※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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ここから閑話が続きます。

しばしお付き合いください。


閑話 それぞれの目覚めと交錯する王都
閑話 ノア前編


いつも通りの深夜。

 

高難度ダンジョンの日課を無事にすべて終え、いつものように雑談チャンネルで最後までくだらない話で盛り上がったあと、ノアはゲームを閉じ、ログアウトボタンを押した。

 

その瞬間、自室の床から噴き出した眩い光に呑み込まれ、彼の意識は暗闇の底へと沈んでいった——。

 

「うぐっ……あっちいぃ……! なにこれ、サウナ〜……!?」

 

焼きつくような強烈な熱気と、肌を刺す眩しい日差しに、ノアは目を覚ました。

 

金髪の美しい髪をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら跳ね起きる。

 

魔法職らしくひょろっとしたスリムな体躯に、視界一面に広がっていたのは見渡す限りの広大な金色の砂丘と、逃げ水が揺らめく灼熱の砂漠だった。

 

「えっ……待ってよ、ここどこ〜……? ログアウトして部屋にいたはずなんだけどさぁ〜……」

 

それだけじゃない。

 

視界の端に見える自分の長めの横髪を引っ張ってみれば、見慣れないはずの鮮やかな金髪だし、耳にはなぞの青いピアスはついてるし、下を向いて着ている衣装に視線を落とせば、そこにはゲームで愛用していたアークメイジの豪華な法衣がぴったりと収まっている。

 

「っていうか、なんで俺、ゲームの時の格好して金髪になってるの〜……? 部屋着どこいったのさ……って、それどころじゃないか〜……!」

 

本来なら後方でひっそりと控えているべき高火力魔法職のはずだが、彼の特性——「魔法職らしくないのに、なぜかすぐに前に出る」という悪癖は、この異世界でも変わっていなかった。

 

(まあ、いざとなったらお気に入りの高級装備に身を包んでるし、モンスターから殴られても痛っ!ってなるかもしれないけど、そこそこ耐えられるから何とかなるか〜……って、なんでそんなゲームみたいなこと考えてるんだよ、俺……!)

 

そんなツッコミを自分で心の中で入れつつ、ノアはすぐさま歩き出した。

 

「熱い熱い〜! 砂が靴に入って痛いよぉ……! もう無理〜、干物になっちゃう〜……!」

 

口では大げさに文句を叩き、叫びながらも、持ち前のポジティブさと図太さで、足取りは案外力強く前へ前へと進んでいく。

 

カサカサに乾いた唇を舐め、ノアは眩しい空を見上げた。

 

「水……水と街を探さないとマジで干物になっちゃうよ〜……。……あーあ、『ねえねえリリアちゃん〜! 暑いよ〜!』って言ったら、『もう、ノアさんはまたすぐ大騒ぎして! はい、お水です!』って冷たいお水を出してくれるリリアちゃん出てこないかなぁ~。……なんて、画面の向こうの妄想の中にしかいないわけだけどさぁ……!」

 

ふと、脳裏に浮かぶのは、オンラインの画面越しにいつも見ていた大好きなギルドメンバー・リリアの笑顔の幻影だった。

 

もちろん、生身で会ったことなど一度もない。

 

それに、ゲームでの自分のいい加減なプレイスタイルを思い返せば、リアルで出会った女の子がこんな風に優しくしてくれるわけがない――頭の片隅ではそんな冷めた理性が働きつつも、ノアの脳内ではどういうわけか都合よく美化されていた。

 

(――だって、俺はオンラインでもリアルでも、女性にはモテモテの優しくされる側だろ? 女の子ってのは基本的に男に甘く、いつでも俺を慈しんでくれる生き物なのだ!)

 

そんな根拠のない自信と都合の良い妄想に浸りながら、いつでも「ねえねえリリアちゃん!」と話しかければ、突っ込んでは騒ぐ自分を呆れながらも完璧なバフと回復で支えてくれる彼女の優しい姿が、まるで現実のように鮮やかに再現されてしまう。

 

(現実にこんな灼熱の砂漠に放り出されたら、冷たいお水なんて出しててくれるリリアちゃんなんているわけないって頭では分かってるけどさ……! ああもう、あのゲーム画面の向こうの優しさが無性に恋しいよ……!)

 

(そういえば、ログアウトする直前もレナードとくだらない雑談で盛り上がってたっけ……。みんな今頃どうしているんだろ〜……。あ、そうだ、バルドと一緒に時々うっかり悪気なくセクハラ発言を言っちゃって、レナードに「こら、ノア!」って窘められたり、レイには馬鹿じゃねーのって言われたり、エルネストに氷点下の冷たい目で見られて怒られたりするあの日常、今思えば恋しいかもなぁ……)

 

ふっと足を止め、ノアは真剣な目で広大な砂漠を見渡した。

 

顔をしかめながらも、その瞳の奥には仲間を案じる真摯な光が宿っている。

 

「自分だけがここにいるとは限らないよね……。バルドとは案外馬が合うし、あの愉快な仲間たちも、きっとこの世界のどっかに飛ばされてるはずだもん……」

 

いつものおちゃらけた雰囲気の奥にある、頭脳明晰で鋭い直感が告げていた。

 

レナードやバルド、エルネスト、レイ、そして画面の向こうでしか知らないはずの大切なリリアたちも、必ずどこかで生きているはずだと。

 

仲間たちの無事を信じたいという切実な願いが、乾いた砂漠を歩くノアの足を力強く突き動かしていく。

 

「よしっ……! 決めた〜! まずは街を見つけて水と情報をゲットして、みんなを探し出すぞ〜……! いつか本当に、リリアちゃんに冷たいお水をもらいに行くんだからね〜!」

 

誰もいない砂漠に向かって大きく手を振って叫ぶと、ノアは熱さを堪えながら、灼熱の砂丘を軽快な足取りで駆け下りていった。

 

「しっかし、あちぃぃぃっ……! マジで干物になる! 誰か塩を振ってくれ!食べたら美味しいよ状態なんですけどぉ……!」

 

金髪をぐしゃぐしゃと掻きむしり、アークメイジの豪奢な法衣の裾を引きずりながら、ノアは朦朧とする意識の中で砂丘をよろよろと歩いていた。

 

モロク砂漠の容赦ない直射日光が、彼の体力を極限まで削り取っている。

 

戦闘では先陣を切って突っ込むほどのタフさと打たれ強さを誇る彼であっても、水分を持たずにこの広大な砂漠を彷徨うのは流石に生死に関わる過酷な試練だった。

 

(はぁ、はぁ……冗談抜きで死ぬってこれ……。いくらゲームで前衛みたいに突っ込んでダメージ受けても、リリアちゃんみたいな有能な回復役がいなけりゃただのHP0待ったなしの置物じゃん……! あーあ、俺の頭の中は今、冷え冷えのポーションと冷たいお水でいっぱいなんですけど……!)

 

「痛いよぉ! 砂が靴に入って痛いし、もう歩けないよ〜……。ねえ、誰か助けて……リリアちゃーん……!」

 

すっかり弱音を吐き、砂の上にへたり込もうとしたその時だった。視界の揺らめく向こう側に、緑の木々と、白亜の壁で囲まれた建造物の影がぼんやりと浮かび上がってきた。

 

「……ん? あれは……もしかして……オアシス……!?」

 

奇跡的な気力を振り絞り、ノアは「しんじゃう〜!」と叫びながらも、這うようにしてその場所へとたどり着いた。

 

そこにあったのは、砂漠のオアシスだった。

 

冷たくて透き通るような水が湛えられた泉のほとりには、旅の商人たちがラクダを休ませ、木陰でスパイスの効いたお茶を飲んで談笑している。

 

「ふぎゃあぁっ! 水、水だぁぁっ!!」

 

ノアは周囲の目も憚らず泉へと飛び込むと、すくい上げた水を狂ったように貪り飲んだ。

 

生き返るような心地に、ノアは「生きるって素晴らしい……!」と大の字になって砂地に寝転がる。

 

しばらくして、すっかり落ち着きを取り戻したノアに、ラクダの傍で休憩していた商人の老人が苦笑いをしながら声をかけてきた。

 

「おいおい、兄ちゃん。そんなに一気に水を飲んだら腹を壊すぞ。ほら、これを食いな」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

商人が差し出してくれた乾燥フルーツをありがたく受け取りながら、ノアはふと周囲の景色を見回した。

 

白亜の砂壁、行き交う商人の装束、そして街の中心にどっしりと構える巨大な宮殿のような建物。

 

どこかエキゾチックなその街並みを眺めながら、ノアはどこか引っかかるような違和感を覚えて首をかしげた。

 

(ん……? なんかこの建築様式、見覚えがあるような……気のせい……?)

 

首をかしげるノアに、老商人が面白そうに笑いながら言った。

 

「初めてこの街に来たのかい? ここは悪名高き砂漠の都『モロク』だ。魔王の封印があることで有名だがね、最近は物騒な連中もうろついているから気を付けるこったな」

 

その言葉を聞いた瞬間、ノアの脳内で雷に打たれたような衝撃が走った。

 

「……モロク!? 魔王の封印!? ってことは、ここって……!」

 

ノアは慌てて自分の着ているアークメイジの法衣を引っ張り、目の前にある砂漠の景色と頭の中の記憶を照らし合わせた。

 

「――ROの世界じゃないかぁぁーーっ!?」

 

叫んだノアの声に、周りの商人たちが驚いて振り返る。

 

しかし、ノアの心臓は驚愕と興奮で激しく高鳴っていた。

 

自分だけがこんな異世界に飛ばされたわけではない。

 

いつも雑談チャンネルでくだらない話をしていたレナードや、すぐセクハラをしてレナードに怒られるバルド、冷静にツッコミを入れてくれるレイやエルネスト、そしていつも呆れながらも自分を回復してくれた大好きなリリアちゃんたちも、きっとこの世界のどこかにいるはずだ。

 

(……そっか! 俺だけじゃなくて、みんなも絶対この世界に転生してるんだ……!)

 

持ち前の底抜けに明るいポジティブさと、いざとなれば何とかなるさと言わんばかりの楽観的な思考ロックにより、恐怖や不安は瞬く間にどこかへと消え去っていく。

 

ノアの顔にはいつものおちゃらけた、しかしどこか頼もしい笑みが戻っていた。脳裏に浮かんだのは、画面の向こうの仲間たちの賑やかな姿だった。

 

(待っててね、リリアちゃん。今度こそ、俺が華麗にピンチを救ってみせるからさ〜!)

 

「よしっ! まずはこのオアシスでしっかり体力を回復して……モロクの街で情報収集だ! 待っててねみんな、今すぐ俺が派手に合流してあげるからね〜!」

 

灼熱の砂漠を抜けたノアは、新たな仲間探しの旅へ向けて、軽快な足取りでモロクの街へと歩き出すのだった——。




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