ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
迂回路を辿る長旅の末、ようやく鬱蒼とした森の木々が薄れ、視界が一気に開けた。
街道の先、小高い丘の向こうに整然と並ぶ白亜の防壁と、天を突くようにそびえる美しい尖塔群——ルーンミッドガッツ王国の首都、プロンテラがその雄姿を現していた。
「すごい……! あれが、プロンテラ……!」
馬車の窓から身を乗り出したリリアが、瞳を輝かせて感嘆の声を与える。
東門の崩落から数週間、過酷な迂回路と厳しい野営を耐え抜いてきた商隊の面々からも、安堵と歓喜の声が一斉に湧き上がった。
「長かったな……やっと着いたか」
レイは隣で馬を進めるエルネストを見上げ、安堵の息を漏らした。
エルネストもまた、普段の冷徹な面持ちを少しだけ緩め、眩しそうに視線を街へと向けている。
「ああ。西門からの入場になるが、これでひとまずは安全な場所に辿り着けそうだ。食料の備蓄も限界だったからな、本当に運が良かった」
「よしっ! 街に入ったら一番デカい酒場でご馳走だぞ! 当然、エルネストのおごりでな!」
「なぜ俺のおごりになるんだ……。まあいい、旅の無事と、お前のその健闘を祝うためなら、考えておいてやる」
軽口を叩き合い、顔を見合わせる二人。
森での共闘を経て固い信頼を取り戻した二人の間には、穏やかで温かい空気が流れていた。
一行は西門へと続く緩やかな下り坂を進み始める。
プロンテラ西門の周辺には、入場を待つ行商人の馬車や、遠方から避難してきた人々が身を寄せるテントが立ち並んでいた。
重厚な甲冑に身を包んだ王立騎士団の兵士たちが慌ただしく行き交い、首都ならではの活気と秩序が感じられる。
——しかし、その平穏な空気は唐突に破られた。
「ぎゃあああッ! た、助けてくれぇっ!」
悲鳴が響いたのは、西門から少し離れた街道沿いの小さな林の脇だった。
「なにごとだ!?」
エルネストが瞬時に長弓を構え、馬を止める。
レイもまた、即座に杖を握り直し、身を乗り出して警戒態勢に入った。
林の影から必死の形相で飛び出してきたのは、血に染まった白と青の修道服を纏った一人の聖職者(プリースト)だった。
その後ろから、不気味な黒いフードで全身を覆った複数の男たちが、鋭い刃を手に不穏な殺気を撒き散らしながら追いかけてくる。
「逃がすな!聖職者(アコライト・プリースト職)は一人残らず刈り取り、高レベル聖職者は捕まえろ!!」
「くそっ、また『聖職者狩り』か……! 首都の目と鼻の先でまで横行しているのか!?」
レイの目が激しい怒りに見開かれる。
かつて自分たちを襲い、旅の目的を狂わせた元凶。
プロンテラ周辺で暗躍する謎の刺客たちが、白昼堂々、大勢の目がある首都門前でまで凶行に及んでいたのだ。
周囲の避難民や商人たちがパニックを起こして逃げ惑う中、刺客の一人が逃げ惑うプリーストの背後へ肉薄し、凶刃を振り上げた。
「させないぜ! ——『ファイアーボルト』ッ!」
レイの指先から放たれた火炎の矢が、空間を切り裂いて刺客の足元で爆ぜた。
凄まじい爆風と炎に煽られ、刺客は悲鳴を上げてたたずむ。
「リリア、馬車から出るな! 商隊の護衛は周囲の警戒を!」
エルネストが短く鋭く指示を飛ばすと同時に、鮮やかに馬から飛び降りた。
そのまま弓を引き絞り、逃走経路を塞ごうとしていた別の刺客の足元へ寸分違わぬ一射を叩き込む。
「な、なんだ奴らは!? 邪魔をする気か!」
「人の命を何だと思ってやがる! これ以上、好き勝手にはさせねぇぞ!」
華奢な女性の姿となりながらも、凛とした気迫を放つレイ。
その横に立ち、冷徹な殺気で長弓を構えるエルネスト。
「殺せ! 邪魔をする奴らはまとめて片付けろ!」
プロンテラ西門前の林の脇。黒いフードの刺客たちが凶器を振りかざし、襲いかかってきた。
「させるかよッ! ——『ダイヤモンドストーム』!」
レイが杖を大きく薙ぎ払うと同時に、周囲の気温が一瞬で氷点下へと急降下する。
吹き荒れる極寒の吹雪が巨大な氷の嵐となり、襲い来る刺客たちの足元を一瞬で深々と凍結させ、そのまま容赦なく吹き飛ばした。
華奢な身体からは想像もつかない凄まじい魔力と、容赦のない広範囲制圧の技量。
護るべき足手まといがいない戦場でのレイは、文字通り手加減なしの圧倒的な大魔法を解き放っていた。
「レイ、左だ!」
エルネストが長弓の弦を疾風のごとく引き絞る。
放たれた矢は一直線に空を切り、レイの側面へ忍び寄っていた刺客の腕を正確無比に射抜いた。
「助かった、エルネスト!」
「礼には及ばない。だが……敵の数が多いな。手練れの上級四次職クラスまで混ざっているぞ」
エルネストが鋭い眼光で周囲を牽制する。
刺客たちは単なるならず者ではなく、統率された動きで二人を包囲しようと間合いを詰めてきていた。
馬車の影で身を縮めていた血まみれのプリーストが、途切れ途切れの声で叫ぶ。
「た、助けてくれ……! 奴らは……『聖職者狩り』の組織だ……! 腕の立つ聖職者を狙って……っ!」
「やっぱり『聖職者狩り』か……! どこまで卑劣なマネをしやがる!」
レイが歯を食いしばり、さらに強い魔力を杖に込める。
だが、刺客たちの影から、ひときわ重厚な気配を纏った男たちが進み出てきた。
「ふん、手前どもを邪魔する威勢の良いエレメンタルマスターとレンジャーの皮を被ったウインドホークか。だが、プロンテラ西門での計画を邪魔させるわけにはいかんのだよ」
上級四次職に匹敵する凄まじい殺気を放つ刺客の幹部たちが、刃を構えて二人を取り囲む。
「……っ、一筋縄ではいかない相手だな」
エルネストが冷静に長弓を構え直し、レイもまた背中を合わせるように歩み寄った。
エルネストの言葉通り、刺客たちの影から、異様な気配を纏った男が不気味な残影を残しながら肉薄してきた。上級四次職「インクイジター」の刺客だ。
「聖職者狩りがメインだったが……ふん、お前のような極上の美女なら、聖職者でなくとも他国で高値で売れるな」
品定めで下卑た視線を向ける刺客の言葉に、レイの眉が不快感で跳ね上がる。
「寝言は寝て言えっ!」
レイが詠唱に入ろうとした瞬間、刺客は凄まじい速度の『残影』で距離を詰め、容赦のない打撃をその華奢な身体へと叩き込んだ。
「ガハッ……!?」
衝撃で吹っ飛び、膝をつくレイ。
「レイちゃん! 待ってて、今行くから……! ——『レパラティオ』!」
馬車の中で潜んでいたリリアが、レイの危機を目にして耐えかね、思わず外へと飛び出した。
レイの近くへと駆け寄り、必死の想いで手を取り、神聖な回復魔法をかける。
その桃色の髪と、神々しく輝く圧倒的な回復力——。
それを見た刺客たちの目が一変した。
「おい、見ろ……あの桃色の髪にカーディナルの衣装! 間違いない、何ヶ月も前から上が探索を命じていたターゲットだ!」
「フッ……情報通りだな。わざわざ探す手間が省けた。――あの女のアコライトどもごと、まとめて引っ捕らえろ!」
下卑た目で品定めをしながら、リリアとレイを取り囲もうと迫る刺客たち。
エルネストが前へ立ちふさがり、凄まじい密度の矢を放ち続けるが、上級四次職を相手に苦戦を強いられ、じりじりと追い詰められていく。
「っ……二人とも、俺の背後から離れるな!」
「エルネストさん……! でも、レイちゃんが……!」
絶体絶命の危機が迫り、緊迫が極限に達した——まさにその時だった。
ドォォォンッ!!
激しい地鳴りのような衝撃音とともに、戦場のど真ん中に大きな法衣のフードを目深く被った大柄な男が飛び込んできた。
「な……なんだ奴らは……!? どこから現れた!?」
突如として現れた乱入者に、混乱に陥る刺客たち。
だが、大柄な男は一切の怯みも見せず、刺客たちの只中で強く地を踏み鳴らした。
「——させないよッ! (うずくまる)!!」
周囲の刺客たちのヘイトを一瞬にして己へと引きつけ、繰り出された鋭い刃を、鎧すら着ていないその身体一つで「キンッ!」と鈍い金属音とともに完全に弾き返してみせる。
「な……なんだ、この異様な硬さの男は!?」
驚愕し、気圧される刺客たち。
フードの奥で見えるはずのない眼光、そして何より——いま戦場に響き渡ったその声と、隙のない立ち振る舞い。
飛び込んできた男の背中を見上げ、エルネストは激しい衝撃とともに息を呑んだ。
(……っ!? いまの声……まさか、レナード……!?)
さらに、動揺する刺客たちを嘲笑うように、後方から豪快な大声と雷鳴のような魔法の詠唱が畳みみかけるように轟いた。
「ハァァァッ!! そこをどきやがれぇぇッ! 『ドラゴンブレス』ッ!!」
「いったぁ~~! ちょっとバルド、巻き込まないでよ〜! ——『ジャックフロスト』っ!!」
灼熱の炎と極寒の吹雪の中で鋭く突き出す氷の群れが同時に吹き荒れ、リリアたちを囲んでいた刺客の群れを一瞬にして一網打尽に吹き飛ばす。
怒涛の勢いで戦場へと乱入してきたのは、圧倒的な耐久力を誇るタンクのレナード、灼熱のブレスを吐き散らすドラゴンナイトのバルド、そしてその場を蹂躙できるほどの魔法火力を持つアークメイジのノアの3人だった。
圧倒的な破壊力を見せつけたバルドとノアのコンビネーションに、刺客たちは完全に混乱の渦に飲み込まれていた。
突然の助っ人に驚き見上げるエルネストとリリア。
声だけでいち早く相方の正体に感づいたエルネストを除き、まだ互いの正体を確信していない一行。
しかし、混迷を極めるプロンテラ西門前で、離ればなれになっていた6人の運命が、ついに一つの戦場へと集結したのだった。
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現段階で六章まで書き終えておりますので暫くは毎日7:00と19:00の1日2回のペースで更新していこうと思っています。
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