僕はリビングで全裸のまなみと向かい合っていた。
「……うぅ」
その声で僕は我に返った。まなみはさすがに恥ずかしそうに、もじもじと膝をすり合わせている。まなみは僕のために一生懸命勇気を出してくれたのだから、あまり長いこと辱めるのはよくない。
僕はそう思って、話題を切り替えることにした。
「……これからふたり暮らしをするなら、いろいろと準備が必要だね」
この家はもともと僕と両親の三人で暮らしていたから、広さは十分だ。それでも、足りないものはある。
幸い、近所には安くて何でも揃う、大きめのスーパーがあった。とりあえずそこに向かうことにする。
「脱いでもらったところ悪いんだけど……」
僕が申し訳なさそうにそう言うと、まなみはジトっとした目で僕を見た。
「せっかく脱いだのに、また?」
「ご、ごめんって」
まなみは少しムッとしながら服を着た。それでも、まなみは再び服を身にまとったことで、いくらかホッとした様子だ。まだ奴隷になって初日なのだから、過度な負担をかけないようにしないといけない。
スーパーに向かう途中、僕が銀行で下ろしてきた五万円をまなみに差し出した。まなみは驚いて受け取るのを拒否しようとする。
しかし、海外の両親からは一人では到底使いきれない額が毎月振り込まれていた。一人で家に置いていくことへの埋め合わせ、ということらしい。
僕がそう説明すると、まなみは渋々ではあるが受け取ってくれた。
激安スーパーの服を女の子に買わせるのはどうかとも思うが、遠出するほどの余裕は今はないし、ひとまずはこれで我慢してもらうしかない。
スーパーの服売り場へと到着したが、僕は女の子の服のことは分からない。基本はまなみに任せっきりだ。まなみは何着かカゴに服を入れたところで、僕のことをチラリと見た。
「学校行く用に、替えの制服も必要だよね」
「そうだね」
「でも、ここだと学校指定のものは手に入らないけど」
まなみの指摘に、僕は返答に窮した。確かにその通りではあるのだが……僕には一つ、思い浮かんだことがあった。しかし、さすがに言いづらい。
「何?」
まなみが怪訝な表情で僕の顔を覗き込んでくる。僕は逃げ場を失い、仕方なく思っていたことを口に出した。
「まなみは、その……今は奴隷であって、うちの学校の生徒ではないよね」
「う……うん」
「奴隷に校則は適用されないから、何を着てこようが学校は気にしないと思う」
「……」
まなみは微妙な表情で僕の言ったことを噛み締めているが、この予想はおそらく正しい。
「適当にそれっぽいYシャツとか着てれば、何も言われないんじゃないかな……」
「……そうだね」
まなみはうつむき加減でYシャツコーナーへと向かう。僕の言い方も悪かったが、内容は事実でしかない。まなみにも、こうした会話には少しずつ慣れてもらうしかない。
Yシャツを選んだ後、最後に向かった下着売り場に入るのは、さすがに憚られた。僕はまなみに下着選びは任せて売り場を離れ、食器や歯ブラシなどの雑貨を探しに行く。
思いつく限りのものをカゴに放り込んだところで、服を買い終えたまなみが合流した。カゴの中の大量の品物を見て目を丸くする。
「そんなにたくさん買わなくてもいいのに」
「こういうのは余った分は僕が使えるから。遠慮しなくていいよ」
まなみはやはり、僕のお金で買っているということで遠慮しているようだ。手に持っている袋も、予想していたよりずっと小さい。きっと、最低限の数しか買っていないのだろう。
とはいえ、遠慮するなと言ったところでまなみは遠慮するだろうし、今すぐどうこうするのは難しい。僕はレジに向かい、カゴいっぱいの商品の会計を済ませた。
買ったものをレジ袋に詰め、スーパーの出口に足を向けたところで、まなみに呼び止められた。
「夕食はどうするの?」
「あー……」
普段なら外食かコンビニ弁当、あるいはカップラーメンで済ませるところだ。一人ならそれでもいいが、まなみと一緒となると話は別だ。
そんな僕の考えを知ってか知らずか、まなみは遠慮がちに言った。
「……私が何か作ろうか?」
それは、あまりにも甘美な響きだった。
まなみの手料理が食べれるなんて、思ってもみなかった。僕が期待に顔を輝かせてまなみを見ると、まなみは焦ったように手を振った。
「い、いや、別にそんなに上手ってわけじゃ……」
そんなことを今更言われても、僕の心は変わらなかった。ここまで来て、「じゃあ、やっぱりコンビニ弁当で」と言える男がどこにいるというのだろうか。
「お願いしてもいいかな?」
「う、うん……じゃあ、食材を買いにいかないと」
「そうだね」
僕とまなみは二人で食料品コーナーへと向かった。
服と雑貨と食材を抱えて、僕たちは家に帰ってきた。僕は靴を脱いで家に上がり、まず食材を冷蔵庫へ入れるべくキッチンへと向かう。
まなみは……と振り返ると、買ってきた荷物を床に置いて、Yシャツに手をかけていた。ああ、そうか。自分で命令しておいてすっかり忘れていた。
毎回じっくり眺めるのもかわいそうだ。僕はなるべく明るい口調を作ってまなみに呼びかけた。
「先にキッチンに行ってるね。急がなくていいから、終わったら来てね」
「う、うん」
僕はキッチンへと移動し、まずは冷蔵庫を開けた。本当は食材ごとに適した入れる場所があるのだろうけど、自炊習慣のない僕にはさっぱりだ。
後でまなみに怒られることを承知で、それでも冷蔵庫に入れないよりはマシだろうと思って、買ってきたものを適当に押し込んだ。
続いて、買ってきた食器を丁寧に洗った。キッチンに掛けてあった年季の入った布巾を見て少し悩んで、僕は新品を開けることにした。その新品の布巾で食器の水気をふき取り、食器棚に並べる。
歯ブラシやタオルは勝手に触るのはよくない気がしたので、開封せずに洗面所の分かりやすい場所に置いておく。
一通りの片づけが終わったところで、玄関からまなみがやってきた。全裸だ。さっきぶりの裸に、僕の心臓はやはり大きく跳ねた。
まなみが歩いてきただけ、と認識するのは無理だ。どうしたって、その裸体に目が行ってしまう。
そんな中、まなみは手には何も持っていなかった。さっさと気づくべきことなのだが、まなみの胸や股間に目が吸い寄せられてしまうのはどうしようもない。僕は自分に言い訳をしながら、まなみに尋ねた。
「買ってきた服は?」
「別にいますぐ着るわけじゃないから。後で開けるつもりで部屋に置いてきた」
まなみは冷蔵庫を開けて中を見ると、小さくため息をついた。僕はドキリとしたが、まなみは何も言わない。続いてキッチンの引き出しを開けて中身を確認してから、僕の方を見た。
「じゃあ、夕飯を作っておくから、ゆっくりしてて」
「わ、分かった」
「洗濯機も回していい?」
「もちろん」
僕の返事を聞いて、まなみはてきぱきと家事を始めた。ゆっくりしててと言われたので僕は自分の部屋に戻ろうとしたのだが、ついついまなみを目で追ってしまう。
まなみの動きはきびきびとして、普段からよく家事をやっているだろうことがよく分かる。そんな日常の風景にまなみの裸体という異物が紛れ込み、そのアンバランスさが、そそる。
流れるように家事をこなしていくまなみだったが、ふと僕の視線に気づいて手を止めた。
「ずっとそこで見てるつもり?」
「い、いや、部屋行くよ」
まなみが許してくれるのならいつまでだって眺めていたかったが、邪魔をしたいわけではない。僕は後ろ髪を引かれる思いで自分の部屋へと向かった。