※この作品はR-18です。

ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方―   作:和泉終夜

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閑話 砂の都モロクから王都プロンテラへ

モロクの冒険者ギルドで、まさかの再会を果たしたバルドとノア、そして依頼主であるアルケミストの少女・アナの三人パーティーは、砂煙を上げるモロクの街をあとにして、王都プロンテラへ向けて街道を進み始めた。

 

「いやぁ、まさか本当にあのモロクでバルドに拾われるとはね〜。一人だったら今頃サウナの干物みたいにカピカピになってたよ」

 

ひらひらと豪華なアークメイジの法衣の裾を揺らしながら、ノアが呑気な調子で声を弾ませる。

 

(まさかこの異世界で最初に会う知人が、よりによってあの脳筋のドラゴンナイトだとはね。まあ、一人で砂漠を歩くよりは100倍マシか〜)

 

そんな軽口を叩くノアに対し、身の丈190cmを超える巨体を包むドラゴンナイトの甲冑をガチャガチャと鳴らしながら、バルドは豪快に笑い飛ばした。

 

「ははん、お前が生きてて何よりだぜ! つーか、お前こそなんでそんな派手で胡散臭い格好してんだよ」

 

「胡散臭いってなにさ! どこからどう見ても格好いいウォーロックの恰好だろ!」

 

(あーこれこれ、まさかこいつがノアだったとはな! 生身の姿じゃ全然わかんなかったぜ。まあ、道中が賑やかになって退屈しねぇで済みそうだ!)

 

お互いの正体が分かってからは、さっきまでの殺伐とした空気もどこへやら、二人はすっかりいつもの悪友のノリに戻っていた。

 

——だが、その道中は長く平穏とはいかなかった。

 

「……っと、おいノア。前方にデカい影が見えるぞ」

 

プロンテラへと続く街道の中間地点。

 

赤茶けた荒野の向こうから、聞き分けのない唸り声を上げながら、数体の凶暴なモンスターが群れをなして進路を塞いできた。

 

「うわ、マジだ……。のんびり歩いてる場合じゃなかったみたいだね」

 

「へっ、ちょうどいい! 溜まっていたストレスをこの脳筋パワーでぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

バルドは愛用の大槍をひっつかみ、一歩前に飛び出した。

 

「オラァッ! 邪魔だぁ! 身の丈を知りやがれ、雑魚どもがっ!!」

 

怒号とともに踏み込み、手始めに目の前のモンスターの群れに向けて得意の咆哮を叩きつける。

 

——次の瞬間、周囲の空間ルールの前提を覆すような異変が起きた。

 

バルドの口から、凄まじい熱量を帯びた奔流が放たれたのである。

 

轟音とともに周囲の岩肌ごとモンスターの群れが焼き払われ、一瞬にして辺りが焦土と化す。

 

「ふん、この俺様の圧倒的な一撃にかかれば完璧だな!」

 

ドヤ顔で大槍を担ぎ直すバルドだったが、なぜか背後でノアが絶句したままポカンと口を開けて固まっている。

 

「……あのさ、バルド?」

 

「ん、なんだよノア。ビビったか? これがドラゴンナイトの圧倒的——」

 

「いや、そうじゃなくてさ……さっき『ファイアードラゴンブレス』とか言って、自分の口から直接すごい炎を吹いてなかった……? ドラゴンナイトって、本来は相棒のドラゴンに乗って使うか、近くに……」

 

「……は?」

 

ノアのその言葉を聞いて、バルドは盛大に動きを止めた。

 

(……は? 今、俺の口からすごい炎が出てたって……? え、ドラゴンナイトって相棒がいなきゃ使えないんじゃ……)

 

そこで初めて、バルドの脳内で激しい雷鳴が轟いた。

 

「……ま、待てよノア……?」

 

バルドは冷や汗をダラダラと流しながら、自分のガッシリとした腕や胸板、そして恐る恐る自分の口元をペタペタと触る。

 

「俺、ドラゴンなんてどこにも連れてねぇぞ……? なんでだ……? 馬車みたいに荷物を引っ張ってるわけでもねぇし、どこかに隠してるわけでも……って、えっ……!?」

 

「自分のことなのに気づいてなかったわけ? ああ、そういえばさっきから思ってたけど、バルドって意外と無自覚にすごい特技隠し持ってんじゃん。まあ、そういうギャップで女の子をキュンとさ……」

 

(女とやりたいだのなんだのとか言うくせに変に女の子に対しては紳士だから未だに童貞なんだろうけど、こういう肝心なとこで天然かますから本当に救えないバカだよな……)

 

ノアが心の中で悪友の抜けた一面を呆れ半分にツッコミを入れている一方、バルドは己の「肉体ドラゴン化」という予想外すぎる真実にようやく直面し、頭を抱えて混乱していた。

 

「あああッ!! まじだ!! なんでだ!? 俺の体、どうなってやがる……!?」

 

「自分のことなのに、俺に聞かないでよ……」

 

ドラゴン不在のまま「人間ドラゴン」と化して自力でブレスを放ち続けていたという衝撃の事実に、ようやく直面して絶念するバルドと、それを面白がるように呆れ返るノアの姿があった。

 

モンスターの群れを一掃した後、三人は日暮れに合わせて街道脇の安全な空き地を選び、簡単なキャンプ設営に取り掛かった。

 

「ふう〜、やっぱり歩き疲れたぁ……。お二人とも、お疲れ様です!」

 

護衛対象であるアルケミストのアナは、道中のいざこざや突然のブレス発射にすっかり疲れ果てた様子で、組み立てられたばかりの頑丈なテントの中へと引っ込んでいった。す

 

ぐに小さな寝息が聞こえてきそうなほど、すっかり安心して眠り始めているらしい。

 

テントの布一枚を隔てた外側で、パチパチと心地よく爆ぜる焚き火の明かりだけが、暗くなった荒野を照らしていた。

 

「いやぁ、まさかバルドが自力でブレスを吐くモンスター人間になってるなんてね。道中から腹筋が崩壊するかと思ったよ」

 

ノアはマグカップに注いだ温かいお湯をすすりながら、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる。

 

「笑い事じゃねぇよ! 俺のカッコいいドラゴンナイトライフが、気づいたら『ただの怪獣』に成り下がってたんだぞ! ……にしてもさ、他のメンバーはどうしてるんだろうな」

 

バルドが大きな丸太にドカッと腰掛けながら呟くと、ノアのチャラけた表情がふっと和らぎ、どこか懐かしむような色を帯びた。

 

「そうだねぇ……レナードは真面目だし。どこかの街で相変わらず真面目に騎士団の訓練でもつけてるんじゃない? レイはレイで、人知れずどこかのダンジョンでソロの効率厨極めてそうだし」

 

「エルネストは絶対、珍しい本のありそうな図書館とか学術都市に引きこもって研究してそうだな。あいつリアルでもそういうとこあったし」

 

「うんうん。で、リリアちゃんは……きっとどこかの教会で、聖女様みたいに人々に神託を授けながら、僕たちの噂をしてる頃だよ。……あ、もちろん心の中では『やれやれ、男どもはこれだから困ります』って毒づきながらね」

 

(こいつ、相変わらずリリアに対する解像度だけは無駄に高いな……)

 

バルドが心の中であきれつつも、スマホもない、ネット回線もないこの世界で、かつてDiscordのVCで毎晩のようにバカ騒ぎしていた日々を思い出していた。

 

生身の体になって、こうしてリアルな温もりを感じながら昔の仲間を語り合うのは、どこか不思議で、そして心地よかった。

 

「……ま、俺たちがここでくよくよしてても始まらないぜ。まずは全員合流して、元の世界に戻る方法を探すかこの世界で最強のギルドを作ろうぜ!」

 

バルドがガシッと拳を握り締めると、ノアもふっと柔らかく笑ってカップを掲げた。

 

「そうだね。モロクからプロンテラへ……まずは第一歩ってわけだ。頼むよ、前衛の脳筋さん?」

 

「誰が脳筋だ! まあ、俺の圧倒的パワーと、お前のその胡散臭い広範囲魔法があれば、王都までなんて余裕だけどな!」

 

焚き火の炎がパチリと大きく跳ね、夜の闇を明るく照らす。

 

アナが眠るテントの横で、二人の悪友は静かに、しかし力強く頷き合った。

 

そして翌日——。

 

激しいモンスターの襲撃も、バルドの「人間ドラゴンブレス」とノアの圧倒的範囲魔法のコンビネーションの前には敵ではなく、彼らはついに、白くそびえ立つ王都プロンテラの城壁へとたどり着いたのだった。




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