※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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閑話 ノア後編

灼熱のモロク砂漠を渡り切り、ついにオアシスの都「モロク」へとたどり着いたノアは、冷たい泉の水で喉を潤しながら、大きなため息をついていた。

 

「ふぅ〜! 生き返る〜っ! マジで干物になるかと思ったよ〜……! あーあ、あのまま乾からびてたら、リアルの方の俺の部屋で干からびたミイラ発見事件がニュースになるところだったわ〜……」

 

金髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら、ノアはアークメイジの豪華な法衣の裾をパタパタとあおぐ。

 

自分が大人気オンラインゲーム「ラグナロクオンライン」の世界そっくりな場所へ転生したことを理解したノアだったが、持ち前のおちゃらけた前向きさと図太さは健在だった。

 

何せ、彼の脳内では「いざとなったらお気に入りの高級装備もあるし、痛い〜とはなるかもしれないけど何とかなるさ!」という無敵の楽観的思考ロックが常に発動しているのだ。

 

(さてと……見知らぬ異世界に飛ばされたのはビビったけど、俺だけじゃないはずだ。レナードやバルド、レイ、エルネスト、そしてリリアちゃんたちも、きっとこの世界のどこかにいるに違いないもんね〜)

 

一人で納得してニコニコと頷くと、ノアはすぐさま次の行動に移る。

 

「さてと……とりあえず目指すなら、やっぱりルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラだよね〜。人も情報も集まりそうだし!」

 

持ち前の圧倒的なコミュニケーション能力と人懐っこさを発揮し、ノアはすれ違う商人や街の人々に次々と気軽に声をかけながら、軽快な足取りでモロクの冒険者ギルドへと向かった。

 

エキゾチックな石造りの建物であるモロク冒険者ギルドの扉をくぐるやいなや、ノアはカウンターの近くにいたベテラン風の冒険者に「お疲れ様です〜、ここって今どんな依頼がアツいんですか〜?」と気さくに話しかけながら、店内をスルスルと通り抜けて掲示板の前へとやってきた。店内は砂漠を旅する冒険者や商人たちで賑わっている。

 

「う〜ん、プロンテラに行きたいんだけど、ただ砂漠を歩いて戻るのは流石にだるいなぁ……。なんかうまーい具合に、タダかお小遣い付きでプロンテラまで行ける美味しい手段、ないかな〜?」

 

そう呟きながら、ノアはギルドの依頼掲示板に貼られた羊皮紙を一枚一枚眺めていく。

 

討伐依頼、護衛依頼、素材採集……さまざまな依頼が並ぶ中、ノアの鋭い直感がひとつの依頼書の前でピタリと止まった。

 

『【急募】プロンテラへの帰り道における護衛依頼。モロクの特製水溶液を安全にプロンテラのラボまで運搬すること。依頼主:アルケミスト・アナ』

 

「ん……!? これ、めちゃくちゃいいじゃん!」

 

ノアはぱっと表情を明るくし、パンッと手を叩いた。

 

(モロクからプロンテラへの護衛なんて、まさに俺が求めていた条件そのものじゃん! 依頼を受ければ護衛費として報酬ももらえるし、何より自分の足で迷子になる心配もなく、堂々とプロンテラまで行けちゃうんだから最高すぎるでしょ……! 俺ってばやっぱり天才〜!)

 

ウキウキとした足取りでカウンターへ向かい、受付の職員に依頼書を提出するノア。

 

「はーい、すみませ〜ん! このアナさんの護衛依頼、俺が引き受けまーす!」

 

受付の職員が依頼書を受け取り、手続きを進めようとした——まさにその瞬間だった。

 

「ちょっと待ったぁぁぁーーっ!! その依頼、俺が受けたいんだよ!!」

 

重厚な甲冑の金属音とともに、ギルド内に響き渡る豪快で荒々しい大声。

 

モロク冒険者ギルドのカウンターで手続きを進めようとしていた俺は、驚いてビクッと肩を跳ねさせながら振り返った。

 

(ん……? このガラが悪くてやけに耳障りな声……どこかで聞き覚えがあるような……?)

 

驚いて振り返った俺の視線の先にいたのは、青髪の短髪にガッシリとした筋肉質の巨体を誇る、いかにも粗暴そうな重装備の男——身の丈190cmを優に超える大男だった。広い胸板を張り、マウント気質全開な顔で、ずかずかとこちらへ歩み寄ってくる。

 

(なんだあいつ……すっごい威圧感だけど、声のトーンとかその荒々しい喋り方……もしかして……?)

 

生身の姿など知るはずもない相手に向かって、俺は思わず怪訝そうな顔を向けるのだった。

 

「おいおい受付のお姉さん、プロンテラへの帰り道の護衛なら、この圧倒的火力を誇るドラゴンナイトの俺様に任せるのが一番安全だぜ! そのひょろっとした魔法使いじゃ頼りねえだろ!」

 

「はぁ〜!? 何言ってんのこの大男! 俺が先に依頼書出したんだけど!?」

 

カチンと頭に血が上った俺は、金髪を乱しながら、アークメイジの豪華な法衣の裾をひらつかせて即座に言い返した。

 

(なんだこいつ、初対面からデカい声出しやがって……! 身の丈190cmもあるからって、この圧倒的筋肉バカが調子のるなよ……!)

 

「それに何? 『ひょろっとした』って失礼すぎない!? 俺は高威力広範囲魔法で敵を一網打尽にできる超優秀なアークメイジなんですーだ!」

 

「あんだと!? 威張るんじゃねえよ! 前衛の俺様がいてこその安全だろーが!」

 

「ちょっと……二人ともやめてください……!」

 

俺と目の前の大男が今にも掴みかからんばかりに額を突き合わせて睨み合っていると、物陰からアルケミストの少女・アナがオロオロと慌てながら割り込んできた。

 

「あ、アナさん! 心配いらねえぜ、この俺様がバッチリ護衛して——」

 

「ねえねえアナちゃん! 俺ならプロンテラまで快適に、しかもスマートに送ってあげられるよ〜!」

 

二人同時にアナへアピールし合おうとした、その瞬間だった。

 

(あれ……? この言い争い、なんかデジャヴと言うか……いつも雑談チャットやDiscordでやってるのと同じ空気感な気が……?)

 

間近でお互いの顔を真っ正面から見合わせた二人の動きが、ピタリと止まった。

 

「……ん? あれ……?」

 

俺は首をかしげ、眉間にシワを寄せる。

 

もちろん生身の姿などお互いに初めて見るはずなのに、どこか妙な引っかかりを覚えて相手の言葉遣いや声をじっと聞いた。

 

(なんなんだよこの大男、さっきから当たり前みたいに俺に言い返してきやがって……。この、粗暴でガラが悪い……?あれ……?このどこか聞き覚えのある威圧感って……まさか……?)

 

目の前の男が放つ荒々しい口調や、呆れたようにこちらを睨み返してくるそのやり取りの端々に、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

「その口調……お前、もしかして……バルドか~~~っ!?」

 

「はっ……!? なんだよお前、いま何つった……?」

 

俺が叫ぶと、目の前のおお男――バルドが目を見開き、今度は逆に俺の放つ少し甘ったるく、困ったように語尾が伸びる独特の口調や言い回しを聞き取ったように、息を呑んで固まった。

 

「……お前、その喋り方……ノアかよお前ぇぇぇーーっ!?」

 

「やっぱりバルドじゃん!! 生身の姿なんて全然わかんねぇよ!」

 

ギルド内に二人の絶叫が盛大に響き渡り、周りの冒険者たちが「なんだなんだ?」と驚いて一斉に振り返る。

 

「うそ……マジでバルドなの!? ログアウトしたらここに飛ばされててさぁ! サウナみたいな砂漠で干物になるかと思ったんだよ〜っ!」

 

「おうよ! 俺もプロンテラ北の迷いの森に飛ばされて死ぬかと思ったぜ! つーか、お前もこの世界に転生してたのかよ! じゃあレナードやレイ、エルネスト、それにリリアちゃんたち他のメンバーも……!?」

 

「うん! 俺もずっとみんなを探してたんだよ! まさかモロクのこんなところでバルドに会えるなんて思わなかった〜!」

 

先ほどまでの殺伐とした険悪な雰囲気が嘘のように吹き飛び、俺たちはガシッと肩を組んだ……が、バルドの奴が無駄に力任せなものだから、「痛い痛い痛い! 骨折れるって!」と俺は思わず情けない悲鳴を上げてしまった。

 

それでも、この異世界で知った顔に会えた嬉しさはそんな痛みで消えるもんじゃない。

 

(あ、そうだ……!)

 

事情をまったく呑み込めず、目を白黒させて固まっているアナを他所目に、俺はお調子者らしくパッと笑顔を作って手を叩いた。

 

「というわけでアナちゃん! 俺たち二人、実はリアルからのめちゃくちゃ気心の知れた知り合いだったんだよね〜! だったらさ、二人まとめて護衛に雇っちゃうのはどうかな!?」

 

「ええっ!? 二人とも……ですか!?」

 

「おう! 二人いれば安全面は百千人力だぜ! 報酬は山分けで構わねえからよ!」

 

目の前でバルドもニヤニヤと胸を叩いて豪語する。

 

アナとの二人きりの甘い旅というあいつの下心は盛大に潰えたはずだけど、元からのゲーム仲間である俺とこうして合流できたのがよっぽど嬉しいのか、どこか嬉しそうな雰囲気を醸し出している。

 

もちろん俺だって、この見知らぬ異世界でバルドと合流できたのはめちゃくちゃ心強い。

 

この脳筋ドラゴンナイトがいれば前衛の壁はバッチリだし、俺の高火力魔法と合わせれば道中の魔物なんて敵なしでしょ! みんなと合流するまでの道中も、これなら退屈しないで済みそうだ。

 

(ふふっ、これってめちゃくちゃ美味しい展開じゃない? バルドをパシ……いや頼れる前衛壁にして、俺たち二人でプロンテラまで気楽に乗り込んじゃおっと!)

 

「……ふふっ、わかりました! お二人とも頼もしい冒険者様ですし、ぜひプロンテラまでの護衛をお願いします!」

 

アナがホッとしたように笑顔で頷き、こうして俺たちの護衛契約が無事に成立した。

 

「よーしっ! プロンテラを目指して出発だ〜! 待っててねみんな、今すぐ俺が派手に合流してあげるからね〜!」

 

(道中もどうせなら派手にぶっ飛ばしながら行こっと! さてさて、どんな冒険が待ってるか楽しみだなぁ〜!)

 

騒がしくも、最高に頼もしい(?)二人の男たちのプロンテラへの帰還劇が、いま始まろうとしていた。




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