そこにいたのは、見るからに身形の汚い男たちだった。
皮の兜をかぶり、錆びたナイフや棍棒を手に持ち、下品なニヤケ顔でこちらを見ている。
(変質者……!?)
「おいおい、こんな深い森の中に、上等な女が一人で紛れ込んできたぞ」
「へへっ、見ろよこのおっぱい……たまらんご馳走じゃねえか」
男たちが下品な笑い声を上げながら、じりじりと距離を詰めてくる。
恐怖で血の気が引いていく。
逃げなければと後退りした瞬間、バキッと足元で太い枝が折れる音が響いた。
「ひっ……!」
「逃がさねえよ!」
リリアは咄嗟に呪文を唱えようと口を開いた。
しかし——純支援型(ヒーラー)として極振りしてきた彼女のスキルリストに、敵を吹き飛ばすような「攻撃魔法」は一切存在しない。
「いや……来ないで! 助けて——!」
悲鳴も虚しく、男の一人に細い腕を強く掴まれた。
力任せに引き寄せられ、粗暴な手つきで服の胸元を掴まれる。
「観念しな、おねえちゃん!」
男が下品な笑みを浮かべ、ズボンを下げようとした——その時だった。
——シューーッ!!
静寂を切り裂く、鋭い風切り音。
「へ……?」
直後、リリアの腕を掴んでいた男の頭部に、目にも留まらぬ速さで一本の太い矢が深く突き刺さった。
男は悲鳴を上げる間もなく、泥の上に崩れ落ちる。
「な、なんだ!? 敵襲——」
残りの野盗たちが混乱に陥った瞬間には、すでに二本目、三本目の矢が空中を走っていた。
寸分の狂いもなく急所を穿つ圧倒的な遠距離射撃。
一人、また一人と、野盗たちが血の泡を吹いて倒れていく。
恐怖でへたり込むリリアの視界の先に、木々の影からゆっくりと歩み出てくる一人の男の姿があった。
銀髪のローポニーテールに、涼しげで切れ味の鋭い目元。
細身でありながら鍛え上げられたしなやかな体躯で弓を構えるその青年は、冷酷なまでに冷ややかな視線で転がる死体を見下ろしていた。
「……鬱陶しい雑魚どもだ」
低い、氷のように冷たい声が森の中に響く。
青年は弓を引いた姿勢のまま、ゆっくりとリリアの方へと視線を向けた。
青年が射ち放った矢の残響が薄れると、森は再び冷ややかな静寂へと包み込まれた。
泥の上に投げ出されたいくつもの亡骸と、濃密に漂う鉄の匂い。
リリアは恐怖で固まったまま、自分を見下ろす青年の顔を呆然と見上げることしかできなかった。
銀髪のローポニーテールに、涼やかで刃物のように鋭い目元。
引き締まったその顔立ちは、現実世界なら誰もが振り返るような端正な男のものだ。
しかし、返り血を浴びている彼が纏う雰囲気はあまりに冷徹で、野盗たちとはまた異なる質の恐怖をリリアに抱かせた。
「……動けるか?」
青年は弓を背に回すと、低い声でそう問いかけてきた。
その口調には感情の起伏がほとんど感じられない。
「あ……は、はい……っ」
震える声で答えながら立ち上がろうとした瞬間、リリアの足に力が入らず、再び膝から崩れ落ちそうになる。
すかさず青年が手を伸ばし、彼女の細い腕をしっかりと受け止めた。
「む、無暗に動かない方がいい。腰が抜けている」
「ご、ごめんなさい……助けていただいて、ありがとうございます……」
間近で触れ合う青年の体温と、力強い腕の感触。
リリアは顔を赤くしながらも、必死に自分を落ち着かせようと息を整えた。
青年はリリアの豪華だが泥に汚れた衣装——聖職者の法衣を一瞥し、小さなため息をつく。
「この森は夜になるとアクティブな魔物が増える。野盗の血の匂いに寄ってくる奴らもいるはずだ。移動するぞ」
断る余地などなかった。
青年はリリアの華奢な身体を容易く抱え上げると、足音も立てずに鬱蒼とした森の奥へと歩き出した。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
銀髪のローポニーテールの眼光の鋭い冷徹な猛禽類のような美青年の登場です。
リリアとこれからどう関わっていくのか楽しみにしていてください。