ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
無事に西門を潜り抜け、プロンテラへと入城を果たしたレナード、バルド、ノアの3人。
彼らはプロンテラに着いたその足でプロンテラ中央にある冒険者ギルドへと向かい、受付で仲間たち——エルネスト、リリア、レイの足取りを確認しようと試みた。
しかし、得られた返答は無情なものだった。該当する冒険者の登録も目撃情報も、ギルドには一切残されていなかったのだ。
「やっぱり、そう簡単には見つからないかぁ……」
ノアが金髪をくしゃくしゃと掻きむしり、壁に背をもたれかけさせる。
「まあ、東門の土砂崩れで街道は大混乱だったみたいだしな。どこかで遠回りを余儀なくされてるのかもしれねえ」
バルドも腕を組み、重厚な甲冑を鳴らしながら深く息を吐き出した。
手がかりが得られなかったことに落胆しつつも、3人はギルドの目と鼻の先にある活気あふれる酒場へと向かい、木製のテーブルを囲んだ。
なみなみと注がれた冷たい果実酒で喉を潤しながら、バルドが杯を静かに置く。
「うーん……でもさぁ、考えようによっては無事だという証拠でもない?もしどこかで大きな事故やモンスターに倒されたりしてたら、それこそギルドに情報が入ってるはずでしょ?」
「あぁ、そうだな! 手掛かりがないってことは、どこかで元気やってるってことだな!」
ノアとバルドが明るい笑みを浮かべ、レナードもフードの奥で優しく頷いた。
「ボクたちの合流がうまくいったみたいに、3人もきっと無事にプロンテラを目指してるはずだよ。……にしても、あの3人なら今頃どうしてるだろうね?」
レナードの言葉に、ノアとバルドの顔にニヤリと可笑しそうな笑みが浮かんだ。
「決まってんだろ! エルネストの奴、相変わらず過保護全開でリリアと一緒にいるぜ!あいつ『そこにいたら被弾する。効率悪い』とか言いながらもリリアには甘かったからな!」
「あはは、絶対言ってる! で、リリアちゃんが『もう、エルネストさんってば私そんなすぐ死なないよ!ねえレイくん!』って困り顔をしてるんだよ!」
「レイはレイで、『お前らなんだかんだ仲良しじゃねーか』なんて呆れながら、二人と喧嘩混じりに旅をしてるんじゃないかな」
「違いないな!」
(ふふ……本当に、目に見えるようだね……)
レナードも一緒になって穏やかに喉を鳴らして笑いながら、グラスの氷をそっと揺らした。
(……でも、二人きりの時になると、君は絶対に冷めた声で『ここにいろと言っている』って厳しく言ってるんだろうな。……女の子たちを過剰なまでに守ろうとして、一人で気を張り詰めながら……)
脳内で完璧に再生される冷徹で刺々しい『君』の声。
その刺々しさの裏にある「守るための苛立ち」を誰よりも知っているからこそ、レナードは胸の奥をキュッと甘く締め付けられながら、フードの奥で一人静かに笑みを深める。
(……早く合流して、ボクが君の『壁』になってあげなきゃね)
かつての賑やかな日課を思い出して笑い合う二人を前に、レナードはひとまず無事に合流できた喜びと安堵を噛み締め、プロンテラでの活動資金を集めながら仲間を待つ方針を固めたのだった。
しかし——それから数週間が経過しても、一向にリリアたちの情報は入ってこなかった。
レナード、ノア、バルドの3人はプロンテラを拠点とし、街の身元検査や偏見の目をうまく掻い潜りながら、数多くの依頼を精力的にこなしていた。
街中や街道での聞き込みも続けていたが、どれだけ日数が経っても3人の消息は掴めないままだった。
「おかしいな……いくら迂回路を通っているとはいえ、そろそろプロンテラに着いてもいい頃なのに……」
ギルドの酒場の片隅で、ノアがグラスを弄びながら眉をひそめる。
「ああ……いくらなんでも遅すぎるな。プロンテラまでの道中で何かトラブルに巻き込まれてんのか?」
バルドも胸騒ぎを覚え、不機嫌そうに長槍の柄を握り直した。
そんな折、賑わう酒場の中で、隣のテーブルに座るベテラン冒険者たちが声をひそめて交わしていた「ある噂」が、レナードのドラム特有の鋭い耳へと飛び込んできた。
『おい、聞いたか? 最近プロンテラ周辺の街道や裏通りで横行してる例の噂……』
『ああ……「聖職者狩り」のことだろ?』
(聖職者狩り……?)
レナードの耳がフードの下で小さく跳ね上がった。
『質の悪い連中が群れをなして聖職者(アコライトやプリースト)を狙ってるらしい。レベルの低い男の聖職者は容赦なく殺害し……高レベルの聖職者や、女の聖職者は捕らえて競りに出したり、他国へ売り捌いたりしてるんだとか』
『恐ろしい話だな……神聖な王都の目と鼻の先で、そんな陰湿な事件が起きているなんて……』
「……!?」
噂の内容を聴き取ったレナードの顔から、一瞬で血の気が引いた。
「どうしたんだ、レナード? 急に青い顔をして」
様子のおかしいギルマスに気づき、バルドとノアが顔を寄せてくる。
レナードは周囲に聞こえないよう、声を絞り出すように二人に伝えた。
「二人とも……今、隣の席の冒険者たちが話していた噂を聞いたかい?」
「噂……? いや、ざわついててよく聞こえなかったけど……」
「……『聖職者狩り』だ。プロンテラ周辺で、レベルの低い男の聖職者は殺され、高レベルの聖職者や女の聖職者が捉えられて売り捌かれているらしいんだ」
「「——ッ!?」」
その言葉を聞いた瞬間、バルドとノアの脳裏に真っ先に浮かんだのは、ただ一人の少女の姿だった。
((リリア……!!))
自分たちの職業を考えると、リリアはカーディナル(最高峰の聖職者)であり女性だ。
「高レベル聖職者」と「女性」という、奴らが狙う条件のどちらにも、完璧すぎるほど該当してしまっている。
「……ちょっと待ってよ! リリアちゃんにはエルネストやレイがついてるはずだよね!?」
ノアが狼狽しながら声を荒げそうになり、あわてて口元を押さえた。
「……本当にあの3人が一緒にいるなんて誰にもわかんねえんだ」
バルドが低い声で噛み締めるように言った。
「俺たちが各地にバラバラに飛ばされたように……もしかしたら、リリアも一人でこの世界に放り出されて、エルネストたちと合流できていない可能性だってある。もし、一人でいるところをそんな奴らに狙われたとしたら……!」
「そんな……! 嫌だよ、そんなの……っ!」
フードの端を深く握り締めながら、レナードの胸の奥で猛烈な不安が渦巻く。
もしリリアが一人なら、真っ先に狙われる危険がある。
だが——仮にエルネストたちと合流できていたとしても、大切なリリアを守るために、エルネストが一人で無理を重ねて追い詰められているかもしれない。
(……早く、一刻も早く見つけ出さなきゃ……!!)
プロンテラのどこかにいるはずの、大切な仲間。
自分たちが手に入れた安心の陰で、彼女たちが今まさに絶望的な危機や過酷な戦いに晒されているのかもしれない——胸を突くような焦燥感を抱え、3人は立ち上がったのだった。
それから数日。
「聖職者狩り」の噂は、プロンテラ市内にいよいよ色濃く、恐ろしい影を落とし始めていた。
街を歩くレナード、ノア、バルドの3人は、路地裏や路地口の壁面で、何かが争ったような生々しい血痕や、切り裂かれた修道服の切れ端を数回にわたって目撃することとなった。
不吉な痕跡を目にするたびに胸が押し潰されそうになり、居ても立ってもいられなくなった3人は、居ても立ってもいられず冒険者ギルドへと足早に向かった。
ギルドの巨大なホール内は、普段以上の殺気と怒号に包まれていた。
中央の掲示板の前には人山が築かれ、赤字で書かれた新たな緊急依頼書が何枚も貼り出されている。
「——緊急依頼! プロンテラ各所で聖職者狩りの連中が暴動を起こしています! 各地で聖職者たちが次々と襲われ、拐われているとの報告が多発中!」
「西門前でも聖職者狩りの集団が暴挙を働いている模様! 腕に覚えのある冒険者は至急、現場へ急行してください!」
受付の男たちが声を張り上げて叫ぶ声に、ギルド内は大揺れとなった。
「西門で聖職者狩りが暴動……!?」
ノアの顔が蒼白になる。
「それだけじゃねえ、各地で同時に襲撃が起きてやがる……!」
バルドが重厚な甲冑を鳴らして前へと身を乗り出し、貼り出された依頼書を鋭い眼光で睨みつけた。
掲示板の依頼によると、事態は極めて深刻だった。
プロンテラの各所で同時に聖職者を狙った拐いが発生しており、そちらの対処を求める緊急依頼の対象は、隠密行動に長けている「シャドウチェイサー」や「シャドウクロス」などの職種が中心となっていた。
一方で——。
「西門の方の依頼……『西門周辺で暴動を起こしている聖職者狩りの鎮圧』か。こっちは上級四次職の高レベル帯の連中が多数押し寄せていて、高レベル帯の冒険者じゃないと対処できないらしいぞ!」
掲示板の前で叫ぶ冒険者の声を聞き、レナードは深く被ったフードの奥で、はっと息を呑んだ。
(……東門が封鎖されている以上、あの『最高効率』を求めるエルが選ぶルートは、間違いなく西門だ……!)
頭の中で、すべての点と線が一気に繋がっていく。
(そして、聖職者狩りの連中がわざわざ高レベル帯の刺客を西門に集中させているということは……奴らも、この世界で誰も目にしたことすらない『最高峰の聖職者(カーディナル)』であるリリアがそこを通ると踏んで、目の色を変えて待ち伏せているんだ……!!)
繋がった点と線に、レナードの背筋に冷たいものが走る。
これまで慎重に情報を集めていたのは確信が持てなかったからだが、敵の悪質な狙いとエルネストの行動パターンが完全に合致した今、じっとしている暇などなかった。
レナードは毅然とした声で振り返り、ノアとバルドを見つめた。
「二人とも、聞いたかい……? 東門が封鎖されている以上、リリアたちが西門を目指しているのは間違いない。そしてそこが今、奴らの最大の罠になっているはずだ」
レナードの言葉に、バルドとノアが息を呑む。
「西門の依頼は高レベル帯向けだ。ボクたちなら直接現場へ向かう口実ができる……急ごう!」
「もちろんだ! リリアがもし西門に向かってるとしたら、一刻の猶予もねえ!」
バルドが愛用の大槍をドンと床に突いて吠える。
「俺も行く!! 俺たちの手でリリアちゃんを、西門の奴らから絶対に守るんだ!」
ノアもアークメイジの杖を力強く握り締め、覚悟に満ちた目を二人に向ける。
「よしっ、西門の緊急依頼を引き受けるよ! 急ごう、みんな!」
レナードの合図とともに、3人は受託の手続きを済ませるやいなや、ギルドを飛び出した。
大切な仲間を守るため、そして凶悪な刺客たちを打倒するため、高レベル冒険者である3人は迷うことなく西門の戦場へと駆け出していった。
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