自宅に到着し、僕はまなみを家に招き入れた。家の中には誰もいない。僕は実家暮らしであったが、それと同時に一人暮らしなのだ。
僕は両親の間に生まれた一人息子で、両親はまだ健在なのだが、ともにバリバリの仕事人間だった。日本、海外問わず全国を飛び回る毎日で、この春から二人そろってアメリカに長期出張をしている。少なくとも、今年一年は帰ってくる予定はない。
まるで、僕がまなみを家に迎え入れるためとしか思えない、偶然のかみ合いだった。
僕はとりあえず、まなみをリビングへと案内した。
「そこに座ってて」
僕はダイニングテーブルをまなみに示す。
「う、うん……」
まなみは戸惑いながらも、促されるままに椅子に腰かけた。
僕はキッチンの冷蔵庫を開け、ウーロン茶を取り出した。来客用のグラスを取り出し、ウーロン茶を注ぐ。ついでに、マイカップにも注ぐ。
僕はリビングに戻って、まなみにウーロン茶のグラスを差し出した。そのまま、向かいの椅子に座る。
どこから話したらいいのかは分からない。まなみだって、今はそっとしておいて欲しいだろう。しかし、最低限のことは話しておかないといけない。僕は静かに切り出した。
「僕も突然のことで驚いてるんだけど、ひとまず必要なことは話さないといけないと思って」
「……」
まなみは黙っている。僕はひとまず、話したいことを話してしまうことにした。
「
僕はそれが正しくないと分かった上で、まなみのことをそう呼んだ。そうでないと、どうにも呼びづらかったからだ。
まなみは僕をチラリと見て何か言いたげだったが、結局何も言わなかった。屈辱的なことだろうから、自分の口からわざわざ言いたくないという気持ちは理解できる。
「自己紹介がまだだったよね。僕は
「知ってる」
僕の言葉を、まなみは小さな声で遮った。
「え?」
「クラスメートなんだから、知ってるに決まってるでしょ」
不機嫌そうにまなみはそう言ったが、僕のことを覚えていてくれたと知って、僕の心は少しだけ弾んだ。
「覚えててくれたんだ。よかった」
「それは、まあ……」
まなみとは、やはり目は合わない。僕はめげずに続けた。
「しばらくはこの家で暮らしてもらうことになると思うから、うちの事情を説明しておくね」
僕はそう言って、両親が海外出張中であること、当分は帰ってくる予定がないことを説明した。
そして、家の中を案内する。一階にはキッチン、風呂場にトイレ。そして、二階には僕の部屋と、父の部屋、母の部屋がそれぞれある。一旦、母の部屋に案内した。
「ここは母親の部屋なんだけど、沢北さんが自由に使ってもらっていいから」
そこまで伝えたところで、僕は沢北さんの視線に気づいた。沢北さんは、初めて僕の方を真っすぐに見て、不思議そうに目を丸くしていた。
「なんで?」
何に対する疑問なのだろう。僕は考え込んだ。そして、一つの可能性に思い当たる。
「あっ、そうだ。これから生活するには、いろいろ物が必要だよね。洋服とか、日用品とか」
「いや、そうじゃなくて」
まなみは素早く否定した。そうじゃないなら、一体何なのだろう。
「なんで、エッチな命令しないの?」
「……」
いやいやいや。
僕は心の中で全力でツッコミを入れた。
そりゃしたい。したいさ。学校でまなみが奴隷になると知って、真っ先に想像したのがエッチな命令し放題ということだ。男なら、誰だってそうだろう。
しかし、実際にまなみを前にして、そういう命令を躊躇なく出来るかどうかは別問題だ。僕は慎重に言葉を選びつつ、言葉を返した。
「だって、ほら……沢北さんだって、そういうのは嫌でしょ?」
「嫌とかじゃないでしょ。だって、わたしは奴隷なんだから」
まなみはそう言って口を尖らせた。僕はそれを見て意外に思った。
「……意外に、奴隷のことを受け入れてるんだね」
そう、ただの女子高生がいきなり奴隷になれと言われて、受け入れられるはずがないと思っていたのだ。しかし、ここまでの話を聞く限り、まなみは思いのほかそのことを受け入れ、覚悟を決めているように見える。
そう思ったのだが、まなみは僕のことをジロリと睨んでくる。
「受け入れてるって、人を奴隷にされて喜んでる変態みたいに言わないでもらえる?」
「ご、ごめん」
「だって、しょうがないでしょ。奴隷になれと言われて持ち物をすべて没収されて、その場で動画を見せられて。汚らしいおっさんに輪姦される女の子を見せて、言うこと聞かないとこうなるぞって脅されて」
「うわぁ……」
「それで、その場に家族に電話したら『お前なんか知らない』って言われて。他に選択肢がないんだから、受け入れるとかじゃなく、他にどうしようもないの」
「……」
あまりに壮絶な状況を聞いて、僕は言葉を失ってしまう。やっぱり、こんな子に対して僕の欲望を満たすためだけに、エッチな命令なんて出来るはずがない。僕は何とか言葉を絞り出す。
「だ、だったら、なおのことエッチな命令なんて出来ないよ。沢北さんだって、本当は嫌なんでしょ?」
「嫌に決まってるでしょ」
「だ、だよね」
「でも、ここに来るまでに覚悟はしてたから。だって小森君に嫌われたら、どのみち輪姦行きじゃん」
まなみの言っていることは、ある意味では正しい。僕は、体育館での質疑応答の時間を思い出していた。
あの時の質問回答に、こんなものがあった。卒業時に、奴隷をそのまま所有し続けるか、所有権を放棄するかを選択できると。その話を聞いたとき、僕はそれを外れ奴隷を引いたときの救済措置だと思っていた。しかし、奴隷視点になるとそれは別の意味を持ってくる。
主人に気に入られないと、奴隷は所有権を放棄されてしまい、奴隷オークション行き――まなみの言葉を借りれば、輪姦行きになる。それを回避するには、どうにかして主人の機嫌を取る必要があるのだ。
まなみはフッと目を伏せた。
「わたしにとっては、ぐちゃぐちゃに犯される方が結果的に都合がいいかもしれないから。わたしの身体に何の興味も無いって言うなら別だけど……」
「興味はある! めっっっちゃくちゃある!」
素直に言ったほうがいい気配を感じて、僕はがっつくように叫んだ。まなみは目を丸くしている。
「そ、そう。興味がないんだったら、どうにかして小森君を誘惑しないといけないと考えてたから……よかった、かな」
そう言ってまなみは微笑んだ。
まなみの全力の誘惑を受けてみたいという気もしたが、意地悪をいうような空気ではない。それに、まなみ自身のお墨付きが出たのだ。僕の心に掛かっていた枷が、一つ外れた気がした。
「じゃあ早速、命令についての話をしたいと思うんだけど……」
僕の言葉に、まなみは恥ずかしそうに小さく頷いた。
「う、うん」
その表情に、僕の心臓と股間が同時にビクンと跳ねた。