ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
再会を喜び合い、互いの近況報告を交わした3人。
だが、すぐに現実の課題へと引き戻された。
「……なるほどな。レナード、お前そんな姿になっちまってたのか」
「ああ。だから、この厳重な入城審査が困るんだよ……。ボディチェックでもされたら、フードの中に隠してる猫耳や尻尾がバレてしまう」
困り果てるレナードに、バルドとノアは顔を見合わせた。
「実はねぇ……プロンテラの冒険者ギルドで、ドラム族への怪しい態度とか排他的な雰囲気をちょっと耳にはしてたんだよね。レナードも知ってたんだね、だからそんな格好をしてるわけだ」
「チッ……確かにレナードの今の猫耳姿じゃプロンテラに正面から入るのは、ちょっと危険かもな」
プロンテラ市内に蔓延するドラム族への偏見。
どうやって無事に入城すべきか3人が頭を悩ませていた、その時だった。
猫耳をぴくぴくと震わせたレナードが、ふと足を止めた。
ドラム族としての鋭い聴覚が、少し離れた場所にいる怪しげな男たちの小声を拾い上げたのだ。
『おい、南門の検問はガチガチだぞ……』
『へっ、構うもんか。西門からなら、すんなり入れるらしいからな……』
(西門からならすんなり……?)
レナードはすぐに二人の肩を叩き、声をひそめて伝えた。
「二人とも、聞いたかい? どうやら西門からなら、大した検問もなくすんなり入れるらしいよ」
「なに? 全然聞こえなかったが、西門からだと?」
「本当? 南門がこれだけ厳重なのに、西門なら入れるんだ……レナード猫耳生えただけあって耳良いねぇ」
「怪しい裏話かもしれないけど、この大混雑とボディチェックを避けられるなら試す価値はあるよね。行ってみよう」
3人は頷き合うと、人だかりでごった返す南城門を離れ、城壁に沿って西門へと足早に向かった。
予想通り、西門の警備は南門の厳戒態勢が嘘のように手薄だった。
身元検問も形ばかりのもので、大柄な服を着たレナードも怪しまれることなく、あっさりとゲートを通過することができた。
重厚な石造りのアーチを潜り抜けると、目の前にはどこまでも続く白石の石畳と、行き交う人々で溢れる活気あふれる街並みが広がっていた。
「ふぅ……! なんとか無事に入れたね!」
ノアが肩の力を抜き、金髪を揺らしながら安堵の深呼吸をする。
「おう、南門の厳戒態勢が嘘みたいにあっさり通れたな。レナード、フードも脱げてねえしバッチリだぞ」
バルドが大槍を軽く肩に担ぎ直し、ニヤリと笑った。
「ふぅ……二人とも、ありがとう。本当に助かったよ……」
レナードは深く被ったフードの端をそっと押さえ、ほっと胸を撫でおろした。
ダボついた法衣の裾に巻き込んだ尻尾が、緊張の糸が切れたことで身内でわずかに揺れる。
「ボク一人だったら、あの南門の検問で怪しまれて立ち往生するところだった。……やっぱり、仲間と一緒にいると心強いや」
「へへっ、お互い様だって! それにしても、レナードが無事で本当に良かったよ〜!」
ノアがお調子者らしく笑いながらレナードの肩をポンポンと叩く。
「さて、無事に入城できたことだし……まずは冒険者ギルドへ向かおうか。リリアやエルネスト、レイの手がかりを探さないとね」
レナードの提案に、バルドとノアも強く頷いた。
三人は活気あふれるプロンテラの大通りを抜け、街の中央に聳え立つ巨大な冒険者ギルドの建物へと向かった。
ギルド内は、依頼を求める冒険者や商人たちの熱気と雑多な喧騒に包まれている。
レナードは二人を後方に控えさせ、フードを目深に被り直してから受付カウンターへと歩み寄った。
「すみません、探している人がいるのですが……『エルネスト』、『リリア』、『レイ』という名前に心当たりはありませんか? それと、ドラム族の目撃情報なども……」
レナードがそう問いかけた瞬間、対応していた受付の男性職員の表情が露骨に曇った。
「……ドラム族、ですか?」
職員の瞳に宿ったのは、明らかな不快感と差別的な色だった。
人間が中心のルーンミッドガッツ王国、ことに首都プロンテラにおいては、ドラム族のような「亜人」に対する偏見が未だ強く残っている。
「申し訳ございませんが、そのような冒険者の登録も目撃情報もございません。……それに当ギルドでは、怪しい亜人に関わるような情報はお取り扱いしておりませんので」
素っ気なく、吐き捨てるように告げられた言葉。
「……っ」
レナードが口を結んで身を引こうとしたその時、後ろから重厚な甲冑の金属音が響いた。
「おい……なんだその口ぶりはよ」
バルドが低い声を漏らし、大槍を握り締めながら一歩前へ踏み出す。
圧倒的な体躯と殺気に、受付職員はヒッと息をのんで顔を青ざめさせた。
「待って、バルド! ここで騒ぎを起こしたら余計に居づらくなっちゃうよ!」
ノアが慌ててバルドの腕を掴んで制止する。
レナードも首を横に振り、静かに二人を宥めた。
「ありがとう、バルド、ノア。大丈夫だよ。……行こう」
静かに二人を宥め、レナードは悔しさを押し殺して受付カウンターから背を向けた。
(……やっぱり、ここでも手掛かりなしか。プロンテラに行けば何か分かると思ったんだけど……)
フードの奥で小さく息を吐き出しながら、レナードは胸の奥でポロッと弱音を漏らす。
(君はどこにいるんだい……。こんな時、君なら冷めた顔で『効率の悪い探し方をするな』って呆れるのかな……)
二人の前では頼れるギルドマスターとして穏やかに微笑みながらも、レナードの頭の中は、どこまでも冷酷で圧倒的に頼もしかった「相方」の面影で満たされていた。
ギルドを出て、酒場のテラス席に腰を下ろした三人。
冷たい果実酒で喉を潤しながら、今後の動きについて話し合いを始めた。
「チッ……胸糞悪い受付だったな。プロンテラがこんな街だったとはな。レナードが一人で歩いてたらと思うとヒヤヒヤするぜ」
バルドが不機嫌そうに杯を叩きつける。
「うん……プロンテラでドラム族として表立って動くのは、やっぱりリスクが大きそうだね」
ノアも頬杖をつきながら心配そうにレナードを見つめた。
「うん。でも、落ち込んでる暇はないよ」
レナードはグラスを静かに置くと、二人の顔をまっすぐに見つめ返した。
「拠点……! ギルドハウスとか?」
ノアがパッと目を輝かせるが、レナードはすぐに苦笑いして首を横に振った。
「いや、さっきの受付の様子を見る限り、ボクがドラム族の姿でプロンテラの真ん中に堂々とギルドを構えるのはリスクが高すぎる。……だから、まずは街の外れや安全に身を隠せる場所を『拠点』として確保しよう。それに、本格的に大きな家や施設を借りるにしろしないにしろ、まずは当面のギルド資金(ゼニー)を稼がないと始まらないしね!」
(それに……こんな危険で差別の激しい場所にギルドハウスなんて建てたら、君なら『非効率的だ』って冷めて一蹴してくるだろうしね……)
脳内で呆れたように言い放つ『君』の声を思い浮かべ、レナードはフードの奥で苦笑いを浮かべた。
レナードの現実的で手堅い見識に、バルドもニヤリと野性的な笑みを浮かべた。
「へっ、そうだな! まずは一山当てて、軍資金を稼ぎつつ隠れ家を確保するってわけだ」
「いいねいいね〜! 地道な下積みって感じで逆にワクワクするね! リリアちゃんたちが帰ってきたらびっくりさせちゃお〜!」
「よし、決まりだね。……みんながいつ無事にやってきてもいいように、まずは資金集めと、安全な住処の確保から始めよう!」
プロンテラの喧騒の中、三人は杯を掲げて強く誓い合う。
離ればなれになった仲間たちとの完全な再会を目指し、三人の新たなプロンテラ生活が幕を開けたのだった。
閑話はひとまず終わりです。
次話からは本編となります。
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