中間試験後の授業は、相変わらず何の変哲もない、ごく普通の授業だった。
先生たちは奴隷のことなど気にも留めないし、僕たちもすっかりこの状況に慣れてしまった。ただ真面目に、授業が進行していく。
しかし、試験前とは違う点が一つだけある。
教室が、さらに広くなったように感じられる。理由はもちろん、一部クラスメートの奴隷が没収されたからだ。
30点未満は没収という話だったが、今このクラスに残っている奴隷は8人だけ。クラスの男子は20人であるから、半分以上が没収されたということになる。
僕としてはかなり意外な結果だったのだが、同時に納得もしていた。
そもそもの謎として、なぜ学校側は男子たちに奴隷を配布しているのか、というものがある。
学校としては多額の金を使って女子生徒を買い上げ、奴隷制度を整えているというのに、肝心の奴隷を無料で配布してしまっては意味がない。ただただ、無駄に金を垂れ流しているだけだ。
しかし、それが男子たちが奴隷をまともに育てられないことを見越してのことだとしたら、合点が行く。
試験の点数を理由に奴隷を没収してしまえば、学校所有の奴隷にしてしまえる。学校の管理下に置いた上で教育を施し……おそらく、どこかに売り払って利益を得ているのだろう。
さらに、男子の調教の様子を録画なり録音なりしておけば、弱みを握ることもできる。文句を言わない若い労働力を確保できるし、将来的な奴隷の売却先候補にもなりうる。
奴隷を育てつつ、カモも作る。学校側としては、一石二鳥だ。
まったく、なかなかエグイことを考えるものだ。
僕は横にいるまなみを見た。まなみは、持参したふかふかのクッションを敷いて床に座っている。
当然、僕自身はまなみを手放すつもりはまったくない。今のところ、成績さえよければ奴隷は没収されないし、学校としてもそれは必要経費と捉えている節がある。
僕もそこについては最大限、学校を利用させてもらうつもりだ。どうせ僕のことだって監視しているのだろうから、それくらいのことは許されるだろう。
昼休み、僕はまなみと一緒に昼食をとっていた。まなみの手作り弁当である。
中間試験が終わってから、教室はだいぶ過ごしやすくなった。
教室で幅を利かせていた、公然とエロ行為をする組が軒並み奴隷を没収されたからだ。彼らは反省もあってか大人しくなったし、奴隷の代わりに勉強や部活に打ち込むようになったので、そもそも教室にいないことも多い。
「この玉子焼き、めっちゃ美味しい」
「ホント? よかったー」
まなみと何気ない会話をしながら、食事を楽しむ。ただし、僕たちのような関係性も実は少数派だ。
今回の中間試験を生き残った奴隷所有組のクラスメートたちを見ても、まだ硬い。主人側も奴隷側も、お互いに気をつかっているのが一目瞭然だ。
「あの、小森君」
そんな中で話しかけてきたのは、斜め前の席の江川君だ。囲碁部の部長で、奴隷所有組の一人である。その隣にいるのは、浦部さん。確か……華道部だったと思う。
江川君とはあまり関りがなかったので、こうして話しかけられるのは珍しい。
「小森君って、今回の奴隷学の試験の成績よかったよね?」
「……まあ、そこそこ」
僕は言葉を濁した。周りには奴隷を没収された人もいるし、あまり大っぴらに成績を言いたくはない。しかし、僕とまなみの空気感を見ていれば、成績がよかったことは推測できてしまうのだろう。
「何かコツとかってある? 正直、なかなか会話が続かなくて」
「うーん……」
江川君の悩みは、よく分かる。
江川君と浦部さんは、どちらも寡黙なタイプだ。お互いに気をつかいまくって大変なのだろうということは手に取るように分かる。
しかし、僕としても具体的なアドバイスと言われると難しい。僕自身が、何か特別なことをしたわけではないからだ。
僕はチラリと横にいるまなみに視線を送った。どちらかというと、まなみが早々に覚悟を決めてくれたことが大きい。いや、むしろそれがすべてと言える。
「いやあ、僕は何もしてないよ。彼女が頑張ってくれただけで」
「でもさ、今回の実技試験で、その……結構、情熱的な感じだったって聞いたけど」
「うっ」
僕は胸を押さえた。あの試験中のまなみとの会話を、廊下にいた十人に聞かれたのは把握していた。しかしこの感じだと、学年中に広まっていても不思議ではない。
まったく、頭が痛い。
江川君は僕の様子を見ながら、遠慮がちに言った。
「それで、小森君がよければなんだけど、みんなで勉強会をしたらどうかなって」
「勉強会?」
初耳だった。僕は江川君の話に耳を傾ける。
「うん。学校側は勝手に奴隷を配って、勝手に試験をするけど、何も教えてはくれないわけで。だったら、僕たちで情報交換したほうがいいんじゃないかなと思って、試しに何人かに声を掛けてみたら、結構みんな乗り気で」
「へぇ……」
思いもしない提案だったが、言われてみればなるほどと思う。皆、戸惑いながらも奴隷を失いたくないという思いは共通しているのだろう。生徒側で集まって試験対策をするというのは、いい考えのように思えた。
僕だって今こそ学年一位ではあるが、いつまでそれが続くかは分からない。担任はそのままでいいとは言っていたものの、次の試験で一気に転落する可能性もゼロではないのだ。
「うん、いい考えだと思う」
そう言うと、江川君の表情はパッと明るくなった。
「よかった! ありがとう、小森君。小森君が参加してくれると心強いよ」
「いや、僕なんかはそんなに……」
「いやいや。それで、急なんだけど今日の放課後で、どうかな?」
そのタイミングで、予鈴が鳴った。もう昼休みも終わりだ。僕は無言で親指を立てて了解の意を示すと、江川君は嬉しそうに頷いた。
次の授業は、選択科目なので教室移動がある。僕たちは会話を切り上げ、それぞれの教室へと向かった。
放課後、僕はまなみを連れて江川君が指定した教室へと向かった。
扉をガラリと開けて中に入ると、中には想像以上に多くの生徒が集まっていた。クラスメートの見知った顔がいくつかあり、面識のない他クラスの男子もいる。それぞれが奴隷を連れており、合計で40人近い。
僕が教室に足を踏み入れると、皆の視線が一斉に僕に集中する。そして、おお、という歓声とともに拍手が巻き起こった。
「……へ?」
僕は何が起こっているのか分からずに困惑してしまう。入り口近くにいた江川君を見つけて事情を聞こうとするが、その前に江川君が口を開いた。
「皆さん、今日の講師を務めてくれる、学年一位の小森君が来てくれました!」
再び拍手が巻き起こった。僕は突然のことに、呆気に取られてしまう。
言いたいことは山ほどあるが、まず何よりも。
……この展開は、聞いてないっ!