ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
「……クソがっ……!!」
拳を地面叩きつけ、エルネストは膝を折った。
手の甲から血が滲むが、そんな痛みなど脳裏に焼き付いたリリアの恐怖に満ちた顔に比べれば無に等しかった。
(俺が……俺が側にいながら、あいつを奪われた……!)
だが、絶望の深淵に沈みかけたその脳髄で、カチリと何かが音を立てて狂い始める。
エルネストの瞳に宿っていた失意の光はドロリと黒く濁り、涙の代わりに、底知れない冷徹な執着と殺意が内側から生臭く湧き上がって――塗り潰されていった。
「……絶対に逃がさない。この手で、必ず引きずり戻す……」
立ち上がったエルネストの脳裏の髄までが、ぐにゃりと音を立てて書き換えられていく感覚がする。
今までの自分にはない。
いや、少しづつ目覚めててきてはいた獣たちの血脈が熱く疼き、理性を黒く染め上げていく。
脳裏に刻まれた『本能』が完全に覚醒し、ウインドホークとしての超人的な感覚が極限まで研ぎ澄まされていった。
周囲の夜気に残る微かな匂い、踏み荒らされた草木の折れ具合、そして逃走した男たちが残した不自然な土の凹凸――それらすべてが、獲物を狩るための揺るぎない「死の足跡」として彼の脳裏にくっきりと浮かび上がった。
盗賊どもは気配を殺して散走したつもりだろうが、もはや人間を超越したエルネストの目をごまかすことなど不可能だった。
足跡の深さと角度から、重い荷物(人間)を抱えて移動している方向が明確に浮かび上がる。
それは渓谷のさらに北、かつて放棄された暗い鉱山跡へと続いていた。
月明かりすら届かない漆黒の坑道。
その入口付近には、盗賊たちが設置したであろう単純な警報のトラップや、隠れた見張りの気配が潜んでいた。
「……鬱陶しい仕掛けだ」
エルネストは影に潜み、息を殺して弓を番える。
——シューッ。
闇を切り裂く一筋の矢。
見張りの男は悲鳴を上げる間もなく、喉ぐらを貫かれて静かに崩れ落ちた。
警報用の鈴が鳴る前に、エルネストは滑らかな足取りで坑道内へと侵入する。
坑道の奥からは、下品な男たちの酒臭い笑い声と会話が漏れ聞こえていた。
「へへっ、今回のはマジで大当たりだぜ! 桃色の髪のねえちゃんは問答無用で極上ものだし、もう一人の黒髪の女も相当な器量良しだ」
「ああ、高値で売れること間違いねえ。あのレンジャーの野郎が追ってきたらどうする?」
「ケッ、あの人数と魔力封じの仕掛け相手じゃ、今頃くたばってるか諦めて逃げてらあ!」
その会話を聞いた瞬間、エルネストの背筋を氷のような殺気が駆け抜けた。
「……誰が諦めると言った?」
音もなく、いつの間にか背後の――息を呑むほど至近の闇から響いた低い囁き声に、酒を汲み交わしていた盗賊たちが一斉に背筋を凍らせて跳ね起きた。
そこに立っていたのは人間の形をした獰猛な捕食者か、はたまた血に飢えた獣か、あるいは黄泉の国から這い出た死神そのものだった。
「なっ……!? なぜここが——」
男が言い切るより早く、エルネストの番えた矢が暗闇を切り裂く。
——ドガァンッ!!
返り血を浴びてもまばたき一つせず、冷酷な足取りで闇から滑り出してきたその姿は、もはや狩人なんていう生易しいものではなく、獲物を絶対に逃さない執念の化身――恐怖の怪物そのものだった。
「リリアはどこだ。……吐かなければ、その肉を引き裂き、骨の髄まで後悔させてやる」
静かな怒りをたたえた、狂気を孕む狩人の目が、囚われた少女たちを救い出すため、盗賊団の巣窟へと深く切り込んでいった—。
「いやぁ……っ! やめて、触らないでぇ……っ!!」
「うっ、ぁぁぁ……っ……!」
昏い空間に響き渡る、踏みにじられるような絶叫と、生々しい肉体の擦れ合う音。
鼓膜を裂くようなその悪夢の気配に激しく揺さぶられ、リリアは冷たい暗闇の底から強制的に引き戻された。
(……え? ここ、どこ……!?)
重い瞼を開けると、視界を覆っていたのは湿った暗い岩肌と、煤けた松明の揺らめく光だった。
手首には太い麻縄が食い込み、背中合わせの状態でガッチリと拘束されている。
となりに背中を預けている人物の、引き締まった体躯と独特の清涼な気配——エレメンタルマスターのレイだった。
「……気づいたか、リリア」
レイの低く冷静な声が、耳元で聞こえた。
しかし、その声の端々には隠しきれない強い苛立ちと屈辱が滲んでいた。
(くっ……!)
レイは背中合わせで繋がる縄を引き千切らんばかりに拳を握り締め、爪が手の平に食い込んで血が滲むのも忘れていた。
喉の奥からせり上がってくる熱い怒りと殺意は、沸騰した鉄の塊のように彼の内臓を焼き尽くしていた。
目の前で仲間たちが蹂躙され、下品な笑い声が響くたび、レイの理性のタガは音を立てて軋んだ。
(……動け。魔力さえ戻れば、こんな雑魚どもの一人や二人、一息で氷漬けにして微塵切りにしてやるのに……っ!)
だが、隣には恐怖に震えるリリアがいる。
ここで自分が感情に任せて暴れれば、魔力を封じられたこの状況でリリアまで最悪の標的にされてしまう。
『絶対に、リリアだけには指一本触れさせない』という狂おしいまでの執着と、目の前の惨状を見続けるしかない圧倒的な無力感とが混ざり合い、レイの冷徹な瞳の奥は、地獄のような黒い澱みに塗り潰されていた。
「レイちゃん……!? 私たち、一体……それに、あの悲鳴は……!」
「しっ、大声を出すな……」
レイの促しにリリアが視線を向けると、洞窟の少し開けた場所で絶望的な光景が広がっていた。
さらわれて拘束されているのは、自分たち二人だけではなかった。
商隊に同行していた女性陣——『スカーレット・ダスト』のバルバラ、サリア、マリスの三人が恐怖にガタガタと震え、悲鳴を上げながら凌辱されており、その手前では「聖者の行進」のメンバーであるアリシアとレベッカが、盗賊どもに押さえつけられていた。
「へへっ、観念しな! 渓谷に仕掛けた魔力封じの結界で、お前らの自慢の魔法もバフも全部封じ込んであるんだよ!」
「この赤髪の女たち、威勢がいい肉付きしてやがる。メインディッシュの前にこいつらも味見といこうぜ!」
下品な笑い声を上げながら、男たちがアリシアの胸元やレベッカの服を力任せに引き裂いていく。
「やめなさいよ悪党! イオン……! 助けて、イオン……っ!」
「私らに触るな……ッ! ぶっ殺してやる……!」
抵抗する二人だったが、魔力封じの結界と物理的な拘束により、抵抗も虚しく服が次々と破り捨てられていく。
「……クソッ……! 結界のせいで精霊すら召喚できねえ……!」
レイは背中で縄を擦り切り落とそうと必死に爪を立てたが、魔力を遮断された身体では微かな抵抗すら叶わない。
元は男である己のプライドと、愛するリリアを目前で守れない無力感に、レイの歯が折れそうなほど強く噛み合わされた。
その時、盗賊たちの首領らしき大男が、二人のいる奥の影へとゆっくり歩み寄ってきた。
「ハハハッ! そっちの極上二人は後でお楽しみにとっておこうと思ったんだがなぁ……」
首領の下卑た視線が、リリアの桃色のボブヘアと、爆乳ボディ、そしてレイの涼しげで端正な美貌をねっとりと舐め回す。
「見てみろよこのおっぱいと顔立ち……! 市場に出せば城が建つレベルだが、売る前に少しぐらい味見してもバチは当たらねえよな?」
「来ないで……! 触らないで……っ!」
恐怖で涙を溢れさせるリリア。
首領の手が容赦なく伸び、リリアの華奢な肩口と聖職者の衣服を掴むと、メリメリと音を立てて豪奢な法衣が引き裂かれた。
「ひゃうっ……! やめてぇっ……!」
豊満な胸元が夜気に晒され、無防備な肌が露わになる。
さらにはレイの服までもが粗暴に破かれ、美しい鎖骨と胸元が露わにされていった。
「リリアに触んじゃねえ、この野郎……っ!!」
レイが身を挺して割り込もうとするが、首領の側近に頭ぐらを強く踏みつけられ、岩肌に押し付けられる。
「へへっ、いい声で鳴くじゃねえか。二人まとめて可愛がってやるから——」
首領が下半身の帯を解き、リリアの胸元へ下品な手を伸ばした——――
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