TS剛膣娘と硬い盾役 作:笑石
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思ったより趣味の戦闘描写が長くなったので、読むのだるいなと思ったら十五話まで飛んでも問題ないようにしてあります。
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冒険者ギルドは騒然としていた。オレ達『ブレイド』がギルド内に入った時、ギルド職員や他の冒険者からの視線が集まる。
「おお! 『ブレイド』! 良かった! お前達も救援隊として準備してくれ!」
救援隊?
こういう時、リーダーのレンは行動が早い。一瞬で迷宮内と同じ目つきになり、ツカツカと人の集まる場所へ歩き出す。
「状況は?」
「モンスターの進化だ。上級パーティーが遅れをとった」
オレ達に緊張が走る。
以前のゴブリンとオークの混血体もいわゆる『進化個体』だが、世代を経て性質を変えた先の件とここで使われる意味は少し違う。
迷宮内に住むモンスターは無限に湧く。まるで迷宮に管理されているかのように、迷宮ごとに出るモンスターは決まっている。
だが、ごく稀にそのモンスターが何かしらの理由で進化するのだ。そして、別次元の強さになる。
しかし、上級パーティーが……? いったいどれほどのモンスターが進化してしまったのか。
「進化個体は迷宮内の冒険者を片っ端から襲ってるらしい。死人も結構出ている。上級からもな」
それほどの相手ならば、生半可な対策で向かっても被害が増える。だからこうしてギルドで救援隊を編成する為に会議していた、というのが喧騒の理由か。
「これが、現在迷宮内に残されたパーティーの一覧か」
レンが、紙にまとめられた資料を見る。オレもそれを後ろから盗み見て、どの迷宮でその事件が起きているのかを確認しようとした。
そして、それを見つけた。
「アリサ、のパーティー……」
「む、本当だな。あいつらはまだ……帰ってきていない、のか」
ガン、と。
頭を強く殴られたような衝撃があった。上級パーティーが遅れを取るようなモンスター相手だ。エリック達のパーティーには荷が重いだろう。
ジワリと、胸の中に何かが染みるような感覚。
この世界は簡単に命が失われる。そんなこと、今まで何度も痛感してきたのに。
レンがオレの顔を覗き込んだ。
「行くか」
「───うん。最速で行こう」
*
爬虫類系統の顔付き、全身を覆う赤い鱗。ドラゴンを人のサイズに押し込めたようなモンスター。尻尾だけは胴体に不釣り合いに大きく太く、そのモンスターはそれを振り回し、武器としていた。
ガィン! ゴィン! バギィ!
エリックは進化モンスターの攻撃を盾で防ぐ、二発目で盾を取りこぼし、三撃目で鎧の胸辺りを打ち付けられ、エリックは迷宮の壁に叩きつけられた。
「今ですっ!」
エリックが叫んだ。三撃目でモンスターの尻尾を体で抱えるようにして動きを止めていた。
アリサ、マリー、マイヤの三人が詠唱を終え、魔術を束ねる。アリサのパーティーは異質の魔法使い三人と盾役で構成されているが、だからこそ放てる『必殺魔術』が彼女達にはあった。
『
赤い鱗のドラゴンは通説として、炎を操り、その鱗は炎への耐性が高い。目の前のモンスターはおそらくそれの進化個体だ。
ならばと、アリサ達が選んだのは……一秒もかからぬ一瞬で細胞の一片残らず凍り付かせること。三人の魔術を天才的な精度で束ねることで可能にした……上級、いや特級の冒険者達にも匹敵する超魔術だ。
エリックが掴んでいた尻尾を引っ張ると、凍っているところとの境目が割れた。すかさず、投げ捨て、落ちていた盾を拾いアリサ達の前に戻る。
「や、やったのか?」
エリック達の後ろには、複数のパーティーが傷付いて戦えない状態で倒れ伏せている。その中の一人が歓喜に声を震わせるが……。
「ちっ……」
アリサの舌打ちが、静かに響く。
霜ついたモンスターの表面に、ジワリと水滴が浮かぶ。冒険者達に緊張が走った。アリサ、マリー、マイヤが魔力を練り、エリックは盾を構える。
モンスターの、全身の鱗が全て逆立った。直後に、鱗の隙間から炎が噴き出して凄まじい熱気がエリック達を襲う。
その一瞬……一瞬見せた隙で、モンスターはマイヤのすぐ横にいた。人間の腕のような……しかし指の先には凶悪な爪が付いているソレを目にも止まらぬ速さで振るう。
「マイヤさんッ!」
しかしエリックがギリギリ間に入ることに成功した。盾で動きを阻害したが、マイヤを押し除けた時に体勢を崩し、エリックは二の腕あたりをパックリと切り裂かれてしまう。しかも、鎧の上からだ。
アリサが風の魔術を唱え、モンスターを強く押し返した。僅かに抵抗され、アリサの顔に緊張が走るが……なんとか弾き飛ばし、かつ自分達も後退することで距離を取ることに成功。
しかしもうすぐ後ろに、傷ついた冒険者達がいる。これ以上は……退がれない。
「エリック! 大丈夫!?」
「大丈夫です!」
全員が、鎧の上からあっさりとエリックの体を引き裂いたモンスターの爪に驚いていた。なおエリック達は、上級パーティーが敗走した後に合流している。
その後、ある程度の経緯は聞いて覚悟していたとはいえ、これほどの脅威を持っているとは……実際に目の前にすると……彼らの背中に冷たいものが流れた。
止血ポーションを、振りかけ血を止める。
マリーの風の魔術が刃の様にモンスターを襲うが、まるで意に介さず鱗に弾かれる。アリサがコントロールの難しい雷の魔術を脳天から当てる。しかしそれも、鱗の上を流れるだけでモンスターの動きを止めることには貢献しない。
そして接近したモンスターの一撃を、エリックは正面から受け止める。
「くそっ、コイツっ、魔術が通じない!」
マリーの悪態が飛ぶ。アリサは眉間に皺を寄せながらも、魔術を強く放つ為に詠唱を始める。マイヤも同様だった。
ガィン! ゴィン!
人型ドラゴンのモンスターは、まるで戦い方を模索している様だった。時に、拙いが人間の武術の様に蹴りを放ち、かと思えば獣の如く爪を振るう。
(コイツ……! 身体が慣れていないんだ!)
予測では、元々はかなり大きな体格のドラゴンが人間サイズまで縮小したモンスターだ。その為、最初に尻尾を多用していたり───今も、爪を振るうのにどこか当て感が悪い。
おかげでエリックも動きの起こりに盾を差し込んで難なく攻撃を防げている。攻撃射程の長かった尻尾を半ばから切断できたのは幸いだった。
(だが、それもどこまで持つか)
カパリと、モンスターが口を開いた。その喉奥に炎がチラついている。
(ドラゴンブレス……!)
「アリサさんっ!」
エリックが慌てて振り返ると、アリサは詠唱を終え魔術を放とうとしていた。マリーやマイヤはまだ詠唱途中で、おそらくアリサの攻撃後に時間差で畳み掛けるつもりだったのだろう。
「〜〜ッ!」
エリックは飛び退く様にアリサの前に盾を構えて立った。
「ブレスが来ます!」
「ちっ!」
アリサが舌打ちをして、しかしもう止めることができず魔術を放つ。高密度に圧縮された風がモンスターに向かう。その中には土や岩を混ぜてあり、その魔術塊に触れた瞬間ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる、珍しい他属性複合魔術だ。
だが、モンスターの準備も完了してしまった。大きく開かれた口から湧き出したのは視界を埋め尽くす炎、それがアリサの魔術塊と衝突し、周囲に熱気を帯びた衝撃を響き渡らせた。
エリックは油断していなかった。
アリサ達の、他者の魔術を束ねて強力に昇華させる『必殺魔術』において重要な位置にいるのがマイヤだ。
アリサとマリー、二人の魔力を調和し、一つにまとめる事を可能にしたのはひとえに彼女の魔力によるものである。
先程、こちらの隙をついてモンスターはマイヤをまず狙ってきた。偶然でないとしたら───。
エリックは半ば勘でマイヤとマリーの前に立つ。やはりと言うべきか、モンスターは凄まじい勢いで彼女達に向かって突進している。
だが、エリックは無事間に合った。グッと盾を構えたところで、モンスターもまた身体をこわばらせ……そのままエリックに体当たりした。
「っ!?」
一瞬視界がブレ、エリックは自分の足が浮いたことを自覚する。
(しまった───!)
勢いよく飛ばされた先にはマイヤとマリーがいる。しかしもうエリック自身にもそれを止めることはできない。マイヤやマリーも、唖然と立ち尽くした。そのまま折り重なる様に三人はぐちゃりとぶつかる。
エリックはできる限り二人を潰さない様に気を付けたが、致命的なダメージは防げても詠唱は中断されてしまった。
しかも、モンスターによる追撃はすぐに迫っている。エリックは手をできる限り二人の体がないところに置いて、盾をなんとか持ち上げる。
「!?」
だが、モンスターはその盾を掴んだ。エリックはその瞬間、強く歯を食いしばり前に向かって立ち上がった。その直後にモンスターは、エリックの右の胸板に爪を突き立てる。
「ウォォォォ!」
ずぶり、と。あっさりと爪はエリックの体内に侵入するが、吠えたエリックは強く地面を踏み締め、盾を掴まれたままでも、強引にそれをモンスターに叩きつける。
まだ離れるには足りず、しかしエリックの胸に刺さる爪は抜けた。血が吹き出すがそれを一切気に介せず、エリックはさらに一歩前に進む。
───憧れた英雄の背中を模倣しているからだ。
モンスターの顔面に拳を叩き込む。眼球の辺りに当たったことで怯み、思わずといった拍子に盾からモンスターが手を離した隙に、エリックはすぐ退いた。
間髪入れず、アリサの氷魔術による氷塊が大砲の様にモンスターを弾き飛ばす。
モンスターは標的をアリサに変えた。ぐるんと首を回し、一人孤立するアリサに飛びかかろうとする。
それよりも前に、エリックがモンスターの腰あたりに抱きついた。慣れない小さくなった体格、半ばから失った尻尾、様々な要因から重心を保てなかったモンスターを、エリックはそのまま地面に倒す。
そしてすかさず鎧の肘で顔面を殴打。
ガリィ!
「〜〜ッ!」
しかし、モンスターは大きく口を開いてエリックの肘を鎧ごと噛んだ。バキバキと、飴のように容易く鎧は砕け、モンスターの鋭い歯はエリックの肉に食らいついた。溢れ出す血潮をごくごくと飲むモンスターに生理的な恐怖を感じながらも、エリックは自身を奮い立たせ
「ヌ、ォォォォォォ!」
吠えた。
肘を持ち上げ、地面に叩きつける。衝撃で咬合が緩んだ瞬間に肘を抜き取り、慌てて距離を取る。それを待っていたかのようにアリサ達の魔術がモンスターを襲った。
とにかくそれぞれが今すぐに出せたありったけの魔術がモンスターに降り掛かる。それによって地面が砕け、舞う粉塵はその姿を覆い隠すほどだった。
冒険者達の間に緊張した空気が流れる。そして魔術による余波によって悪くなっていた視界が戻ると、そこには平然とした様子で立つモンスターの姿があった。
「……くそが」
アリサの悪態。彼女がここまで感情を露わにするのは珍しい。しかもその顔には、どこか死の恐怖が浮かんでいる。
それはマリーやマイヤ、その後ろで守られる冒険者達みんながそうだった。ただ一人、その誰よりも前に立つエリックを除いて。
エリックの状態は、はっきり言ってかなりひどい。二の腕の切り傷はまだしも、胸や肘のダメージは今なお血が止まらず、そもそも筋繊維までズタズタにされている。
それでも彼はみんなの前に立った。盾だからだ。そして、凌いでいればこの事態を知った"あの人"が間に合うと知っている。
ひゅん。
風を切るような音。モンスターの背後から、何かが飛んできた。野生的な反応でモンスターは振り返り飛んできたものを迎え撃つが、それはまるで風に舞う木の葉の様に、ゆるりと地面に降り立った。
その際に、モンスターの鱗には幾筋もの剣撃が走っている。
「硬いな」
上級冒険者パーティー『ブレイド』のリーダー。剣士のレンだ。彼がここにいるということは───
「ガァッ!」
初めて、モンスターが声を出した。鱗でほとんど防いだ為に浅いとはいえ……レンの剣は、モンスターの肌を切り裂き出血させている。
脅威を感じたのだろう。歯を剥き出し、怒りを露わにレンを睨みつけ───その左の瞳に突然、矢が突き刺さった。
「うわっ、どっから当てたんだよ」
マリーの引いた声が耳に入る。だが、エリックは矢ではなく違うものを見ていた。おそらくパーティーメンバーの魔法を受け、レンと同じ様に空を舞う女を。
(ああ───これが、)
あの日憧れた、英雄を。
ブンと、振られたハンマーはモンスターの側面を叩く。今まで、アリサ達の魔術を平気で防いで見せた赤い鱗は周囲に飛び散り、軽々と吹き飛んだその身体は壁に叩きつけられた。
「ミスカ、コイツはかなり硬い。ケイトの到着を待とう」
「了解」
ミスカはエリックの目の前に降り立ち、チラリと後ろを見た。もし急いで回復する必要がある人間がいるならば、先に回復しようと思ったのだ。
酷い怪我の者は多い、だが───倒す方が優先であると判断したミスカは前を見た。その一瞬に、エリックにかけられた回復魔術は傷口の出血を止めている。
「あとでしっかり治してあげる」
かつて見た背中が、今よりももっと小さかった背中が、今と重なって見えた。変わらない。だからこそ。
エリックは数歩前に出てミスカの隣に並んだ。目線の先のモンスターは、自分に追撃をかけてこない新たに現れた冒険者達に警戒している。その仕草に、やはり知性の様なものを感じた。
「死なないでよ?」
「絶対に、あり得ませんよそれは」
エリックは普段、そんなに強気なことを言う様なタイプではない。しかし断言した。ミスカは目を丸くさせ、ふわりと笑う。
「じゃあ……後ろは、信用する」
モンスターが動き出した。同時に、ミスカも駆ける。レンと並び、二人で同時に攻める。
置いて行かれたエリックは、後ろ───アリサや、マリーやマイヤ、怪我をした冒険者達がいる───を信用すると言う言葉に、半分の感動と、半分の悔しさが滲んだ。
遠くからアルとケイトが追いかけてきている。
それを確認したエリックは思わず振り返った。後ろの皆に、伝えなければと思った。だがその必要はなかった。
さっきまでどこか諦めの空気があったのに、今はもう皆の目から死への恐怖は振り払われていたからだ。