操が拳を握った。
朱美は笑った。
「これで終わり」
「まだだ!」
上田が怒鳴った。
「そんな豆鉄砲で、このKV-2を――」
しかし、その言葉は途中で途切れた。
KV-2は動かない。
履帯は外れている。
砲塔は回らない。
砲身もこちらを向けられない。
巨大な戦車は、圧倒的な火力を持ったまま、完全に戦場から切り離されていた。
朱美は九七式を停止させた。
「……操」
「うん」
「イサミ」
「はい」
三人が顔を見合わせる。
「勝った……の?」
イサミが小さく笑った。
「いいえ」
彼女は周囲を見た。
「私たちだけじゃないみたい」
谷間の向こうから、次々と戦車が姿を現していた。
赤塚女子商業高校のシャーマン。
近隣住民が駆けつけてきた車両。
通報を受けて集まった保護者たち。
三号戦車。
八九式。
センチュリオン。
パンターG。
T-34。
ヘッツァー。
ティーガー。
カーロ・アルマート。
そして、その他多数。
二十六両。
KV-2を取り囲むように、戦車砲が一斉に向けられていた。
上田がハッチから顔を出した。
さっきまでの余裕は消えていた。
「な、なんだ……これ」
朱美は車長用ハッチを開けた。
ゆっくりと立ち上がる。
上田と目が合った。
「おい……朱美!」
上田の顔から血の気が引いていく。
「俺だよ! 上田だ!」
朱美は黙って見つめた。
「撃つな! 俺が悪かった! なあ、話し合おう!」
朱美の表情は変わらなかった。
そのとき、上田が最後の切り札のように叫んだ。
「お前の母親だって知ってるだろ!」
朱美の眉が動く。
「このKV-2を買ったのは誰だと思う?」
上田は笑った。
「美里だよ」
朱美の顔が凍った。
「お前の母親が金を出したんだ。お前の進学用に貯めていた金まで使ってな」
朱美の手が震えた。
母親。
進学資金。
父・光男。
これまで胸の奥に押し込んできたものが、全部つながった。
「……そう」
朱美は呟いた。
そして、ゆっくりと上田を見た。
「それなら、なおさら許せない」
朱美が腕を上げる。
周囲の戦車が一斉に砲を構える。
「待て!」
上田が叫んだ。
「待ってくれ!」
朱美の腕が、静かに振り下ろされた。
轟音。
一発ではない。
二発でもない。
二十六両の戦車砲が、一斉に火を噴いた。
大気が震えた。
地面が揺れた。
巨大なKV-2の車体が衝撃で揺さぶられる。
砲塔が破壊され、履帯が吹き飛び、車体から黒煙が立ち上る。
しかし、戦車道用車両の安全規格によって乗員区画は守られていた。
轟音と衝撃の中で、上田たちはただ身体を固定することしかできない。
そして数秒後――。
静寂が戻った。
KV-2は、もう戦うことのできない鉄の塊になっていた。
やがて遠くからサイレンが聞こえてきた。
高島平警察の特車隊だった。
四両の74式戦車警視庁仕様が道路へ進入してくる。
警察官たちは上田たちを車両から降ろし、拘束した。
「終わった……」
朱美は呟いた。
背後から、小さな身体が飛びついてくる。
「よかったね、朱美ちゃん!」
操だった。
「ちょ、操、苦しいって!」
「だってよかったんだもん」
その横からイサミも歩いてくる。
「本当に、無事でよかったわ」
イサミは二人をまとめて抱き寄せた。
朱美は一瞬、抵抗しようとした。
だが、やめた。
イサミの温かさに包まれていると、胸の奥にしまっていた何かが、少しずつほどけていく。
「……イサミ」
「なに?」
「私……」
そこまで言って、朱美は言葉を止めた。
目から涙がこぼれた。
ずっと強がっていた。
母親に負けたくなかった。
誰にも弱みを見せたくなかった。
でも、本当はただ――。
「……疲れた」
イサミは何も言わなかった。
ただ、朱美の頭を優しく撫でた。
「うん」
それだけだった。
その日の夕方。
警察の捜査によって、KV-2の購入資金の出所が判明した。
購入者として浮上したのは、土方美里。
さらに、そこに使われた金の一部が、朱美の大学進学のために貯められていた預金だったことも明らかになった。
父・光男も、その事実を知ることになる。
その後、土方家で何が起きたのか。
母が翌朝、逃げるように荷物をまとめてに出て行ったこと以外は朱美は知らない。
知りたいとも思わなかった。
そして朱美もまた、長い間背負ってきたものを、ほんの少しだけ下ろすことができた。
翌朝。
荒川河川敷。
九七式中戦車のエンジンが始動する。
「朱美、行くよぉ」
操がいつもの調子で声をかける。
「おう」
イサミが操縦席に座る。
「今日も学校?」
「当たり前でしょ」
朱美は車長席へ身体を滑り込ませた。
ハッチを閉じる。
鋼鉄の箱の中に、三人の少女だけの世界が戻ってくる。
エンジンが唸る。
チハは朝の東京を走り出した。
昨日までとは、ほんの少しだけ違う。
朱美は前を向いていた。
もう、逃げるためだけに戦車へ乗るのではない。
自分たちの居場所を、自分たちで守るために。
九七式中戦車は、朝日に照らされた荒川の土手を、力強く走っていった。
⭐️おりょうとの出会い
朝のホームルームが始まる五分前。
赤塚女子商業高校二年三組の教室は、まだ眠気の残る生徒たちのざわめきに包まれていた。
朱美は窓際の席で頬杖をつき、空を見ていた。
昨日の戦いの余韻が、まだ身体の中に残っている。
KV-2を撃破したときの感触。
二十六両の戦車砲が一斉に火を噴いたときの振動。
そして、母が出て行った事実。
すべてが夢のように遠く、それでいて鮮明だった。
「朱美、おはよ」
操が隣の席に鞄を置いた。
いつものように、ぱんくずが制服の襟に付いている。
「おはよ」
「今日もチハで来た?」
「当たり前だろ」
「んー、じゃあ放課後、ちょっといいところに行かない?」
朱美は操の顔を見た。
操はぼんやりしているようで、時折こうして突然、妙な提案をしてくる。
「いいところって」
「まだ言わない」
「は?」
「行ってからのお楽しみ」
操はにこりと笑った。
その笑顔が、いつもの間の抜けたものではなく、何か意味のあるものに見えて、朱美は少しだけ不信感を抱いた。
「お前、何企んでる」
「企んでないよぉ。ただ、先生に頼まれただけ」
「先生?」
「うん。野上先生」
その名前に、朱美は首を傾げた。
野上武子。
今年の春に赤塚女子商業高校に着任した、新しい日本史の教師だった。
---
野上武子がこの学校に来たのは、朱美たちが二年生になった四月のことだった。
着任初日、職員室前の廊下を歩く彼女を見た生徒たちは、一様に足を止めた。
理由はふたつあった。
第一に、彼女の風貌だった。
黒系の青色の髪。
アンダーリム型の眼鏡。
そして、紋付を羽織っている。
教師でありながら、どこか時代劇から抜け出してきたような佇まいだった。スラックスは履いているものの、上着は明らかに和装で、胸元には学校指定のIDカードをぶら下げているという奇妙な取り合わせだった。
第二に、彼女の言葉遣いだった。
自己紹介のとき、教壇に立った彼女は一礼してこう言った。
「あしわぁ野上武子ぜよ。日本史を担当するぜよ。」
教室は一瞬で静まり返った。
「ぜよ」
生徒たちは呆気にとられた。
やがて、あちこちからくすくすと笑いが漏れ始めた。
だが、武子は眉一つ動かさなかった。
「笑ってくれて結構。じゃが、これがわしの地の文じゃ。変えるつもりはないぜよ」
そう言って、眼鏡の奥の目を真っ直ぐに生徒たちに向けた。
その目は笑っていなかった。
知的で、力強く、そして何より——本当のことを言っている人間の目だった。
それが、野上武子との出会いだった。
武子は、教師としての評判はすぐに固まった。
授業は面白い。
歴史を語るとき、彼女は教科書を読み上げるのではなく、まるで自分がそこにいたかのように語った。
幕末の志士たちの動き。薩長同盟の裏側。龍馬の暗殺。
どれもが教科書の記述を遥かに超える生々しさを持っていた。
「龍馬はな、死ぬ間際まで生きようとしたぜよ。『私はまだ死にたくない』と、そう言って海を渡ろうとした。じゃが、彼は死んだ。歴史とはそういうものじゃ。生きようとした人間の記録であり、死んだ人間の鎮魂でもある」
その授業を聞いたとき、朱美は背筋が伸びるのを感じた。
武子の話は、いつも何かが違った。
他の教師のように「偉い人を覚えろ」と言うのではなく、「そこにいた人間はどう生きたか」を語る。
龍馬が恐かったこと。沖田総司が病に倒れたときの無念。新選組が局中法度で結束した意味。
彼女は、歴史の中の人間を、ただの人間として描き出した。
「歴史を学ぶとは、過去を覚えることではないぜよ。過去に生きた人間の痛みを、自分の痛みとして受け取ることじゃ」
授業の最後に、彼女は必ずこう言った。
朱美は、その言葉が嫌いではなかった。
武子は教師としてだけではなく、もう一つの顔を持っていた。
戦車道の達人だった。
着任して二週間目、体育の授業で戦車道の基礎を教えることになったとき、武子は自ら実演を買って出た。
学校の保有する九五式軽戦車——ハ号に一人で乗り込み、狭いグラウンドの中で見事な機動を見せたのだ。
エンジン音を聞きながらの微細な操縦。
履帯の滑りを計算に入れた旋回。
制動のタイミング。
すべてが教科書通りの動きではなく、実戦で培われた勘のようなものがそこにはあった。
生徒たちは、ただ圧倒されて見ていた。
「野上先生、すごくね…?」
操が小さく呟いた。
朱美も頷いた。
確かにすごかった。
だが、それ以上に気になったことがあった。
武子が戦車から降りたとき、彼女は朱美の方をちらりと見た。
一瞬だった。
眼鏡の奥の視線が、朱美の上を正確に通り抜けた。
その目は、何かを確かめるような目だった。
五月の連休が明けたある日。
武子は朱美、操、イサミの三人を職員室に呼んだ。
「三人とも、放課後ちと時間をくれんかの」
武子は湯呑みに入れた麦茶を三人に出しながら言った。
イサミは丁寧に受け取り、操は「ありがとうございます」と言ってすぐに一口飲み、朱美は無言で受け取った。
「単刀直入に言うぜよ」
武子は椅子に深く腰掛け、眼鏡を押し上げた。
「お主たちの九七式中戦車——あのチハじゃ。あれで荒川の草戦車道に出てみんか?」
沈黙が落ちた。
草戦車道。
それは河川敷や空き地、廃道などで非公式に行われる戦車道の俗称だった。
公式の試合のようなルールはない。
ただ、戦車で走り、戦い、勝った者が正義という、ある意味で無法な世界。
朱美は眉を寄せた。
「先生、生徒に危ないことを勧めるわけ?」
「危なくはないぜよ。草戦車道は腕を磨く場じゃ。怪我はせん」
「それでも——」
「それに」
武子は朱美の目を真っ直ぐに見た。
「お主は、もう草戦車道しておるじゃろう?」
朱美の表情が固まった。
昨日のKV-2との戦い。
あれは公式の試合ではない。
事実上、草戦車道だった。
「…バレてたの」
「拙者は教師じゃぜよ。生徒の動きくらい見ておる」
武子は少しだけ目を細めた。
「昨日の件は、よくやったと言いたい。じゃが、あれは喧嘩じゃ。正義ではない」
朱美は何も言えなかった。
「おはんらは熱い血の発露を知らん。」
武子は言葉を切った。
「青春の輝ける日々は、ひたむきに打ち込んだものだけが手にするものじゃ」
朱美は黙っていた。
操が、のんびりとした声で口を開いた。
「うちら今でも充分強いと思うけど?草戦車道で誰かと戦うの?」
「うむ」
「誰と?」
武子は少しだけ、笑った。
それは教師の笑顔ではなく、戦う人間の笑顔だった。
「カバさんチーム、じゃ」
「カバさんチーム?」
イサミが首を傾げた。
「聞いたことがない名前ですね」
「わしと同じ年代の連中じゃ。今はもう戦車道からは引退しておるはずだったがの……最近、再結成したぜよ」
武子は湯呑みの麦茶を一口飲んだ。
「四号突撃砲を使う」
「突撃砲…」
朱美が呟いた。
突撃砲は戦車とは違う。砲塔がない。
車体に固定された砲を、車体全体を向けて狙わなければならない。
運用の難しい車両だ。
「強いの?」
操が聞いた。
「強い」
武子は即答した。
「あいつらは十年以上前から戦車道をやっとる。」
「先生以上?」
イサミの目が少し鋭くなった。
「ああ。特に隊長は、地味じゃが堅実な人間じゃ。派手な動きはせん。じゃが、一発で仕留める型じゃ」
朱美は少し考えた。
「……乗った」
朱美が言った。
「え?」
操が顔を上げる。
「草戦車道。やってやる」
朱美は武子を見た。
「先生の戦いを見せてもらう」
武子は少し驚いたような顔をした。
それから、口の端を上げた。
「ほう。見学ではなく、参加か」
「あたしたちのチハも連れて行く。先生がカバさんチームと戦ってる間、あたしたちがバックアップに入る」
「それは面白いぜよ」
武子は立ち上がった。
「では、明日の放課後。荒川河川敷、草戦車道の入り口に集まってくれ。戦い方はそこで説明する」
「了解」
朱美が答えた。
操は「楽しみだねぇ」と言ってぱんくずを払った。
イサミは静かに頷いた。
---
翌日。放課後。
荒川河川敷。
五時を過ぎた空は、まだ明るかった。
五月の陽射しが土手の草を照らしている。
朱美たちがチハで到着したとき、武子はすでに待っていた。
九五式軽戦車——ハ号に寄りかかり、腕を組んでいた。
紋付の袖が風に揺れている。
「来たか」
「おう」
朱美がチハの車長席から顔を出す。
「で、カバさんチームは?」
「もうおる」
武子は土手の向こうを指差した。
朱美は視線をそちらに向けた。
土手の向こう、広い河川敷の一角に、一台の車両が停まっていた。
四号突撃砲。
低い車体。
砲塔の代わりに、車体上部に固定された75ミリ砲。
角張った、無骨な姿。
戦車よりも地味だ。
だが、その存在感は圧倒的だった。
「あれが…」
操が呟いた。
「四号突撃砲。大戦後期に量産された車両じゃ。火力も装甲も、お主たちのチハより上」
武子は淡々と言った。
「じゃが、拙者のハ号は軽い。速い。それが勝機じゃ」
「勝てるの?」
朱美が聞いた。
武子は少し間を置いた。
「……分からん」
正直な答えだった。
「じゃが、やるしかないぜよ」
武子はハ号の車体に手をかけ、軽々と乗り込んだ。
小柄な身体が狭い車内に消える。
エンジンが始動する。
ハ号は九五式軽戦車——本来は歩兵支援用の軽戦車だ。
37ミリ砲を持ち、最高速度は45キロ程度。
装甲は薄い。
だが、武子はこの車両を選んだ。
理由は一つ。
自分の手に余る車両には乗らない。
それが武子の流儀だった。
「始めるぜよ」
無線から武子の声が聞こえた。
「ルールは簡単じゃ。一方が降参するか、行動不能になるまで。弾は訓練弾じゃ。じゃが、直撃すれば痛いぞ」
「了解」
朱美は答えた。
「イサミ、操、位置取って。先生のバックアップに入る」
「了解」
「うん」
チハのエンジンが唸る。
二両の旧式車両が、土手の向こうの広い河川敷へと進んでいく。
四号突撃砲は動かなかった。
待っている。
武子の言った通り、堅実な相手だった。
朱美は車長席から双眼鏡を覗いた。
四号突撃砲の車長席——ハッチから誰かが顔を出している。
眼鏡をかけた、丸い顔の女性だった。
「……あれが隊長?」
「みたいだな」
操が照準器を覗きながら答えた。
「距離、およそ五百」
「まだ遠い。近づくな」
朱美は言った。
武子のハ号が先行した。
軽快な動きで土手の斜面を駆け下り、河川敷の平地へ出る。
四号突撃砲の75ミリ砲がゆっくりとこちらを向いた。
「来る!」
朱美が叫んだ。
次の瞬間。
ドンッ!
四号突撃砲が火を噴いた。
訓練弾が土手を叩く。
土煙が上がった。
「近い!」
操が叫ぶ。
「まだ当たってない。でも、一発目からこの精度…」
イサミが呟いた。
「ちゃんと狙ってる」
武子のハ号は右へ大きく旋回した。
軽戦車の機動力を活かし、四号突撃砲の正面から離れようとする。
だが。
ドンッ!
二発目。
ハ号の進路上に着弾した。
「先読みされた!」
朱美は叫んだ。
四号突撃砲の隊長は、武子の動きを予測して撃っていた。
ただ狙っているのではない。
次にどこへ行くかを計算して、そこへ弾を送っている。
「すごい…」
操が小さく言った。
「あの人、戦車道歴長いよ」
武子のハ号がさらに加速した。
河川敷を右へ左へと大きくジグザグに動く。
だが、四号突撃砲は落ち着いていた。
砲を微調整しながら、一発ずつ正確に撃ってくる。
三発目。
ハ号のすぐ後ろに着弾。
四発目。
ハ号の右側面のすぐ横に着弾。
「当たる寸前だ!」
朱美は手汗を感じた。
武子も感じていたはずだ。
だが、ハ号は止まらない。
さらに加速する。
そして、ついに四号突撃砲の側面へ回り込もうとした。
「今だ!」
武子の声が無線に響いた。
ハ号の37ミリ砲が火を噴く。
小さな砲弾が四号突撃砲の側面へ飛んだ。
だが。
ガギンッ!
弾いた。
四号突撃砲の側面装甲は、37ミリ砲弾を受け止めた。
「弾かれた…」
操が呟いた。
「薄い弾じゃ、貫けんか…!」
武子の声に、初めて焦りが混じった。
その隙だった。
四号突撃砲がゆっくりと砲を回す。
突撃砲は砲塔がない。
車体全体を回さなければならない。
だが、回す必要はなかった。
武子のハ号が側面に回り込んだ瞬間——四号突撃砲は前進した。
自ら突っ込んできたのだ。
「なっ——!」
武子が息を呑む。
四号突撃砲がハ号へ向かって突進する。
突撃砲——その名の通り、突くための車両だった。
ドンッ!
近距離からの砲撃。
ハ号の車体に訓練弾が直撃した。
衝撃で車体が揺れる。
装甲は貫かれていない。
だが、衝撃は乗員に直撃した。
「ぐっ…!」
武子の声が漏れる。
ハ号が大きく傾いた。
履帯が土を噛む。
車体がスライドする。
「先生!」
朱美が叫んだ。
「操、援護射撃!」
「了解!」
操が照準器を覗く。
チハの47ミリ砲が火を噴いた。
砲弾は四号突撃砲の正面へ飛ぶ。
だが、四号突撃砲は動いた。
最小限の動きで、弾を避けた。
「避けた…」
操の目が大きくなった。
「あの車両、あんなに速く動けるの?」
「軽量化してる」
朱美は即座に判断した。
「あいつも、操と同じことをしてる」
四号突撃砲は不要な装備を外し、重量を削っている。
その結果、突撃砲としては異例の機動力を持っていた。
武子のハ号が立ち上がろうとする。
だが、四号突撃砲はもう次の動きに入っていた。
ハ号の正面に回り込み、砲を向けた。
至近距離。
ドンッ!
二発目の直撃。
ハ号の車体が再び揺れる。
「……参った」
武子の声が、静かに響いた。
「これ以上は無理じゃ。拙者の負けぜよ」
ハ号のエンジンが止まった。
白旗——いや、ハッチが開き、武子が手を出した。
降参の合図だった。
静寂が河川敷に広がった。
四号突撃砲のハッチが開く。
丸い顔の眼鏡の女性が顔を出した。
柔和な顔立ちだった。
戦った人間の顔には見えなかった。
「ありがとうございました、野上さん」
声も穏やかだった。
「お疲れ様です」
武子はハ号から降りた。
泥と油で汚れた紋付を払い、眼鏡を拭いた。
「……いや、参ったぜよ」
武子は苦笑した。
「まさか、あそこで突っ込んでくるとはのう。十年前と変わらん。相変わらず、じわじわと追い詰める型じゃ」
「野上さんが動いていたからです。動かなければ、私たちは撃てませんから」
「ほほう。すると、拙者が動いたのが敗因か」
「はい。野上さんのハ号は速い。でも、速いからこそ、動きたくなる。動くと隙ができる。私たちはそこを待っていたんです」
武子は眼鏡の奥で目を細めた。
「……やはり、お主には勝てんか」
その言葉には、十年分の感慨が込められていた。
朱美はチハから降りた。
操とイサミも続く。
四号突撃砲のそばには、四人の女性が立っていた。
全員、三十代前半から半ばくらいに見えた。
丸い顔の眼鏡の女性が、一番前に出た。
「初めまして。カバさんチームの隊長をしています、カエサル……じゃなくて、えーっと」
彼女は少し困ったように笑った。
「すみません、癖で。私、本名は鈴木貴子と言います。ソウルネームはカエサルです」
「ソウルネーム?」
操が首を傾げた。
「ああ、私たち、昔戦車道をやっていたとき、歴史上の人物の名前を互いに呼び合っていたんです。癖でね。なかなか抜けなくて」
河合は照れくさそうに眼鏡を直した。
「こちらは、エルヴィン。本名、松本里子」
小柄な女性が、軽く手を振った。
「よろしく」
「左衛門佐(さえもんざ) こと杉山 清美だ、」
黒髪ロングの女性が、にこりと笑った。
朱美は四人を見た。
どこにでもいそうな、普通の大人たちだった。
だが、今の戦いで見せた動きは、普通ではなかった。
「……あんたたち、強いな」
朱美が言った。
カエサルは首を振った。
「もう歳ですよ。昔はもっと速く動けたんですが」
「謙遜すんな。あの突っ込みは化け物だぜ」
朱美が言うと、カエサルは困ったように笑った。
「あれはですね、おりょうが相手だと分かってたからできたんです。おりょうは攻めるのが上手い。でも、攻めにいったあとの戻りが甘い。そこを突いただけです」
武子が、その言葉を聞いて小さく笑った。
「……やっぱり、お主にはかなわんか」
「おりょうも戻っておいでよ、うちのチームに」
「お主な、負けた人間にそれを言うか……いや、まあ、ええ。考えとくぜよ」
朱美たちはその後、カバさんチームと少し話をした。
カバさんチームの四人は、かつて同じ高校の戦車道部で活躍していた。
卒業後、それぞれ就職し、戦車道からは離れていた。
だが、去年の秋に鈴木が声をかけ、再結成したのだという。
⭐️裏切りの夜、あるいは鉄の重さ
夕闇が荒川の河川敷を包み始めていた。
カバさんチームの四号突撃砲がエンジンを止め、静かな鉄の塊に戻る。
その横で、朱美たちはまだ武子の敗北に言いしれぬ衝撃を受けていた。
「すごかったです、先生」
イサミが静かに言った。
「あのハ号の動き。速さだけで突撃砲を翻弄しようとしていた。理に適っていました」
「じゃが、負けたぜよ」
武子は苦笑いでそれを受け流した。紋付の袖で額の汗を拭う。
「強かったな、あいつら」
朱美は四号突撃砲を見上げた。
「特に隊長のカエサルって人。先生の動きを全部見切ってた。あれは経験の差だろ」
「うん。あの突っ込み方もそうだけど、先生が動くのを待ってた感じだったねぇ」
操も頷く。
「だからこそです」
イサミが武子を見た。
「先生ももう一度、カバさんチームに戻ればいいのに。あんなに息の合ったチームなんてそういません」
「そうだぜ」
朱美も続いた。
「あんた一人でハ号乗ってても限界あるだろ。仲間がいるなら戻ればいいじゃねえか」
操も「うんうん」と首を縦に振る。
三人の純粋な提案に、武子は一瞬言葉を失った。
眼鏡の奥の目が揺れる。
やがて彼女は深く息を吐き、河川敷の草の上に腰を下ろした。
「…戻りたいぜよ」
低い声だった。
「戻りたいんじゃ。じゃが、わしは戻れん」
「どうして?」
操が首を傾げる。
「わしは裏切り者ぜよ」
武子は言った。
その言葉には、重い鉄のような苦渋が滲んでいた。
「裏切り者…?」
朱美が眉を寄せる。
「カエサル…鈴木貴子にはな、将来を約束した恋人がおったんじゃ」
武子は遠くを見る目をした。
「中岡慎太郎。大学時代からの付き合いでな。優しくて誠実な男じゃった。貴子もあいつもお互いだけを信じておった」
武子はそこで言葉を切り、自分の手を見た。
その手は小刻みに震えていた。
「…わしもあいつが好きじゃった」
朱美は息を呑んだ。
武子は顔を上げない。
「貴子の隣で笑うあいつを見るたびに、胸が軋んだぜよ。じゃが貴子はわしの親友。親友の男を奪うなどと思ってはいかんと、必死に押さえ込んでおった」
「先生…」
イサミが小さく呼びかける。
「じゃが」
武子の声が震えた。
「大学四年生の秋。貴子と中岡が婚約したと聞いた夜…わしの中で何かが切れたぜよ」
***
その夜のことを、武子は鮮明に覚えている。
大学近くの居酒屋「寺田屋」でのコンパだった。
サークルの打ち上げという名の飲み会で、貴子と中岡と武子、そして数人の友人たちが集まっていた。
「慎太郎さん、婚約おめでとう!」
貴子が嬉しそうにビールジョッキを掲げる。
中岡も照れくさそうに笑ってそれに応える。
その二人の間にある空気は温かく強固で誰にも入れない。
武子はその向かい側で無理やり笑顔を作っていた。
「おめでとうぜよ。貴子も中岡も幸せそうじゃのう」
「ありがとおりょう! 私たちね来年には式を挙げるの」
貴子が無邪気に言う。
その言葉一つ一つが武子の胸に突き刺さった。
飲み会は夜更けまで続いた。
終電が近づき次々と帰っていく中最後に残ったのは三人だけだった。
「貴子もう帰る? 今日実家に電話する約束だったし…」
中岡が時計を見る。
「うんごめんね慎太郎さん。おりょうも送ってあげてくれる?」
貴子が武子に頼む。
貴子は武子を信用していた。親友なら自分の恋人を二人きりにしても何も起きないと疑わなかった。
「ああ分かったぜよ。わしが送る」
武子は頷いた。
貴子と別れ二人で駅へ向かう道すがら秋の夜風が冷たかった。
中岡は少し酔っているようで足元がおぼつかなかった。
「中岡大丈夫か?」
「ん…ああごめんおりょうさん。ちょっと飲みすぎちゃった…」
その声に武子の中で魔物が囁いた。
『今なら』
『酔ってるふりをして』
『あいつが貴子の元へ戻る前に』
武子は足を止めた。
中岡もつられて止まる。
「どうしたの?」
「…中岡」
武子は眼鏡を外した。
酒のせいだけではない熱っぽい目で中岡を見上げる。
「わし酔っ払ったぜよ。頭がふらふらして歩けん」
それは嘘だった。
武子の酔いはとっくに覚めていた。
だが中岡はそれを知らない。
「えっ大丈夫? タクシー拾う?」
「いやタクシーじゃなくて…」
武子は中岡の腕に自分の腕を絡めた。
その身体を密着させる。
乳房が中岡の腕に押し付けられる感触。
「少し休みたいぜよ。近くにホテルがあるじゃろう? そこで休ませてくれんか?」
中岡は戸惑った顔をした。
無理もない。婚約したばかりの恋人の親友にそんなことを言われるとは思わないだろう。
「えっとでも…」
「頼むぜよ」
武子はさらに声を低くした。
甘く湿った声。
「少しだけでいいんじゃ。頭が冷えるまで側におってくれ」
中岡の理性を揺さぶるつもりで見つめる。
やがて中岡は小さく息を吐いた。
「…分かった。少しだけなら」
ホテルへの道すがら武子は心臓が爆発しそうだった。
罪悪感と背徳感と欲望がないまぜになった暗い興奮。
これから自分がしようとしていることへの恐怖と期待。
ビジネスホテルの部屋に入ると中岡はベッドに座った。
「水飲む?」
「いや」
武子は中岡の前に立った。
そしてゆっくりと紋付を脱ぎ捨てた。
「おりょうさん?」
「今晩だけじゃ」
武子は言った。
声が震えていた。
「今晩だけわしのこと見てくれんか?」
下着姿の武子が中岡に近づく。
彼女の身体は小柄だが女性らしい曲線を持っていた。
白い肌が薄暗い照明に浮かび上がる。
中岡は何か言おうとした。
だがその言葉は武子の唇に吸い取られた。
強引なキス。
舌をねじ込み貴子の味ではない男の口内を貪る。
中岡は一瞬抵抗したがすぐに力を抜いた。
酒と武子の熱に負けたのかそれとも元から男などそんなものなのか。
「んっ…ふぅ…」
唇を離すと銀色の糸が引いた。
「悪い女じゃぜよわしは」
武子は息を荒げながら言った。
「親友の男を寝取るなんて最低な女じゃ」
そして彼女は中岡のズボンに手をかけた。
ベルトを外しジッパーを下ろす。
すでに硬くなり始めている男の中心部を下着の上から握りしめた。
「っ!」
「見てみろ中岡。お前もこれを望んでおるんじゃろ?」
武子は挑発するように言った。
手の中で男の欲望が膨らんでいく感触。
下着を引き下ろすと男の一物が露わになった。
武子はそれをじっと見つめそれから躊躇なく口に含んだ。
「おっおりょうさん…!」
卑猥な水音が部屋に響く。
武子は舌で竿を舐め上げ亀頭を口の中で転がす。
貴子がこんなことをしている姿など想像もつかないだろう。
親友には決して見せない女の顔で武子は男根にむしゃぶりついた。
(これじゃ…これが男の味じゃ…)
頭の中が真っ白になる。
嫉妬と欲望が混ざり合い背徳的な快楽となって全身を駆け巡る。
「んぐっ…じゅるっ…」
充分に硬くなったそれを口から離し武子はベッドに横たわった。
自分から脚を開く。
すでに濡れそぼった秘所が中岡を待っていた。
「来てくれ中岡。わしを犯してくれ」
もう後戻りはできなかった。
中岡も理性の手綱を完全に手放していた。
彼は武子の身体に覆いかぶさってきた。
ずぶりっ。
硬い男根が武子の中に侵入してくる。
「ああっ!」
貫かれた瞬間背中が反った。
痛みと快楽がないまぜになった感覚。
これは貴子のものではない。今だけは自分だけのものだという優越感。
「おっきい…中岡お前こんなに大きかったんじゃな…」
武子は男の背中に爪を立てた。
「おりょうさん…ごめん…でも…」
「謝るな! 気持ちいいか? わしの中気持ちいいか? 答えろ!」
「いいよ…おりょうさんの中すごく締まってて…気持ちいい…」
卑劣な女だ。
親友の恋人と結合し快楽を貪る。
だが止められなかった。
この渇望を満たすにはこれしかなかった。
中岡が腰を振るたびに武子の身体が揺れる。
ホテルのベッドが軋む音。
肉と肉がぶつかる音。
卑猥な水音。
それら全てが裏切りの証だった。
「ああっ! ああっ! 中岡! もっと! もっと深く!」
理性などない。
ただ快楽の波に身を任せる。
貴子ごめんと心の中で何度も謝りながら身体は男を求めて収縮する。
「イク! イクぞおりょうさん!」
「出して! わしの中に出して! 今晩だけじゃ! 今晩だけわしを女にしてくれ!」
どくっどくっどくっ。
熱い液体が武子の子宮口に注ぎ込まれる感覚。
男の精を受け入れた瞬間武子は絶頂とともに深い罪悪感に沈んだ。
***
「…それからわしと中岡は数回会ったぜよ」
武子は言った。
声は乾いていた。
「貴子には言えなんだ。言えるわけがなかった。じゃがある日貴子にだけは話したんじゃ。全部な」
河川敷に沈黙が落ちた。
風が草を揺らす音だけが聞こえる。
「貴子は泣いた。じゃがわしを責めなんだ。ただ『もう会わないで』と言うた。それきりわしと貴子は友人じゃなくなった」
朱美たちは何も言えなかった。
ただ武子の言葉を受け止めることしかできなかった。
「だからわしは戻れんぜよ」
武子は立ち上がった。
泥と油で汚れた紋付を払い眼鏡をかけ直す。
「裏切り者には居場所がない。あるのは鉄の中だけじゃ」
その言葉には救いがなかった。
だが同時に真実だった。
朱美は拳を握りしめた。
母親の裏切り。そして今聞いた先生の裏切り。
人は誰かを裏切り傷つける。
その傷は決して消えない。
だがそれでも。
「先生」
朱美は言った。
「あたしらはあんたの敗北を見た。あんたの弱さも見た。でもそれでもあんたは今日戦った」
武子が振り返る。
「裏切り者でも戦えるならそれでいいだろ。過去は消せないけどこれからの戦い方は変えられる」
操も頷いた。
「うん朱美の言う通りだねぇ。先生は強いよ。カバさんチームに負けたけど先生は弱くないよぉ」
イサミも静かに言った。
「過去から逃げるためだけに戦車に乗るのはもうやめましょう。先生自身のために乗りましょう」
武子は三人を見た。
不器用な少女たちの不器用な慰め。
だがそれ故に重かった。
「…お主ら」
武子は少し笑った。
それは今日一番穏やかな笑顔だった。
「ありがとうぜよ。じゃがまだ戻れん。まだあいつらに顔向けできん」
そう言って武子はハ号の方へ歩き出した。
「じゃがいつかまた一緒に戦える日が来るかもしれんぜよ。」
武子は背中で手を振った。
その背中は小さかったが真っ直ぐだった。
三人はハ号と四号突撃砲を見送った。
二つの鉄の塊が別々の方向へ去っていく。
朱美は空を見上げた。
もう完全に暗くなっていた。
だが星は見えなかった。東京の空には星などない。
それでも彼女には見えた気がした。
鉄の中で光る小さな星たちが。
「帰ろうぜ」
朱美が言った。
「うん」
操とイサミが頷く。
三人はチハへ戻った。
エンジンを始動させる。
鉄の箱の中へ戻る。
だってもう逃げるためだけの場所ではない。
自分たち自身と向き合うための場所だ。
九七式中戦車は夜の東京を走り出した。