ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
ゲフェン北門の前。
夜明けの冷気がまだ残る中、プロンテラへと向かう大型魔導馬車を連ねた巨大な商隊が、出発に向けた慌ただしい喧騒に包まれていた。
今回のプロンテラ行き商隊が募集した護衛枠は全5組。
そのうちの2組は、いかにも裏社会の臭いを漂わせる怪しげな風貌の男たちだった。
A組『灰燼の双刃』、剣士風の茶髪のガッシリとした男に、盗賊風の緑髪のヒョロっとした男で構成されている。
B組『黒衣の三叉路』は、黒髪の高身長な筋肉質な剣士風の男、弓手風の黒髪の中肉中背の男、そして聖職者風な金髪の糸目の男という組み合わせだ。
さらに、C組として参加しているのは、『スカーレット・ダスト』の女剣士バルバラ(筋肉質で少し露出が激しい風貌)、女マジシャンサリア(少しぽっちゃりしていて「巨乳」を自称する)、そして女プリーストマリス(細身で貧乳)のパーティ。
そして、今回の護衛任務を取り仕切るメインパーティ——D組『聖者の行進』のリーダーであるアークビショップのイオン(金髪長髪を後ろでくくり、甘いマスクを持つ男)が、他の冒険者たちを温和な笑みで迎え入れていた。レベッカ(赤髪ショートで筋肉質なルーンナイト)とアリシア(赤髪ウェーブで褐色のワンダラー)もその傍らに控えている。
「——よし、これだけの手練れが集まれば道中の魔物も安心だね。みんな、無事にプロンテラまで護衛任務を遂行しよう!」
と話すと、他のPTメンバーも集まりお互いに紹介が始まる。
イオンの朗らかな声に導かれ、最後の1組として参加するエルネスト、リリア、レイの3人も馬車の前へと歩み寄った。
周囲の護衛たちからの視線が集まる中、リリアとレイはエルネストから「フードを目深にかぶるように」と厳しく言われており、顔の大部分を深いフードで隠していた。
「おや、そちらの最後の一組の皆さんだね。よろしく頼むよ。同じ護衛同士ちょっと顔を見せてくれないかい?」
イオンが人懐っこい笑みを向けて声をかけた瞬間、フードの隙間からふと顔を上げたリリアとレイの姿を見た途端、A組やB組の男たちの動きがピタリと止まった。
「――っ!?」
仕方なくフードを脱ぐと、あまりの美少女と美女に絶句しながらも下卑た目を向けるA組とB組の男たち。
一方で、C組の女たち(ユフィ、サリア、マリス)は、「エルネストを見てイケメンだからあわよくば……と思っていたが連れている2人を見てえ?嘘負けた・・・と勝手に落ち込む」ように、圧倒的なビジュアルの差にガックリと肩を落としていた。
(……クソッ、やっぱりウゼぇな……)
レイは冷ややかな視線を周囲に向けつつ、心の中で小さく舌打ちした。
だが、この商隊の裏では、さらに不穏な歯車が回り始めていた。
実は、商隊に紛れ込んでいるA組とB組の男たちは、総勢100人規模の巨大な『盗賊団:影狼衆(シャドウ・ウルフ)』に属する一味だった。
彼らは今回の商隊が大量の物資と高価な積荷を抱えていることを事前に掴んでおり、更に他PTに女が多い事に気付くと、(今回の商隊は大当たりだ、商隊の荷物と女たちを根こそぎいただこう)と陰で下卑た笑みを浮かべ気脈を通じ合わせていたのだ。
護衛『聖者の行進』をリーダーとした一行、そして100人規模の盗賊団の包囲網。
様々な思惑と悪意を乗せた商隊は、厳戒態勢の中、首都プロンテラへ向けた険しい迂回路へと本格的に出発することとなった。
数日間にわたる移動の道中、商隊はたびたび襲いかかってくるフィールドのモンスターたちを難なく退けながら、順調に街道を進んでいた。
だが、目的地であるプロンテラへ向かう最後の難所——険しい岩肌と深い木々に囲まれた「渓谷」に差し掛かった頃、日暮れとともに一団はそこで一泊の野営を余儀なくされることとなった。
「……周囲の警戒を怠るな。このあたりは夜間の魔物の動きが活発になる」
エルネストは荷台の脇に立ち、手際よく矢の備えを確認しながら仲間に声をかける。
しかし、この野営こそが、商隊に紛れ込んでいたA組・B組の男たち——100人規模の盗賊団の本隊と密かに通じるスパイたちにとって、絶好の計画実行のタイミングだった。
「……ヘヘッ、あそこの渓谷に近づいたところで野営させて正解だったな」
「……あぁ。俺たちの目的は商隊の荷物と、あの馬車に乗っている極上の女どもをごっそりいただくことだ。見張りや状態耐性の低い連中は、眠り粉ですべて眠らせちまえばいい」
A組とB組の盗賊たちは、夜陰に乗じて本隊へと秘密裏に連絡を取り、挟撃の準備を着々と進めていた。
夜が深く更け、商隊の男たちが交代で見張りに立つ静まり返った深夜。
風向きに乗せて、無色透明の特殊な「眠り粉」が野営地のキャンプファイヤーの煙に紛れて密かに撒かれた。
「ん……? なんか、急にまぶたが……」
剣士や低レベル帯のような状態耐性の低い護衛や商隊の男たちが、次々とその場に倒れ込むように眠りに落ちていく。
さらに、力は弱くとも強力な魔法や支援スキルを使える者たちに対しては、あらかじめ盗賊団が渓谷の要所に仕掛けておいた「沈黙(魔封じ)」の陣が発動し、呪文の発動すらままならない状態へと追い込まれていた。
「っ……! なんだ、魔封じ……!?魔法が使えない……!?」
聖者の行進のメンバーや、商隊の魔術師たちが次々と崩れ落ちる中、唯一の遠距離・物理後衛職であるエルネストだけが、異常な気配を察知して弓を構えていた。
「……っ、仕組まれていたか……!」
だが、周囲の護衛や他のメンバー(レイやリリアを含む)が次々と無力化、あるいは眠らされていく中、一人で100人規模の盗賊団の包囲網と防衛を同時にこなすのは、いかにプレイスキルが高いエルネストといえども絶望的な状況だった。
容赦なく飛来する麻痺毒の矢や、影から飛び出した大勢の盗賊たちが一斉に襲いかかる。
「エルネストさん……っ!」
リリアが恐怖に震えながら名前を呼ぶ声が響く。
エルネストは必死に彼女を庇って矢を弾き返そうとするが、魔力封じと多勢に無勢の圧倒的な物量の前についに隙が生じた。
「隙ありだぜ、お高くとまったレンジャーの兄ちゃん!」
闇の中から現れた盗賊の一人が、沈黙のデバフを受け魔法が使えないレイと、恐怖で身動きが取れなくなっているリリアの背後に素早く回り込む。
「きゃっ……!?」
「うっ……!?」
抵抗する間もなく、リリアとレイは強引に拘束され、麻袋を被せられて暗い闇の中へと引きずり出されていく。
「なっ……!?」
普段の冷静さはどこへやら、エルネストの顔から完全に血の気が引いた。
弓を構える指が痙攣し、呼吸の仕えたちょっとした動揺すら隠せない。
これほどまでに感情を乱し、取り乱した姿を彼が見せるのは初めてのことだった。
「待て……っ! 離せ!!」
エルネストの絞り出すような、掠れた絶叫が夜の闇に響く。
しかし、夜の闇に紛れた盗賊たちは、最高級の「獲物」であるリリアとレイの身柄を抱え、瞬く間に渓谷の奥深くへと姿を消していった。
静まり返った野営地に取り残されたのは、無力化されて倒れ込む商隊の男たちと、愛しい少女を守れなかった深い絶望感と、己の無力さに対する激しい怒りに歯噛みし、全身をわなわなと震わせるエルネストの姿だけだった。
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