中間試験が終わって、初めての週末。僕は朝食を食べながら、まなみに提案をした。
「今日は、少し遠出して買い物に行かない?」
僕からこういう誘いをするのはおそらく初めてだと思う。まなみは怪訝な表情だ。
「何を買いに行くの?」
「いや、まあ……まなみも新しい服とか化粧品とか、買いたいでしょ?」
「え、別に」
あっさり否定されて、僕は困ってしまう。
せっかく試験が終わったのだし、自由な時間はいくらでもある。部屋でゲーム三昧と言うのも悪くはない。
しかし、たまにはまなみの息抜きも必要だろうと思って誘ってみたのだが……なかなか、女心というものは難しい。
「わたしは別に、今の生活で満足してるよ」
これがまなみのやせ我慢なのかどうかは、僕には判断がつかない。もう少しだけ食い下がってみることにする。
「僕は、まなみにはいつもかわいくいて欲しいから。必要なものがあるなら、揃えようよ」
「うーん……」
考え込むまなみに対し、僕は慌てて付け加えた。
「あ、いや、まなみはいつだってかわいいけど。今日だって、めちゃくちゃかわいいし、めちゃくちゃエロい」
「……そういう言葉を期待したわけじゃないんだけど」
まなみは恥ずかしそうに肩をすくめる。
「そういうことなら、出かけよっか」
まなみの言葉に、僕はホッとした。これでも断られたら、ふて寝するしかなかったところだ。
「で、どこに行くの?」
「えーと……」
まなみの問いに僕は口ごもった。具体的なプランが頭にあるわけではなかったからだ。
「たとえば……渋谷とか、原宿とか?」
僕は口に出しながらまなみの反応をうかがったが、まなみは呆れた表情だ。
「あのね、女子高生を何だと思ってるの?」
思った以上に辛辣な返答に、僕はドキリとした。
「だ、ダメだった?」
「そりゃ、そういうところを見て回るのは楽しいけど、お金持ちじゃないんだから。普通の女子高生が、おいそれとブランドショップで買いたい服を買えるわけないでしょ?」
「そ、そうなんですね」
僕は返す言葉もない。
結局、まなみの提案で行先は三駅隣のショッピングモールになった。そこにはそんなにおしゃれな店は無いと思うのだが、まなみがそこでいいというのだから信じるしかない。
僕たちは隣町のショッピングモールへとやってきた。
入り口近くのフロアマップを見ながら、まなみに尋ねる。
「どこに行きたい?」
「んー」
まなみが悩みつつ指差したのは、どこにでもある安価で有名な服屋だった。
「本当にそこでいいの?」
「ご主人様ってさ、高い服を買えばそれでいいって思ってない?」
まなみの指摘に、ギクリとする。まなみはフフッと笑った。
「ファッションは、何をどう組み合わせるかだから。まあ、見ててよ」
服屋に到着し、まなみは服を手にとっては、僕に聞いてくる。
「これ、どう思う?」
「か、かわいいと思う」
僕はそれしか言えない。それでも服を選ぶまなみは楽しそうだったので、まあいいかと思い直した。
まなみが選んだ服は、たったの三着だけだった。
「それだけでいいの?」
「うん。だって、こういう時にしか着ないんだから、たくさん持っててもしょうがないじゃん」
「……確かに」
家の中で服を着るな、といったのは僕である。自分で決めたルールも忘れて、呑気にもっと買えば、などと言うのは自分でもどうかと思う。
その後は、ショッピングモールを二人で散策した。二人で並んで歩くのは、確かに楽しい。人の多い都会よりは、これくらいの場所でのんびり過ごす方がいいのかもしれない。
僕たちはひとしきり歩き回った後、歩き疲れてコーヒーショップで小休止をしていた。カフェラテを飲みながら、まなみに尋ねる。
「この後、どうしようか?」
僕としても思いつきで誘っただけだから、この後の予定はとくに決めていない。
「ご主人様は、どうしたいの?」
そう問い返されて、僕は思案する。こういうときは、どうすればいいのだろうか。
「……軽くご飯を食べてから、映画でも見る?」
完全に咄嗟の提案だったが、まなみは素直に頷いた。
「うん、行きたい」
「じゃあ、そうしようか」
僕はスマホを取り出して、近くの映画館を検索した。
ふと、僕は改めて隣にいるまなみを見た。これは、どう考えても……。
「デートみたいだね」
心の中で言ったはずが、口に出してしまっていた。僕は慌てて訂正しようとしたが、まなみは意外そうに僕を見た。
「え、デートじゃないの?」
「え……」
僕は返答に窮した。
僕は当然、これまでに女の子と付き合った経験はない。デートの経験なんてあるはずもない。その上で、今のこれがデートかというと……それは違う気がした。
「でも、僕らって付き合ってるわけじゃないから」
「うん」
「デートとは、言えないんじゃない?」
「そうかもしれないけど……でもある意味、わたしたちって付き合っている以上の関係ではあるわけだし」
「それはまあ……」
「なら、デートってことでいいんじゃない?」
屈託なくそう話すまなみに、僕は困惑する。まなみがいいなら、それでもいいとは思うけれど。
カフェラテを飲み終えた僕たちは、コーヒーショップを出て再び歩き出す。
でも、これがデートだというのなら……そう思って、僕はまなみに手を差し出した。
「手、つなぐ?」
まなみは差し出された手と僕の顔を順番に見て、小さく首を傾げた。
「それは、命令?」
「いや、ただの提案」
僕の回答にまなみはしばらく黙っていたが、やがて僕の手を取ってギュッと握った。
二人並んで、手をつないで歩く。
デートっていいものだなぁ。僕はしみじみとそう思った。