試験会場の教室で向き合う先生の話は、予想外のものだった。
「まず、今回の試験の大きなポイントは、セックスをするかしないかです」
「え?」
僕は驚いた。セックスの内容ではなく、するかしないかを見られていた? ということは、僕のように指示を拒否する生徒もある程度想定されていたことになる。
だけど、それは先生の言う通り悪趣味過ぎだ。
普通はセックスしろと言われればするだろうし、しない選択肢に気づかない可能性は十分にある。
僕は文句の一つも言いたいところだったが、評価基準は聞いておきたかった。ひとまず先生の話を聞くことに集中する。
「まず、主人側も奴隷側もセックスをすることを選択した場合ですが、これは中間試験と同様に、行為中の言動で評価されます。セックスをするという選択自体には、加点や減点は発生しません」
これは、理解できる。というより、指示に従っただけなのだから当たり前だ。
「次に、主人側がセックスをして奴隷側が拒否した場合。これもとくに問題ありません。主人側は奴隷を多頭飼することもありますし、逆に奴隷側にとっては主人は一人だけですから、そこに忠誠を誓うのは正しい姿です」
この組み合わせでも問題ないのか。僕は意外に思った。
僕には理解できないけれど、主人と奴隷の関係性としては正しいのだと思う。とはいえ、主人側は浮気してもいいというのは少しひどい。
「続いて、主人側が拒否して、奴隷側がセックスをした場合。これは一人の奴隷を愛でる主人に対する裏切り行為になりますので、大幅減点です」
僕はゾッとした。言っている内容は理解できるが、選択を一つ掛け違えただけで、大幅減点になるというのは恐ろしい。
そして現実問題として、僕はこのパターンに該当する可能性が残されている。
「最後に、主人も奴隷もセックスを拒否した場合は、正しく信頼関係を築けているということで加点評価になります。もっとも、行為中の加点は見込めないので、他の選択に比べて有利になるほどではありません」
僕が生き残るとしたら、このパターンだ。0点も覚悟していたのだが、助かる見込みが出てきたのはありがたい。
しかし、そうだとすると僕の成績は、完全にまなみに委ねられたことになる。
まなみが拒否をしていれば加点、セックスをしていれば大幅減点だ。
まなみは僕のことを信じてくれている……と思いたいが、そう簡単な話ではない。まなみはこれまでも学校からの指示に対してはかなり従順な姿勢を見せているし、まなみの相手が乗り気だった場合、まなみにはどうしようもない可能性もある。
気が重くなるが、今の僕にはどうしようもない。
「これで説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
先生の問いに、僕は考え込んだ。一応、聞きたいことは聞けたと思うし、この後は筆記試験もあるから、あまり長引かせるのもよくない。筆記試験も0点にはなりたくない。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
本当はお礼なんて言いたくなかったけど、仕方がない。別に、この先生が試験内容を決めているわけでもないだろう。ここで暴れても八つ当たりにしかならない。
僕は教室を出て、次の筆記試験会場へと向かった。
筆記試験会場では、すでに多くの生徒が試験を受けていた。僕も問題を受け取り、その中に混じる。
内容は、前回同様に性格診断に近いものだった。今回は与えられた状況に対して、自分の考えに近い選択肢を選べ、というようなものだ。
たとえば、「奴隷が預けていたお金を紛失したらどうするか?」という問いに対して、選択肢が「1.叱責する」、「2.罰を与える」、「3.事情を聞く」、「4.気にしない」で、近いものを選べ、というような感じである。
ちなみに、この質問なら僕の回答は「3.事情を聞く」だ。なぜなら、あのまなみが理由もなく僕のお金をなくすなんてことはありえないからだ。親バカ……いや、奴隷バカが過ぎるのかもしれないが、結構本気でそう思っている。
それにしても、今回は実技試験も含めて、僕たちの行動を試すような設問が多い。かなり気分が悪い。
しかし、こんなところでグチグチ言っても始まらないので、ひとまず回答を埋めていく。
回答が終わって席を立つと、気づけば教室には僕一人だった。実技の後に先生と話した時間が五分はあったから、当然といえば当然だ。
回答を提出して廊下に出ると、そこにはまなみが一人で待っていた。
まなみの顔を見て、僕の心はざわついた。上手く表情を作れたか、まったく自信がない。僕はまなみに笑いかけた。
「試験お疲れ様。じゃ、帰ろうか」
僕が昇降口へと足を向けた瞬間、後ろから抱き着かれた。
「ご主人様……」
不安げなその言葉で、僕はまなみと通じ合えた気がした。まなみの言いたいことは、もう何となく分かった。それでも、ちゃんと話はしておきたい。
僕は振り返って、まなみのことを抱きしめた。こんな場所で誰かに見られたら、とは思うが、幸いにも廊下に人の姿はない。
「僕は、先生に言ってセックスはしなかったよ。まなみは?」
「……私も」
それだけ聞ければ十分だった。
僕は人の目も気にせずにまなみを抱き寄せ、そっと唇を合わせた。