翌日の放課後。
終業式が終わり、待ちに待った夏休みだ。他の生徒たちがさっさと下校していく中、僕は今日も居残りだった。教室で、担任と一対一で向き合う。
「奴隷との顔合わせの前に、事前にいくつか説明をしておくことがあります」
担任がそう言って差し出した書類には、何やらびっしりと文字が書かれている。
「まず最初に、今回小森君に渡す二人目の奴隷は、卒業のときに学校側で回収します」
「えっ……」
いきなり初耳の情報だ。僕に奴隷を預けると言っておきながら、最終的には確定で奴隷を没収されるなんて、聞いていない。
しかし……よくよく冷静に考えると、それも納得の話だ。
奴隷を二人も三人も養うのは、金銭的にも体力的にも大変だ。まなみを養うくらいの余裕はあっても、僕の家はそこまで金持ちではない。
期限が決まっていれば、僕は卒業まで心置きなく二人の奴隷との生活を楽しめるし、学校側としても奴隷に経験を積ませられる。
その二人目に情が移ってしまうことだけ心配だが……在学中だけというのは悪くない落としどころだと思う。
「そして、卒業時にその奴隷を評価して、奴隷ランクに応じて小森君には報酬を渡します」
「奴隷ランク?」
初めて聞く単語だ。僕の疑問に、担任は静かに頷いた。
「はい。本校では奴隷の容姿と能力を評価して、ランク付けを行なっています。そのランクによって、卒業後の扱いが変わってきます」
女子たちにとってはひどい話だが、理解はできる。たとえば、まなみは他と比べても明らかに群を抜いて優秀だし、その扱いに差がつくのは当然だと思う。
「ランクはAからEの五段階で評価します。ランクの内訳も聞きたいですか?」
「……一応」
女子をランク付けするなんて気持ちのいい話ではないが、まなみの主人としては一応聞いておきたい。
「では、まずはEランクから。ここは容姿が一定水準以下の奴隷が該当します。市場価値はせいぜい数万円で、単なる労働力として扱われることが多いですね」
一人の人生がたったの数万円でやりとりされるというのは信じたくない話だ。しかし、説明する担任の口調はきわめて冷静で、事務的だ。
「次にDランクですが、容姿は一定以上でも命令無視など態度に問題のある奴隷が該当します。数十万程度で取引されて、雑に扱われて数年で壊れる奴隷が大半です」
「……」
女子たちは、この話を知っているのだろうか。おそらくは、知っているのだと思う。でないと、今までのまなみの怯えっぷりの説明がつかない、
「Cランクは平均的な奴隷です。汚いおじさまたちの性欲のはけ口になりますが、それでも数百万の値がつくので、それなりに大事に扱われます」
数百万で「それなり」というのが恐ろしい。
しかし、この学校の存在がこれまで許されていることを考えると、どこからか強い力が働いていることだけは分かる。
そういう世界では、数百万なんて大した額ではないのだろう。
「Bランクは容姿も能力も優れた選りすぐりの奴隷です。値段は数千万にものぼり、ここまで来ると、たとえば愛人として買われるなど、奴隷らしからぬ良い扱いを受けることも珍しくないです」
Bランクまで来てようやく、人間としての尊厳を保てている気がする。しかし、学校側も厳しく評価するだろうし、Bランクまで到達できる女子が本当にいるのかは疑わしいと言わざるをえない。
「そして最後にAランクですが、すべてにおいて最高級の素材で、数億単位の金額が動きます。ただ、このレベルは本校でも三年、いや五年に一度にしか現れません」
数億だなんて、想像もつかない世界だ。僕には関係ない話な気がする。
「さて、続いてランクごとの小森君への報酬の話です」
ここからが本題だ。僕は姿勢を正して担任の話に耳を傾けた。
「まず、これから渡す奴隷は現時点でCランクです。ランクは基本下がることはありませんから、Cランク以上の評価になることはほとんど確定です」
「なるほど……」
それは僕にとって悪くない話だ。
もしEランクの奴隷を渡されて、卒業時にDランクでした、となったら目も当てられない。数年で死ぬと分かっていて、どんな顔をして送り出せばいいのか分からない。
その点、Cランクなら最低限の生活は保障されそうだし、Bランクにしてあげることができれば、あるいは普通の人生を送ることもできるかもしれない。
「卒業時にCランクのままで返してくれた場合、昨日約束したこと……特待生の権利と授業料免除、それに奴隷一人はそのまま差し上げます」
「えっ、いいんですか?」
僕は思わず聞き返してしまった。ランクがそのままでもいいなら、僕が報酬を受け取ることは確定している。
「はい。あくまで小森君の成績を評価して奴隷を任せるというだけなので、仮に成果が出なくても問題ありません」
「はぁ」
話がうますぎる気もしたが、わざわざ拒否をする理由もない。
「そして、もし卒業時にAランクまたはBランクだった場合は、その売却額に応じた報酬をお支払いします。具体的には、売却額の20パーセントを小森君に渡します」
「え……」
僕は驚きで言葉も出なかった。Bランクで数千万という話だったから、最低でも200万。Aランクなら、その10倍だ。
たった半年、奴隷を育てるだけでその報酬をもらえるなんて。にわかには信じがたい話だ。
「もっとも、Bランクは年間に十人いるかどうかの狭き門です。いくら小森君といえど、あまり期待しないほうがいいかと」
「分かってます」
担任の忠告に、僕は素直に頷いた。僕だって、自分の奴隷を育てる能力がそこまで高いとは思っていない。
「ちなみに、小森君の奴隷、まなみは現時点でBランクで、卒業までの評価次第ではAランクも狙える位置にいます。もし手放すなら、言ってくれれば言い値で買い取ります」
「……売る気はないので大丈夫です」
僕は即答した。
担任としても悪気はないのだろうけど、まなみを売るなどと口に出されるのは普通に気分が悪い。
担任も僕の態度を見て、その気がまったくないことを察したようだ。あるいは試しに言ってみただけで、もともと期待していなかったのかもしれない。
担任はさてと、と言いながら立ち上がった。
「では、説明が一段落したところで、奴隷を連れてきます。少し待っていてください」
そのまま、担任は教室を出て行った。そして、待つこと数分。
教室の扉がガラリと開き、担任が再びやってきた。そして、その後ろには一人の女子生徒の姿が見える。