それは、僕が高校三年になってすぐのことだった。
年度初めの健康診断の後、体育館に三年の男子だけが集められた。全クラスが集まると、学年の体育教師が前に出てきた。
「みんなには奴隷を所有してもらいます」
言っている意味がさっぱり分からない。周囲もざわついている。
「それぞれ、女子を一人ずつ割り当てますので、自分だけの立派な奴隷に育ててください」
先生は真面目に話しているが、冗談にしか思えない。そんな中、別のクラスの陽キャがおどけたように尋ねた。
「それって、クラスの女子にエロいことさせ放題ってことですかー?」
あちこちから小さく笑い声が上がった。僕も思わず吹き出してしまう。しかし、先生はいたって真面目に答えた。
「そうです。たった今、女子たちの人権は剥奪されましたから、何をしても大丈夫です」
体育館全体がどよめいた。ありえないことを言っているが、冗談で言っていい内容を超えている。僕を含め、男子たちは何とか状況を飲み込もうと、一生懸命先生の話に耳を傾ける。
「ただし、このことは下級生には絶対に知られないようにしてください。もし知れたら、奴隷は没収の上、厳しい罰を受けてもらいます」
厳しい罰の内容は気になる。とはいえ、こんなこと周囲に言えるわけがない。下級生はもちろん、家族や友人にも話す気にはなれない。
先生は、続いて質疑応答の時間を取った。すぐに何本もの手が上がり、先生は順に指していく。
「僕らはともかく、女子たちがそんなことを受け入れるわけがないと思うんですけど」
「入学時点で家族たちにはこうなることを説明し、一定の金額と引き換えに契約済みです。女子たちは、逆らったら奴隷オークションに引き渡す、とたっぷり脅しつけたので問題ありません」
つまり、女子たちは全員、本人が知らないうちに家族に売られたということだ。なかなかにエグい。
また別の手が上がる。
「そうは言っても、もし抵抗されたらどうするんですか?」
「女子たちには学校と所有者にしか外せない首輪をつけます。配布するリモコンを操作することで、電流を流せます。しばらく立ち上がれなくなる程度の強さなので、問題なく制御できるかと」
平然と恐ろしいことを言う。確かに抵抗しないようにはできるだろうけど、それでは拷問だ。
まだまだ質問は尽きない。
「誰でも、何人でも選んでいいんですか?」
「奴隷は一人ずつ、割り振りは申し訳ないですがこちらで決めた割り振りに従ってもらいます」
これは大事な情報だった。完全な運であるなら、誰に当たるかはこの上なく重要だ。
その後も、皆はどんどん手を上げて質問していった。先生からの回答を聞くたびに、状況が整理されていく。こんな馬鹿げたような話なのに、いつの間にか男子全員が先生の話を信じ切っていた。
質問が落ち着くと、先生は紙の束を取り出した。
「では、それぞれに割り振られる女子を伝えます。名前を呼ばれたら前に出てくるように」
来た。僕は身構えた。
彼女いない歴イコール年齢の僕が言うのもなんだが、女子にも当たり外れはある。同じクラスで考えても、外れの女子はいる。
こんな素晴らしい展開がやってきたというのに、僕に割り当てられたのが外れの子だったら……正直、目も当てられない。
一組から順に、名前が呼ばれていく。何人かは、受け取った紙を見て、小さくガッツポーズをしている。
二組、三組と続いて、僕の四組の番が来た。
「えー、
僕の名前が呼ばれた。僕は緊張の面持ちで先生のもとへと向かう。そして、先生から差し出された紙を受け取った。
周囲の目もあるから「こんなの僕は大して興味ないですよ」という顔をしながら元の場所に戻るつもりだった。しかし、僕はあっさり誘惑に負けて、手元の紙にチラリと視線を送った。
まなみ。
受け取った紙には、そう書いてあった。