ラグナロクオンラインの世界に転生した。―歪な愛の行方― 作:和泉終夜
乱入してきた男たちの常軌を逸した耐久力と猛攻に、襲撃者たちは瞬く間に圧倒され、戦場の主導権は完全に奪い取られていた。
「な……なんだ奴らは!? どこから現れた!?」
混乱に陥る刺客たちの隙を見逃さず、エルネストは反射的に長弓を引き絞った。
突如として目の前に躍り出た大柄な男——ダボついた法衣に目深くフードを被ったタンクは、一切の甲冑を着ていないにもかかわらず、刺客たちが繰り出す鋭い刃を「キンッ! キンッ!」と肌一つでことごとく弾き返している。
「——させないよッ!」
戦場に響き渡ったその聞き覚えのある声。
そして、常識を遥かに超えた耐久力と、無駄のない完璧なヘイトコントロール。 直後、エルネストの胸に激しい衝撃と既視感が走る。
(……っ!! いまの声……まさか、レナードか……?)
フードで顔も満足に見えない、初対面のはずの男。
それだというのに、男が完璧な死角と射撃の隙を作ってくれるおかげで、エルネストは自らの長弓の射程と火力を100%発揮できていた。
言葉を交わさずとも背中を預け合い、幾多の修羅場を潜り抜けてきたあの感覚そのものだった。
そしてその背後では、重厚な甲冑を鳴らすドラゴンナイトが灼熱の『ファイアードラゴンブレス』で敵の退路を塞ぎ、金髪のアークメイジが「うわっこっわ!」と叫びながらも前線へ突っ込み、容赦のない広範囲氷結魔法『ジャックフロスト』で敵群を根こそぎ凍らせていく。
「エル!今だ! 凍りついた奴らへ一射を!」
「……ああッ!」
声に背を押されるように解き放たれた精密無比な矢が、氷漬けになった刺客の核を正確に射抜き、撃砕していく。
一方、インクイジターの凄まじい奇襲を喰らい、鳩尾を射ち抜かれて意識を失ったレイは、冷たい地面へと崩れ落ちていた。
「レイちゃん……! 目を覚まして、レイちゃん……!」
リリアは倒れたレイの身体を必死に抱き寄せると、桃色のボブヘアを揺らしながら、その可憐な胸に顔をうずめるようにして手をかざした。
涙で視界を濡らしながらも、カーディナルとしての神聖な威光を全身から放ち、必死の想いで最高峰の支援・回復魔法を全身全霊で掛け続ける。
「お願い……神様、レイちゃんを助けて……っ!」
神々しい光の粒子が二人の身体を優しく包み込み、傷ついたレイの生命力を急速に繋ぎ止めていく。
「ちっ……面倒な助っ人が現れおった! だが、あの桃色髪のカーディナルだけは絶対に奪い取るぞ!」
乱入してきたレナードたちの圧倒的な戦力に押されながらも、下卑た目を光らせた刺客の幹部たちが、死角からリリアとレイを目がけて襲いかかろうと凶刃を剥き出しにした。
見知らぬ乱入者たちとの未知なる連携、そして倒れた親友を守るための必死の祈り。
「グッ……! 手間取らせやがって!」
乱入してきた男たちの常軌を逸したタフネスと猛攻に押されつつも、下卑た目を光らせたインクイジターの幹部が、死角からリリアとレイを目がけて迫っていた。
残影の如き速さで手元まで肉薄し、まさにリリアとレイを捕らえて連れて行こうと爪を振り上げた——その瞬間だった。
「……させるかよっ!!」
リリアの必死な回復魔法によって間一髪で意識を取り戻したレイの瞳が、怒りと冷徹な魔力でカッと見開かれた。
目の前で大切なリリアを弄ぼうとする刺客の姿を目にした瞬間、レイの身体から絶大な魔力が爆発的に吹き荒れる。
「精霊よ、我が糧となれ——! 『エレメンタルバスター』ッッ!!」
レイの叫びとともに、呼び出された精霊が眩いばかりの破滅の光芒へと姿を変え、目の前のインクイジターへと解き放たれた。
ドガァァァァァンッッ!!
天地を揺るがすほどの激しい爆音と閃光。
直撃を受けたインクイジターの幹部は、悲鳴を上げることすら許されず、文字通り跡形もなく空間から消し飛んだ。
跡には焦げた匂いと静寂だけが残される。
「な……なにぃッ!?」
「あ、あのインクイジターが一瞬で消滅しただと……!?」
頭領を一撃で粉砕された光景を目撃し、残っていた『聖職者狩り』の刺客たちは恐怖に顔を歪めた。
「ひぃっ……化け物どもめ! 撤退だ、退けぇぇッ!」
自分たちの不利と圧倒的な戦力差を悟った刺客たちは、蜘蛛の子を散らすように散り散りとなってプロンテラ西門の森の奥へと逃げ去っていった。
嵐のような激闘が去り、プロンテラ西門前には静寂が戻っていた。
「はぁ……はぁ……」
全魔力を使い果たしたレイが肩で息をつき、その華奢な身体をそっとリリアが支える。
「レイちゃん! 大丈夫!? すごかったよ……!」
「……なんとか、な。リリアが無事でよかったよ」
安堵の息を漏らすレイの横で、エルネストは静かに長弓を納めると、助けに入ってくれた3人の冒険者たちへと視線を向けた。
甲冑を着ていないにもかかわらず異様な硬さで攻撃を受け止めていたダボついた法衣の男(レナード)、豪快な槍使いのドラゴンナイト(バルド)、そして高火力魔法をぶっ放していた金髪のアークメイジ(ノア)。
偶然居合わせたにしてはあまりにも息が噛み合っていた奇妙な3人組。
しかしエルネストは、ダボついた法衣の男が深々と被るフードの陰に隠された顔を見据え、内心で静かに思考を巡らせた。
(――やはり…………………遅かったな)
感情の揺らぎなど微塵も感じさせない冷徹な瞳のまま、エルネストは思考のノイズを切り捨てるようにわずかに目を細めた。
「……助かった。君たちがいなければ危ないところだった」
エルネストがよどみのない声音で感謝の言葉を述べると、大柄な法衣の男——レナードは、待ちかねていたと言わばかりにフードの端をそっと持ち上げた。
「……ううん、無事でよかったよ。……エル、本当に無事だったんだね……ッ!」
フードの隙間から覗く瞳と、リアルでも見たことのある懐かしい目元。
それが間違いなく相棒のものだと確信した瞬間、言葉よりも先に身体が動いていた。
感極まったレナードは大柄な身体で一歩を踏み出すと、勢いよくエルネストへと飛びつき、その華奢な肩を力いっぱい抱きしめた。
「ぐっ……!? ……何をする…………」
突然の狂おしいほどの強抱に一瞬目を丸くし、硬直するエルネスト。
しかし、冷たい胸当て越しに伝わってくる熱い体温と、相方が戻ってきたという圧倒的な安堵感に、突き放す手には力が入らない。
「あっ……ごめん、エル。 無事だったのが嬉しくて、つい……!」
我に返ったレナードが大慌てで手を離し、オドオドと大首を振る。
「……相変わらず距離感が壊れているな。まあいい、無事ならそれでいい」
乱れた衣類をサッと整え、エルネストは呆れたように息を吐いた。
「おいおいおい! どうしたんだレナード!!? お前、そんな距離感バグった奴だったか!?」
「うわぁ……レナード……知らない男に熱いハグしてるのなんでぇ…………」
まだ誰一人として本名を名乗っておらず、詳しい事情もまだ語られていない。
だが、交わされる言葉の空気感、どこか聞き覚えのある声と独特のやり取りに、6人の胸の中に電撃のような予感と——そして確信に近い歓喜が駆け巡るのだった。
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