実技試験が終わって下の階に移動すると、筆記試験会場の教室があった。入ると、机で試験中の生徒たちが何人もいたが、なぜか空気感は緩い。
「空いている机で試験を受けてください。制限時間は20分です」
試験官の先生はそう言いながら、冊子とマークシートを渡してきた。
「奴隷用はこっちです」
まなみにも、同じく冊子とマークシートが渡される。なんと、筆記試験はまなみも受けるようだ。
少し驚いたが、試験中に私語は厳禁だ。僕たちは黙って空いている机に向かった。
一体、どんな問題が出るのか。僕はドキドキしながら冊子の1ページ目を開く。
……なんだこれ。
冊子に書いてあったのは、テストと言うよりは性格診断だった。「とても当てはまる」から「まったく当てはまらない」の間のグラデーションで答えていくタイプのやつだ。
これなら試験と言いつつ、緩い空気なのも頷ける。僕は改めて問題に目を向けた。
まずは、「主人としての心構え」という題目だった。
たとえば、「奴隷は主人の言うことはなんでも聞くべきだ」、「言うことを聞かせるためなら多少痛めつけても構わない」なんて質問もある。
正直同意しがたい内容だったが、全部「まったく当てはまらない」にするのは学校の奴隷制度の否定とも捉えられかねない。
とはいえ同意したくない内容ばかりだったし、「あまり当てはまらない」くらいにしておくことにする。
続いて、「奴隷への評価」。
たとえば、「奴隷は自分の言うことをよく聞いてくれる」、「奴隷の容姿を気に入っている」といったものだ。
ここに関しては迷わず「とても当てはまる」だ。まなみほど素晴らしい奴隷は、他にいないと思う。
ただ一点、「奴隷は自分を好いていると思う」、これだけは少し違う。
まなみが僕についてきてくれるのは、立場上仕方がないという面が大きいと思う。これだけは「あまり当てはまらない」でいい。
その次は、「主人としての能力」だ。
たとえば、「自分はうまく奴隷を扱えていると思う」、「状況に応じて適切な命令ができる」といった、自己評価を測るような質問だ。
はっきり言って自信はまったくないが、この回答が先生たちに評価されると考えると、あまり弱気に答えるのもどうかと思う。
ということで、「どちらかといえば当てはまらない」くらいにしておく。
こんな感じで、僕は続く問題に答えていった。分量は多いが、悩むような質問はないのでサクサク進む。どちらかというと、マークシートにマークする方が大変だった。
すべて答え終えて席を立つと、ちょうどまなみも立ち上がった。二人並んで回答を提出し、教室を後にする。
今日の試験はこれが最終科目だから、担任からはその場解散でいいとあらかじめ言われている。奴隷学の試験はこういう形式なので、終わる時間がバラけるからだろう。
とにもかくにも、これで試験はすべて終了だ。最後の奴隷学の試験は予想外の内容だったが、それでも試験が終わった後の爽快感は何物にも代えがたい。
僕は足取り軽く、昇降口に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って」
背後からまなみの声が聞こえて、振り返る。まなみはまだ教室の扉のすぐ近くにいた。わずかに足を震わせている。思い当たる理由は、一つしかない。
「……もしかして、ちょっと激しすぎた?」
「そういうのじゃないから」
「手、貸そうか?」
「平気だから」
まなみは頬を赤く染めながら目を逸らした。
僕はそんなまなみの姿に、思わず頬が緩んでしまう。せっかくの試験終わりだ。のんびり帰るのも悪くない。僕はまなみに歩調を合わせ、ゆっくりと歩を進めた。
中間試験から数日後。
「これから、成績表を配ります」
担任の言葉に、教室内に緊張が走る。
各科目の結果は、すでにそれぞれの授業で返却済みだった。どれも平均点は超えていたので、一安心といったところだ。
今日配布されるのは、合計点数と学年順位だ。そして何と言っても、奴隷学の結果はまだ知らされていない。このタイミングで通知されるに違いない。
順番に名前が呼ばれ、成績表を受け取っていく。僕はドキドキという心臓の音を聞きながら、自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「小森」
名前を呼ばれて、担任の元へと向かう。手渡された成績表の中身は見ないようにして、自分の席へと戻る。
席について、震える手で成績表を開いた。
学年順位は、176人中42位。僕にしてはかなりの高順位だ。
真ん中近辺をうろついていることが多かったから、かなり意外な結果と言える。
そして、僕は成績表に目を走らせた。奴隷学の点数は……。
あった。
奴隷学:96点(学年順位:1位)
……。
…………え?
僕は困惑した。なぜこんな結果になったのか、さっぱり分からない。
僕はただ好きなようにセックスしただけだし、筆記試験でも思うように答えただけだ。
それが、学年一位だなんて。今までの人生で取ったことのない高順位である。
「それでは、配布した成績表についてですが……」
担任の声に、僕は顔を上げた。気づけば、全員分の成績表の配布が終わったようだ。
「奴隷学の試験は、実技と筆記の内容を総合的に評価しました」
まあ、それはそうなんだろうけど……それで、僕が学年一位になる理由がまったく思い当たらない。
「ちなみに、今回の奴隷学の試験で30点を下回った者からは、奴隷を没収します」
……え?
想像もしていなかった言葉に、僕は固まった。
まったく、寝耳に水の事実である。まなみが僕のものでなくなる可能性なんて、思いもしなかった。
教室内もざわついている。30点というのがどれほどの点数なのかは分からないが、下回ったら問答無用で没収なのだ。
「そんな!」
そう言って立ち上がったのは隣の席の津田君だ。前嶋君もそれに続く。様子を見るに、二人は30点を下回ったということのようだ。
他にも抗議の声を上げるクラスメートが何人もいる。……もしかして、想像以上に30点未満の人って多いのだろうか?
そんな中、担任は抗議の声にも全く動じない。
「説明は以上です」
それだけ言い残して、担任は颯爽と教室を出て行ってしまった。