TS剛膣娘と硬い盾役 作:笑石
その日の冒険者ギルドは、少し賑わっていた。
上級冒険者パーティー『ブレイド』が、消息不明となった中級冒険者を全員助け出したのだという。しかも相手は、ゴブリンとオークの混血個体という特殊事例。
冒険者という職業は、経験値こそが黄金だ。未知が相手であるほど、その命をすり減らすことになる。
それなのに『ブレイド』は危なげもなく、メンバー全員無傷で帰ってきたらしい。しかも要救助者を全員助けた上で、だ。
エリックは内心でホッとした。つまりミスカは無事だということだ。いや、彼女に対して心配など、エリックの立場からすれば……。
リーダーのアリサは真面目なので、『ブレイド』がもたらした情報を精査していた。
「ゴブリンとオークの混血ね……憎らしいことに私達だとこうも首尾良くいかないでしょうね」
言葉はこうだが、アリサの口角は少し上がっている。絶対口にはしないが、エリックには分かる。アリサは『ブレイド』の事を認めている……どころか、少し憧れているフシがある。憧れのパーティーが活躍して嬉しいのだろう。
と、そんなアリサを見て少しニヤけてしまったところをアリサ本人に見つかり、エリックは脛を蹴り上げられる。
「何、その目は」
「いや、何も……」
肩まで伸びた薄い緑髪。髪よりも濃いエメラルドのような垂れ目気味の大きな瞳。白い膝丈のフード付きローブが特徴の少女を見つけ、エリックは顔を明るくさせた。
ケイトと楽しげに談笑している姿を見ると、何も心配するようなことは無かったのだと改めて確認できて安心する。
何故か右袖が血に染まっているが、いつも通り敵の返り血だろう。
「話がある。エリック」
エリックがミスカに向かい歩き始めた時、逆に喧騒の中からアルが一人抜け出て、エリックの前に立ちはだかった。
わざわざエリックを戻し座らせ、怪訝な顔で見るアリサを無視してアルは同じテーブルの席についた。
そして、真剣な顔で口を開く。
「エリック……お前がミスカに懸想していることは承知の上だが」
「な、何を急に……っ」
アリサがため息をついた。
まぁエリックがミスカに惚れているのは、周りからすれば見ていれば分かる程度のものだが(鈍いのは本人くらい)。
「いや、無理とは言わない……だが、アイツは荷が、重いぞ」
「そ、そりゃあ、ミスカさんと僕では、実力が、格が違うのは承知で───」
「違うんだ」
いつになく真剣なアルに、アリサすら興味を持ち始めた。
「今日な、ミスカのやつ……ボス個体のチンコを握り潰したんだ。まるで、硬さを……っ確かめるように……っ」
その顔に浮かぶのは恐怖だった。
アリサが怪訝な顔をしている中、エリックは頭が真っ白になっていた。
「実はな……っ、多分これ知られたら殺されるけど……っ、ケイトを酔わせて、聞いたことがあるんだ」
ごくりと、エリックは唾を呑んだ。
「ケイトはミスカを酔わせて聞いたらしいんだが、アイツのチンコ握り潰し事件は、アイツの膣圧を自身の手で再現した結果起きたらしい……っ!」
アルはかなりの小声で言った。言った後も、周囲に自分の出せる最高のレベルで聞かれていないか警戒している。
アリサは、ギュッと唇を締めていた。エリックはというと、まとまらない頭で言葉を絞り出す。
「そ、その……ボス個体のは、どれくらいでした?」
「ん? 硬さか? いやわからんが……しかしサイズは、チラ見した感じゴブリン以上オーク未満。硬さは……ミスカがちょっと感心してたから、相当だと思う」
ガン! と頭を殴られたような衝撃だった。
エリックは幽鬼のように立ち上がり、ふらふらとどこかへ……いや、ギルドの出口へ向かっていく。
「ちょっと、アイツには刺激が強かったか」
「……あんたさぁ、一回ミスカに殺されたほうがいいと思う」
*
オレは───ミスカは英雄扱いされるのが、実はかなり好きだ。前世では日本という国に生まれ、命をかけた戦いとは無縁の生活を送った。平和な国だった。
競争はあっても、今思えば社会の余裕からくる『お遊び』のようなものだった。
医療技術がかなり進んでいたその世界で風邪を悪化させて死んでしまい、今の世界に転生した時にオレはそれを痛感した。
こちらの世界で、オレの故郷と言える国はもうない。首都にある街に生まれ、平民ながらも豊かな生活をしていた、と思う。
だが、戦火に巻き込まれ、オレやオレの家族、近所の人、いや首都に住んでいた人達は故郷を追われた。
容赦がなかった。投降しても、捕虜として人道ある扱いなどされず、ただおもちゃのように殺される。
力が無ければ、何も抗うことができない。こちらでの齢5歳にして、前世でぬるま湯に浸かっていたことを悟った。生命とは、本来こうして奪い、奪われ存続させていくものなのだと。
隣国への亡命。百人を超える人数で国境渡りを目指した。途中、何度も追っ手に追われた。何人も殺された。それでも残った者は進み続けた。
道中、何人も死んだ。
病、だ。
ろくに食べれず、衛生的にも悪い環境、体力も削られる日々、たとえ他者による蹂躙がなくとも、病は容赦なく弱者を狩り殺す。
オレは恐怖に震えた。
前世で病に死んだ記憶が、夜眠ることすら許さなかった。そのほうが身体を悪くすることなんて分かっていたのに、オレは一人、みんなを置いて走り続けた。
病は気から、という前世の言葉を信じて、オレは5歳の肉体を極限まで追い詰め……一人、亡命に成功した。
真っ先に駆け付けたのは、教会だった。
故郷の国でも多くの者から信仰され、なんならその宗教を国教とする国まであるくらい有名な教会に、土砂降りの中「拾ってくれ」と頼み込んだ。
迎え入れてくれたシスターは、オレの姿を見てすぐに《浄化《キュア》》を掛けた。
オレが教会を真っ先に目指したのは、この力を求めたからだ。
『清浄の女神』
人の肉体を健全に保つ『魔術』は、この神への信仰を持って手に入れる事ができる。
「───ッ! なんという、祝福……」
その時シスターは、オレを見て"畏れ"を抱いた。
後日、オレと共に亡命を目指していた人間達は国境にすら辿り着かずみんな、死に絶えたという噂を聞いた。
オレが生き残れたのは、転生特典というやつだと思われる。
オレの強い望みは、生まれつき強い魔力でオレの身体を強化した。そして転生しているという経験こそが───オレに、ミスカに『神の実在』を信じさせる。
それは、他者とは比べ物にならないほどの『信仰』となって、この身に加護を与えたのだ。
五年後、オレは信仰する宗教の本拠地ともいえる『教国』にまで呼ばれるほどの『聖女』となっていた。
そして、信じ掛けていたこの世界に裏切られた。
オレを拾ってくれたシスターは、教会にいた人達は、みんな慈悲深く、敬虔で、情に溢れた善人だった。
しかし彼女達が信じる……教義のその上に立つ者達は、性と権力という欲に溺れ、腐敗しきっていた。弱者に施しを与え質素な生活をしていた彼女達を愚弄するかのような───オレは、下手すればこの世界の誰よりも『綺麗好き』だ。
前世の漫画やアニメでも、教育施設でも、当たり前のように説かれてきた『誠実さ』が───裏切られた。
たった数年。オレが耐えられたのは、片手の指にも満たなかった。
英雄になると、チヤホヤしてもらえる。
まるで自分が『御伽噺の綺麗な勇者』のように扱ってもらえる。
それがミスカの自尊心を満たし、途方もない多幸感を与えていた。それとこれとは性欲に関しては別の話になってしまったので、ミスカは上機嫌のままエリックを訪ねた。
彼のパーティーは中級だが、上級も近いと目されている。エリックがもう少し『仕上がれば』、上級への昇格はすぐに叶うだろう。
それほどの実力があれば、大体の冒険者は拠点を持つようになる。エリック達も、あまり大きくはないが生活拠点を構えていた───ただし、黒一点のエリックだけは少し離れた位置で寝泊まりしているのだ。
コソコソと自分の冒険者としてのスキルを全力で行使して、バレないようにこっそりと彼の寝床の扉をノックした。
扉が開き、上機嫌のミスカが何か言葉を発しようとして───それよりも早く、グイッと力強く部屋の中に引き込まれて、扉を閉められた。
「えっ?」
ミスカは、突然のことに硬直した。そのまま扉を背に迫られ、背中が扉に当たり……グイッと、お腹を突き上げる『硬いモノ』に意識が行く。
ミスカを見下ろすその瞳は血走っていて、異常な興奮状態にある事がわかる。
ミスカは、自身の心拍が強く大きく早くなることを自覚する。顔に血が集まり、じわりと瞳が潤んだ。
グググ、と。お腹を外から押し潰す硬さに、呼吸が浅くなる。
「え、エリック……?」
そのまま、食べられてしまうのではないかと錯覚するくらい強い力で抱きすくめられ、ミスカはエリックに唇を奪われた。