※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。(仮)   作:和泉終夜

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狂おしいほどの庇護欲

夕闇に包まれた魔法都市ゲフェン。

 

紫色の怪しげな魔導光が街灯として街を照らし、石畳の街路には怪しげなローブを纏った魔法士や行商人たちが行き交っていた。

 

アルベルタのような賑やかな港町とは異なり、どこか静けさと浮世離れした空気が漂う街並み。

 

だが、その幻想的な景観の裏で、エルネストの鋭い感性は即座に異変を察知していた。

 

(……チッ、視線が多い。それも、ただの通行人のものじゃない)

 

街道を歩く男たちの視線が、三人へとしつこく絡みついてくる。

 

一つは、桃色のボブヘアに可憐な童顔、そして法衣越しでも圧倒的な存在感を放つ豊満な胸元を持つリリアへの、下卑た欲望に満ちた熱視線。

 

そしてもう一つは、黒髪の美しいショートボブにしなやかなスタイルを誇る美女——レイへと向けられた、男どもの露骨で下品な視線だった。

 

(リリアへの不躾な視線だけでも腹が立つのに……この街は女一人で歩くのすら危険なほど治安が弛んでいるのか……?)

 

エルネストの胸の奥で、過保護な庇護欲と冷徹な殺気がふつふつと煮たぎる。

 

「……うぅ、なんだか視線がチクチクして怖いです……」

 

リリアが不安そうに身を縮め、エルネストの袖をきゅっと掴んだ。

 

エルネストはすかさずリリアの腰を引き寄せ、己の広い背中で彼女を街の視線から完全に覆い隠す。

 

一方のレイも、通りすがる男たちからの舐めるような視線に眉をひそめ、苛立ちを隠せない様子で低く舌打ちした。

 

「チッ……ゲフェンに戻ってきたはいいが、男どもの視線が鬱陶しすぎるな。……胸や脚ばかり見やがって、どいつもこいつもぶち殺すぞ……」

 

いくら中身が元男性とはいえ、現在のレイは誰がどう見ても隙のある極上の美女だ。

 

男たちの視線がどれほど危険な意味を含んでいるか、エルネストには痛いほど理解できた。

 

(リリアを最優先で護るのが俺の使命だ……だが、レイへの不躾で露骨すぎる視線も放置できん。今の姿で一人で歩かせれば、裏組織の連中に狙われるのは火を見るより明らかだ)

 

エルネストは深々と息を吐くと、苦虫を噛み潰したような顔でレイに向き直った。

 

「……レイ」

 

「ん? なんだよ、エルネスト」

 

「……この街での滞在期間中、お前も俺たちの部屋に泊まれ」

 

「……はぁ!? 何言ってんだお前!?」

 

突飛な提案に、レイは目を丸くして素狂ったような声を上げた。

 

「お前らなんで一緒の部屋なんだよ!? なんで同じ部屋に泊まる必要があるんだよ?!」

 

(俺は身体は女で中身は男だぞ!? どっちの組み合わせの部屋でもそうなのに3人部屋ならなおおかしいだろ……!)

 

心の中で必死に叫ぶレイだったが、口に出せたのは表向きの抗議だけだった。

 

しかし、エルネストの眼差しは冷ややかで、一切の妥協を許さない真剣そのものだった。

 

「言ったはずだ。今のゲフェンは治安が乱れている。お前のような目を引く美女が一人で宿を取れば、今夜にでも睡眠薬や暗殺者の毒を食らって拐われるのがオチだ。……リリアを護るのが俺の最優先事項だが、レイ、お前の視線も露骨すぎる。仕方なくお前も保護してやる」

 

「くっ……! だからって……!」

 

「いいじゃない、レイちゃん!」

 

リリアがぱっと表情を明るくさせ、レイの両手をぎゅっと握りしめた。

 

「一緒に泊まろうよ! 私、レイちゃんとお話ししたいことがたくさんあるの! 女の子同士のお泊り会みたいで絶対に楽しいよ!」

 

「り、リリア……っ! お前なぁ……っ」

 

無邪気に喜ぶリリアの眩しい笑顔と、手から伝わる柔らかく甘い体温。

 

そして、「仕方なく保護してやる」と言いたげなエルネストの過保護で身勝手な視線。

 

完全に見当違いの優しさに包囲され、レイは反論の言葉を失った。

 

(……くそっ。もう自分が男だとは言い出せなくなっちまった……)

 

レイは悔しそうに歯噛みしながらも、ふと脳裏で思考を巡らせた。

 

(待てよ……? 身体が完全に女になってる以上、変に男だと言い張ったところで変質者扱いされるか、余計にあの狂ったエルネストに警戒されるだけだ。……だったら、もういっそのこと『女の子』のフリをしてやり過ごした方が、まだ安全なんじゃねえか……?)

 

思考を切り替えた(つもり)のレイの瞳に、かすかな絶望と諦めの色が宿る。

 

(女の子として扱われてる方が、エルネストの殺意も少しは和らぐはずだ……。同性の「お友達」って名目なら、リリアの隣にいたって文句は言われないだろ……! くそっ、不本意極まりないけど、今はこの際背に腹は代えられない……!)

 

「……ふぅ。分かったよ。そこまで言うなら、お言葉に甘えて一緒に泊まらせてもらう」

 

レイはフッと自嘲的な笑みを浮かべ、リリアの手を握り返した。

 

「よろしくな、リリア」

 

「はいっ! よろしくお願いします、レイちゃん!」

 

無邪気に微笑むリリアと、その隣のポジションを死守すべく、必死に『女の子』になりきろうと青い顔で腹をくくるレイ。

 

そして、二人の距離感に微かな牽制の視線を向ける過保護なエルネスト。

 

波乱と甘い誤解に満ちたゲフェンでの夜が、静かに始まろうとしていた。




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