※この作品はR-18です。

TS剛膣娘と硬い盾役   作:笑石

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十五話 ずっと怒っている

 *****

 

 

 13・14話のあらすじ

 

 上級冒険者ですら遅れをとる進化モンスターが発生。同じ迷宮内にはまだ冒険者が複数取り残されており、ギルドでは救援隊を編成し事態の解決を図る。

 しかし救援リストの中にエリックのパーティーがいることに気付いたミスカは、救援隊の完成を待たずして迷宮に突入した。

 

 一方その頃、迷宮内で冒険者達は追い詰められていた。モンスターは人の大きさをした赤い鱗のドラゴン。エリックが盾として奮闘してもアリサ、マリー、マイヤの魔術はモンスターの鱗を破ることができなかった。彼らの背後には負傷した他の冒険者達がいて、もう退くことはできない。

 

 それでもいくつか大きな傷を負いながらもエリック達は奮戦し、ようやく『ブレイド』は参戦した。

 

 モンスターの赤熱した鱗は触れるだけで肉を焼く。ミスカが鋭い爪で腹に穴を空けられて、肉を焼かれながらも強引にモンスターの動きを止めたところで、ケイトの付与魔術で強化されたレンとアルによる攻撃でモンスターは討伐された。

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 

「ごめんね。遅くなって」

「いえ、ミスカさん、僕よりも自分を先に……」

 

 負傷して戦闘不能状態だった冒険者達を最低限歩けるくらいになるまで回復して、割と元気そうだから後回しにしていたエリックの元へ行く。

 一応、重傷なのに放置したことを詫びると、むしろ心配そうな顔をされた。確かにまだ、自分のお腹の治癒は終わっていない。今もゆっくりと魔術で治している途中だった、おかげで血の混じった痰がちょこちょこ出る。

 

「大丈夫、ちょっと火傷は治すのが難しいだけですから。それよりも、エリックの傷の方が深いですよ」

「お腹に穴が空いた人に言われても……」

 

 あの鋭い爪でブッ刺される程度ならすぐ治せるのだが、高熱で焼かれるわ。まぁ一番の問題はそこを無理やり再生したところだ。身を焼く爪を巻き込む様に肉を再生させたせいで、無事なところと無事じゃないところが歪に交わり合って、魔術を受け入れる肉体側が混乱しているのだ。

 とはいえ致命的なダメージはさっさと治しているので、問題はない。

 

 エリックの右胸をまず治す。これは綺麗な傷口なので、結構深いとはいえ自分のお腹よりはさっさと治せるし、再生魔術によるエリックの消耗も比較的少なく済んだ。ついでに裂かれた二の腕もサッと治す、こちらに関しては回復魔術で充分だ。

 しかし、肘の方は……持ち上げてみて悩む。再生魔術でないと無理だな。しかし、結構深くまでズタズタで、肘から先に関しては今はもうまともに動かないだろう。この状態でよく、オレ達が来てもまだ戦おうと思えたものだ。

 

「再生魔術で、直してください」

 

 オレの魔力を使う回復魔術の方である程度の治癒をしていると、エリックがそんなことを言い出した。彼の方を見て、なんとなくで残魔力を推定するが……戦闘中に肉体強化は欠かせなかっただろう、どう見ても消耗している。

 

「無理にここで治す必要はありませんよ。まぁ今は不便かもしれませんが、オレなら帰ってからでもじっくり治せます」

「腕が動く程度で大丈夫ですから、再生魔術を使ってください」

 

 張り切ってるなぁ。オレは少し感心した。

 件のモンスターを討伐したとはいえ、オレ達はまだ迷宮の中にある。お家に帰るまで冒険は終わらない。

 とはいえオレ達『ブレイド』なら、よっぽどのヤツが出てこない限りは難なく守れるだろう。エリックは大人しくついてこればいいのだ。

 

 とは思ったが、やる気のあるエリックを見ていたら頑張らせたくなってしまう。

 

「じゃあ動く程度には治すけど、完治は無理ですよ? 無理したら傷開きますから」

 

 そう言って再生魔術をかけると、明らかに自身の魔力が目減りしているのか顔を僅かに歪めるエリック。本人が頑張ると言っているのだ、オレは気付かないフリをして、そのまま治療を続けた。

 

 

 全員の治療が終わってひと段落した所でレンが話しかけてきた。

 

「どうだミスカ、準備が出来次第、帰還しようと思うのだが」

「いいよ、歩けない人はどれくらい居る? またオレが……」

「僕が担ぎます」

 

 いつも通り、歩けない人間はオレが運ぼうかと思っていたところにエリックが挙手をして食い気味に言ってきた。レンは、チラリとオレのお腹を見てからエリックを見る。

 

「何人行ける?」

「行ける限りは」

「俺達はいつもミスカに頼るため、かなりの人数を運べる手段がある。まぁ最大10人は行けるな」

「すごいな……でもやります!」

「今回は5人だが」

 

 オレのお腹の治療は、後回しにしていたこともあり未だに終わっていない。帰還がてら本格的に取り掛かるつもりだが、人を運びながらだとちょっと面倒だなぁとは考えていた。

 しかし、まぁエリックが頑張ると言うのなら……それに甘えるのも、悪くない。

 

「……なんでちょっとニヤついてんの〜? ミスカぁ」

 

 どうやらいつの間にか口角が上がっていたらしく、そこをケイトに揶揄われた。

 

「エリックがミスカのために健気に漢気見せてるもんねぇ〜微笑ましくなっちゃいますよねぇ〜」

「……随分と含みのある言い方を」

 

 図星なのでジトっとケイトを睨みつけたものの、それ以上は何も言い返せない。これ以上言及されたらなんだか恥ずかしい思いをしそうなのでそそくさと距離をとる。

 

 

 

 その後、オレ達は地上へ向けて出発した。帰路の途中では取り立てて変わったことは起きぬままこちらに向かっていた救援隊と合流する。

 エリックが担いでいた怪我人もようやくそこで他の者に預けることができて、彼の負担は減ることになった。

 息をついて、明らかに疲労しているエリックの元へ行き「よく頑張りましたね」と腰あたりを叩く。「全然、大丈夫ですよ」と、戦闘の疲労や怪我、治癒時の消耗でかなり疲弊しているはずなのに強がる姿を見て、仕方のないヤツだとため息が出る。

 

「ミスカの前だからめっちゃ張り切ってるわね」

 

 アリサにすら、呆れ気味にそう言われていた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

「ミスカさん、もう全然、気付かれてると思うんですけど……僕は、ミスカさんのことが好きです」

「ぅへぇあ?」

 

 正面からそう言われて、変な声を出してしまった。

 

 

 夜。肘の怪我を治し切れていなかったのでエリックの元を訪ねた。他にも回復魔術を使える者はいて、ギルドの伝手でいくらでも頼れるのだが、エリックは「ミスカさんに治してもらえませんか?」と言ってそのまま帰って行ったのだ。

 オレが救援時等に迷宮内でかける回復魔法を最低限に収めるのは、こういった技術もタダで提供していいものではないからだ。

 その辺は、オレだけの問題ではなく本職にしている人達にも影響がある話なのだが……ともかくそこは割愛するとして、仲がいい関係とはいえ対外的にもエリックからはきちんと相応しい報酬をもらわなければならない。

 

 流石にそこはエリックも分かってるよな……? と思いながらも、彼の寝所に向かう途中、一体何をしてもらおうかと思案していた。

 

 エリックの部屋に入るのはもう随分と慣れたものだ。そして肘を治してやり、エリックに不調がないか実際に動かしてみて確かめさせた後───急に肩を掴み、先程のセリフをぶつけてきた。

 

「な、なに? 急に」

 

 ドキドキと、心臓が飛び出ていきそうな錯覚すら覚える。なぜ自分がこんなにも緊張しているのか、自分の事なのにわからなかった。

 

「僕は……その、多分、ちょっと調子に乗ってます」

「?」

 

 少し顔を伏せたかと思えば、よく分からない言葉が出てきた。客観的には自信が付いてきて、前より盾役として頼り甲斐が出てきたと思うけど……。

 

「だからミスカさんに、自分のすぐ側に居て欲しいって思ってます」

 

 それではまるでプロポ────

 

「結婚して下さい」

「気が早い!!」

 

 ドン! とつい胸を押してしまう。吹っ飛んだエリックはその先にあったベッドに倒れ込む。オレはため息をついた。そういうのはまず───いや、まずってなんだ? 内心で自問していると、エリックは続けた。

 

「ミスカさんは、平気で自分のことを蔑ろにするんですよ。それは僕の憧れた背中でもあります……でも、僕はそんな貴方を守りたい」

「……今のパーティーを抜けるつもりもないですよ。それに、アリサ達にはエリックが必要です」

 

 オレの言葉に、一度エリックは息を呑んだ。

 

「ミスカさんに、自分の事を評価してもらえるのが、ここまで嬉しいとは……」

「いや、アリサ達のやり方はなかなか面白いけど、それが成立するのがエリックのおかげですよ……まぁ故に、エリックの限界があの子達の限界になっていましたが……」

 

 アリサ達の魔術の実力は上位と比べ遜色ない。だが中級に甘んじているのは、エリックの実力が追いついていなかったからだ。

 とはいえ、元々パーティーとして異質な構成なので、それをエリックのせいにするのも違和感はあるのだが……。

 

「でも、最近はかなりいい感じでしょう? あの子達からも認められる日が来るのは近いですよ。それに、そもそもが貴方達のパーティーのコンセプトとしてエリックに少々物理的負担が多すぎます。どうしても人体は消耗品なんですから、壊れたらはい治してなんて───」

「ミスカさん」

 

 遮る様にエリックが言った。先程までベッドに仰向けになっていたが、上半身を起こして強い意志のこもった瞳でオレを見た。

 

「今、やっと言いたいことが、言葉に出来ました。守りたいなんて、ミスカさんは、そんな弱い存在じゃないですから」

 

 オレはエリックの瞳に、吸い込まれそうな感覚を覚えた。今度は何を言われるんだ? と妙な緊張がある。オレには、お前の気持ちに答える資格がないのに。

 

「僕は、ミスカさんに、真っ先に蔑ろにされる存在になりたいです」

「えっ」

 

 なんだか、とんでもない宣言の様な気がする。

 オレの頭は混乱した。それは、どういう意図のそれだ? ドMとか、そういう話になるのか?

 何より混乱させるのが、エリックの真剣な目だ。本気の言葉なのだ。

 

「自分よりも、僕を蔑ろにして欲しい。勝つ為に、生き残る為に、進む為に。僕をまず使って欲しい」

 

 

 その言葉を聞いてオレは、頭が真っ白になった。

 数秒硬直して、ゆっくりと脳みそが動き始める、だが口は動かない半開きで、言葉にもならない空気を一度吐き出した。

 

 瞳を見る。真剣な目だ。本気で言っている。本気で、オレに向かって、自分を『オレの命の為の踏み台』にしろと言っている。

 

 心が赤く染まっていく、炎の様な、怒りだ。

 

 気付けばオレは、エリックの胸ぐらを掴んでいた。ぶちぶちと、服の襟元が千切れる。エリックは心底驚いていた。オレは相当酷い顔をしているのだろう。頭の中で言葉なんてまとまっていないのに、口だけは勝手に動いた。

 

「ふざけた事を抜かすな! オレが今までどれだけの命を踏み躙って一人! 前に進んできたと思ってる!」

 

 これ以上、いや、また、そうしろというのかお前は。

 あの時、故郷の全てを見捨てて一人生き延びたこのオレに。

 

「見返りもなく手を差し伸ばしてくれる人たちにッ! 何も返せず! ただ裏切って生きるこの浅ましい命にッ!」

 

 涙が溢れていた。

 ずっと、ずっと覚えている。一人で生き延びたオレに無償の愛を与えてくれた人達へ、もう少し豊かな暮らしがあるようにと向かった先で、その人達に何かを返すことも出来ないままオレは自身の『潔癖さ』を理由に癇癪を起こして全てを不意にした。オレが我慢すれば良かったのに。オレが自分可愛さに汚さを受け入れられなかった事を、自分の価値観で汚いモノのせいだと怒りに変えて誤魔化している。

 溢れ出す涙は、ボタボタとエリックの膝を濡らしている。嗚咽が漏れる。子供の様に抑えきれずしゃくりあげてしまう。

 

「やめてくれ……オレは……」

 

 冒険者は楽しかった。過去もしがらみも何も要らなかった。

 迷宮に潜るのも、命の駆け引きも全部。この世界のどこよりも命が軽い場所だったから。

 

 楽しいだけに浸っていたいのだ。性欲を満たすこともそうだ。少し冷静になった頭が、なぜ? と問うている。なぜ、ここまで取り乱しているのか。

 

「お前を、蔑ろになんて、したくない……」

 

 結局、そういうことなのだ。

 すっかり入れ込んでしまったと、我ながら思った。オレは、オレが『大切だ』と感じた人達よりも……先に死んでしまいたい。故郷を焼かれた時も、聖女としてちゃんとやれなかった時も、出来なかった事なのだ。

 

「そう、ですか」

 

 エリックの冷静な声。

 優しく、胸ぐらを掴んでいた手が解かれる。

 

「ミスカさんの過去は知りません。ミスカさんの命が浅ましいかどうかなんて、僕は知りません」

 

 きゅっ、と。解いた手を、両手で包み込む様にしてエリックは続けた。慰めようとか、聞こえの良いことを言おうとか、優しい嘘とかですらない。

 

「言い方が悪かったのかもしれません。一つ、言い忘れた事もありました───僕は死にません。だから、信用して、僕を頼って欲しいんです」

「人は死ぬよ、簡単に。今日だって、いっぱい死んだ。上級冒険者も、あっさりと死ぬ。『ブレイド』だって、あのモンスターが疲労していなかったらああも簡単には勝てない」

「じゃあ、ミスカさんに頼られた場面では意地でも死にません! それくらい───硬くなります」

 

 オレの手を包み込む力は強くなっていく。彼は、俺に言い訳も屁理屈も用意させてくれない。強引な理論だ。でも逃げてばかりのオレに、ただ正面から好意と言葉をぶつけてくる。

 

「隣に立ちたいんです、いや……僕の背中に、英雄を見せたい。貴方の英雄に、僕はなりたい」

 

 もう、一体なんの話なのか。

 少し面白くなって、つい笑みが溢れてしまう。

 

「もう、結婚とか関係ないじゃん……」

「あっ! いや、それとこれとは話が……いやっ、うーん」

 

 強引に手を振り解いて、驚いているエリックにニコリと微笑んでからギュッと抱き付いた。ちょっと強めに力を入れると、「かはっ」と少し苦しそうな音がエリックから漏れ出る。

 

「もういい、もう話は終わり」

 

 抱きつく力を少し弱めて、エリックの胸に頭を預けた。

 

「今日は、優しく、甘えさせてほしい」

「えっ」

 

 もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 全部、一旦どこかへ置いてしまいたい。

 

「ヤるよって、言ってんの」

 

 ちゅっ、と。見上げる様にキスをしてやれば、いまだにエリックは顔を真っ赤にさせる。ウブなやつだ。

 

「エリックのせいで、頭の中がもうわけがわかんなくなってる……忘れさせてよ……責任……とって! 頼れって、言ったよね!」

「が、頑張ります!」

 

 エリックが真剣に、オレのことを想ってくれているのはもう充分に知っている。その想いにオレが答える資格があるとはまだ思えないけど、少しくらい、ワガママを言うくらいは───。

 

 

 







一章完まであと二話
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