翌週、期末試験の結果が返ってきた。
一般科目の成績は、いつも通り平均より少し上くらいだ。
そして、奴隷学の点数はというと、94点。
学年順位は……一位だった。
僕はひとまずホッとした。少なくとも、まなみの没収は回避できた。
しかし、今回の試験のことを思い返すと、これで一位というのはどうも釈然としない。結局セックスはしなかったわけだから、他の生徒と比べても大した差はつかないはずだ。
ゆうかとの会話が高評価されたとか? ありえなくはないが、それだけでそこまでの差になるとも思えない。
僕は成績表を鞄に突っ込んだ。何はともあれ、これで試験は終わりだ。後一日、明日の終業式が終われば晴れて夏休み突入だ。
そうとなれば教室に長居する理由もない。さっさと帰ろうと席を立ったところで、予想外のところから声が掛かった。担任だ。
「小森君。この後話があるので、少しだけ残ってください」
何の話だろうか。僕はいろいろ記憶をたどってみたが、思い当たることがない。
正直早く帰りたかったが、無視して帰るわけにもいかない。僕は再び席に腰かけ、他のクラスメートたちが帰っていくのを見送った。
皆が帰った後、僕は担任と向かい合っていた。一対一で話をしたいというので、まなみは先に帰らせている。
何の話かと警戒していると、担任は僕に向かって笑顔を見せた。
「小森君。今回の奴隷学の試験も素晴らしい結果でした。連続で学年一位だなんて」
手放しに褒められて、少し照れてしまう。しかし、聞くべきことは聞いておかなければならない。
「でも先生、なんであの内容で、僕が学年一位になったんでしょうか?」
「それはですね……」
担任は手元の手帳を開いて、中の内容を読み上げた。
「小森君の場合、主人と奴隷ともにセックスを拒否していますのでそれで加点。そして、その理由として主人あるいは奴隷を裏切れない、という意味の説明があったので、さらに加点されています」
なるほど、そういう言動も見られていて、細かく加点や減点がされているわけだ。確かに、そうでもしないと成績に差がつかない。
それに先生の話を信じるなら、まなみもセックスを拒否するときに僕のことに言及したということになる。それはかなり嬉しい。
担任は続けた。
「そして、拒否後の相手の奴隷に対する態度でも加点がついています」
やっぱり。何となくそんな気がして、ゆうかに優しくしておいて本当によかった。
「それと、筆記試験もほぼ満点でした。それらを総合しての、学年一位という結果です。納得できましたか?」
「はい」
担任の説明に、僕は頷いた。そういうことなら学年一位もある程度納得できるし、そこまで細かい言動を見られているのであれば、今後の試験はより一層気をつけて取り組まないといけない。
一人で納得して満足げな僕に、担任は遠慮がちに切り出した。
「それで、本題なのですが……」
そうだった。
これは、僕の成績の理由を聞くための会ではない。担任が何らかの理由で僕を呼び止めたのだ。その理由とは、一体何か?
「小森君の最近の成績を見て、特待生の話が来ています」
「……へ?」
まったく予想もしていなかった話に、僕は思わず目をむいた。
困惑する僕に、担任は特待生制度の説明をしてくれた。
「一定以上の成績を残した生徒を対象に、一学期時点での入学の内定と、授業料の一部免除をするというのが特待生という制度です」
「ちょ、ちょっと待ってください」
僕は理解が追い付かず、担任の話を遮った。僕はごく平均的な、普通の生徒である。特待生なんて、まったく縁のない話だと思っていた。
「僕が特待生だなんて、冗談でしょう?」
「いえ。つい先ほど言ったでしょう。奴隷学の試験で連続で学年一位を取ったんですよ」
「いやいや……」
僕は苦笑いを浮かべた。僕の奴隷学以外の成績は、せいぜい平均点レベルだ。そこに奴隷学を足したところで、平均よりちょっといい程度にしかならないはずだ。
そう言うと、担任は呆れた表情で僕を見た。
「小森君も三年になって本校の秘密を知ったはずです。であれば、奴隷学の成績が取り立てて評価されることについて、何も不思議なことはないと思いますが」
「う……」
そんなことが本当にあるのだろうか。しかし、担任は嘘をついているようには見えない。
とはいえ、問題はまだある。仮に僕が特待生に選ばれたとして、僕が誇れるのは奴隷学の成績だけである。大学側の要求レベルに達していなければ、入学後に苦しむのは僕自身だ。
「ちなみに特待生になる場合、学部はどこになるんですか?」
「教育学部です」
「え……」
僕はいやな予感がした。
もともと特待生制度など使わずに内部進学をしようとしていたから、大学に教育学部があることは知っていた。しかしそれは、普通に先生を目指すための学部だとばかり思っていた。
「教育って……もしかして、そういう意味だったんですか……?」
「半分正解です。普通に教員免許を取って、普通の学校の先生になるパターンもありますよ、もちろん」
そ、そうなのか。僕は肩透かしを食らった気分だった。
しかし、よく考えてみると半分正解と言うことは、その半分はやはり……。
「あとの半分は、小森君が考えている通りだと思います。奴隷の扱いに長けた人材は本校にとって利益になりますから、そういった人のための学部でもあります」
「ま、マジですか」
「はい。一応、外向けの体裁もあるので、教育学部・未来開発科という学科名にはなりますが」
思った以上の闇深案件に、僕は頭を抱えてしまう。
未来開発科、確かに大学のパンフレットで見かけた記憶はあるような気がする。その意味が、「未来」の自分たちの欲望のために、女子たちを「開発」するという意味だったなんて、考えもしなかった。
ここまでの話を聞いて、素直に受けてもいいものかは、にわかには判断がつかない。
返答に困っている僕に担任が言い放ったのは、さらに衝撃的な一言だった。
「そして、小森君には……もう一人、奴隷を所有してもらいます」