ジリリリリ。
枕元で鳴る音に、僕は枕に顔を埋めながら手を伸ばした。手探りでスマホを手に取り、アラームを止める。
目をこすりながらベッドから起き上がる。
昨日はあの後、どっと疲れが出て気絶するように眠ってしまった。十分長く寝たはずだが……正直、全然寝足りない。
のそのそとした動きで一階に降り、顔を洗って、リビングに向かう。リビングで僕を待っていたまなみは……全裸だった。
「やっぱり、夢じゃなかったんだ……」
僕の口からは思わず安堵の声が出た。昨日のことは何かの間違いで、寝て起きたらすべてがなくなってしまうのではないか。そんな不安がまったくなかったというと嘘になる。
だからこそ、目の前の光景に僕は幸せを噛みしめていた。まなみの裸体は、何度見ても美しい。
しみじみと感慨にふけっている中、まなみは怪訝な表情でこちらを見ている。
「おはよう。遅刻しちゃうから、さっさと食べなよ」
見ると、テーブルの上には僕のために用意された朝食が湯気を立てていた。まなみの言う通り、時間はあまりない。普段は時間ギリギリまで寝て、ろくに食べずに家を出てしまうからだ。
まなみがせっかく用意してくれたご飯と味噌汁とハムエッグを、味わう余裕も無くかきこんだ。手早く食器を片付け、大急ぎで制服に着替える。
僕が準備を終えて一階に降りると、まなみは玄関でとっくに制服姿で僕のことを待っていた。ずいぶん待たせてしまったようだ。
「じゃ、じゃあ……行こうか」
「うん」
まなみは文句も言わず、素直に僕についてくる。僕たちは家を出て、学校へと向かって歩き出した。
何とか遅刻することなく、学校までやってきた。
これまで普通の学校だと思っていたこの場所が、実は奴隷養成所だった。そう思うと、正門前から見る学校はなんとなくいつもと違って見えてくる。
しかし、周囲の生徒の多くは下級生であり、彼らは奴隷のことなど何も知らない。そう言う意味では、やっぱりいつも通りの景色と言えなくもない。
そんなことを考えながら、僕たちは教室へと向かう。そして、足を踏み入れた三年四組の教室は……昨日とは一変していた。
まず最初に、教室が広くなったと感じる。
理由は単純、机の数が減ったからだ。四つならんだ机が五列、全部でニ十個しかない。僕はすぐに、男子の席だけが残っているのだと気づく。
そして、なにより目を引くのは。
僕は二列目の一番後ろの、自分の席へと向かった。
教室内には、大半のクラスメートが揃っていた。全員が、ペアとなる奴隷を横に侍らせている。僕は、左隣の席に視線を送った。
隣の席にいるのは、津田君だ。確か野球部だったはずだ。陽気な性格でクラスの人気者だ。誰とでも分け隔てなく接するタイプだから、僕とも割と言葉を交わす間柄だった。
そんな津田君の隣に立っている女子、もとい奴隷は、遠山さんだ。遠山さんは……服を、着ていなかった。
じろじろ見てはいけない。そう思いながらも、僕の目は遠山さんの裸体に釘づけになった。小ぶりなおっぱいも、黒々とした陰毛も……すべてが丸見えだ。
遠山さんは目をつぶったまま顔を赤くし、恥ずかしそうに俯いていた。しかし、手は後ろ手に組んで、身体を隠すことは許されていない。おそらく、命令されているのだろう。
僕は股間が硬くなるのを感じ、それをごまかすように席に座った。そして、あくまで自然な感じを装って津田君に話しかけた。
「おはよう、早いね」
「おう、小森。おはよう」
津田君はいつもとなんら変わらない、軽い調子で挨拶を返してきた。
いつもならこれで終わり、別に話を広げなくても後腐れのない、さっぱりとした関係性なのだが、この状況で何も触れないというのも不自然だ。僕は遠慮がちに聞いてみた。
「その、隣のは……?」
津田君は遠山さんを一瞥すると、パッと笑顔になった。
「誰だって、こういうのは一度はやってみたくなるもんだろ?」
悪びれる様子はまったくない。津田君らしいと言えばらしいが、ここまで開き直れるのもなかなかすごい。
他のみんなは、そこまでのことはしていないのに。そう思ったのだが、教室の前方からも同意の声が上がった。
「そうだぞ、小森。目いっぱい楽しまないと、もったいない」
そう話すのは、前嶋君だった。五列目の一番前の席から振り返って、僕たちを見ている。
前嶋君はクラスの学級委員を務めていて、勉強もほとんど学年順位一桁という、真面目な優等生だった。だから、津田君の意見に同意するとは予想外だ。
「じゅる……ちゅっ……」
どこかから、聞き慣れない音が耳に届く。不思議に思って音の出どころを探ると、どうやら前嶋君の席から聞こえてきている。
よく見ると、前嶋君の机の下、足元に何かがある。いや、いる。
制服姿の女子……顔は見えないので、誰かは分からない。それが、前嶋君の机の下に座り込んでいる。
何をやっているのかは、教室の一番後ろからではさすがに見えない。しかし、その体勢とこの音……何をやっているのかは手に取るように分かる。
「楽しまないとか……そうだね……」
あまりのことに何と言っていいか分からず、どうにか絞り出した言葉がそれだった。そんな僕を見て、津田君がニヤリと笑う。
「で、小森はどうするつもりなんだ?」
僕は返答に窮した。昨日ルールで決めた通り、僕は外でまなみを辱めるようなことをするつもりはない。
僕は苦笑しながら答えた。
「まあ……考え中ってとこかな」
僕はさらに追及されるかと身構えたが、津田君は同意を示すように何度も頷いた。
「小森には小森のペースがあるからな。ゆっくりやるといいと思うぜ」
津田君と前嶋君は、空気の読める男だ。僕が戸惑っていると見るや、これ以上話しかけてくることはない。僕はホッとして、今度は横に立つまなみに目を向けた。
まなみは僕の横で直立不動で固まっていた。女子二人のあんまりな扱いを見て、何を思っただろうか。
しかし、ではなんと声を掛ければいいかと言われると難しい。この教室にまなみの席はない。かといって、そのまま今日一日ずっと立っていろ、というのは酷だ。
「……そこに座って、授業を見ててよ」
僕は仕方なく、席のすぐ横の床を指差しながら言った。クッションもなしに直接に座らすのは可哀そうではあるが、他に代案もない。
まなみは無言で頷くと、地べたに座り込んだ。