ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
こちらもお読みいただけると、本編がより楽しく読めますので是非お読み下さい。
数日間にわたる砂漠と街道の旅を終え、バルド、ノア、そしてアナの三人は、王都プロンテラの壮麗な城門をくぐった。
「ふい〜っ! やっと着いた〜! やっぱり王都は人が多くて賑やかだね〜!」
ノアが両手を大きく伸ばして深呼吸すると、金髪が爽やかな風に揺れる。
「ガハハハ! 旅の途中の雑魚どもを一掃してやったからな! アナちゃんも無傷で送り届けられて、俺様のドラゴンナイトとしての威厳も形無し……じゃなくて、面目躍如ってヤツだな!」
重厚な甲冑を鳴らしながら、バルドがドヤ顔で胸を張る。
「はい! バルドさん、ノアさん、本当にありがとうございました! お二人のおかげで無事に水溶液を持ち帰ることができました!」
アナは深々と頭を下げると、約束の護衛報酬を二人に手渡し、嬉しそうに自らのラボへと戻っていった。
無事に依頼を完遂した二人は、その足でプロンテラ中央に位置する広大な冒険者ギルドへと向かった。
「さてと……アナちゃんの依頼報告も済んだし、受付で他のメンバーの情報がないか聞いてみようよ!」
「おう! この王都のギルドなら、レナードやエルネストたちの目撃情報くらいあってもおかしくねえからな!」
期待に胸を膨らませ、ノアとバルドはギルドの窓口へ向かった。
転生した自分たちの容姿すらゲーム時代とは変わっているため、二人は仲間たちの具体的な「見た目(姿かたち)」を知らない。
そのため、かつての記憶を頼りに「名前」と「職業」だけを受付の職員に伝え、登録や目撃情報がないか照会を要請した。
「えーっと、探しているのは『リリア(カーディナル)』、『エルネスト(ウインドホーク)』、『レイ(エレメンタルマスター)』……それと『レナード(ドラム族)』なんですけど」
ノアがそう名前を挙げた瞬間、対応していた受付職員の表情が露骨に曇った。
「……最後におっしゃったのは、『ドラム族』……ですか?」
職員の視線には、明らかな不快感と不躾な蔑視が混じっていた。
このルーンミッドガッツ王国、ことに首都プロンテラにおいては、人間以外の種族——いわゆる「亜人族」に対する差別や偏見が根強く残っている。
猫のような容姿を持つドラム族もまた、人間たちからは「野蛮で怪しい異形」として蔑まれる対象であった。
「……おい、なんだその目は」
職員の態度に勘付いたバルドが、重厚な甲冑を鳴らして一歩身を乗り出し、低い声で威圧する。
「い、いえっ! 失礼いたしました……! ただいまお調べいたします……!」
バルドの威圧感に怯えた職員は慌てて帳面を繰り、データベースの記録を確認し始めた。
しかし、しばらくして申し訳なさそうに、そしてどこか冷淡な様子で首を横に振った。
「……申し訳ございません。該当する名前と職業の冒険者様方の登録、および目撃情報は当ギルドには一切ございませんね」
「えぇ〜……マジで? 名前と職業だけじゃ、やっぱり一発では見つからないかぁ……」
ノアはがっくりと肩を落とし、ギルドの壁に背中を預けた。
「チッ……世間は広いってのに、うまくいかねえもんだな。プロンテラレベルの街なら一発で見つかるかと思ったんだが……」
バルドも腕を組み、不機嫌そうに眉間を寄せた。
ギルド内の喧騒の中、二人は壁際のテーブル席に腰を下ろした。
「これからどうしよっか〜、バルド。名前しか手がかりがないんじゃ、あてもなく探し回るわけにもいかないし……」
ノアがテーブルに肘をつき、頬杖をつきながら尋ねる。
「まあ……焦っても仕方ねえ。姿かたちが分からねえ以上、とりあえずこのプロンテラを拠点にして、いろんな依頼を受けながら地道に名前を売っていくしかないだろ」
「だよね〜。依頼を受けて色んな場所に行けば、その先で噂を聞けたり、向こうから気づいて声をかけてくれるかもしれないもんね!」
「おう! それに、俺様たちの名前がプロンテラ中に響き渡れば、あっちから『バルド様〜!』って探しにやってくるかもしれねえしな!」
相変わらず前向きなバルドの言葉に、ノアも「あはは、確かに〜!」と笑い飛ばす。二人で腹を括った、まさにその時だった。
「——緊急依頼! 緊急依頼です! 腕の立つ冒険者様はいらっしゃいませんか!?」
ギルドの奥から、別の受付の男が大声で叫びながら慌ただしく走ってきた。
「なになに〜? 急に大声出してどうしたの?」
ノアが身を乗り出すと、受付の男は汗を拭いながら掲示板に真っ赤な文字で書かれた羊皮紙を貼り付けた。
「フェイヨン迷いの森の北部……通称『ポリン島』で異変です! ポリンやポポリンといったポリン系モンスターが、原因不明の大量発生を起こしているとの報告が入りました! このままでは近隣の街道や人里にまで被害が拡大しかねません!」
「ポリン島……? あの可愛いポリンとかがいっぱいいる島だよね?」
ノアが首をかしげると、バルドがフンと鼻を鳴らした。
「なんだ、ポリンの大量発生かよ。そんなの初心者冒険者の仕事だろ?」
「それが……通常では考えられない密度で膨れ上がっておりまして! 生態調査と併せて、間引きを行ってくれる腕利きの冒険者様を緊急で募集しているのです!」
ノアとバルドは顔を見合わせた。
「ねえバルド、ポリンの調査と間引きだって。俺たちみたいな高レベルな二人なら、ぶっちゃけ余裕中の余裕だよね〜?」
「おう、文字通りのお茶の子さいさいだな。雑魚狩りなんて俺様のドラゴンブレス一発で全滅だぜ!」
「でさ、フェイヨン迷いの森の近くなら、フェイヨンやアルベルタの方から流れてきた冒険者の噂とか、何か情報が掴めるかも!」
「……確かに! じっと街で待ってるより、サクッと依頼をこなして情報を集める方が効率が良いな!」
二人は即座に立ち上がると、受付の男に向かって依頼書をひったくるように受け取った。
「よしっ! その緊急依頼、俺たちパーティが引き受けてやるぜ!」
「ポリン島の調査と間引きね! 任せて〜!」
こうしてノアとバルドの二人は、次なる目的地である「フェイヨン迷いの森・ポリン島」へ向けて、プロンテラを後にした。
プロンテラ南門から街道を抜け、フェイヨン迷いの森の北部に位置する通称「ポリン島」へと続く吊り橋を渡っていた2人は、島が近づくにつれて異様な光景を目にすることとなった。
「うわぁ……見てよバルド。海岸沿い、ピンクと緑と水色で埋め尽くされてるよぉ……」
ノアが舟の縁から島を指さし、苦笑いを浮かべる。
島に足を踏み入れると、そこは文字通りポリン系モンスターの巣窟と化していた。
可愛らしいピンク色のポリン、緑色のポポリン、水色のマーリン、そしてオレンジ色のドロップスたちが、地面を覆い尽くすほどの密度で蠢いている。
「うぇ~~~、画面上じゃあんなに愛くるしいマスコットキャラだったのになぁ……」
ノアは足元でぬちゃぬちゃと身をよじる半透明の巨大なスライム状の肉塊を見下ろし、引きつった笑いを浮かべた。
「リアルな質感で見ると、なんか……案外キモいね……。あの水分を含んだ生暖かい感じとかさぁ」
「贅沢言うんじゃねえよ! ほら、さっさと間引きして中心部に向かうぞ! この密度じゃ歩くのも一苦労だ!」
バルドが重厚な靴で地面のポリンを蹴散らしながら、愛用の大槍を構えた。
「ハァァァッ!! ファイアードラゴンブレス!!」
バルドの放つ灼熱の炎が、波のように押し寄せるポリンやポポリンたちを一瞬にして蒸発させていく。パンパンッ!と風船が弾けるような音とともに、弾けたスライムの残骸が周囲に飛び散る。
「うわっ、ちょっとバルド! 汁がこっち飛んでくるじゃん! 汚いなぁ〜!」
「文句言うな! ほら、ノアも魔法で範囲狩りしろ!」
「はいはい! 『ジャックフロスト』っ!!」
ノアが軽く杖を振るうやいなや、地表を這うように奔った極寒の魔力が、瞬く間に周囲の気温を氷点下へと叩き落とした。
轟音と共に足元から突き上げる幾重もの巨大な氷柱――。
瞬く間に展開された絶対零度の猛吹雪が、群がるマーリンやドロップスたちの肉体と動きを芯まで凍結させ、ガラス細工のように一網打尽に粉々へと砕き散らしていく。
ゲーム時代であれば高レベルキャラクターにとってポリンなどは一撃の雑魚に過ぎないが、あまりの数の多さに進軍のペースは削がれていく。
しかし、二人で軽口を叩き合いながら着実に間引きを進め、島の中央にある開けた広場へとたどり着いた。
「……ん? なにあれ……?」
ノアが足を止め、中央の小高くなった岩場を指さした。
「おいおい……マジかよ」
バルドも目を見開き、呆れたような声を漏らした。
そこに鎮座していたのは、通常のポリンの数十倍、いや数百倍——マンション一棟分ほどはあろうかという、圧倒的な巨体を誇る巨大なピンクのスライムだった。
頭には黄金の王冠を戴き、周囲に無数のポリンたちを従えて威風堂々と鎮座している。
「……きっとマスターリング、だよねぇ。でかすぎない……?」
「おう。予想してた通常サイズよりはるかにでけえな!間違いねえ、こいつがこのポリン島でポリンどもを大量発生させてた元凶だ!」
バルドが大槍を握り直し、不敵な笑みを浮かべた。
「高レベルな俺たちの相手としては不足だが、サクッと倒してプロンテラに戻ろうぜ!」
「了解〜! じゃあ前衛は任せたよ、バルド!」
「任せときな! ハァァァッ!!」
バルドが地面を強く蹴り、巨体を生かしてマスターリングへと肉薄する。
重厚な槍撃と『ファイアードラゴンブレス』の灼熱の炎が、巨大なピンクの肉塊を容赦なく穿った。
「グオォォォ……ッ!?」
しかし、通常のモンスターとは異なり、この巨躯に相応しい並外れた耐久力(HP)を持っていたマスターリングは、炎を浴びながらも巨体を揺らし、二人に向けて強烈な体当たりと粘液の波動を放ってきた。
「うわっ、重っ!? 思ったよりタフだなこいつ……!」
「大丈夫、バルド!? 『ディストラクティブハリケーン』っ!!」
ノアが杖を大きく一振りすると、周囲の気圧が急激に変わり、凄まじい破壊力を秘めた巨大な暴風の渦が顕現する。
猛り狂う真空の嵐がマスターリングの巨体を丸ごと呑み込み、強引に宙へと浮かせながらその巨体を激しく引き裂いていく。
動きを完全に封じられたその絶好の隙を見逃さず、バルドが大地を蹴って跳躍した。
「これで終わりだぁぁぁっ!! 『ドラゴニックブレス』!!」
振り絞った咆哮と共に、バルドの口から解き放たれた灼熱の業火が、宙吊りになったマスターリングの巨体を容赦なく焼き尽くしていく。
パアァァァンッ……!!
爆音とともに巨大なマスターリングの体が限界を迎え、弾けるように光の粒子となって消滅していった
「ふい〜……! 案外手応えあったね〜!」
ノアが額の汗を拭いながらそう軽口を叩くが、マンション一棟分のサイズを誇ったはずの怪物が消え去った跡地を眺め、どこか呆れたように小さく息を吐いた。
「――って、デカかっただけで中身はただのポリンの親玉だし、そもそも僕たちのレベルからしたら全然相手にはならないけど……。いや、そもそもこんな規格外のサイズで襲ってくるあたり、なんか知ってるROの世界とはちょっと勝手が違うっていうか、色々バグってない?」
ノアがやれやれと首を横に振ると、マスターリングが消えたことで、周囲で蠢いていたポリンたちも興奮が冷めたように散り散りになって逃げ出していった。
「よしっ! 原因のマスターリングも倒したし、間引きも十分だろ! プロンテラへ戻ってギルドに報告&情報収集の続きといきますか!」
「そうだね! 待っててねみんな、プロンテラで美味しいものでも食べながら待ってるからね〜!」
手応えのある戦いを終えた二人は、晴れやかな笑顔でポリン島を後にし、再び王都プロンテラへの道中へと足を運ぶのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
そしてお気に入り登録してくださっている方ありがとうございます!
何かしらの反応をいただけるととても励みになります。
暫く先まで執筆完了しておりますので、しばらくは1日2回7:00と19:00に投稿させていただきます。
よろしくお願いします。