TS剛膣娘と硬い盾役 作:笑石
強いな。
ミスカとレンは、モンスターの攻撃を冷静に対処しながら考えた。しかも、長引く程にどんどん動きが洗練されていく。
レンの剣に両手の爪で拮抗し、ミスカのハンマーには半ばで千切れた尻尾で対応する。
モンスターの瞳が鋭く光った。偶然にもレンとミスカの攻撃が止んだ一瞬、鱗が逆立ち炎を帯びた。
だが、左目に刺さった矢の『呪い』が魔力の流れを阻害して、帯びた炎は霧散する。瞬間、レンの剣が、ミスカのハンマーが、モンスターを強襲した。
逆立った鱗を剥ぐ様に入れられたレンの剣は深々と腹を切り裂き、顔面に振るわれたミスカのハンマーは咄嗟に防御したモンスターの両腕を鱗ごとへし折る。
「手応えはあったが」
「このままやれたら良いですけどね。あれ素体は
ミスカの懸念通り、転がったモンスターはむくりと立ち上がり、斬られた腹と折れた両腕は徐々に再生していく。乱雑に左目に刺さった矢を引き抜き、怒りを露わに握り砕く。
その様子を見つめながら、レンとミスカはモンスターの向こうにアルとケイトを発見した。二人で目を見合わせ、まずはレンが走る。ミスカはエリック達の前に立ち、モンスターの動向を見張った。
モンスターは鱗を『閉じた』。境目すら曖昧になる程ぴっちりと。そして、赤い鱗は空気の揺らぎと共に赤熱していく。
レンが剣を振るう。それを、モンスターは大きく避けた。避けると同時にレンの後ろに回り込み爪を振るう、レンは剣で滑らせる様に回避し、直後に振るわれた逆の爪も流れる様に刃で滑らせた。
しかし内心、レンは驚愕している。
(───速い!?)
モンスターの動きは、今までとは隔絶したものとなっている。しかも凄まじい熱を放っており、近くにいるだけでジリジリと焼く様な熱さが皮膚を襲う。
「あれは、上級冒険者パーティーがやられた時のやつだ……」
冒険者の一人からそんな声が出た。ミスカはそれを聞き、考える。とりあえずみんなに共有した。
「上級はこれにやられたらしい!」
レンはアルとケイトを守る様に位置していた。攻撃はついでだ。ミスカの言葉を聞き、頷いているのが見える。
(とはいえ、今まで使ってなかったのは舐めプってわけでもないだろう)
見るからに魔力消費が多そうだ。エリック達が無事だったのも、もしかすれば消耗した魔力や体力を温存、回復していた途中だったからなのかもしれない。ミスカは考える。
モンスターの輪郭がブレる。
残像が残るほどの高速移動で、モンスターがまず向かったのは……ミスカの、エリックの後ろにいる、怪我をした冒険者達。
だがそれをミスカが許すわけがない。モンスターの動線に割り込むが───モンスターはギラリとミスカに標的を変えた。稲妻の様に進路を変えたモンスターにミスカは守る為に飛び出した体勢を戻しきれず、なんとか首に迫る爪をハンマーの柄で防ぐが、もう片方の爪で腹を貫かれた。
「〜〜っぐぅッ!」
ボタボタとミスカの口から血が溢れ出す。モンスターがまるで人間の様に口角を上げた様な気がした。
「結構、知能が高いですねッ」
もとより狙いはミスカだったのだろう。レンがミスカから離れた時点で、レンほどの反射と速度がミスカにはないと見たモンスターは彼女が守っている人間を狙うことでこの状況を生み出した。
だがそれは、ミスカからすれば好都合としか言えなかった。
モンスターの赤熱した鱗は高熱を放ち、ミスカの貫かれた腹は煙を上げて今も焼かれている。しかしミスカはその痛みにも動じず、首元の防いだ爪をまず掴み抑える。
次にハンマーを落とし、空いた手でモンスターの首をつねるように握り込む。首元の鱗が軋み、ゆっくりと歪んでいく……その自身の肉体の様子に、生理的な恐怖を感じたモンスターはジタバタと暴れ、ミスカの腹に刺した爪を抜こうとするが……ミチミチと音を立てて、爪に抉られ焼かれた側から再生する肉に阻まれ、抜くことができない。
もう片方の首を狙った爪も、まるでびくともしない。凄まじい力で縫い止められていた。メキメキと、掴まれた首元の鱗が歪み、わずかに剥がれた。
「ガァァァァッ!」
ならばと、モンスターは口を大きく開き喉元に炎を蓄えるが───
「遅いよ」
ケイトの《
鏃に込められた『呪い』は魔力を乱す。だがこれは念の為だ。この時にはすでに、レンの『強化』された剣がモンスターの身体をバラバラに切り裂いていた。
ぼとぼと、と肉塊と成り果てたモンスターを見て、ミスカは腹から爪を引き抜く。もちろん普通に痛いので「ぐぅぅっ」と呻いている。
その姿に『ブレイド』以外のメンバーは顔を引き攣らせているが、慣れているとはいえ『ブレイド』のメンバーも平気なわけではない。
「やれやれ、ミスカでなければ死んでいる。リーダーとして、失格だな」
「……ギルドの意向を無視したのは、オレですし。結果が伴ったから、良しとしましょう」
ギルドで集めていた他パーティーとの救援連合隊、それらを無視して勝手に自分達で来たのだ。むしろミスカからすれば、それを望んだ自身が傷つくだけで終わって良かったと思っている。
モンスターを掴んでいたせいで火傷した両手と、穴の空いた腹を治癒しながらミスカはチラリとエリックを見た。
───生きてて良かった。
心の底からそう思った。
ついこないだまでなら、他のパーティーに所属している人間が迷宮で死んだところで"仕方ない"と、どこか冷めた感想を持っていただろう。
仲良ければやはりそれなりに悲しいが、冒険者稼業はあまりにも死が近い。昨日、笑顔で共に酒を飲んだ人が、明日には見かけないなんてことが日常茶飯事だ。
でも、と。ミスカは微笑んだ。
───間に合って良かった。
きっと、仕方ないなんて思えない。
何度か肌を重ねただけで、よくぞこうもなるものだとミスカは自嘲した。
アルとケイトは、エリックの方へ微笑むミスカを見て、二人顔を見合わせ「もうあれどう見ても確定だよね」と頷き合った。