もう一人……?
僕は担任の言っている意味が分からず、思わず聞き返してしまう。
「もう一人って……どういう意味ですか?」
「その通りの意味です。優秀な小森君には、もう一人奴隷を育ててほしいんです」
僕はその言葉を咀嚼するのにそれなりの時間を要した。
他のみんなは奴隷を没収されているのに、僕だけ二人目なんて、なんて贅沢な。
最初はそう思ったが、よく考えると僕にとってあまりうれしくない話だということに気づく。
僕の奴隷はまなみだけだし、今の関係性は二人きりだからこそという点が大きい。今更そこに割って入ってこられても、正直困る。
単純にまなみと過ごす時間が半分になってしまうし、二人の奴隷を養うのに掛かるお金だって馬鹿にならない。
それに、二人目がどんな奴隷が来るのかは完全な運だ。こう言ってはなんだが、ブサイクは勘弁願いたい。
「もちろん、二人の面倒を見る大変さは分かっています。その労力に見合う対価は払うつもりですよ」
そう言って担任は、封筒を僕の前に差し出した。何やら分厚い。
「当然、二人目に掛かるコストは学校側で負担します。足りなければ、もう少しくらいは私の裁量で増やせます」
僕は封筒を手に取り、中をのぞき込んだ。分厚い札束が二つ。つまり、二百万!
「そして、一人目の奴隷……まなみ、でしたか。その所有権を差し上げます」
僕はゴクリとつばを飲み込んだ。それは、つまり……。
「今後の試験も含め、いかなる理由でも没収はしません。小森君が望む限り、まなみは君のものです」
僕の心が躍った。もう、まなみを失う恐怖に怯えなくてもいい? 一生、まなみは僕の隣に置いておける?
それは、あまりに魅力的な誘いだった。
「……受けます」
僕はあっさりと陥落した。しかし、冷静に考えてもこれはそんなに悪い話ではないと思う。
特待生の授業料免除とこの二百万は、報酬として十分過ぎる。
もちろん、学校とはズブズブの関係になるし、もう逃れられなくなる。とはいえ、そもそも僕たちが今後暮らしていくには、学校のサポートは必須なのだ。
人権のないまなみの戸籍が、今どうなっているのかは分からない。しかし、病院に行くにも海外に行くにも、事情を知る人の助けが必要になる。
そう簡単には逃げ出せない以上、むしろ学校に恩を売るチャンスとも言える。
その後、僕の提案で契約書を作ることになった。こんな大事な内容を、口約束で済ますわけには行かない。
僕は学校の秘密を守りながら、特待生として未来開発化に進学する。そして、学校のために二人目の奴隷を育てる。
学校はその対価として、まなみの所有権と二百万を支払う。
二人目の奴隷の引き渡しは、明日の放課後に決まった。
僕は校長室で契約書にサインした。続いて、校長と担任がそれぞれサインする。契約成立だ。
帰りがけ、担任が思い出したように付け加えた。
「そうそう、今回小森君に任せる予定の二人目の奴隷ですが。事情があって学校で管理していたのですが、優秀だったので遊ばせておくのが惜しく、小森君に任せてみようとなった経緯があります。なので、それなりに期待してもらって大丈夫です」
僕としてはまなみさえいれば十分なので、二人目に大して期待はしていなかった。しかし、そう言われては楽しみにしないわけにはいかない。
そりゃ、美人が来てくれるに越したことはないのだ。
僕は担任との話を終えて、自宅へと向かっていた。まなみを待たせているので、あまり遅くなるわけにもいかない。
しかし、僕の足取りは重かった。先ほどの担任との話を、どう伝えるべきか決めかねていたからだ。
まなみがもう学校側に没収されることがないというのは、まなみにとっても朗報だろう。おそらく喜んでくれると思う。
だけど、大学の未来開発科でこれからも奴隷学を学んでいくということと、二人目の奴隷を受け入れることについてはどうだろうか。
まなみに「学校側に協力するなんて、サイテー」とか冷たく言われてしまったら、もう立ち直れないかもしれない。
あるいは、「やった、二人いるならもう、毎日ご奉仕しなくていいよね」なんてホッとされてしまったら、まなみの前で笑える自信がない。
とはいえ、明日には二人目の奴隷が来てしまうから、今日話さないわけにもいかない。
僕は悶々と考え続けたが、名案は思い浮かばなかった。
もう、正直に話すしかないか。僕はどよんとした空気をまとったまま、玄関の扉を開いた。