※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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閑話 バルド後編

王都プロンテラの東門から入城を果たした俺は、その足で巨大な「冒険者ギルド」へと向かい、この世界での活動基盤を少しずつ整えていた。

 

「へへっ、重厚な甲冑を鳴らして街を歩くだけで、周囲の視線が集まってくるぜ……! やっぱり俺様みたいな圧倒的存在感のある男は、どこに行っても目立っちまうんだなぁ!」

 

相変わらずの「俺TUEEE」気質とマウント願望を胸に膨らませつつ、俺はギルドの依頼掲示板を眺めていた。

 

だが、提示されている依頼の多くは、討伐数の多さの割に報酬が見合わないものや、地道な採集作業ばかりで、俺の華麗な実績には到底釣り合わないものばかりだった。

 

そんな中、掲示板の隅に貼られた一枚の依頼書の前で、困り果てた様子の小柄な少女が佇んでいるのが目に入った。

 

(おっ、あの子は……?)

 

「うぅ……やっぱり、この報酬じゃ誰も受けてくれないのかな……」

 

少女は朱色の短い髪に、薬品の匂いがかすかに漂う白衣のような羽織を身に纏っていた。

 

職業はこの世界の『アルケミスト(錬金術士)』——名は「アナ」というらしい。

 

「おいおい、お嬢ちゃん。そんな可愛い顔を曇らせてどうしたんだ? この最強のドラゴンナイト様が極上の相談に乗ってやろうか?」

 

俺はガッシリとした胸板をドンドンと叩きながら、隠しきれない下心全開のニヤニヤ笑いを浮かべて声をかけた。

 

「え……? あ、あなたは……?」

 

「俺はバルド! 見て通り、圧倒的な火力を誇るドラゴンナイト様だ! で、どんな依頼で困ってるんだ?」

 

俺が余裕の笑みで胸を張ると、アナは藁にもすがる思いで一枚の依頼書を差し出してきた。

 

そこに書かれていた内容は、「モロク砂漠のオアシス周辺でしか採取できない特殊な泉の水溶液を汲みに行くための護衛」というものだった。

 

しかし、モロクまでの途方もない距離の長さと過酷な砂漠環境に対し、提示された報酬額があまりにも安かったため、他の野暮ったい冒険者たちからはすっかり見向きもされていなかったのだ。

 

(ふむ……報酬はスズメの涙だが、こんな可憐な女の子と二人きりでモロクまでの遠出……! もしかして道中、危険から守ってやったお礼に『バルドさん格好いい!』って尊敬されて、そのまま急接近しちゃう展開じゃねえのか……!? 夜の砂漠のテントの下で、二人きりで熱い語らいが……へへっ!)

 

脳内お花畑全開で下心を極限まで加速させた俺は、親指をグッと立てて最高に頼りがいのある(つもりな)笑顔で言い放った。

 

「よし、乗った! その依頼、この俺様が二つ返事で引き受けてやるぜ!」

 

「ホントですか!? ありがとうございます、バルドさん!」

 

パッと花が咲くように顔を輝かせるアナの笑顔に、俺の鼻の下はもう限界まで伸びきってしまうのだった。

 

プロンテラ南門からモロクへと続く街道は、南下するにつれて緑が薄れ、乾燥した熱風が肌を刺す砂漠地帯へと景色を変えていった。

 

道中、荒野に生息する凶暴なポリンの群れや、砂地から突如現れるドロップス、さらには凶暴なサベージたちが次々と俺たちに襲いかかってきた。

 

「ひやぁっ……! モンスターです!」

 

恐怖で怯え、俺の背後で小さくなるアナの可愛い声に、俺の戦闘欲と男気(というか下心)は最高潮に跳ね上がる。

 

ここでカッコいいところを見せつけずして、いつ見せるんだって話だ!

 

「へっ、この程度の雑魚、俺にとっては準備運動にもならねえよ! ハァァァッ!!」

 

俺は威勢よく咆哮を上げると同時に、ドラゴンナイトの強力なスキルを叩き込んだ。圧倒的な体力補正と高火力を纏った灼熱のブレス——『ファイアードラゴンブレス』が容赦なく放たれ、襲いかかってきたモンスターの群れを一瞬にして丸焦げの灰へと変え尽くす。

 

ドガァァァンッ!!

 

「ひ、ひゃぁっ……! す、すごい熱気です……!」

 

あまりの威力に熱風を浴びたアナは、目を白黒させながら慌てて俺の背後に隠れ、パタパタと自分の服の裾をパタパタと扇いだ。

 

「す、すごーいっ……! 一瞬で魔物が消えちゃいました……! バルドさん、今の魔法って何ですか? こんな一撃で一網打尽にするなんて、さすが上級職の人は格が違いますね……!」

 

目を丸くして、感動と尊敬のあまりピカピカと瞳を輝かせているアナの横顔を盗み見つつ、俺はここぞとばかりに思いっきり胸を張ってマウントをとった。

 

(ふはは、見たか! これが男の背中ってやつだぜ!)

 

「ガハハハッ! 見たかアナちゃん! これが俺様の圧倒的パワーよ! どんな奴が来ようが、俺の前にひれ伏す運命なんだよ!」

 

(本当は、昔のゲーム時代から前衛なのに突っ込みすぎて後衛に敵を流したり、変なタイミングでスキルを暴発させて自滅しかける悪癖があったのは内緒だが……このレベルの雑魚相手なら、俺の脳筋ゴリ押しパワーだけで余裕でねじ伏せられるぜ!)

 

こうして俺の圧倒的な(?……いや、実に頼りになる!)護衛のもと、道中何度もアナの「すごいです、バルドさん!」という賞賛の視線を浴びせられながら、二人は大きなトラブルも(俺の自爆以外は)なく、無事に砂漠の都「モロク」へと到達した。

 

そして、目的であったオアシスの特製水溶液を瓶いっぱいに手に入れることに成功したのだった。

 

「ふぅ〜! 無事に水溶液が手に入りました! バルドさん、本当にありがとうございました!」

 

オアシスの泉のほとりで、大切そうに薬品瓶を抱えながら頭を下げるアナ。

 

「なに、これくらい朝飯前よ! で、目的の物は手に入ったんだし、プロンテラへ帰るとするか?」

 

バルドが汗を拭いながら尋ねると、アナは申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「あ、それが……今度はこの水溶液を無事にプロンテラのラボまで持ち帰るために、モロクの冒険者ギルドで『プロンテラへの帰り道の護衛依頼』を出そうと思ってるんです」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内で「追いマウント」の好機が激しく閃いた。

 

(なにっ……!? プロンテラへの帰りも護衛依頼だと……!? ここで別の冒険者に横取りされるくらいなら、帰りも俺がバッチリ護衛して『やっぱりバルドさんが一番頼りになる!』って惚れ直させちゃうしかねえだろ……!)

 

「よしっ! その依頼も俺が引き受けた! 俺がまた一肌脱いでやるから、安心して任せときな!」

 

「えっ、いいんですか……!? バルドさん、なんてお優しい……!」

 

「じゃあアナちゃん、俺はちょっと用事(または情報収集・アイテムの換金など)があるから、一度ここで別行動しようか。あとで冒険者ギルドのカウンター前で合流な!」

 

「はい! バルドさん、ありがとうございました!」

 

アナと別れた俺は、自分も安全確保や当面の資金稼ぎのため、アイテムを売り捌いた後、モロクの冒険者ギルドへと足を向けるのだった。

 

ギルドの扉を勢いよく押し開け、カウンターへ向かおうとしたその時だった。

 

「——はーい、すみませ〜ん! このアナさんの護衛依頼、俺が引き受けまーす!」

 

カウンター付近から、甘ったるくも耳障りな軽快な声が響いてきた。

 

すでに貼られていた依頼書の用紙を手にしたそのチャラ男は、受付の職員を捕まえて何やら気だるげに手続きを進めている。

 

(んだあいつ、チャラい野郎だな……。ていうか、その軽口の叩き方、なんかムカつくけど妙に聞き覚えがあるような……? ま、いっか!)

 

深く考えるのを一瞬で放棄した俺は、ドラゴンナイトの重厚な甲冑をガチャガチャと鳴らしながら、即座にそのチャラ男の横へと割って入った。

 

「ちょっと待ったぁぁぁーーっ!! その依頼、俺が受けたいんだよ!!」

 

俺がそう言い放つと、目の前のチャラ男――依頼書を先に出していたはずのそいつが、カチンと頭に血を上らせたような顔でこちらを振り返った。

 

「はぁ〜!? 何言ってんのこの大男! 俺が先に依頼書出したんだけど!?」

 

(んだあいつ、初対面なのにいきなりチャラけた口ききやがって……! なんか妙にヘラヘラしてて弱そうだし、俺よりチビのくせに、調子のるなよ……!)

 

※彼の身長は172cmと、現実世界でごく平均的な成人男性のサイズであり、決してチビなどではない。だが、身の丈195cmを誇る元・脳筋ファイターのバルドからしてみれば、自分より一回りも二回りも小さな相手は、もれなく全員「チビ」のカテゴリーに分類されてしまうのだった。

 

「それに何? 『ひょろっとした野郎』って失礼すぎない!? 俺は高威力広範囲魔法で敵を一網打尽にできる超優秀なアークメイジなんですーだ!」

 

「あんだと!? 威張るんじゃねえよ! 前衛の俺様がいてこその安全だろーが!」

 

「ちょっと……二人ともやめてください……!」

 

俺と目の前のチャラ男が今にも掴みかからんばかりに額を突き合わせて睨み合っていると、物陰からアルケミストの少女・アナがオロオロと慌てながら割り込んできた。

 

「あ、アナさん! 心配いらねえぜ、この俺様がバッチリ護衛して——」

 

「ねえねえアナちゃん! 俺ならプロンテラまで快適に、しかもスマートに送ってあげられるよ〜!」

 

二人同時にアナへアピールし合おうとした、その瞬間だった。

 

(ん……? なんかあいつ、急に黙り込んで……?)

 

さっきまで威勢よく張り合っていたはずのチャラ男が、ピタリと動きを止めたいきなり様子がおかしくなった。

 

そいつは首をかしげ、眉間にシワを寄せながら、こちらの様子をじっと探るように見つめてくる。

 

何だこいつ、急に気味の悪い奴だな……と俺が怪訝に思っていた次の瞬間、目の前のチャラ男が目を見開き、突然大声を張り上げた。

 

「その口調……お前、もしかして……バルドか~~~っ!?」

 

「はっ……!? なんだよお前、いま何つった……?」

 

目の前のチャラ男がいきなり俺の名前を叫んだので、俺は思わず間抜けな声を漏らす。

 

だが、そいつの放つ少し甘ったるく、困ったように語尾が伸びる独特の口調や言い回しを改めて聞き取った瞬間、俺の頭の中でも何かが繋がって息が詰まった。

 

「……お前、その喋り方……ノアかよお前ぇぇぇーーっ!?」

 

「やっぱりバルドじゃん!! 生身の姿なんて全然わかんねぇよ!」

 

ギルド内に二人の絶叫が盛大に響き渡り、周りの冒険者たちが「なんだんだ?」と驚いて一斉に振り返る。

 

(うわっ、こいつ本当にノアなのかよ……!)

 

「うそ……マジでバルドなの!? ログアウトしたらここに飛ばされててさぁ! サウナみたいな砂漠で干物になるかと思ったんだよ〜っ!」

 

「おうよ! 俺もプロンテラ北の迷いの森に飛ばされて死ぬかと思ったぜ! つーか、お前もこの世界に転生してたのかよ! じゃあレナードやレイ、エルネスト、それにリリアたち他のメンバーも……!?」

 

「うん! 俺もずっとみんなを探してたんだよ! まさかモロクのこんなところでバルドに会えるなんて思わなかった〜!」

 

先ほどまでの殺伐とした険悪な雰囲気が嘘のように吹き飛び、俺たちはガシッとノアの肩を抱いた……が、気合を入れすぎてガシッとやりすぎたせいで、「痛い痛い痛い! 骨折れるって!」とノアはさっそく情けない悲鳴を上げてやがる。

 

まったく、相変わらず打たれ弱い奴だぜ。でもまぁ、この異世界で知った顔に会えた嬉しさはそんなんで消えるもんじゃねぇけどな。

 

(ふっ、まあ俺の圧倒的な包容力の前には、こいつの軽口もいいスパイスってわけだ!)

 

事情をまったく呑み込めず、目を白黒させて固まっているアナを他所目に、ノアの奴はお調子者らしくパッと笑顔を作って手を叩いたのだった。




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